あしかのらいぶらりぃ
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執筆者: ディン/投稿日時: 2026/09/24(木) 22:37:44
投稿者コメント:
さーて年内完結、できるかな〜???
書きたい事を書いていたら長くなって制限を超えてしまうジレンマ。
必死に削ってなんとか10000文字以内にまとめていますが、ちゃんと伝わるでしょうか。 とても難しいですが精進します。
第五十七話 起きろサファイア!!
 今から七年前、『七彩の宝玉』と『幽遊の鬼ヶ島』の戦争は一夜で終わった。 二つのギルドは、当時でも最強はどこかと話題になった際に真っ先に列挙されるギルド。 その二つが争うとなると騒ぎだが、いくら日が経てどその経過と結末が紙面を賑わう事はなかった。

「桃君、チャオちゃん達の……の段取りが決まったって」
理由は二つ。 街の誇りにもあるべきギルドの長が、部下を利用して仲間割れひいては他所のギルドとの諍いを起こす大犯罪を二大ギルドがよりにもよって起こした点。

国際ギルド連盟にも世間体がある。 市民に『自分達は健全な団体です』とアピールを常日頃から行っている。 そして広報誌に毎回優秀な成績を収めたギルドをとりあげ、アピールをしていた。 ケケやププビレッジの子供たちの様な人々をターゲットに。

そこには『七彩の宝玉』と『幽遊の鬼ヶ島』は毎回と言っていいほど載っていた。 上にとってもこの二つのギルドは『価値のある広告塔』 ……つまり、人々からの顰蹙を恐れて隠蔽工作をしたのである。


勿論、噂と言うのはあっさり世間に広まる。 興味本位で二つのギルドを悪に仕立て上げた創作を吹聴する連中は多くいた。 中にはピンク達が目を背けてたくなる創作もあった。
「こりゃひでえ。 まるでチャオがピンクをはめた様な」
「レッド、よせよ」
『七彩の宝玉』の書斎にいたのはピンク、スノウ、レッド、シトラス、グレープの五人だ。 彼らはギルドの中でも『大幹部』と称される。 腕利き揃いのギルドの中でも一目置かれる存在だ。
ネット上の醜聞を目にしたレッドがこぼした一言をシトラスが戒める。 口にしていたかとレッドは我に帰りピンクに頭を下げた。
「悪い、ピンク……」
「気にしないでレッド。 これでも意外と頭は冷静なんだ。 それよりも……まだオレンジ達は帰ってきてないの?」
ピンクの怒気を含ませた様な口調を聞いて、グレープは頭を掻きながら壁一面に貼り付けられた世界地図と睨めっこしていた。
「うーん……今の所どこに出かけているか、までは」
「しかし本当に可能なんかね。 誰かの命と引き換えにチャオ達を生き返らせるだなんて」
シトラスは雲を掴むかの様に手をかざし、息を吐いた。 彼らはあの日以降、チャオや『幽遊の鬼ヶ島』の友好的なメンバー……タクサンに利用され命を落とした皆を助ける方法を探していた。 その中で、ある書籍をグレープが入手したのだ。

「この本によると、ノヴァと言う大彗星がどんな願いも叶える力があるらしいよ」
「その代償が、一人の命か。 重いんだか、軽いんだか」
改めてレッドがその書籍に目を通す。 そこにはこう書かれていた。


