あしかのらいぶらりぃ
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執筆者: ディン/投稿日時: 2026/02/04(水) 00:04:01
投稿者コメント:
最終章に入った事でモチベーションも上がってきました。筆の走りが早い早い。

このペースがいつまで続くか。 年内完結を目標にしているので頑張ります。

2/4 加筆修正
第五十二話 ごめんね。
 暗い、狭い、痛い。
混濁する意識の中で、チャオは意識を保とうと必死にもがく。
えもいえぬ不快感の正体、彼女は長年の冒険の経験と記憶を必死に辿って解決策を探っていた。
密林の汚泥の沼に足を奪われた時の感覚? ……いや違う。 靴と衣類の隙間から地肌に直接汚泥が流れ込んでくる不快感ではない。
一人先走った結果、凶悪な相手に囚われて身動きを封じられた時の不自由感? ……それも違う。 手首が、両腿が縄で密着された時の擦る様な痛みは感じられない。
ではこの感覚はいったい何なのか。 真っ暗な闇の中で、彼女の聴覚は馴染みある声を捉えた。
「チャオ、チャオ!!」

声の主人は、友人。 チャオは思い出した。 今日はピンク達と自分の信頼できる仲間だけで『四つの穴』の一つを探検する約束だった。
必死に掘り出した記憶の中で、チャオは彼女自身も想像がつかない結論を導き出してしまう。
「チャオ、一体どうしたんだこれは……どうして君の仲間が倒れている?!」
ピンクが不安げな顔で問いかける。 その質問に答えようと口を動かす前に、チャオの意識が別方向に仕向けられていた。

そうだ、私はーー

「チャオちゃん、怖い怪物にでも会ったのかい?! 大丈夫、雪の王子様の僕が来たからには安心してーー」
能天気でお気楽なスノウの声。 チャオも仕事で会う度に彼の言葉に絆されていたあの声色が、今は気にならない。

『七彩の宝玉』を……。

「待て、何かおかしいぞ」
レッドが拭えぬ違和感を口走った途端に、『しろくろマスク』で顔面を覆われて表情を見られないチャオは、突然ナイフを取り出してピンク達に襲いかかった!!
その時には、チャオの意識はどっぷり闇に浸かっていた。 目の前にいる友人達を完全に忘れてしまっている事すら、彼女は気づかない。 ただ一つの目的に猪突猛進する、彼女は『七彩の宝玉』をーー。



滅ぼさなくてはいけない!!





   第五十二話 ごめんね。



「チャオ!?」
目の前の友人が、突然ナイフを構えて目の前に飛び込んできたら、誰だって怯むのは同じだ。 ピンクは鬼気迫る彼女の異変に動じずにはいられなかった。
後ろ飛びでピンクらはチャオと距離を取るとあらためて目の前の光景を確認する。
「あ、赤君……夢、じゃないよね?」
「なんならテメーの頬をつねったらどうだ?」
スノウとレッドも平然といつも通りの会話のキャッチボールをしてみるが、それでも目の前の異変が変わらない。 悪趣味な仮面を被ったチャオは、言語化できない様な叫び声をあげながら一直線にピンクに向かって走り出す。
「ど、どうしたんだチャオ!! 君の仲間はどこに行ったの!?」
ピンクはどこからか緑の帽子と剣を取り出し、彼女のナイフと衝突する。 火花を散らしながらもピンクはチャオを傷つけないためにと距離を取るが、チャオは以前攻撃の手を緩める様子はない。
「チャオちゃん、待ってよ!! 桃君だよ、気づいてよ」
チャオはピンクに集中している。 いつの間にか爪弾きのスノウ達は彼女の正気を取り戻さんと必死に声をかけている。
「『幽遊の鬼ヶ島』の罠か……? チャオの合図で、奴らが戦争を仕掛けて」
「シトラス、チャオはそんな卑怯者じゃない!!」
ピンクは必死に剣戟を避けながらシトラスに大声を張る。 しかししばらくするとチャオが呼びかけていた『幽遊の鬼ヶ島』のメンバー達が彼女と全く同じ仮面姿でこちらへ歩いているではないか。 物騒な武器をスノウやレッド達に向けて!!
「野郎ども、戦闘だ!! 手ぇ抜いたらこっちが殺されッぞ!!」
シトラスの啖呵と同時に『七彩の宝玉』の面々も声を張り上げて舞台のど真ん中へ走り出した。


