あしかのらいぶらりぃ
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執筆者: ディン/投稿日時: 2026/05/24(日) 23:35:14
投稿者コメント:
本当に年内に終わるんですかね、この作品。
第五十四話 命知らずのバカ
「一体どうなっているんだ!? あの映像は本物なのか??」
『ワールドエアライドカップ』が終わって数日、世界中の国に点在するギルドや村は混乱に陥っていた。 スノウ、レッドらによる洗脳行為やギルド連盟への反逆は彼らを目標、あるいは心酔していた魔導士達には信じられない光景だった。
「確か連盟は『七彩の宝玉』をテロリストとして指名手配していたはず……」
「ウチのスノウがそのギルドの仲間だって?! そんな話聞いた事ないよ」
当然スノウ達は自身の身の内話を易々と教えるわけはない。 『白の騎士団』の本拠地の村の住民の彼らにとっては突如湧いてきた話に困惑していくうちに、各家庭のテレビ画面、そして村の広場のビジョンに一人のティンクルの姿が映し出される。
「だ、誰だ?!」
『……こんにちは、世界中の皆さん。 この国際中継をお借りしてご挨拶したい』
映像に映っていたのは真っ暗にほんのり足元から青い光が浮かぶ空間。 まるで何かの操縦室かの様な空間の中心には桃色に輝くハートが巨大な円柱水槽の中に浮かんでいる。 それを守るかの様に、いくつかの円柱が旋回している。
声の主は、映し出された空間の空中からワープスターに乗って中継画面に姿を現す。 赤い足元と、桃色の一頭身、彼の目は一見穏やかそうだ。 しかし人々はそれを見た途端に思わず声を詰まらせる。

「まさか、あの方は……」
ある一人の村人がギルドのクエストボードの裏から一枚の手配書を取り出した。 誰もがよく知っているその姿には、信じがたいほどの高額な懸賞金。 豪邸や別荘を十棟買ってもお釣りが来ると言われる。
確信した村人は震え上がりギルドから外へ飛び出した、危機を知らせるためだ。 村にはギルドとは無縁の一般人もいる。 彼らを危機に晒すわけにはいかなかった。
「皆、早く逃げるん……」
その瞬間だった。 空から桃色のハート『フレンズハート』が無差別に自動追尾し村人達の胸や頭をすり抜ける。 怪しげな桃色の光が身体を貫いた後、目が虚になった村人の一部は振り返ると、その手には新しいハートを手にして、無事だった村人達に歩み始める。
「な、何!? どうしたのよあんた!!」
「父ちゃん!?」
その日世界各地に、人々の悲鳴や逃げ惑う声が一瞬だけ聞こえた。 そして、ほとんどの住民はその異変に抗う前に『フレンズハート』に服従することになる。

 ネイキッドナチュレ。 レッドとアドレーヌのギルド『烈火の兎宴』が本拠地とするこの町にも、同様の異変が起きていた。
「おのれ、レッド……アドレーヌ!! ワシらを利用する気だったのか!!」
町長の周りにはすでに洗脳済みのギルドメンバーと町民達。 これはレッドによるほぼ単独の凶行で、アドレーヌの関与はないがもうそれは些細な問題。
最後に町長が見た光景、それは桃色のハートが自身の頭上から逃げ場を奪う様に無数に降り注いでくる無慈悲な瞬間だ。


「ダメです!! 各国のギルドや政府にも連絡が取れません」
国際ギルド連盟。 彼らも世界中の異常事態は把握していた。 だが後手後手に回っている彼らは、既に手を打つ暇もない。 ただ目の前に映る、世界各地に流れている映像と同じ『それ』を見るしかできない。
「精鋭部隊の整備を急げ!! 無関係な市民達を助けなければ」
「し、しかし……殆どのメンバーが『シティトライアル』でスノウ達を捕える作戦で大敗して、療養中……今の我々の戦力では到底敵うとは思えません!!」
その読みは当たっていた。 既にソード達精鋭部隊は作戦失敗を受けて、離散している。 今から彼らを呼び集め、世界の異変に対応するには困難を極める。