 ノヴァは一つの願いを叶える。 限界はなく、世界一の大富豪になれるし、火葬した後の生命でさえも蘇らせることができてしまう。

 ただし、巨大な願いには相応の代償が要求される。 大富豪になった話では、その富豪が求婚していた婚約者が不治の病に侵されて死んでしまい、天涯孤独になったと言う結末。 火葬された死体が蘇った話では、蘇った世界は何百年も未来であり、彼の時代の生き方は受け入れてもらえず結局再び自死したと言う結末。
どれもこれも、ありがちな「美味しい話には裏がある」オチに近いものだった。
『七彩の宝玉』……ピンクはその伝説に縋るしかなかった。 大半は空想上の伝説だと鼻で笑う様な話だがピンクは本気だった。 チャオを助ける為、と言う大義のもとに。
「しかし、良いのかい桃君。 この方法で」
「どう言う意味だい、スノウ」
「ノヴァに頼らなくても、僕らならチャオちゃん達を救う為のお宝はいくらでも探せると思うんだ」
スノウの懸念は一つあった。 それは『願いを叶える条件』。 世界中に散らばるパーツを集めると言うのは、いくら『七彩の宝玉』と言えども途方も無い時間と労力がかかるだろう。 自分達の身体が動く内に見つかるのか。 スノウの懸念はそこにある。
と、すれば他にチャオ達を助ける方法を探すのが最善手だ。 ピンクの危機迫る顔に威圧され、ほとんどの皆が言えなかった事だが、旧友であるスノウは問いただす事ができた。
「それと、願いの代償だ。 誰を犠牲にするんだよ」
レッドの言葉に、ピンクは天井を仰いだまま静かに口を開く。
「そうだね……オレンジとラベンダーは、自らの罪の大きさに向き合い続けてほしい……死という制裁を加えるのは簡単だけど、チャオや僕の苦しみを身をもって感じて貰いたい」

既にピンクは、『チャオの死』と『オレンジが幽遊の鬼ヶ島と繋がっている映像』をリンクさせていた。 何を言っても、ピンクを翻意させるのは不可能だろう。 状況証拠的にあの事件の遠因はオレンジにあると断言しても差し支えない。
一旦ピンクは、オレンジを犠牲にする事でチャオを復活させる方法も考えた。 だがそれで心は晴れるだろうか、ピンクの大事なものは一度失った『事実』は消えない。
「オレンジとラベンダーの大事なもの……僕とチャオの苦しみを共有できるもの、それは」
窓の外から雷鳴が轟いた。 そしてたまたま廊下にいた一人のティンクルが、ピンクの言葉を聞いていたのだ。 薄い紫色の女のティンクル……ラベンダーだった。
(ピンク……スノウやレッド達も。 書斎に引きこもって何を)
たった今仕事から帰ってきたラベンダーも、旅先でチャオの訃報を聞いていた。 『真相』を知らない彼女は、仕事の上でピンクの友人が命を落とした––それだけしか理解が及ばない。


「サファイアを生贄に、チャオ達を助けるしかない。 それしかないんだ」
ピンクの言葉を、ラベンダーはそれ以降耳には入らなかった。 ただひとつの事実、まだ幼いサファイアを殺す。 それだけがラベンダーを震え上がらせるに十分だ。
廊下から足音が聞こえると、レッドとグレープは扉を開いた。 廊下の奥には、ラベンダーらしき足が角に消えていくのが確認できた。
「聞かれたか?」
「十中八九ね。 あそこは確かサファイアを寝かせる部屋に繋がってる」
立ち上がったピンクが声をあげる。 意外に冷静なんだと、先ほど言ったその声は平然とした様子だが残酷な一言を発した。

「捕まえろ。 逃げるのは罪の自覚があると言う事。 残念だけど二人からサファイアを取り上げて、願い星の犠牲になってもらう。 たった今決心がついたよ」



 ––ギャラクティック・ノヴァは、一人の命と引き換えに、一人の命を作り出す。 二つの命と引き換えに、二つの命を。 三つの命と––


逃げたオレンジ達を追う決心をした時点で、ピンクの心のブレーキは完全に壊れた。
オレンジ達がギルドを飛び出し、追っ手が放たれた直後、『七彩の宝玉』の中ではレッドやスノウ達ピンクが信頼を特に寄せる数人とピンクが残っていた。 指折りほどの少ない数、いつも騒がしいはずのギルドの中は、ピンクの重苦しい空気に威圧される様に静かだ。

