あしかのらいぶらりぃ
はじめにお読み下さいこの小説を修正する最近のコメント・評価キーワード検索
設定メインページに戻るサイトトップに戻る
大 中 小
執筆者: ディン/投稿日時: 2026/02/17(火) 03:07:05
投稿者コメント:
予定としては残り十話あるかないかです。
その分詰め込みすぎて文字数制限ギリギリ……なんとか今回はおさまりました。
目標は年内完結、それを目指して頑張って参ります。
第五十三話 譲れない思い
 その日『七彩の暴食』は近くのホテルに一泊する事になった。
それもそのはず、彼らの仲間サファイアの魂が奪われたのだ。 おいそれとププビレッジに帰還する選択肢は初めからない。
「サファイアの救出に関してはワシとサファイアのご両親で話し合う。 皆はひとまず休んでくれ……ソード」
「はい」
モソの要請にソードは腰を上げて背筋を伸ばす。
「これから『七彩の宝玉』がサファイアを狙ってくる可能性を鑑みてお前さんはギルドに戻ってくれ。 ワシとサファイアとお前さん、三人で行動すればまず安全じゃ」
「分かったよ。 アンタ達も……それで良いな」
ソードの視線はサファイアの姿を借りたオレンジとラベンダーに向けられていた。 息子の身体に残っていた二人の魂は、その存在を誇示する様に瞳にそれぞれの色を示している。
「はい、お手数おかけします……」
深々と頭を下げるその姿勢に、ケケ達は思わずたじろぐ。 目の前にいるのは紛れもなくサファイア、ただ中身は別の存在だと言う話は、元来の彼なら取り得ない行動が証明している。
「さぁ、今日はもう休みな。 明日すぐ帰るよ」
ブレイドに促される様に皆はホテルの自室に戻っていく。 ケケは一人足を止めて、モソやサファイアの後ろ姿を振り向き様に眺めていた。
「ケケ、行こうよ」
ピッチの言葉に、髪を引かれるようにケケは振り返る。 それにすれ違う様に、マルクは部屋の中のモソ達の元へ近づいていった。
「マルクさん?」
「マスター、そしてサファイアの親父とお袋……サファイアを取り返しにいくのは、オレがやる」
ボクと言う一人称も、いつもの口調も見せないそれはマルクの覚悟の表れだ。 彼の言葉に、廊下に残っていたメンバーの注目は一斉にモソの部屋に集まる。
「いや……まだこちらから向かうと決めたワケじゃ……それに、奴らがどこに潜伏しているか」
「そんなのサファイアの中にいる二人が一番理解してるはずなのサ。 『七彩の宝玉』の一員だったんだ」
オレンジとラベンダーの存在は、対『七彩の宝玉』への大きなアドバンテージになる。 マルクの読みは間違ってない。
「ソードをサファイアの傍に置く以上、『宝玉』を迎え撃つ準備も必要なはずなのサ。 それはオレがやる、だからアジトを言うのサ」
「先にこちらから奇襲を仕掛けるワケだね」
ピッチはマルクの真意を悟った。 マルクは否定も肯定もするワケでもなく、黙ったままだ。
「アジト、とは仰々しく云えませんが、ピンク達が潜伏する都合のいい場所はいくつか覚えがあります」
サファイアの瞳の薄紫が輝いている。 ラベンダーが主張している証拠だ。 彼女はポップスターの世界地図を開いて、ある場所を指差した。 いつの間にか自室に戻るはずだった『七彩の暴食』の面々は集まりラベンダーの指先に注目している。


