あしかのらいぶらりぃ
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執筆者: ディン/投稿日時: 2026/01/20(火) 05:20:42
投稿者コメント:
 コレはいわゆる間章。 ケケが『七彩の暴食』にきて間もない頃のお話です。
ここ最近シリーズ編が多かったので、こう言うのをなかなか書けませんでした。 久しぶりに一話完結モノをやったけど楽しいですね。
第五十話 俺たちゃワニャワニャ団
 ギルド。 それは『四つの穴』が世界に現れ、一人の青年が莫大な財宝を持ち帰った事から、一攫千金を夢見る者達が手を取り合う為に立ち上げた私兵組織である。
そして元々は個人戦の様にお宝の取り合いをしていた者が、次第に利害関係の一致から手を組み合ったり、隣同士の街の競争の為にギルドを設立したり……争いは個人から街の名誉の為にと巨大化していく。 それは最悪文字通りの『殺し合い』も存在した。

そしてその問題を案じて世界中の国が話し合って、お金を出して作られたのが、国際ギルド連盟。 ギルド同士が喧嘩しない為に彼らは宝の取り合いから大会まで、一定の紳士協定を結んだのだ。
警察や政府がお金を出し合って作った組織とあって、ポップスター中のギルドは大人しくなった。 今でも一定の問題を起こすギルドは居るものの、世界はある程度の平穏を見せた。


「と、ここまでがギルドのルールだよ。 分かったかい子ども達」
村を見下ろせる丘の上。 かつて王様が住んでいたお城の残骸であるレンガ壁を背に、ブレイドと子ども達は円を作って座っている。
ププビレッジには青空教室とばかりに、子ども達にギルドの歴史を教える授業がある。 これは学校ではなく、まだ小さいけどいつかギルドに入りたいと希望する子どもに早いうちから冒険の手引きを教えておくと言うものだ。
『七彩の暴食』ブレイドナイトは、長い間その教師役を務めている。 今日もププビレッジの子どもにルールを教えた後に、腰を上げると丘の上から見下ろせる村に目を細めて眺めているとある違和感に気づいた。
「なんだか……皆慌ただしいね。 祭りかい?」
ブレイドの予感は当たっていた。 その日、平穏なププビレッジは朝から村人達の叫び声がこだましていた。

「ぬわあああ!! 昨日仕込んでたコーヒー豆が小豆になってるぅ」
「ぎゃあああ!! 商売道具の水晶玉が氷に!!」
「抽選で当たったSwitch2がゲームギアになって届いたァ!!」
これは、ケケが『七彩の暴食』に入って少し経った頃のとある記録である。



   第五十話 俺たちゃワニャワニャ団


 ププビレッジ 七彩の暴食
「よぉーし、今日も一日頑張って絶対ギルドの役に立つぞ」
お天道様も高くなってきた朝、黒装束に猫耳をした一人の少女は、緊張で高鳴る胸を抑えて呼吸を整えギルドの前に立っていた。
彼女の名前はケケ・キージ。 元々『七彩の宝玉』に憧れそこに入るのを夢見ていた彼女はある事件を機に、『七彩の暴食』の新米魔導士になった。
入って数日、ほぼギルドの面々とは初顔合わせは済ませていた。 このギルドに女っ気がなかった為、ギルドの皆はケケを物珍しそうに見ていたがそんなに悪い人達ではなさそうだ。 とケケは安心している。
「大体サファイアとピッチが私を連れてきてくれたから、いざとなれば守ってくれるよね」
「えっ僕達ケケの保護者係なの?」
入り口に前に突っ立っているケケの後ろに群青の一頭身と緑の羽毛を持つ小鳥がいた。 二人こそがサファイアとピッチ。 ケケを人攫いから救い、このギルドに案内した『七彩の暴食』の魔導士である。