(……やだなぁ。 この静けさ。 ブドウくん、なんか盛り上げる花火とか出してよ)
(無理だよスノウ……ピンクがここまで怖いのって初めてだよ。 親友の君がなんとかしなよ)
(無理無理無理無理!! ボクだってあんな桃君見るの初めてだもん、今ここで一曲熱唱とかしたら殺される)
スノウとグレープが目線で会話をしている時、シトラスも気休めに剣を磨く手が止まっていた。 ここにいる誰もが、初めて見るピンクの様子に怖気付いていた時、レッドが静寂をぶち破った。
「ピンク、オレンジとラベンダーに罰を与えるってのは賛成だ」
「うん」
ピンクはレッドに意見に黙って耳を傾ける。 一言一句、ピンクの怒りの琴線に触れない様にレッドは慎重に言葉を選んで話を進める。
「サファイアの将来性はデカいぞ。 今後チャオを救う方法を探すのに利用する価値はある……ボロ雑巾になるまで使って、その後の事はその時考えたら良いじゃないか」
レッドの言葉に、ピンクは静かに首を下げて考えに耽る。 ここで三人を抹殺するのは得策ではないとの事だろう。
「今全部消してしまえば……言葉は悪いが、お前だってタクサンやキョウシィと同じ極悪人になっちまうぞ」
「ハハッ、そんな事を心配してたのかレッド。 僕はこの町、いや世界中のギルドの地位を上げてきた英雄だよ。 悪人どころか、お釣りが帰ってくるぐらいさ」
ピンクはカラッとした表情で言い放ってみせた。 自分を正義と定義付けるその言葉は、本心からか、覚悟を持ってるからか。
レッドをはじめとする残っていた数人は顔を見合わせて、覚悟を決めたようだった。
「それに……彼らが育てた子がチャオを助けるなんて絶対に嫌だね」
「分かったよ桃君。 ここまで来たらとことん付き合うよ」
「天国だろうが地獄だろうが、最後まで一緒だ」
その場に居た皆が、同じ意見だった。 それがピンクの威圧に気圧されたかどうかは、彼らのみぞ知る……。



  第五十七話 起きろサファイア!!




 現在……ププビレッジ、廃城付近の丘の上。
「狂ってる」
「狂わせたのは君達だろう」
ピンクの背後に陣取り破片を彼の首元に突きつけていたオレンジとラベンダーは、声を必死に振り絞りながら精一杯毒づいた。 ピンクはそれを冷淡に受け流し、かの手首を捻り回すと脱出し、二人の現在の精神の主人……サファイアの頭を右手で掴んだ。
「オレンジ!! ラベンダー!!」
すかさずピッチがピンクの頭に爪を食い込ませようと飛びかかるが、頭がまるで鋼鉄の様に硬くなる。 『メタル』の能力だ。
「ピッチ、これからサファイアが僕たちの手に下るときに寂しくない様に、一番の親友である君が生贄になってくれるかい?」
ピンクはそう言うと『たましいのうでわ』と『フレンドハート』を左手に構えていた。 それをかざしたのをみたピッチは、すかさずピンクから距離を取る。
「クソっ、それはアドレーヌ達を洗脳した……お前も持っていたのか」
「僕らの『複製』には同じアイテムを『複製』できる力があるんだ。 数さえ揃えばコイツらを大量生産するのは容易い」
ピンクの言葉にピッチは絶望に近い力の差を感じた。 これらのアイテムを取りあげれば、『七彩の宝玉』と対等に渡り合えるはずだとどこかで信じていた。 しかしこれでは……こちらがいくら疲弊してもピンクは文字通り無限の力を持っていることになる。
「そんな……そんな凄い力を持っているのに、これ以上何を」
「虚しいものだよ、溢れるほどの財や力や名声なんて……たった一人の命に変えられるものならこんなチカラ、喜んで神にでも悪魔にでも捧げていたさ!!」
ピンクの言葉の奥には、迫る悲壮があった。 ピッチは彼の言葉が、初めて震えている様に聞こえた。 全世界指名手配犯でもない、世界最強のギルドのマスターでもないたった一人のヒトの言葉。
「だからサファイアの身体が必要なんだ。 本当の平和を手に入れるために、チャオを助けるためには、ノヴァが」
「それがあなたの本心なのね……だったら」
サファイアの右手から、円形の黄金の台座が二枚握られている。 そこには白い布を被った幽霊を模った立体模型が見える。
「ピンク、君は言っていたね。 僕達の大事な物を奪うことで君の苦しみを共有できると」
「そいつは……『ゴーストのコピーのもと』!?」
ピンクがすかさずフレンズハートをサファイアに向けた瞬間に、サファイアの腕からは二つのコピーのもとが突き出される。 ピンクの得物より先に輝いたそれに呼応する様に、サファイアの身体から二つのモヤがピンクの元に突貫する!!
「自爆するつもりか!?」
「ピッチさん、今すぐサファイアの身体を担いでここを離れて!!」
『抜け殻』になったサファイアの身体をピッチに預けて、大声で叫んで促す。 ピッチはオレンジとラベンダーの言葉を受けてすぐ様サファイアを担いで飛び出し、ギルドへまっすぐ向かっていく。
「逃すか……」
そうピンクが言った途端に、半透明のオレンジとラベンダーの身体はどう言う原理かピンクの肉体を掴んで離さない。
「やめろ!! 今更君達の命をもらっても無意味だ」
「ピンク、一つだけ君には思い違いがある」
オレンジの言葉に、ピンクは眉をひそませて睨みつける。
「『親の責任は子に取らせる』、理想は立派だけどこの世界には絶対のルールがあるのを忘れたの?」
「ルールだって!? これ以上何が僕の理想を邪魔するって言うんだ……」
ピンクは完全に興奮していた。 切り替えることの出来ない彼に代わって、オレンジとラベンダーは顔を見合わせて……はっきりと言った。

