第8話 規約違反になるからミミックは配置しちゃダメだって
「待て!カービィ、そのお宝は渡さねえぜ!」
カービィの住む世界にはさまざまな世界が存在する。
鏡の中にある異世界、宇宙に点在する星に、毛糸で作られた世界、そして地下世界。
そして、そこでもカービィはさまざまな敵と戦いに明け暮れている。 お宝を、奪ったりと。
「任せろドロッチェ! ワシの特性爆弾の出番じゃ!」
「おお!ドクのジジイ!」
カービィが突進するその先に赤いユーフォーがやってくる。 中には白いひげを生やした老ネズミが、彼の乗ってるユーフォーからは、点火した爆弾が投下され…
「げ、しまったアイスボムじゃ」
「あああ!」
せっかくの爆弾はカービィのアイスボムに相殺されてしまう。 それどころか彼らが狙っていた宝箱をカービィに掠め取られてしまった。
「ドクのじいさん!」
「今助けるッチュ」
チューリンたちがドクを救出する間、カービィはあっという間にゴール扉をくぐっていく。 ここまでくればもう彼らには成す術はなし、カービィが潜ったゴール扉を悔しそうに見つめて、ドロッチェと呼ばれたリーダー格のネズミは地面を拳に叩きつけた。
「くそう! またとられた!!」
☆
「チクショウ! カービィめ! 俺たちのお宝を横取りしやがって」
ここはドロッチェ団の秘密基地、敵キャラたちとは違い、彼らは地底世界のここで集会をやっている。
周りにいるのは、ドロッチェ団のいつもの面々と、彼らを慕う敵キャラたちだ。
「しかし、どうするッチュかリーダー? カービィの奴、何度挑んでも残機が無尽蔵ッチュよ」
「このゲームの世界じゃ、コピー能力も体力回復も自由じゃからなあ」
ドクのその言葉に、ドロッチェは顔をしかめっ面にした。 彼らにとってカービィが難敵なのはある理由がある。
「コピーパレット、どうにかしないとまた負けちゃうよ団長〜」
「わかってる、わかってるさ」
コピーパレット、ドロッチェ団の極め付けと言われるカービィ側のシステムだ。
シャボンを常に5つストックでき、いつでも体力回復やコピーの切り替えもできる便利なシステム。
宝もストックに入るので、整理管理が面倒という弱点があるが、常にプレイヤーの得意なコピーやマキシムトマトも装備できるという機能だ。
「俺たちがどれだけ工夫を凝らして、宝を狙っても、あのコピーパレットさえあれば…」
「僕たちに不利なコピーであっさりお宝強奪されちゃう、団長どうしよう〜」
「うろたえるでないストロン! それをどうにかするのを考えておるんじゃ!」
彼らは頭を必死に働かせて解決策を見出そうとするが、にっちもさっちもいかない。 スピンは一人飽きたのか、スーパーのレジ袋から買い出しの商品を取り出していく。
「一層の事、このゴキブリホイホイのネバネバを敷き詰めるッチュか?」
「阿呆め、ステージ全体に張り巡らすのに、どれだけ金がかかるんじゃ」
「じょ、冗談ッチュよ」
ドクの呆れるようなツッコミに、スピンもたじろぎながらゴキブリホイホイをなおしていく、だがそれをみたドロッチェはハッと顔をあげる。
「…ネバネバ?」
「? どうしたの団長〜」
ストロンの問いかけに答える間も無く、ドロッチェは部屋を飛び出していく。 そうして三人の幹部たちが追いかける間も無く、彼は早くも帰ってきた。
「お早いお帰りで」
その手には、ここには見慣れない雑魚キャラがいるが。
「え? え? あの、私突然連れてこられたんですが、なんなんですか!?」
「何じゃ、お前さん『マイガ』か」
マイガ、ドロッチェ団に出てきた緑色のネバネバピョンピョンした雑魚キャラ。
ちょっとでも近づくとすぐにひっついてくる厄介者、吸い込んでしまえば口にくっついてむしろカービィにダメージを与える、対策方法は吸い込み以外の攻撃。
「こいつに宝の番人を任せる!」
「えぇ!? 私いきなり重大任務ですか!?」
ドロッチェのまさかの抜擢にマイガは驚いた。 想定外の出世、大抜擢。
「普通の攻撃では効かないブロックに、宝とコイツを一緒に入れて、カービィを吸い込みでしか宝を取れないようにする!」
「しかし、吸い込んだ途端マイガがくっついてカービィにダメージ! 宝も奪われない! まさに完璧な作戦!」
ドロッチェの自慢げなその言葉に、スピンたちも思わず勢いで納得する。 一人冷静なドクは、ため息交じりで答えるが。
「まあ、吸い込みの効かないこいつじゃと何とかなるの…」
「ちょ〜っと待った!」
楽屋にドロッチェ団とは別の集団が飛び込んでくる。 彼らの背後に取るは、黒光りの刺々しさと大砲のシルエット。
「吸い込みの効かない敵キャラなら、ここにもいるぜ!」
「俺たちシャッツオ、ゴルドー! 俺たちにも任せろぉ!」
この物語にも登場した、ゴルドーとシャッツオ、そんな彼らの意気揚々な登場と、背後に陣取る彼らの取り巻きの拍手が楽屋に響き渡る。