「この辺りは、彼らの計画に必要な資材がよく採れる。 オマケに怪物の住処に近く、誰も寄りつかない」
「そ、そこは……スチールオーガン!!」
ピッチが大声を出した。 ケケにとっても思い出深い冒険の場所、リボン達が他のギルドメンバーを奴隷の様に使役していた。
「四つの穴の怪物、あの岩の化け物がそうだったのね!!」
「必要な資材ってのも、十中八九『オリハルコン』で間違いないネ」
その会話の中で、ハルトマンは悟った様にほくそ笑んだ。
「なるほど、全てが叶う願い星……計画の邪魔立てをされない様に世界一の硬度を誇るオリハルコンで強化すれば文字通り無敵の兵器になる」
「そうか、奴らの計画を阻止するには」
ピッチが察した様に顔を上げた。 その答えはその場にいた全員が気づいていた。 確認をする様に、異口同音に声を揃えた。
「ギャラクティック・ノヴァそのものを破壊する事!!」
「だけど、そんな簡単に壊せる物なのかい?」
ブレイドの疑問はもっともだ。 皆の視線は一気にサファイアに向けられる。 その中にいるオレンジ達は、申し訳なさそうに俯いて。
「……願い星の大きさは僕らの何百倍もあります。 簡単に破壊なんて」
「でも、やってみる価値はありますよね!!」
ケケが言葉を遮る様に叫んだ。 彼女は目を潤ませながらも、意志をはっきりと伝える様に前のめりだ。
「オリハルコンで強化しようと言うなら、私達がそれを先周りして……ドロッチェさんがすごい兵器をそれで作る!! 私のガントレットを作った時みたいに!!」
「すごい兵器ってまた抽象的なのサ。 まあケケの考えは嫌いじゃない」
マルクが呆れる様に鼻で笑い、ドロッチェも指を机の上で叩いて呟く。
「爆弾でもミサイルでも、オリハルコンで作って相手を脅せばいいワケだ。 どんな兵器でも、抵抗勢力さえあればただの飾りだ」
その場に笑顔が戻ってきた。 サファイアを取り返す算段は、僅かに見えてくる。
「そこまで言うならマルク、お前さんに任せる。 責任はとる、存分に暴れてこい」
モソのその言葉を待っていたかの様に、マルクはニヤリと笑った。
「ドロッチェ、一緒に来てくれ」
「分かった。 オレもアイツらには一矢報いたいって思ってたんだ」
マルクの頼みにドロッチェは真っ先に答えた。 その後ろで待ち構える様にケケとピッチが居たがマルクは二人に何も言わなかった。
「マルクさん?」
「キミ達は……サファイアのそばに居てやるのサ。 あ、ハルトマン、キミにはマシンのメンテナンスをお願いするヨ。 最速で目的地に着ける様に、パーツをふんだんに使ってネ」
「おやおや、人使いの荒い……」
一通りの会話を終えると、マルクはドアに手をかける。 その横顔は思い詰めたかの様な顔で。
「ま、待ってくださいマルクさん!!」
そう言って彼を引き止めたのはケケだ。 マルクの肩を掴んで必死の形相で問いかける。
「私もピッ君も、同じチームじゃないですか!! 私達だってサファイアを助けに行きたい」
「今その時じゃないって話サ。 大丈夫、ケケにはケケのやるべき事がある、ねぇブレイド」
マルクは振り返らず淡々とケケ答える。 だが、ケケも引き下がる気はない。
「話逸らさないでくださいよ!! 私とサファイアとピッ君とマルクさん、四人でずっと仕事してきた仲じゃ……」
「うるさいなあ!! アドレーヌにヤラれる奴をメンバーに入れても足手纏いになるだけだって、言わないとわかんないワケ!?」
「ッ!?」
今までに聞いた事のないマルクの怒鳴り声だった。 身をすくんだケケに見向きもせず、マルクはそのままドアを蹴破って出て行った。
「ちょっとマルク!!」
ブレイドやホヘッド達も久しく聞かないマルクの怒鳴り声に一瞬怯んだが、すぐに調子を取り戻して追いかけたが、もう既にマルクの姿は見えなかった。
「オレが行くよ。 ハルトマンもこい」
マルクに共闘を要請されていたドロッチェとハルトマンが後を追う様に飛び出した。 慌ただしく駆けていく二人の足音と対照的に部屋の中は静まっていた。
マルクが叫んだあの時、すぐに何か言い返そうかとしていたのはピッチだ。 しかしマルクの顔を見て何かを察していた、心当たりがある様だった。
「マルク……まさか、あの変身をする覚悟で」


 マルクとドロッチェそしてハルトマンは廊下を突き進んでいく。 ドロッチェは少し居心地の悪そうな顔をしながら、マルクにささやいた。
「言い過ぎだぞ。 ケケのヤツ……泣いても知らねえぞ」
「構わねえのサ。 ここまでくれば命のやり取りも覚悟する。 これ以上仲間が傷つくのは……ボクもうんざりだから、ネ」
そう言うマルクの横顔は、どこか寂しげだ。 ドロッチェはそれを見た以上何も言い返さない。
「クク……下手な演技も、様になってましたよ。 見ました? 彼女の呆然とした顔」
ハルトマンは薄気味悪い笑顔を浮かべる。 ドロッチェはそんな彼を軽蔑する様に睨む。
「……コイツもいつまで抱え込む気だ? 大会も終わったし、今となっては無関係だろ」
「それが大アリですよ……『人類の選抜』に騙された以上私も一矢報いたいんです。 目的地に行くまでのマシンのメンテナンスも、タダで引き受けますよ」
「そいつはありがてえのサ……」
溜息混じりにマルクは短く答えた。 ハルトマンは手をこねながらついていき、ドロッチェはその光景を一歩下がった場所で眺めながら、難しそうな顔をするしかなかった。