「言っとくけど、護衛するなら依頼出せよ。 報酬は五万デデンからな」
「……こんな可愛い女の子と同じ空間にいられるのが報酬でどう?」
「……ふっ」
鼻で笑ってからサファイアはしかめっ面のケケを無視してカウンターに座ると、その奥にいた者に注文をする。
「ブレイド、酒ー」
「朝からやめなって。 仕事前なんだから、麦茶で我慢しな」
カウンターの奥にいるブレイドがたしなめながら冷蔵庫を開いた。 腰を下ろして中にある飲料に手を伸ばした途端、ある違和感に気づいた。
「……あれ? 妙だね、確かに昨日の夜仕込んだはずなのに」
「おーっすブレイド。 朝上がりで仕事終わったのサ!! チェリーパイおくれ」
冷蔵庫の中を弄っているブレイドの背後から、マルクの声が聞こえてくる。 風呂敷の中に大量の荷物を抱えた彼は、テーブルの上にそれをドンと乗せると足をテーブルに乗せてブレイドに注文をする。
「おはようございますマルクさん!! 態度悪いですよそれ」
「固いこと言いなさんなケケ。 ボクも夜勤明けだから許してちょーよ」
楊枝をくわえながらマルクは鼻歌混じりで答える。 しかしブレイドの動きに変化はない。 やがてそれはギルドにいる皆が不安を感じていく。
「どうしたブレイドちゃん、仕込み忘れか?」
「んな事ないよ!! 昨日仕込んだばっかなのに……」
ギルドの中が慌ただしくなる中、ケケは窓の外をなんとなく眺めていた。 外にもキャピィ族の皆が不安な顔をして話し合っているではないか。

「なんとかしてくれよ署長!! 商売あがったりだよ」
「きっとまたドロンのやつの仕業よ!! 捕まえてちょうだい!!」
「昨日の夜は確かにあったんだ」
交番の前は人集りであふれている。 一人対応している村唯一の警察官ボルンは、困り顔だ。
「落ち着いてくださいみなさん。 調書はしっかり取りますので」
村の道を塞ぐほどのパニック状態に、サファイア達も最後尾で見守る。 やがてサファイアに気づいたキャピィ族の一人が不安そうに声をかける。
「大丈夫かサファイア。 お前も何か盗まれたのか?」
「いや、そうじゃないけど……盗まれたってここにいる全員か?」
「そうだよ、たった一晩で一気に何人もだ」

交番の中はごった返しだ。 一人ずつ調書を取るといってもまずは自分とばかりに統制が取れない。
「まずはその牢屋にいるドロンの身体検査をしろ!!」
「そうよ、昨日こっそり脱獄して何食わぬ顔で戻ってきたに違いないわ!!」
メーベルのメチャクチャな理論も、盗まれたものが大切だからこそ。 市民を公平に取り扱いたいボルンは、彼らを宥めながら話を続ける。
「ドロンはやってませんよ。 一昨日ギルドの寮の窓から出る所を捕まえて今日までワシとずっとここにいるので」
ボルンは今日まで交番にずっと当直だと主張する。 確かにそれが正しければ、ドロンは彼の目を掻い潜って、また戻る事など出来ないに違いない。
「そう。 ギルドの新入りの部屋のセキュリティ確認の為に、衣服を拝借した」
牢の中で堂々とポケットから衣類を取り出したドロンは誇った表情で叫ぶ。 衆目が集まる中で最後尾いたケケは顔を真っ赤にしながら、人混みをかき分けて檻の前まで歩いていくと、ボルンから警棒を奪い取り、ドロンの頭を思い切り殴った。