「いよっ! 我らがシャッツオおじさんさすが!」
「ゴルドー兄さん、今度こそカービィにリベンジです!」
「うるせー! 崖に落とされたりブロックに押しつぶされておしまいのバカに用はねえ!」
ドロッチェ、一蹴。 バカ2名は予想外の暴言に、一気に凍りつく。
「ば、ばか…!?」
「お、俺たちが…ばか」
二人の黒光りのフォルムに塩の瓶が投げつけられる。 もはや拒絶されたゴルドーとシャッツオは、燃え尽きたように真っ白になってその場から動かない。
「う、うわー兄さん!」
「おじさん、しっかりしてー!」
取り巻きたちのヨイショを無視して、ドクはシャボンを取り出す。 ドロッチェの作戦に、提案を出す。
「ドロッチェ、マイガの周りにも?シャボンをたくさん用意しよう。 コピーパレットも埋めさせつつ、マイガで吸い込みを妨害できれば、カービィは宝を奪い取れん」
「よし、ドクのその提案採用だ」
ドロッチェはそう言いながら一枚の紙に絵を描いた。 彼の絵には、ブロックに囲まれたマイガと宝、ブロックの周辺に?シャボンが浮遊する空間が描かれていた。
「これが草案、そしてその周辺にさらに遠距離爆弾投擲の得意なチューリンや、スピンを配置、ドクは空から爆弾を落としてもらう」
「カービィへの牽制役ッチュね!」
「おう、爆弾なら俺も得意だからな! ストロン、お前は逃げ場を失ったカービィを頭上から踏みつけるんだ!」
「おおー! やってみるよ団長!」
これで作戦は整った、ドロッチェはニヤリと笑みを浮かべて拳を突き上げる。
「よーし! 今回こそカービィをギャフンと言わせるぞ!」
「おおー!!!」
☆
ドロッチェ団がカービィへのリベンジを選んだ場所、ヴォイスボルケーノ。 火山地帯の灼熱ステージである。
普段から溶岩やマグマが吹き出ているこのステージは足場も少なく、踏み外せば即ダメージの場所も多い、カービィを不安定な場所で仕留める完璧な作戦だ。
「宝箱、壁に埋め込みました!」
「マイガも2体、宝を囲むように準備オッケーです!」
ゲーム画面で想像してみてほしい、宙に浮いた岩石でできた足場が、中だけ吹き抜けでそこに宝とマイガが入ってる状態だ。
そして、足場はボーボーのボスステージのような溶岩が露出している。 宙には?シャボンが宝のスペースを邪魔するように浮いている。
これでは宝を取るのは容易ではない。
「よーし、お前ら!準備はいいな」
ドロッチェの啖呵と同時にドロッチェ団の雄叫びが聞こえてくる。 爆弾に、手裏剣に、 ハンマーと彼らの道具が天井に向けて掲げられて、咆哮が轟く!
「さあ! どうするカービィ! 運良くマイガを倒せても、?シャボンがお前のストックを邪魔するぞ!」
「その前にワシらがお前さんを一斉攻撃じゃ!」
いつの間にかステージにはカービィが到着していた。 自信満々のドロッチェ団は戦闘態勢に入る…が!
「ぎゃっ」
「ぐひっ」
刹那、本当に一瞬だった。 足場の中にいるはずのマイガ二人の悲鳴がドロッチェ団の耳に入ったのは、ドロッチェもそれを耳にするとすぐさま二人のところへ覗き込む。
「お、おい! どうした、なにがあっ…」
真っ赤な一本の腫れた跡、それが二人のマイガについていた。そしてーー肝心の宝箱!
「無い!?」
ドロッチェは、すぐさま振り返る。 カービィは、ウエスタン風の帽子と、しなる縄を右手にしていた。 左手にはーー隠したはずの、宝箱!
「…コピー能力、ウィップ」
「…やってくれるじゃねえか」
ドロッチェの額に青筋が浮かび上がる。 正反対にニヤニヤと挑発的な笑みを浮かべるカービィに、ドロッチェ団は我先にとカービィに飛びかかる。
「スターアライズでは仲間だが、ここでは容赦しねえぜ!」
「そうだね、ここでは敵同士だしーー」
カービィは口から巨大な球体を取り出した。 それを見たドロッチェ団は、急ブレーキをかけて立ち止まる。
「な、なぜダークドロッチェのフレアボムを!!」
「あ、すまん。 オレがドリームフレンズになった時あげたんだった」
ドロッチェ、非情のカミングアウト。 カービィの口から出たものは、カービィやその時の仲間にはダメージは無い。
「…ドロッチェ」
「…リーダー…」
「ドアホおおおおおおおお!!!」
「ごめんよおおおおおおお!!!」
爆音とともに、ドロッチェ団の叫び声が聞こえてくる。 ピンクの悪魔には、ドリームフレンズとかは関係ないのだ。 それはそれ、これはこれ。
☆
爆風が晴れた空間では、真っ黒に焦げたドロッチェ団の悲惨な姿が残っていた。 マイガは巻き込まれたのか、もう逃げたのかは定かではない。
「ドロッチェ…お前…ちゃんと貸したら返してもらうんじゃぞ」
真っ黒焦げになったドクが、煙を咳き込んで出しながら呟いた。 そして、ドロッチェはダークドロッチェよりも真っ黒になった状態で、涙を流していた。
「肝に免じておきます…」