 ピンクとチャオの交戦を皮切りに、二つのギルドの衝突の開戦は『巨塔』の地下の大広間。
そしてそこの鼠返しの様な絶壁を少し登ったら、その様子を覗ける程度のスペースの崖がある、そこにモウタクサンとキョンシィの二人はほくそ笑んで高みの見物を決めていた。
「タクサン様、作戦成功ですね」
「流石伝説の財宝『しろくろマスク』、こうも簡単に友人同士の仲違いを実現できるとは」
ピンク達はチャオらを宥める為に、他の事に意識を向ける余裕はない。 一方タクサンらはほぼ安全地帯で『二大ギルド』の戦争を見守ることができた。
「この地下深くであれば、『国際ギルド連盟』の仲裁が来ることもない。 誰にも気づかれない内に『七彩の宝玉』を完全崩壊させるのも時間の問題だ」
彼らの作戦は完璧だった。 ピンクらに友好的なチャオらを利用すれば、彼らの懐も大して傷まないしこの地上から隔離された環境であれば、地上の警察や憲兵に連絡も時間がかかる。
「さあタクサン様、チャオらが奴らを抑えている間に『さざなみのふえ』と『トライフォース』を」
彼らの目的もこの地下のお宝だった。 二つのギルドの友人間の戦争はそのついででしか無い。 だがキョウシィの誘いを無視してタクサンは地上の戦闘にかぶりついている。
「まあ待て、宝は逃げない。 奴らの最期を特等席で見届けようでは無いか」
もうその様子は展示されているオモチャに執心する子供のようだ。 キョウシィはそんなタクサンを見て呆れるようにため息を吐く……が、そんな態度を嗜めず、タクサンはニヤケ顔を見せてキョウシィに問いかけた。
「世間から言われてるんだ。 『七彩の宝玉』と『幽遊の鬼ヶ島』…戦ったら強いのはどっちだと……世界最強のギルドは一つだけで十分、その答えが今日出るのだぞ!!」
「まあ、それは私も興味があります」
キョウシィは完全に根負けしたとタクサンの横に腰を下ろして真下の『最強決定戦』を眺める事にした。 二人は白い歯を見せて、薄ら笑いを浮かべている。



 ピンク達はチャオから手負いを受けるのを覚悟の上で背を向けて逃げるか、消耗前提で戦うしか残されていなかった。 前者であれば『最強のギルドが尻尾巻いて逃げた』と彼らの名声に傷をつけられる。 友人も見捨てたオマケ付きだし、後者であればチャオらとの戦闘で消耗した彼らを討ち取るのは容易いとの目論みだ。
「ただ、あのマスクは戦闘力を強化する呪いは無いからな。 流石に時間が経てば我らの手駒も削れていくか」
その通りだった。 少しずつだが『幽遊の鬼ヶ島』のメンバーはスノウらに一人また一人と沈められる。 再び立ち上がって来れない様に、スノウ達は氷で彼らの動きを封じたり、縄でがんじがらめに封じ込める。
「アレが、奴らの『複製』の能力か」
「ええ、物質を摂取する事で他の生命体の特技を限りなく再現可能との事」
キョウシィは双眼鏡を構えながら、『宝玉』の複製の能力をつぶさに確認する。 操っているメンバーの武器を吸い込んだら、そのティンクルは頭に鉢巻きをして大きな木槌を構えた戦闘狂に変身した。
「あんな特異な力を持つ者が集まれば、それは多種多様な仕事を楽に請け負えよう。 だが、それも今日までだ」
ほくそ笑んだタクサンは崖から少し身を乗り出してもっと舞台を見ようと欲を見せる。 殺気とも、この場の支配欲とも形容できるその笑みを地上に向けた途端、戦闘に参加していた『宝玉』のメンバー達は一斉に顔を天井へ仕向けた。
「上だ!! 何かいるぞ、コバルト」
「任せてください!! 複製、メタルファイター!!」
真っ青な体とオレンジの足をしたティンクルは、全身を鋼鉄に変身すると崖に向かって拳を一気に振り下ろす。 放射線状に亀裂が広がると崖は安定感を失い一気に崩れ落ちる。
「な、何だと!?」
タクサンとキョウシィは突然自分達に攻撃が向けられた事で対応ができずにそのまま真っ逆様に落ちていく。 崖下には、『幽遊の鬼ヶ島』の洗脳したメンバーを縄で縛って行動不能にした『宝玉』達が次の獲物をと待ち構えている。
「アイツは、チャオ達のボスだ」
グレープは『黒幕』の姿を捉えた。 もはや万事休すか、引力に逆らえず地上へ真っ逆様のタクサンは懐から拳銃を取り出した。
「オノレ、せめてもの抵抗だ。 貴様らのボスはこの手で……地獄に連れてってやる!!」
タクサンの目標は、背を向けてチャオと剣戟を交わしているピンク。 そのタイミングの少し前にピンクはソードでチャオのクナイを弾いて彼女の救出のタイミングを伺っていた。
「チャオ、正気に戻るんだ!!」
「アァ!! オアァ!!」
もはや言動も酷い有様。 チャオは後ろ飛びで逃げ回るピンクの後を追うようにどんどん詰めて走っている。 それが幸いしたのかピンクが振り下ろした剣はチャオの顔を覆う『マスク』の正面に裂け目を入れた。