「死ねこの変態クソハニワー!!」
「ケケ殿、落ち着いて!! 殺しは流石にまずい!!」
降板の中も外もてんやわんや、罵声が飛び交う中で、キャピィ族の人混みの中に見慣れない影があるのをサファイアは見逃さなかった。 ボルンはケケを宥めるのに夢中で気づいていない。
「見つけたぞ不審者め!!」
足元から冷気が地面を這う。 ヒヤリと冷たい空気が足元に走ったのを感じたキャピィ族は皆その通り道を開けて距離を取る。 するとサファイアの出した冷気の先にはオレンジ色の体色をした一人のティンクルの後ろ姿と左手には銀に輝く手錠が!!
「ぎゃふぅ!! つめてぇッス!!」
サファイアの冷気が彼の足元に直撃すると、彼は情けない叫び声をあげて飛び跳ねる。 そのまま地面に顔から突っ伏して倒れると、村の皆は黙ったまま彼を見守っていた。
「……ってめーら!! 見せもんじゃねえッスよ!! オイラは泣く子も笑うワニャワニャ団のワド太郎ッスよ!!」
ワド太郎、と名乗ったバンダナを巻いた男は手錠を振り回しながら威嚇している。 村人達もその様子を見守る中、マルクが彼の目の前にやってきて顔をのぞく。
「んー?? お前どっかで見た事あるのサ」
「マルクさん、お知り合いですか」
ケケはドロンへの仕置きを一仕事終えた所へ、マルクの元へやってくる。 サファイア、ピッチも二人に着いてきてワド太郎を取り囲む形だ。
「ああ? こんなチンケな田舎の住民なんてオイラはしら……」
鼻で笑いながらふんぞりかえるワド太郎は、思わずマルク達の顔色を凝視する。 その瞬間に、ワド太郎は脳内の記憶を必死にフル回転させてある日の事を思い出す。
(こ、この二股帽子の男……)
ワド太郎にとっては苦い記憶、それはほんの数日前とある森の中で綺麗な石を荷台に積んで運んでいた時、燃える不死鳥を従えたマルクが追いかけてきたある記憶。
––「フェニクロウ、やっちまうのサ!!」

そう、彼はケケ達がマルクを初めて勧誘していた時、マルクが追いかけていた石を運んでいたワドルディの大軍の一員だったのだ。(二話参照)
マルクにボロボロにやられていた時、サファイア達が彼と仲良さそうに会話していたのも覚えている。 ワド太郎は瞬時にこの状況を自身に不利だと自覚した。
(……長年の勘が冴えてるッス。 ここで暴れると、ヤラれる!!)
「コイツが署長の手錠を持ってるって事は、村のものが無くなっていったのもコイツの仕業じゃない?」
ピッチの推理は当たらずとも遠からず。 もはや言い訳も立たない現行犯だが、ワド太郎は上の空で適当に言葉を紡ぐ。
「い、イヤーこれは道に落ちてたのを拾っただけッスけど? 盗んだなんて人聞きの悪い」
「落とし物拾ったら交番に届けなきゃダメですよ」
ケケのツッコミも最もだ。 収まりが悪いワド太郎は、彼なりに愛らしくウインクをしてみる。
「愛くるしいオイラに免じて、許してッス」
「ボルン、殺さないギリギリで殴れば暴行罪で済むかな」
「ギリギリになれば殺人未遂ですよサファイア殿」
「見る限りコイツティンクルじゃなくて猿だから器物損壊罪で済むよサファイア」
ピッチのあんまりな言葉に、ワド太郎は背筋が凍ったと言う。