 サファイア奪還作戦。 スチールオーガンへの進撃は、明朝。




   第五十三話 譲れない思い


 スチールオーガン。 サファイア達が冒険した舞台の一つ。
エアライドの会場でもあるここは、盛んな工業地帯でもある。 ただ『シティトライアル』の一幕があって以来、ここで働いていたギルドは皆無。 彼らも『七彩の宝玉』に対抗する為に、街に戻っているとの事だ。
「本当に人っこ一人いねえな……スチールオーガンって言ったら『エアライドレース』の会場だろ」
シルクハットのつばをあげて、ドロッチェは崖の上から全景を見渡した。 レース専用に舗装された高架も、かつてギルド同士が睨み合っていた工業地帯も、嘘の様に静かだ。
「それにしても、お前も来るなんてどう言う風の吹き回しサ……バタモン」
ピンク色の体色以外はサファイアと瓜二つのティンクル、バタモンは笑顔で移動用のエアライドマシンから飛び降りる。
「いやぁ、こちらも仕事だよ。 ほら僕は『七彩の暴食』やププビレッジの周りの郵便屋さんだし」
そう言いつつバタモンは配達袋から手紙や荷物を取り出していた。 それはひとりでに浮かび上がると、適当な場所に散らばっているポストに飛んでいく。
「こんな辺境も、普通に暮らす人は居るんだって安心できるんだよ」
「相変わらず凄い能力だな、その中に魔法も格納できるんだろ」
「モソさんほどじゃないけどね……それに収納量も無限じゃない」
バタモンは苦笑いで配達袋を覗く。 真っ暗な中は覗くと吸い込まれそうだ。 しばらくするとバタモンが飛ばした荷物とは別方角から、手紙がいくつか飛んでくる。
「アレはまた別の町に送る手紙だね。 この辺りの住民が書いてたヤツさ」
「このネットの時代に手紙ねぇ……」
ドロッチェが飛んでくる手紙を目で追いながら、静かに呟いた。 バタモンはそれを受け取ると、配達袋の中に押し込んだ。
「それじゃあ僕は仕事があるから……お迎えは?」
「子どもじゃねえのサ。 自力で帰れる」
マルクは苛立ち気味にバタモンに背を向けて答えた。 早くどこかへ行けと言いたげだ。
「はいはい。 それじゃあドロッチェさん、コレを」
「ん?」
バタモンはそう言うとドロッチェに自身の持つ配達袋と瓜二つの物を押し付けた。 なすがまま受け取るドロッチェに、バタモンはウインクをして耳打ちする。
「救護道具や非常食。 流石に今回は一筋縄ではいかないからってマスター達から」
「おう、ありがとな。 向こうに帰った時にお礼をまた言うよ」
ドロッチェが返事をすると、バタモンは笑顔で頷いてワープスターに飛び乗った。 そのままマシンは飛翔すると、身を乗り出してバタモンは地上に向かって叫んだ。
「一通り解決したら、今度は僕もサファイアやケケ達と一緒に連れてってよー!! ギルドの仕事に興味があるんだ」
「おう、生きて帰れたらナ」
マルクの気の抜けたような返事にバタモンは苦笑いを浮かべるとワープスターは高速でププビレッジの方角に飛んでいく。 そして……ドロッチェが肩に提げた配達袋から、小さくなったティンクルとヒトガタの影がこっそり、バタモンを見送るように眺めている。 ホヘッドと、マルクから留守番を言い渡されたはずのケケの二人だ。
「行ったな」
「行きましたねバタモンさん。 バレたらマルクさんに怒られるかもしれないのに、引き受けてくれるなんて」
二人はあの後、バタモンの元に行くと必死に頼み込んでいた。 マルク達にこっそり、着いていきたい−−と。