「ご、ごめんチャオ!! 怪我してない!?」
友人の、それも女性の顔に傷をつけるとなると大変だ。 ピンクは思わず謝罪をするが、それが幸いにとチャオの仮面の亀裂の隙間から彼女の視界を開けた。
「ピンク、マスクを壊せばチャオは元に戻るかもしれねえ」
レッドのアドバイスにピンクはハッとなる。 亀裂から彼女の地肌が見えている。 その奥の瞳はいつもの綺麗な彼女の瞳が戻りつつある。
「チャオ、ごめんね。 少し辛抱して」
そう言ってピンクはソードの面を仮面に向けて思い切り小突くと、仮面は真っ二つに裂けてチャオの綺麗な顔がピンク達の眼前に広がった。

「……やった!!」
スノウがそう叫んだ途端に、正気を取り戻したばかりのチャオはピンクの肩を掴んで地面に彼を叩きつけた。 背中から打ち付けられる痛み、仰向けの姿勢で馬乗りにされるような体勢で、ピンクは思わず声を詰まらせるとーー。

「チャ、オ……」
目の前で、チャオの胸元に黄金の銃弾がまっすぐ貫いた。ピンクの背後の地面に銃弾がめり込むと同時に、ずっと奥の地面に二つの鈍い落下音が耳を支配する。
「お、おぉ……キョウシィ、私を……運べ」
高所から身体を受け身も取らず打ち付ければ、全身打撲は免れない。 最悪死を覚悟せねばならない、事実キョウシィはタクサンの呼びかけに全く反応はしない。 身動き一つせずの右腕に、タクサンは頭から血を流してもがく。
「畜生、役立たずめ……だが、あの桃球さえ殺せば」
「もう終わりだよ。 お前も」
シトラスがタクサンの目の前に立ちはだかり、剣を構えている。 逃げ道を奪うように四方に『宝玉』のメンバーが立ち塞がり、タクサンをゴミのように見下した。
「お、おのれ……貴様ら、私は世界一のギルドのマスターだぞ、頭が高い……」
何か武器を取って反撃するつもりだろうか、タクサンは懐に腕を突っ込み、引き出したがそこから出てきたのは黄金の枠組みで形どられた鏡、『しんじつのかがみ』だ。 当然、武器が出ようがシトラス達は彼を赦しも逃しもしない。