「おのれ、いったい何が目的だ……!!」
『僕のお願いはただ一つ。 邪魔をしないでもらいたい』
見抜くかの様に男は単刀直入に切り出した。 職員達はその言葉に理解を要する中、一人の職員が叫んだ。
「国際指名手配犯の所在地確認できました!! スチールオーガンに『七彩の暴食』のメンバーと対峙中です!!」
『これから皆さんは、僕達を追いかけたり捕まえたりするはずだ。 だがそれはお勧めしない、既にこちらには手駒が揃いつつある』
男の声と同時にビジョンにはポップスターの世界地図が映し出される。 そこにはスノウやレッド達のギルドのある地域そしてその近隣の国や地方がどんどん赤く塗りつぶされていく。
『さぁ、どう動くんだいオレンジ、ラベンダー……僕たちもこの作戦は望んでいない。 早くサファイアの身柄を明け渡さないと、『七彩の暴食』までも洗脳しないといけなくなるよ』
サファイアの潜在意識の中に隠れ続けているかつての同胞……『裏切り者』の二人に語りかけるように、男ピンクカービィは巨大なハートの前に立って独り言のように呟いた。



   第五十四話 命知らずのバカ



 マルクとドロッチェの所在地、スチールオーガン。 そこでは二人の目の前に立ちはだかるようにアドレーヌとボンカース。 その間には突っ伏し倒れているリボンに馬乗りになる様に、シトラスと名乗った男が大剣を右手に携えて鎮座する。
「……た、助けて。 お金なら、いくらでも払います……」
リボン自身も、目の前にいるマルクがかつて自分の邪魔をした敵だと考える余裕もなかった。 救世主が降り立ったかのように必死に顔を上げ、空気を掴むように手を伸ばして同じ言葉をうわ言のように繰り返す。
「……シトラス、と言ったな。 その女に戦意はない。 逃してやれ」
素直に従うとは思えないが、マルクは一か八かとリボンの希望を汲み取った。 彼の言葉を耳にしたシトラスは、しばらく押し黙っているとゆっくりリボンの背中から降り立った。
「ひ、ひぃ……」
かつての高飛車、自信満々の様子はどこ吹く風か。 虫のように這いつくばりマルク達の方へと向かっていくリボンに、突如桃色のハート『フレンズハート』が貫いた。
「なっ!?」
突如目の前にリボンを襲った凶行に、マルクとドロッチェは顔を歪ませる。 リボンは顔を地面に突っ伏したかと思うと立ち上がり、先程とは打って変わってシトラスに最敬礼とばかりに膝をつく!!
「お前は……ピンク達の作戦に合流しろ。 ここはオレ達が請け負った」
シトラスはそれだけを言うとリボンはマシンに飛び乗って、空へ飛んでいく。
「待て!!」
ドロッチェが行かせないとばかりに杖を構えて冷凍光線を発射する!! しかしアドレーヌは瞬時に生み出した一つ目の雲の生命体『クラッコ』に一度命じると雷撃が光線と交錯し、爆散した。
「くそっ……コイツらをまずどうにかしないとな」
「今のピンクのハート……そうやって仲間を増やしてきたのか」
「まあな。 ただ精神力が強い奴にはこのハートはなかなか効かない。 そう言う時のためにいろんな手段は用意してある」
自らの手の内を明かすようにシトラスは回答する。 余裕か、それとも……。
「今世界各地のギルドが、突然パニックになってるってニュースにもなってる。 全部お前達の仕業なんだな!?」
「仕業とは言葉が乱暴すぎる。 救済だこれは」
三人の会話はドロッチェのカバンの中に潜んでいるケケとホヘッドも当然聞き耳を立てている。 シトラスの言葉にケケは眉をひそめながら、しかし黙って聞き続けている。

「この世界には、命知らずなバカが増えすぎたんだ。 ご先祖様のおかげでな」
シトラスの言葉に、マルク達は目を潜めた。 彼の言うご先祖様とは伝承に伝わる『穴からお宝を持ち帰った青年』を指すのは、シトラスの元所属からして明らかだ。
「お前達は知ってるか? 毎年何人の冒険者達が穴に入って行方知れずになってるか……数百、数千ならまだ可愛げのあるもんさ」
シトラスは哀愁を漂わせて呟いた。 ギルドに入っているものなら、国際ギルド連盟の年間レポートで毎年目にする数字だ。 嫌な数字だが、現実を直視させるのに十分な犠牲の数。
「その被害の内訳の大半が、対立したギルド同士の戦争だ。 こんなくだらない犠牲は、俺達で止めないとダメなんだ」