 そしてププビレッジから出て雑木林の一本道。 サファイアとピッチはエアライドマシンに乗って、マルクはケケを担いで道を進んでいる。 彼らを先導するように、ワド太郎は『七彩の暴食』から借りたライトスターに乗って、盗品を隠していると言う彼の住む村に向かっている。
(ヤバい、ヤバいッスよコイツら……オイラに村を案内させてから、村を滅茶苦茶にするかもしれない)
ワド太郎の心配事はサファイア達に自身の村を侵略される事。 ワド太郎自身、身から出た錆とはいえマルクに一度ボロカスにされている経験があるので警戒するのはもっともだ。
(いざとなれば、トイレ休憩とか適当な嘘でコイツらを撒いて)
「逃げようとしても、空からお前をボコボコにするのサ」
前言撤回。 二度ならず三度もやられるのはゴメンだとワド太郎は苦虫を噛む様な顔をする。
「……あー兄貴達お腹空いてません? オイラが何か一品作りますよ」
「さっきブレイドの飯食ってきたからいらねーや」
高楊枝とマシンに乗りながら笑っているサファイアとピッチの憎たらしさときたら。 ワド太郎は今はどう転ぼうと敵わないと諦めて、おとなしく道を先導する。 雑木林が開けてくると、岩山を切り拓いたかの様な小さな村が見えてきた。
「あそこがオイラの村、ワドルディの村ッスよ」
「へー、大きさはププビレッジと同じぐらいですね」
ケケが率直すぎる感想を言うとサファイア達はワド太郎にバレない程度に鼻で笑う。 それもそのはず、ププビレッジを田舎と見下していた割には、大差ないと思ったのは三人も同調だ、流石に言葉にするのは憚られたが。 そしてワド太郎はププビレッジの村人に迷惑をかけてる手前、失礼を失礼と言い返す事が出来ない。
「……おーい、帰ったッスよ〜」
テンションダダ下がりで村の入り口を潜ったワド太郎を、村人は大手を振って歓迎する。 見る限り右も左もワドルディ族だらけ。 物珍しそうに見るサファイア達に、ワド太郎は悪態をつく。
「なに不思議がってるッスか。 アンタらの村だってキャピィ族ばっかのくせして」
「まぁ、ギルド関係者以外は確かにそうだな」
サファイアは相槌を打つ。 髪やひげ、服装があるとはいえ、それがなければボルンやキュリオ、メーベル達の見分けは尽きそうにない。
「おいワド太郎!!」
「げっ、ワド美さん」
バツの悪そうにワド太郎と相対するのは頭にリボンをつけたワドルディ。 彼がワド美と呼ぶあたり、女性なのだろうがリボンがなければワド太郎とどこが違うのか見分けがつかない。
「あんた今日はちゃんと景品になりそうなもの集めてきたんだろうねぇ!? あんただけだよ成績悪いの」
「ひぃぃ、帰っても肩身が狭いよぉ」
ワド美はワド太郎をなじりながら詰問していく。 見かねたケケは、助け舟とばかりに声をかける。
「あ、あの……景品って一体?」
「なんだ? 客人連れてきてるならそう言いなよ。 よく来たねえウチの村は冒険者への娯楽や休息の為に作られた村なのさ!!」
ワド美の言葉の通り、確かに村にはポツポツとワド美やワド太郎と瓜二つのワドルディ族と、別種のティンクルやヒトガタが見えている。 旅館に出入りする冒険者や、出店に集まっている子供連れもいる様子だ。
「ゆっくりしていきなよ」
「ああ、残念だけどボクらは観光目的じゃないのサ」
「そうそう、村で盗まれた荷物を返しにもらいに来たのさ」
ピッチがそう言うと朗らかだったワド美の顔は一気に険しくなる。 まるで面倒な輩に絡まれた。 とでも言いたげだ。
「チッ、客じゃなくてギルドのメンツかい……ワド太郎、面倒なの引き連れやがって」
「ひぃぃ……悪かったってワド美さん」
「まあいい、ならウチの仕事の邪魔をするなら返り討ちにして景品にしてやるさ!! おい」
ワド美の合図と同時にワドルディ族がサファイア達を取り囲む。 幾重にも囲まれる中、その内の二、三のワドルディがケケを羽交締めにした。
「きゃっ!! な、何!?」
「その女は人質だ、さあ女が景品にされたくなきゃ言う事を……」
「変なとこ触るなエッチ!!」
その一言でケケは背中から抱きついているワドルディを片手で持ち上げ放り投げた。 あまりにも呆気ない抵抗への無力と、『ぽてっ』と情けない弾む音を立てて倒れるワドルディを見て、サファイア達やワド美はただ呆然とするしかなかった。
「……あっ」