「臭いセリフは、閻魔大王にでも吐いときなよ」
スノウの言葉を最後に、シトラスの剣はタクサンの身体を慈悲もなく貫いた。


「チャオ!! そんな、僕を庇ったばかりに」
ピンクは顔面蒼白で血まみれのチャオを抱きしめる。 彼の耳元にはチャオの今にも消えそうな呼吸が届いている。
「急げ!! ありったけの薬と包帯だ!!」
レッドも緊急事態を察して周りの仲間に発破をかける。 ドクターの能力をコピーした真っ白なカービィ、ホワイトが十字のマークを描いたカバンを抱えて駆け寄っていく。
「出血が激しい。 僕らだけじゃなくて側に倒れている『幽遊の鬼ヶ島』の連中からも同じ型の血液が欲しい」
「分かった、もう洗脳は解けてるだろうから、お願いしてみるよ」
スノウはそう言って血液をかき集めんとばかりに合図を送ると、『宝玉』の皆は走り出した。 ピンクは狼狽え、チャオを抱えながら声をかけ続ける。
「助かるよね!?」
「分からない、まずは血を止めないと……マキシムトマトの『全回復』も万能じゃないからね」
ホワイトは輸血パックをチャオに繋げて腹部の縫合を開始する。 ピンクに「手を繋いで、声をかけて」と指示をするとピンクは言われた通りにチャオのそばにずっと声をかけ続ける。
「チャオ!! 絶対助けるからね!! スノウやレッドが血を探しているから」
その時、チャオの手がしっかりピンクの手を握りしめる。 虚な瞳は開かれて、紫に変色した唇を震わせて視線はピンクにしっかり定まっていた。
「ああ!! チャオ、良かった気づいたんだね」
「……ピンク……よかっ」
血みどろな手をしっかり掴んで、ピンクとチャオは見つめ合う。 ピンクは、いつもチャオと会話していたときのような優しい顔で優しくささやいた。
「ごめんね!! もう少し待っててね、今スノウ達が、血を……」
ぬめりと、チャオの手がピンクの手を力無く抜けて落ちていく。
震えていた唇は、静かにその動きを止めて……チャオはまるで眠るように重い瞼を下ろした。
「……ま、待て!! チャオ、いくな!! 約束しただろ、今日は一緒にここで冒険をするはずだっただろ!! 起きろ、起きてよ!!」
必死に声をかけていたピンクは、背後の喧騒に気をとられる。 戻ってきていたスノウ達が何か言い合っている様だった。

「……だから、この映像は偽物だろ!? だってアイツらが『幽遊の鬼ヶ島』と一緒にいる理由がない」
「でもコイツは『しんじつのかがみ』だろ!? 嘘を吐けないお宝なんだぞ」
「赤君、みど君!! 落ち着いてよ、チャオちゃん最優先だろ!?」
彼らはタクサン達が持っていたお宝『しんじつのかがみ』を取りあって騒いでいる。 半狂乱で秩序が取れない空間の中で、ピンクはフラフラと立ち上がると、レッド達が手にしていたかがみを取り上げる。
「ばっ……ピンク、見ちゃダメだ」
レッドが思わず声を張り上げるも、ピンクはしっかりとそれを目にしてしまった。 『しんじつのかがみ』の中に映る映像は、すべてこの世界のこの過去で起きた真実。 受け止めようが、拒絶しようが疑いのない真実のみが映る鏡。

ーーそこに映っていたのは、チャオがタクサンに突きつけられていた映像。 オレンジ色のティンクルが『幽遊の鬼ヶ島』のメンバーと会話を交わしている様子だった。
「も、桃君!! あのマスターの罠だよ、僕達を動揺させる為に、似た感じのティンクルに一芝居打ってもらっただけさ」
「お、おう!! スノウの言う通りだ!! オレンジの奴はサファイアの世話で忙しいんだぜ、ラベンダーの奴を放ったらかしで、海の向こうのリポジトリムリズムにいるなんて……いる……なんて」
レッドの声が自信を失い弱々しくなる。 ピンクが映像を見ていた中で、オレンジに似た男の腕に刻まれた、虹色のポップスターのマークは彼らに現実を突きつける。
「これは、僕らのギルドの、マークだ」
目線を下ろして、ピンクは静かに呟いた。 今この場にいない仲間ーーいや、『裏切り者』の存在を知った彼らに、取れる行動は容易かった。
ピンクの目は、遥か遠くを見据えるように座っていた。




「……あの時の僕らは無神経で愚かでした。 息子を守る為の行動が、ピンクの努力を踏み躙ってしまった。 裏切り者として追われても文句は言えません」
時は現在に進む。 シティトライアル島で、ケケ達に全てを語っているのはサファイアの身体の中に存在すると自称するオレンジとラベンダーの二人だ。
その話を、会場に降りている『七彩の暴食』そして、応援に来ていた『鏡の大迷宮』のシミラ達……全員が黙って聞き入っていた。