シトラスの言葉は、詭弁だった。 一攫千金を夢見る冒険者にこんな言葉を並べた所で無視をされるのがオチだ。 無論マルクやドロッチェもそれを聞いて受け入れて引き返すつもりもない。 彼らには覚悟とプライドがあるからだ。
「……まるで自分達なら問題無いって言い方だなァ?? そう言う君は四つの穴のお宝の在処を知ってるのか」
マルクはわざとらしく挑発をかけるようにシトラスに問いを投げかける。

シトラスの主張はかい摘むと次になる。 これ以上冒険者達の犠牲を止めるために彼らが洗脳という強行手段。
と、なるとマルクの疑問は当然次のようになる。 ーーシトラス、いや『七彩の宝玉』の目的は、自身達を頂点とした『支配』だ。 まるで正義の味方、人々を導く指導者の如くの恐怖政治。

「知ってるよ。 どこに穴があるのか。 伝承にある『草原』や『遺跡』の行き方。 財宝の在処も全てこの頭の中に記憶しているーーまあ、だから俺たちは適当な穴をでっち上げて一攫千金を夢見る奴らに適当なお宝で満足して貰えばいいと思っていた」
スノウも、レッドも、サファイアの中に潜んでいたオレンジやラベンダーも知ってるはずさとシトラスは付け加えた。 その言葉に反応したのは、ドロッチェだ。
「適当な穴って……そりゃどういう意味だ!?」
「お前が一番よく知ってるだろ?? 黄金の蛇の化け物のいた穴、ああ言う『何も無い場所』はこの星には探せばごまんとあるもんさ」
つまりーーかつてドロッチェがギルドの仲間と潜った『ドクロ・ガ・ラーガ』の住処をシトラスは語っていた。 あそこも、シトラス達が適当にでっち上げた財宝の所在地だったのだ。
「あの時はすまなかったな、あんな化け物が住んでいたとは知らなかった」
「御託はどうでもいい。 それとサファイアの魂を奪った理由が繋がらない。 わざわざこんな面倒な事を起こさなくても、サファイアを通して『世界の争いを止めるために一緒に戦ってくれ』ってお願いをしたら済んだ事じゃないのか?」
マルクの言葉にシトラスは……しばらく押し黙っていると重たい口を開いた。


「無理だ。 サファイアの中にはオレ達の計画に反対していたオレンジとラベンダーの意識が混在していた。 二人がサファイアの中に居る限り、サファイアはオレ達を疑い続ける他ない」
それが、『たましいのうでわ』でサファイアの魂を奪い強硬手段に出た理由だと理解した時にマルクも、宅配袋の中にいたケケもーーシトラスの、いや『七彩の宝玉』の真意を理解した。

「『人類の選抜』は、気の合う友人を集める世界だってーーオレンジとラベンダーが言っていたが……まさかサファイアを」
「そう、本来はスノウやレッドみたいに、サファイアが『七彩の暴食』の連中にフレンズハートを使ってオレ達と合流する手筈だった……まあ、死に損ないのあの二人が想像以上にサファイアを『操縦して』、オレ達から隠れてたみたいだが」


シトラスの言葉に、宅配袋の中に隠れていたケケは袋の布地を強く握りしめて頭の中で必死に整理する。 その表情は、唇を強く噛み締めて瞳孔も大きく開いてーー怒りに震える様だった。
「ケ、ケケちゃん落ち着け。 アイツの話はああやってマルクやドロッチェを揺さぶってんだ」
バヘッドの言葉は、その通りだった。 しかしケケは、納得しようにも出来ない。 何よりケケ同様にサファイアと付き合いの長いマルクも気持ちは同じだろう。
「わかってます。 でも、ごめんなさいバヘッドさん。 わかっていてもーー納得できない!!」
ケケがそう答えた直後、宅配袋が大きく揺れる。 ケケとバヘッドは大きく身体を揺らして、尻餅をついた。 ドロッチェが所持していたはずの宅配袋が宙に浮く感覚がすると、隙間から砂塵の混じった煙が入り込む。 それに二人は思わず咳き込んだ。
外の世界では、洗脳されたアドレーヌが、刀剣を実体化させドロッチェに間合いを縮めていた。 ドロッチェは咄嗟に回避したが、アドレーヌの振るった刀が宅配袋の手提げ紐を切り裂いて、それが地面に落ちた様だった。
「おいマルク。 この小娘はぶっ飛ばしていいんだな?」
「ああ。 あの猿も正気に戻して、あのヨモギ餅と一緒に檻にぶち込むのサ」
二人の想定外の好戦的な態度に、シトラスは半ば呆れる様に一つ息を吐いて、頭を掻いた。 これ以上の会話は無駄だと判断したのだろう。 シトラスの頭身の何倍もある巨大な剣をどこからか取り出すと、その鋒をマルクとドロッチェに向けた。