 あの日の夜。 ケケとピッチ、ホヘッドはたまたま近くに来ていたバタモンを捕まえて必死に頼み込んでいた。
「確かに……僕も格納の能力を使えるけど」
バタモンは気難しそうに答えて俯く。 そんな彼の肩を掴んでホヘッドが叫んだ。
「バヘッドが、親友がやられたんだ!! このまま指咥えて黙ってられるか」
間髪入れずにケケはバタモンとホヘッドに割り込んで叫ぶ。
「私もサファイアを助けたい!! サファイアがあの日いなかったら、私は今頃奴隷だったんです。 今度は私がサファイアを助ける番なんです!!」
「ケケ……だったら、僕も」
ケケを今更止めても無駄だとピッチは悟っていた。 ならせめて彼女のブレーキ役にとマルクに叱られる覚悟で着いて行こうとしたが。
「ピッ君はサファイアと一緒に待ってて。 スノウ達からサファイアを守る為には、付き合いの長いピッ君が最適だと思うの」
ケケの言葉は出まかせだった。 ただ筋が通っている、ピッチもその言葉に否定も意見もする事はできずに声を詰まらせる。
「オレンジさんとラベンダーさんも、それで良いですよね?」
ドアの隙間から見守っていたサファイアの姿に、ケケは気づいていた。 振り向き様に彼の中に残る両親に向かって問いかける。
「……この子には、こんなに素敵な仲間がいたんだねラベンダー」
「ええ、オレンジ……『あのギルド』に居たら決して得られなかったでしょうね」
まるで独り言の様だが、中に潜むオレンジとラベンダーは互いに言い聞かせる様に呟いた。 そして二人は意を決したのか、サファイアの瞳のオレンジと紫の輝きは強くなる。

「ピッチさん、どうか僕達をよろしくお願いします。 そしてケケさん、ホヘッドさん」
「決して無理はしないで。 サファイアの友達や彼女の身に何かあれば、私たちは成仏しきれない」
「え!?」
「はい??」
ケケは顔を真っ赤にして聞き返す。 ピッチは笑いを堪える様に吹き出して、ホヘッドは半分ショックの様な顔色。 その妙な空気に、オレンジとラベンダーは罰の悪そうな顔で聞き返す。
「あれ? もしかして、違いました??」

この後、ケケが必死に否定していたのは言うまでもない。 ピッチとホヘッドはのちに語る。 あそこまで否定されたサファイアが気の毒だった、本人が知らない所で良かった−−。



 手のひらに乗るサイズになっている二人は、それでもマルクとドロッチェに気づかれない様に息を潜める。 配達袋が揺れ出した、いよいよスチールオーガンへの侵入を試みる様だ。
「そう言えばケケちゃんはここに来た事あるんだっけ」
「はい、ガントレットの素材集めの為に……その時は色々なギルドの人達が奴隷の様にされてましたけど……」
ケケにとっても懐かしい景色。 スチールオーガンではリボンや四つの穴の怪物の一つであったワムバムロックと騒動があった場所だ。 だが今は打って変わって静寂が支配している。 以前はエアライドマシンで辺りを飛び回っていたら、砲弾なり警報が飛び交ってきていたのに。
「流石にエアライドカップでの騒動が目立ったんだろうな」
ホヘッドの推察は当たっている。 全世界に『七彩の宝玉』が大暴れした様子は生放送されていた。 今度は自分達も同じ目に遭うかも、と二の足を踏んだポップスター中のギルドは、大きな仕事を控えてしまっている。
『次のニュースです……アイスクリームアイランドのギルドである……のメンバー達が一斉に消失した事件から数日、今度はバタービルディングの『バトルクラブ』のメンバー達も全員、ギルドや自宅から失踪したと管轄の警察署から発表が』
「こりゃ、早い所決着をつけた方が良さげなのサ」
スマホから情報を得ているマルク達も焦りが出る。 アドレーヌやボンカース達を洗脳した様な手段が、世界各地でこれでもかと続いている。
『国際ギルド連盟も、世界各地のギルドに連絡を取れずに……『七彩の宝玉』が、冒険者達を拉致している可能性が高いと見て』