「ピンク達はすぐに犯人を僕らと断定しました。 『しんじつのかがみ』に映っていた姿は、紛れもない僕だったので弁明の余地がなかった……ラベンダーと幼いサファイア諸共処刑する気で僕らは追われることになります」
「追われるって……三人とも殺すつもりで?!」
ピッチの言葉にサファイアは首を縦に振る。 中にいる親の発言に、ケケ達は衝撃のあまり声を出せない。
「命からがら逃げた私達は、直前に仕事で来ていたププビレッジ近郊に身を隠す事を決めました。 しかし追っ手はすぐそこまで来ていました、勿論私達親子三人を殺すため」



「いたぞ、崖の上にいる!!」
ププビレッジ近郊のある山間部。 サファイアを抱いたラベンダーを先頭に、オレンジは追っ手を気にしながら走り抜ける。
もう既に複製の力を使う体力は二人とも残されていなかった。 林の中で見る影全てがかつての仲間、オレンジらを狙う『七彩の宝玉』!!
「オレンジ……私、もう」
ラベンダーの体力が限界に近づいていた。 彼女の腕の中で眠るサファイアも、少しやつれている様に見える。 彼らは数日間逃げ隠れを繰り返し、限界に近づいていた。
「ここまでか……何か、何か打開する道具は……」
オレンジは逃走生活の中でかき集めた道具や財宝を引っ掻き回す。 インディウィップのような、魔法の様な力を持つ『四つの穴』の宝にすがる思いだ。
「いたぞ!! サファイアも一緒だ!!」
「クソっ!! もう一か八かだ!!」
オレンジが取り出したのは、十字架のアクセサリー『アミュレット』。 オレンジとラベンダーの二人は、それを二人で掴んでサファイアの胸に突き立てた。 するとそこから眩い光が放たれると、追っ手の『七彩の宝玉』のメンバーは怯んで立ち止まる。
「……き、消えた!? そんな、三人ともいない」
辺りを見渡し探し回るティンクルの集団、彼らは崖下に三人が飛び降りたのだとばかりに崖を覗いたが、姿形も見えない。 そんな背後に……彼らより少し小柄になった群青のティンクルが一人、抜き足でその場を離れていく。

「そいつが、夜中に村に来たサファイアじゃったという事か」
モソが納得したかの様にサファイアとの出会いの夜を思い出す。 オレンジ達は息子の体を借りたまま「はい」と短く答えた。
「しかし、この魔法はメリットもデメリットも大きかった。 本来なら今は十歳ほどのサファイアに僕とラベンダー二人分の年齢も加算されることになります。 見た目は十代の男の子が……そうですね、僕らの年齢もプラスすると、八十歳以上の計算になるはずです」

「あっ!! だからあの術式がサファイアさんに効いたんだ」
ネスパーが思わず声を上げた。 この大会でも、虹の島でもサファイアが喰らった術式は『七十歳以上の者がダメージを受ける』術式だ。
「そして、サファイアの中には私達の魂が入っているので……洗脳の類いも効きません。 一人分の支配をしたら、私やオレンジの意識がすぐに妨害できます」
その話を聞いて、何かを思い出したのはシミラだ。 彼女も、ププビレッジでひと騒動を起こした時にサファイアに洗脳を試みた一人だった。
「た、確かに……あの魔法でサファイアを乗っ取ったと思ったのにすぐに彼の精神が戻ってきたわ……あれは、彼のご両親のおかげだったのね」
「ええ……キッタリハッタリとサファイアの件は精神世界で見ていました。 シミラさん、あの時は息子がご迷惑を……」
「うぇえ!? ち、違いますあれは私の一方的な逆恨み……サファイアは悪くないですって!!」
シミラが慌てふためいて頭を下げているとマルクが足踏みで大きな音を立てて場を収める。 まだ話の途中、そう言いたげな表情だ。
「……話を続けるのサ」

「チャオの犠牲と僕らの失態は、『願い星』の捜索をしていた彼らに覚悟を与えるに十分なものでした」
「覚悟って言うと……『人類の選抜』ってヤツかい?」
ブレイドが問うたその言葉。 サファイア、いや精神に残る二人の親は彼女の言葉を首を縦に振る事で肯定する。
「ブレイドさん、一体どうして!?」
「アドレーヌがうちに強襲してきた時の事さね。 あの子の固執っぷりは、世界征服だけで満足できるものじゃなかった……何より、ウチの『パーツ提供者』さんが何より分かるんじゃないかい?」
「おやおや、私は蚊帳の外だと思っていたのですけどねえ……」
ハルトマンだ、彼は大会が終わってもモソの責任でこの場に残っていた。 『七彩の暴食』の協力者としている現在は、彼もこの話を聞く義理があると自主的に残っていたのだ。