「与太話は終わりにしよう。 もう二度と言わない、サファイアの身柄を寄越せ、そうすればお前達は悪い様にはしない。 最もオレンジとラベンダーの魂は消し去るがな」
「わかりやすい解決策の提案ありがとよ。 僕たちからの答えは『ノー』なのサーー」
そう、マルクが答えた途端に、彼の頬を掠める様に一本の電撃が通過する!! それはあっという間に距離を詰めてシトラスの正面に接近するが、シトラスは剣の面部分で難なく弾く。 ーーが、一瞬視線を逸らした先には、マルクの姿は消えている。
「よそ見禁物だヨ」
鋭い刃物の様な楕円型のカッターを翼から飛ばして、マルクはシトラスに接近する!! シトラスは目にも止まらぬ剣戟でカッターをはたき落しながら、電撃の出所に目を向けた。 ーードロッチェだ。 何かを抱えて身を屈めて走っている。



「おい、なんか妙だと思ったらケケ、バヘッド!! なんでお前らが隠れてやがる」
「わ、悪かったよドロッチェ!! だけど今説明する暇は」
「ああ、ねえな。 無事に生きて帰れたら説教してやるよ」
そう言ってドロッチェは宅配袋を小脇に抱えて杖を構える。 シトラスに標準を合わせると、その杖の周囲を旋回していた小さな星が三つ、突撃する。
「スターシュート!!」
正面からマルクのカッター攻撃、脇からドロッチェの攻撃に挟み撃ちの形。 だがシトラスはそれもものともせずに剣を振いそれらを一気に風圧で叩き落とした!!
「それは織り込み済みなのサ!!」
マルクは一気に距離を詰めて翼でシトラスの身体を羽交締めにする!! ゼロ距離で密着する形になると、口を大きく開いて真っ白な光線がシトラスの眼前に現れる。
「消し炭になっちまえ」
「複製、ミニマム」
シトラスはそう呟くとあっという間に身体を縮小させる。 マルクは確かに掴んでいたシトラスの体躯を見失い、光線は真正面の地面を焦がすだけに終わってしまった。
「クソッ、複製のチカラってやつか!!」
マルクを援護していたドロッチェのそばには、「忘れるな」とばかりにボンカースとアドレーヌが挟み撃ちだ。 ドロッチェは咄嗟に身を屈めるが、ボンカースの木槌が彼の手を弾く。 痛みで杖を落としてしまうと、ボンカースはそいつを足蹴にしてドロッチェの手の届かない場所へ転がした。
「しまった!!」
正面からボンカース、背後からアドレーヌが武器を振りかざして飛びかかる。 万事休すといった形か。 すると宅配袋からバヘッドの叫び声が!!
「ドロッチェ、蓋を開けてかざせ」
その言葉通りにドロッチェはモソから借りた宅配袋のがま口を開くと大きなシャボン玉が二つ、アドレーヌとボンカースの目の前に現れる。 衝突するとそいつは割れる事なく二人の身体をその中にあっという間に包み込むとーーまるで無重力空間にいる様にシャボン玉の中に閉じ込めた!! アドレーヌらはシャボン玉を激しく叩くも、不思議と割れる様子はない。
「あれは……確かバヘッドの能力」
マルクは横目にそれを確認して、ドロッチェの持つ宅配袋のがま口が開いているのを確認する。 そこには確かにここから置いて行ったはずのバヘッドの姿が確認できた。
「バカ、マルクに見つかったら何どやされるか」
「いやー、でもアレがもう出てるし」
バヘッドの指さす先。 そこには先ほどまで彼の側にいたはずのケケが元の体躯に戻り、シトラスに指差して構えている姿だった。 左手にはドロッチェの落とした杖を拾ったのか掴み、ガントレットには電撃が溜まり攻撃態勢とばかり。
「……ケケ!! テメェ勝手について……」
「ちょっとマルクさんは黙ってて!!」