「ギルド間の戦争は全面的に認めない。 サファイアの今の所属は『七彩の暴食』だ、宝玉のリーダーの君が暴食のサファイアにこれ以上手を出すのは世界の法も許さない」
「くそっ、こんな所で……」
ピンクは悔しそうに叫んでいた。 その叫びを遮る様に二人の男女の言葉が、その一帯に響き渡り、あのシティトライアルのグレープの攻撃に負けじと炸裂した。
「複製––クラッシュ!!」

叫びと同時に、古城の瓦礫の隙間から炸裂する光と地震の様な地響きが村一帯を襲う。 既に催眠から目覚めていた住民達や暴食のメンバーは一瞬パニックになっていたが、ごく一部のメンバーだけは、その結末を理解した。 サファイアを担いで滑空するピッチに、マスターモソ、ソードにブレイドの四人だ。
「アレは……」
「ピッチ、サファイア……無事なのか!?」
ブレイドが不安げに空を見上げると、黒煙から影が見えてくる。 まばらに見えるその影はどんどん晴れてくるとエアライドマシンに乗っている幾つものギルドのメンバー達!! そしてその中心にはモソ達も見覚えのある『戦艦ハルバード』。
「メタナイト様、バル艦長、目標ププビレッジに到達したダス」
「ウム、メタナイト様ご命令を」
操舵席に陣取るメタナイツは淡々と報告と指令を仰いでいく。 しかしその瞳はただ一人メタナイトを除いて正気はない。 彼らも例外無く『フレンズハート』の力で『七彩の宝玉』の支配下に置かれているのだ。 そしてその中心人物メタナイト……いやネイビーは待ってたとばかりにマントを翻す。
「サファイア・デラム、Star Dreamの身柄の確保を最優先課題に作戦を継続、抵抗勢力は徹底排除して問題ない。 『七彩の暴食』ギルド本拠地を除いて徹底的に殲滅せよ!!」
「ネイビーのバカ、それじゃあ村のかわい子ちゃんを傷つけちゃうジャマイカ!!」
「スノウ、フレンズハートはサファイアに使うのを最優先って約束忘れんなよ!?」
ハルバードの甲板からドラグーンとハイドラに乗ったスノウとレッドが飛び立ち、ププビレッジの空を徘徊する。 彼らはププビレッジの上空を覆うエアライドマシンに搭乗するメンバーのリーダー格として先陣に立つと、ハルバードの砲台にグレープが特大の砲弾を嬉々として詰め込んでいる。
「ばっくだん、ばっくだ〜ん⭐︎ コイツは威嚇射撃で村のはずれに飛ばすけど……もしもギルドに直撃したりしたらゴメンね」

 無論、空を覆う敵対勢力に『七彩の暴食』が気づかないわけがなかった。 ただ彼らはこれまでの仕事でも見た事がない、圧倒的戦力差を見せつけられて身を硬直させている。 空に巨大戦艦、四方を囲む様にエアライドマシンの群れ。 とてもではないが救援を要請したとしてもこの包囲網を掻い潜って彼らの元に辿り着くギルドがいるとは思えない。
「そんな……アレは『白の騎士団』、『烈火の兎宴』に『芸術は爆発』……他にも世界中で名の知れたギルドばかり!!」
「なるほど、シティトライアルの後、洗脳の力を世界中で振るったのはワシらを孤立させる為」
まさに全国からかき集めたエリート集団と、地方の素人集団の試合に近い姿だ。 ただ一つ違うのはこれはスポーツの公式戦ではない、サファイアを取り合う戦争の形、ルールも情けも無用の命の取り合いになる。
「マスター!! 『ギルド間戦争禁止条約』は……」
「この空を見ろ。 連中がそんな約束事を『そうでした』の一言で踵を返してくれるとは思えん、せめて子どもや一般市民を避難させるのが先決」
それをいうとモソはウイングスターに飛び乗り、空を飛んでいく。 慌てて皆が止めようと叫ぶが、応じる様にスノウが接近してきて低空上で対峙する。
(……時間を稼ぐにはこれしか手がない、頼んだぞマルク、ドロッチェ)