二の足を踏んでいる事が逆手に取られている様だ。 スノウ達は確実に自分達の勢力を伸ばしてきている。 おそらくサファイアの身柄を確保するための手駒集めだ。
「ひどい……世界各地のギルドが、アドレーヌみたいにされてるの!?」
ケケは憤慨している。 もしかしたらあの日、自分や『七彩の暴食』も場合によってはスノウ達に洗脳されていたらと思うと、恐怖と怒りに震えてしまう。
ケケの中にはサファイアの先輩、女性に優しいと言うスノウのイメージは完全に消え失せている。 彼もレッド達も、ケケの仲間やギルドを危険に晒す敵だ。
「ケケちゃん、そういや君はアドレーヌと同じ村の……」
「はい、アドレーヌがギルドのお金を盗んで消えたって聞いた時はびっくりしましたよ……だって、彼女はそんな事をする人じゃないんです!!」
ケケは下唇をかみしめて、同郷の友人を思い返す。 ホヘッドはケケがギルドに入る前のアドレーヌの素行を知っているが、ケケがアドレーヌを信じたいと言う気持ちも尊重したい。 だが……。
「ドロシアさんや村の皆を襲ったり、ブレイドさんを危険な目に遭わせようとしたのも間違いなくアドレーヌです。 信じたくないけど、だからこそ」
ケケは握り拳をゆっくり解いて、手のひらに滲んでいた手汗を見つめている。
「一発この手で殴ってやって、皆の前に引きずり出して土下座でもなんでもさせます。 それが、友達としての責任だと思うので」
「そっか……つえーな、ケケちゃんは」
ホヘッドは袋の中でもたれながら、静かに笑った。 そんな彼の表情を見てケケは穏やかに笑って伝える。
「ホヘッドさんも、バヘッドさんの為に戦おうとしているじゃないですか。 それって中々出来ない事だと思います」
「ははっ、ありがとな。 まあ俺とバヘッドは似た物同士って感じで最初から気が合う双子みたいな関係だったから……アイツの悔しさを、俺が代わって晴らしてやりたいって言う勝手なエゴだよ」
袋の上部の開け口からはスチールオーガンの淀んだ空が見え隠れする。 その空をケケとホヘッドは見上げながら、ドロッチェ達の移動に揺られて静かにその時を待つ。

「こんな時に言うのもなんだけど、こんなに悔しい思いしてるのは自分だけじゃないってのにマルクも勝手だよな〜」
「本当ですよ!! 特に私はチーム組んで結構長いんだからもう少し信用してくれて良いじゃないですか!!」
「そうだケケちゃん、マルクがピンチの時に颯爽と現れて守ってやって、ギャフンと言わせてやれ!!」
二人も二人で勝手な事を言っているのは自覚している。 ただ仲間の為に、と言う思いは一緒だ。 外に聞こえないのを良い事に、ケケとホヘッドの二人は存分に内に秘めたストレスを吐き終えると笑って見せる。


「ここが、お前らが戦ったって言う場所か」
「ああ、だがここまで派手にやった記憶はないぜ。 ……まるで爆弾が落ちてきた後の様だ」
崖の上から見下ろしながらのドロッチェの質問に、マルクは苦虫を噛み潰すような表情で答える。 二人の視線の先、そこには巨大なクレーターの様な穴に、砕け散った鉄鉱石やオリハルコンの欠片。 それらは風に流されてきた砂塵に埋もれていて、巨大な蟻地獄の様になっている。
マルクは確かな覚えがあった、ここは間違いなく怪物『ワムバムロック』を撃破した現場だ。 ただ一つ変わった異変と言えば。
「ピッ君の攻撃で埋もれちゃったはずの怪物……どこにもいないんだけど」
そう、ケケの言う通りクレーターの中心にいるはずの『ワムバムロック』の姿がどこにもない。 長い時間により風で運ばれてきた砂塵に埋もれた。 と言ってしまえばそれまでだが、それにしても形跡一つ見当たらない。
マルクとドロッチェは崖の上からクレーターにためらう事無く飛び降りる。 綺麗に着地した後適当に歩き回るが、怪しい岩石一つ見当たらない。
「逆にここまで綺麗さっぱり掃除しているって事は、自分達はここに居ますよって教えてくれてるモンなのサ」
「なるほど、いつでもかかって来いって事か」
ドロッチェはそういうと三つ星の杖を取り出して構える。 不審な動きや音がしたら、すぐに戦闘に入れる様に万全の準備を整える。
どこから気配がしても先制攻撃を辞さないと、マルクとドロッチェは神経を張り巡らせる。 風が吹く音だけが耳を支配していると、後方から砂利を踏み鳴らすような音が聞こえてきた。
「誰だ!?」
振り向き様にマルクは威勢よく言い放つ。 砂塵が晴れて視界が開けていくと人影がハッキリと見えてくる。 そこに居たのは……桃色の髪に赤いリボンを結えた、妖精の様な小柄なヒトガタ。 その姿にケケは見覚えがあった。
「あ、あの人……!! ここで奴隷を指揮していた」