いつもはピッチに言い放つその言葉を、まさか自分に向けられるとは思っていなかったマルクは思わず目を丸くして、声を詰まらせた。 危機感を感じない光景を目にして思わず戸惑うシトラスを睨み、ケケは彼に向かって指差した。
「一言!! 言わせてもらいますシトラスさん。 オレンジさん達がサファイアを操縦したとかどうの言いましたね!?」
「お、おう??」
既にこの場はケケの独壇場とばかりだ。 洗脳されているアドレーヌとボンカースも、シャボンの中でケケの演説に呆れる様に聞き入ってる。
「操縦? 勝手なこと言わないで!! 少なくとも、サファイアのおかげで私は生きている。 あの時、サファイアとピッ君が助けてくれなかったら奴隷にされてたかもしれない……サファイアは私を助けてくれた恩人なんだ、オレンジさん達はそんなサファイアを育ててくれた人達なの!! その人達を……サファイアを悪く言うんじゃない!!」
そう言うとケケはガントレットにためた電撃をシトラスに向かって放り投げる。 一直線に飛んでくるソイツを、シトラスは簡単に剣で弾き返すも、二撃目、三撃目とばかりにケケは同様の攻撃を繰り返す。 それに忘れないとばかりに、彼女は自分のありったけの思いを叫び続けて。

「悲劇が何? ギルド同士の争いより醜い争いなんて世界中どこでもやってるわよ!! 『人類の選抜』なんか勝手にやってなさいよバーカ!!」
その最後だった。 ケケの脚が金色に発光するほどの電撃が溜まるとケケは一気に地面を蹴って走り出す。 マルクやドロッチェも目に留まらない速さでシトラスと距離を詰めると、ケケはその右腕でシトラスの腕を掴み掛かろうと掌を開けた。
「っぶねえ!!」
だがシトラスも百戦錬磨。 ケケの攻撃を察した彼は防御の体制をケケがとってないと判断したのかと大剣の峰でケケの腹部を思い切り叩きつける。 腕と大剣のリーチ、そのわずかな差でシトラスに先手を取られたケケは腹部の衝撃を見事に受けると、そのまま真後ろに吹き飛ばされる。
「ぐふっ」
「ケケちゃん!!」
バヘッドはその口から巨大なシャボン玉を吐き出して、クッションの要領で飛んできたケケを受け止める。 シャボンの中に収まった彼女の腹部は真っ黒な装束からも分かるぐらいにダメージが入っていそうだ。
「馬鹿野郎。 どうして勝手についてきた……ドロッチェ、気づかなかったお前もドジなのサ」
「……私にも、やらないといけない理由がありますから」
「理由?」
腹痛を抑えて起きあがろうとするケケの肩を抱き上げ、最後に宅配袋から出てきたバヘッドは問いかける。 ケケは震える指を突き出してアドレーヌを捉えると、自分のお腹に回復魔法をかけながら震える声で呟いた。

「シティトライアルの借り……それに、ドロシアさんやブレイドさん達の前に突き出して謝らせる……アドレーヌ、これは友達である私のやるべき事だから!!」
ケケの叫びは、洗脳状態のアドレーヌに果たして届いているか。 そんな事を考える余裕は無いが、ケケは自分の決意を口に出さずにはいられなかった。
「お、俺だって。 一緒に組んできたホヘッドをギタギタにされて、腹立ってんだ!! 敵わなくても、一矢ぐらいは報いてやるさ」
バヘッドもケケに感化される様に決意を語った。 マルクとドロッチェは、観念したかの様にため息を吐いて、二人を信頼する目で見つめた。
「サポートは任せる」
「バヘッド、ケケがでしゃばらない様に見張っとくのサ」
「…………っ!! はい」
ケケとバヘッドに初めて笑顔が浮かぶ。 マルクは空を飛び上がり、ドロッチェはケケ達を警護する様に二人の前に立つと杖を構え直してシトラス達と対面する。
「サファイア達の方は大丈夫なのか?」
「マスターが、『絶対安全なシェルター』を用意しているって言ってた。 そこを信じるしかない」
バヘッドの言葉にドロッチェは目を伏せて「そうか」とだけ呟いた。 意気揚々な四人を見てシトラスは気怠そうに一つ息を吐いた。
「本当に怖いね、命知らずのバカってのは」

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