「モソさん、手ぶらでこっちに飛んでくるなんて投降でもしにきたのかい?」
「お前さん達はどこまで事を進めた」
スノウの言葉に見え隠れするトゲに、モソは冷静に掻い潜り言葉を返す。 とてもではないが講和の話し合いには程遠い戦力差を振りかざされての対話。
「アンタにバラす義理もない」
レッドの言葉にモソは言葉を詰まらせる。 作戦の最重要課題を敵対勢力に教える義理もないのは当然だ。
「じゃが、殲滅とは言葉が穏やかではない。 この村にもおまえさん達に憧れる若い力は少なくないのじゃ。 そんな子の未来を、無理矢理断ち切っても問題無いと?」
「話し合いをするなら、手土産を持ってこないとね〜モソさん」
グレープの言葉に、スノウはああと笑って見せた。 氷の刃を生み出すと地平線を指差して何かの合図をする。
「なるほどね、マルク君達が帰ってくるまでの時間稼ぎにさえなればって希望か〜〜!! 残念だけど、摘み取らせてもらうね」
スノウの合図と同時に、洗脳された者達が地上に向けて急降下し、能力の集中砲火を浴びせる!! その先にはサファイアを担いで走るピッチの背中!!
「ピッチ、サファイア!!」
「くそっあそこに居たのか!! なんで早く気づけなかった」
ソードはピッチを追う様に走り出す。 しかしそれよりも早く空からの攻撃がピッチを襲いかかる。
「うわああ」
ピッチの悲鳴と担いでいたサファイアの身体のバランスが崩れ、草原に転がった。 地を這う様に飛んできたギルドのメンバー達が、ソードの背後を襲うも、彼は剣を引き抜き相手を一閃する。
「邪魔だ!!」
数人、マシンからバランスを崩して落ちるも多勢に無勢。 すぐ別方向からピッチを襲う。 次こそは、ソードも他の誰もが間に合うはずがない。
「逃げろ!! ピッチ––」










 時同じくして、スチールオーガン。
シトラスが捨てた腕輪を見ていたケケやマルク達は、それがサファイアの魂を奪った四つの穴の財宝だと気づくのに時間はかからなかった。
「つまり、コイツを壊せば青玉は元に戻るわけだ」
話を聞いたボンカースは意気揚々とハンマーを振りあげ、腕輪を叩き潰す。 しかし腕輪は地面にめり込むだけでヒビ一つない。
「はぁ!? アンタのその筋肉は飾りなワケ? 一体全体どうしてこんなちっさな腕輪をデカい木槌でぶっ壊せないのよ」
「うっせえクソアマ!! こっちだって想定外だよ、お前らも指咥えてないで手伝え」
ボンカースの言葉に聞くまでもないとばかりにアドレーヌは刀を実体化させる。 思い切り振り下ろすが、腕輪には傷一つついていない。
「これは……ただの鉄や鋼が素材じゃねえぞ」
ドロッチェが腕輪を取り上げて、天にかざして目を細めて言い放つ。 鍛治職人としての一面もある彼にもこの腕輪の傷のつかなさは珍しいどころではない。
「なあ。 俺の泡で錆びつかせるのは無理か」
「鉄じゃないなら、腐食できない可能性はある」
ドロッチェはそういうと、近くにあった手頃の鉄鉱石を取り上げ腕輪めがけて振り下ろす。 腕輪は傷つかないどころか、鉱石を粉々に砕いてなお輝きを放っている。
「せめて硬い物質を思い切りぶつけたら……」
「スチールオーガンは鉄鉱石の生産地なのサ。 手分けして手頃な石を探せば……」
マルクがそう言った途端に、みんなを横切る様にケケがゆっくり前へと出た。 両手には紫のガントレットをしっかりと通して、腕輪の前に膝をつく。
「硬い物質をぶつけたら良いんですね」
「……そうか!! そいつは俺が作った『オリハルコン製』、硬度は『たましいのうでわ』にも負けてないはずだ」
ドロッチェの一言に、全員が希望を抱く。 しかしケケは葛藤があった。 コレを壊せばサファイアは元に戻る……しかしそうすればオレンジとラベンダーは?? 数年に渡って子と話せず、抱けなかった二人は今サファイアの身体の中にいる。 サファイアの魂を解放した後の二人はどこにいく?
元の身体に戻るのか?? それとも全く別のティンクル等に転生するのかあるいは……、ケケはそう考えた時に震えで手が止まっていた。