「『人類の選抜』の方法は、人道的ではないと言うある理由で、僕らのギルドでは代々禁じてきました。 そんな事をしなくても、話し合いや法律によって近づけたら良いので」
「ある理由って……なんなのサ?」
マルクの当然の問いかけ。 精神体のサファイアはマルクの質問を待っていたかの様に話を続ける。

「『人類の選抜』とは、『願い星』の力によって種族に拘らずピンク達が許した気の合う友人達で作る世界。 彼らにとって都合の悪い人はこの世から消し去り、誰もが平等に暮らせる世界。 そこには差別も争いも、殺し合いもない。 だって最強の兵器『願い星』があれば誰も逆らえないから」

言えば、ピンク達を頂点にした独裁世界だ。 それが実現さえすれば確かに見かけは世界平和の実現になる。
「……そのつもりが私達になかったとはいえ、結果論として気の合う親友を殺されたピンク達にとって、その覚悟へ舵を切るのは十分な理由でしょう」
「そして私達が息子同然として育てていたサファイア。 ピンクが愛していた親友が死んだのに、私達が愛情を注ぎ込んで育てたこの子が生きている。 ピンクには到底許し難い事なんでしょうね」
「そ、そんな……」
ケケは完全に身がすくんでいた。 スノウも、レッドも、サファイアの事を心の底ではそう言う風に見ていたのかもしれないと考えると恐ろしい。
「そして、我々のギルドの長年の調査の結果、ノヴァの起動方法まで突き止めました。 ここが、彼らがこの身体を、サファイアを求める最大の理由です」
ここまで話を聞けば、誰もが理由の答えを聞くまでもない。 ケケは考えたない最悪の答えを必死に頭を振って脳内からかき消す。 何故なら、それが本当なら『七彩の宝玉』はサファイアを、彼女の命の恩人を……。
 
「一人の命と引き換えに、ありとあらゆる願いを叶える機械仕掛けの大彗星。 ノヴァの伝説を書いた古い書物にはそう記されています。 ピンクは私達の息子をそれを起動させる生け贄にするために、新たに名前を与えてこう呼んでいました。 サファイア・デラム(DERAM)、改めーー」




 スノウやレッドが、ドラグーンやハイドラ、そしてサファイアの精神を奪いシティトライアル島から離脱していると連絡を受けて、とある場所で一人のティンクルの男は窓から外を見下ろしていた。
計画はすべて順調だ。 彼には金も、力も、そして器も手元に届きつつある。
生け贄の本体こそ強奪の妨害を受けた。 スノウ達からそう連絡を受けたが彼の計画に支障はない。

何故なら、サファイアの精神に潜っているもう一つの存在。 彼らがこれほどまで愛していた息子の危機を、指咥えて黙って見ているわけがないからだ。
「オレンジ、ラベンダー……君達はここにやってくるはずだ。 サファイアが誰よりも大事なんだからね、僕の愛する人よりも」
嫉妬か、憎悪か。 その言葉の裏は穏やかな表情から読み取れない。 ただしかし彼が見下ろす窓の外には、信じられないほど巨大な生命体が深い眠りについている。

猫の様な瞳と口元。 丸い顔の周りにはコンパス、鍵盤、風見鶏、懐中時計に……レッドとアドレーヌがケケの故郷で強奪した望遠鏡が付着している。
これこそが、あらゆる書物や昔話で登場すると言うギャラクティックノヴァそのものだ。 ティンクルの体躯は、ノヴァからすれば小動物未満であろう。 それを我が物顔の様に見上げる男は、全てを勝ち誇ったように今は亡き親友の名を呟いていた。
「チャオ、待っていてね……約束の世界が出来るまでもう少しだ」
窓ガラスに映える姿は、サファイアやスノウらと瓜二つ。 桃色の一頭身はまるでこの世の全てを諦めたような虚な瞳で、口角をあげていた。 彼こそが、『七彩の宝玉』のリーダー、全ての始まりの男。

「長い家出だったね。 親子揃って……ようやく帰ってきてくれるんだね。 早く会いたいよサファイア・デラム……いや」




「Star Dream(星の夢)」
ピンクは、サファイアの帰還を今かと待ち構える様に不敵に笑った。

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