「リボンって名前だったか……お前、こんな所で何しているのサ?」
リボンはマルクの問いかけに気づくや否や、震える体と今にも倒れそうな足取りでゆっくり近づいていく。 よく見ると端麗な佇まいをしていた以前と違って、髪はボロボロで衣服も泥だらけ。 みずぼらしい容姿だ。
「た、助けて……助けてください……報酬なら、払う……オリハルコン、たくさん……払います」
視線の焦点が合っておらず、指先を震えながらリボンは一歩ずつマルク達に歩み寄る。 敵意や戦意は無いと察したドロッチェは構えていた杖を下ろして、胸を撫で下ろす。
「とりあえず、敵……じゃないよな?」
ドロッチェは横目でマルクに問いかける。 その質問は、同様に配達袋に隠れていたホヘッドがケケに投げかけていた。
「ケケちゃん、あの女は……」
「サファイア達と四人で仕事に来ていた時の偉そうな女の人で……ココ、スチールオーガンで色んな人を奴隷みたいにしてたんです」
その時、マルクとドロッチェのすぐ目の前までやって来たかと思ったリボンは、前のめりで倒れ込む。 そしてマルクとドロッチェが最初に見たのは、彼女の背中を貫く無惨な切り口。 まるで刀剣で斬られたかの様な血の跡が、リボンの背中を一閃しているではないか。

「ひでえ……とりあえず助けねえと」
ドロッチェがそう言ってリボンの元へ歩もうとしたその時だった。 二人の距離が詰まったかと思えば、巨大な影がドロッチェとリボンを覆う様に被さった!!
「ドロッチェ、避けろ!!」
マルクの掛け声と同時にドロッチェは後ろ飛びで距離を取る。 その弾みか彼が肩にかけていた配達袋が地面に落ちてしまった。
「きゃあ!!」
地面に落ちた袋の中にいたケケとホヘッドは、衝撃で尻餅をついてしまう。 何事かとホヘッドが開いている口からこっそり覗くとその先に見た光景はーー。

「ここで待ってたらくると思ってたぞ……サファイアの、友達だっけか?」
リボンの背中に馬乗りになる様に、黄緑のティンクルが居座ってマルク達を睨んでいた。 その彼を挟む様に、虚な瞳をしたアドレーヌとボンカースは仁王立ちして構えている。
「お前……『七彩の宝玉』か!!」
「今は別のギルドのマスターをやってるんだけどな。 『緑玉の剣煌』って、聞いた事ねえか?」
マルクの問いかけに、男は笑って答える。 その彼の顔を見た途端にドロッチェの顔色も変わる。 その一瞬の異変に、黄緑の男は見逃さなかった。
「お前……まさか」
「お、生きていたか『真紅の窮鼠』のマスターさん。 二人だけって事は大人しくサファイアを引き渡しに来たわけじゃないな……」
金色に輝く剣を右手に掲げて、視線を集める様に男は見せつける。 その彼の一挙手一投足、それは見る者全てを魅了する。 それは美しさに見惚れるとかその類ではない。

(バカな……このボクが、ビビってる!?)
マルクは今までに感じた事の無い身震いを起こす。 スノウやレッドと対峙した時はなかった、彼らが剥き出しにしてこなかった『威圧』が今目の前の男は晒し続けている。
「ビビるなビビるな。 俺は別に今すぐ殺すってワケじゃない、ただ……サファイアを大人しく渡してくれたら、お前達を仲間にしてやっても良いってピンクも言っている」
彼が何を言っているのかは理解に時間がかかった。 マルクとドロッチェは額に汗をにじませながら、男の指先までの動きを警戒心を極限まで高めて見守っている。
「自己紹介がまだだったな。 俺の名前はシトラス……よろしくな、マルクに、ドロッチェ」

シトラスと名乗った男は、獣を狩る直前の猛獣の様な眼光でマルク達を見据えていた

この作品についてのコメント/評価 (0)
 前の話へ  次の話へ 
(c) 2010, CGI Script by Karakara