(私が……決めて良いの?? コレを壊せば、オレンジさんとラベンダーさんとサファイアが、もう二度と会えないかもしれないのに!?)
親子の絆を自分が引き裂いてしまうかもしれない恐怖。 もしサファイアが知ったら、ケケを恨むだろうか……冷や汗が地面に溢れる。 しかし、それでもケケにはもう一度叶うならという夢がある。 それは……。


「許してくださいオレンジさん、ラベンダーさん……私はギルドの皆と……ドロッチェさんマルクさんピッ君、そしてサファイアともう一度バカやって冒険をしたい!!」
ケケは覚悟を決めてガントレットを嵌めた右腕を思い切り振りあげ、地面に置いてる腕輪に拳をぶつける。 そしてためらいなく二撃三撃と続く。
「早く起きなさい!! サファイア」
叩くたびに『うでわ』は弾き飛び、ボロボロと破片を撒き散らし始める。 それと同時に、空からマシンに乗った洗脳されたギルドのメンバー達がこちらに向かってきていた。
「アレは私のギルドの皆!! レッドが仕向けたのね」
「逆方向からも来てるぞ!!」
ボンカースの視線の先にも、洗脳を受けた世界各地のギルドのメンバーが向かってきている。 『うでわ』の破壊を防ぐ為か、容赦無く進撃を止めない。
「ケケを守れ!! オレ達でアイツらを止めるのサ」
マルクの音頭と同時にケケを除いた全員は武器を取り、飛び立って迎え撃つ!! ただ相手は洗脳を受けている罪なき者達、アドレーヌにとっては友人でもある者達に攻撃にためらいが見える。

「あぐっ」
「小娘、手を緩めるな!! また洗脳されるぞ」
ボンカースの忠告も、アドレーヌは承知の上だった。 だが、彼女にとっては思い出も頭によぎる仲、反応に明らかの躊躇が見える。
「……コレが『人類の選抜』、レッド……皆を騙したのね」
アドレーヌの背後に攻撃の手が迫る。 その刹那にマルクが割り込み、蹴り飛ばしてアドレーヌを救う!!
「ケケ、破壊はまだか!!」

ケケはガントレットで『うでわ』を殴り続ける。 どれだけ殴ったかは数えていない、無我夢中で、布に赤い何かが滲み出ているのも、ジワリと感じる鈍痛もケケは無視して攻撃を続けると、初めてハッキリとした亀裂が『うでわ』に走った。
「いつまで、お父さんとお母さんに頼りっきりなの!! 願い星を見るのが、夢なんでしょ!? ずっと寝てたら、見れないじゃない!!」
ケケは、『七彩の暴食』に入ったあの日の事を思い出した。 サファイアが、語ってくれた夢、『七彩の宝玉』が成し遂げられなかったノヴァを一目見る事。 ケケはハッキリと覚えている。



––「あったかどうかはわからない。 ただ、ノヴァの存在をオレは見てみたい」––



マルク達が防いでいた援軍の一部が戦線を突破せんとしていた。 雪崩の様に押し切った一人がケケの元へ飛ぼうとする瞬間に、アドレーヌは足をしっかり掴んで妨害する。
「いかせない!!」
敵の足を掴んだアドレーヌの腕に、棍棒が投げつけられた!! 骨に響く痛みに思わず手を離したアドレーヌ、待ってたとばかりに敵はマシンに乗ったままケケを轢き殺さんとばかりに猛スピードで突進していく。
「ケケ、逃げて!!」
アドレーヌの叫び声を合図に、ケケを守らんとマルクが迎え撃つ、そしてケケがもう何度目かとばかりの真っ赤な握り拳を振り上げて、『うでわ』を殴る。

「起きろ、サファイアーー!!」



 そのケケの涙声が混じった叫び声と同時に、腕輪は真っ二つに砕け散った。

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