 ケケに敵わないという事は、サファイア達にも敵わない。 ワド美や村のワドルディ達は観念してサファイア達を村の来訪者として普通に案内をしていた。 先ほどまでの警戒心は皆解いている。
「景品ってのは、ウチの村の権力者が観光客相手にやってる商売の景品さ」
最近は物価もバカにならないから、外から色々仕入れてるのさとワド美は誇らしげに言うがサファイア達にはたまったものではない。
「でも泥棒は良くないんじゃないですか」
「何言ってんだい!! 四つの穴の冒険者も、誰のものか分からない宝をくすねてるんだ、 あたしらはそのバチを天に代わってくれてやってんのさ」
「いやその理屈はおかしい」
そんな会話を交わしながら、ワド美は村の中心部の広場で足を止める。 後ろについていきていたサファイア達も例によって止まるとそこは縁日の屋台の様な出店。 屋根の下に正方形の箱の中に、小さなボールと穴の空いた迷路が組み込まれた小さなゲームボードが並んでいる。
「うわっ!! 懐かしいー玉転がしのゲームだぁ」
ケケは目を輝かせてそれに手を伸ばすと、それを遮る一つの腕が伸びてくる。 そこには麦わら帽子を被ったワドルディが仁王立ちしている。
「お客さん困るね。 やるならまずはお金を払ってくれなきゃ、100デデン」
「ご、ごめんなさい」
「村長、今日も店番かい?」
ワド美のその言葉に、サファイア達はその出店の主人に目を集める。 ケケを嗜めたワドルディこそ、ワド美の言っていた権力者だ。
「なるほどねえ、見えてきたのサ」
「村人に泥棒させておいて、テメーでそれを景品にゲームを営んでたら、さぞ楽しいだろうよ」
「おやおや、言いがかりかな」
ほくそ笑む村長ワドルディの背後の荷物をピッチは見逃さない。 それは朝ププビレッジで話題になっていたのだから。
「あ!! 水晶玉に、コーヒー豆にゲーム機……どれもププビレッジの皆が無くしたって言ってた物だ!!」
もはや動かぬ証拠がそこにあるとばかり。 今ここで実力行使に出てもいいが、村長は鼻で笑ってシラを切った。
「さぁねえ? これはウチの優しい村人からの『提供品』だよぉ? 言いがかりはよしてくれ!! 欲しけりゃウチのゲームをやって、正々堂々獲得したらどうだい!?」
「コイツ……白々と!?」
マルクの顔面に血管が浮き出ている。 今にも激怒しそうな様子だが、サファイアは財布から100デデン一枚をテーブルに叩きつけ、ボードを持ち上げる。
「成功したら返してもらうぞ?」
「どうぞ、10個でも20個でも」
余裕綽々な村長の顔は見え透いた挑発。 サファイアは村長からボールを一つ受け取るとスタート地点にそれを置いてボードを傾け始める。
「見てろよ!! こんな子供騙し、一発クリア……」

 コットーン(穴に落ちる音)


「はいざんねーん」
村長は鼻を指で穿りながらサファイアの手からボードを取り上げる。 数秒持たずに失敗したサファイアは真っ青な顔がさらに青く染まっている。 その横でマルクが財布から硬貨を一枚叩きつけると、交換とばかりに村長からボードを受け取った。
「おバカサファイア、こんなの冷静にやったら簡単なのs……」

 カコーン(溝に落ちる音)

「ふぁーい!! また来てね〜」
ピッチ曰く『ネスパーも助走をつけて殴りたくなるレベル』の顔で村長は勝利宣言だ。 見た目以上に難しいこのゲームに、サファイアもマルクも見事に沼にハマってしまった。
「アレレ〜どうしたのかなぁ? 村の皆の大事な荷物取り返せないのでちゅか〜!!」
村長の挑発に、いつの間にか屋台に集まっていたワドルディのギャラリーは大笑い。 既に完全アウェーな状況で、サファイアとマルクは恥ずかしさのあまり顔が真っ赤だ。
「こ、このキングオブ雑魚が……」
「ブラックホールでまとめて葬ってやるのサ……」
もはや冷静さも正々堂々もどこへやら、ピッチが慌てて二人を押さえ込んでいる中で、もう一人の仲間を見渡して探す。
「ケケ!! ボク一人じゃサファイア達を抑えきれないよ、手伝って」
「あっできた!!」
ケケの楽しそうな声色に、ワドルディ達の嘲笑は止む。 確かにボードのゴール地点にはボールが転がっている。 ケケがあっさりとこのゲームをクリアしたのだ。
「えっ……えっ!?」
「村長さん、その水晶玉ください」
「あっはい」
村長は何が起きたのか事態を把握する前に、ケケに言われるがままにメーベルの水晶玉を手渡した。 持ち帰り用の手提げ袋に丁寧に入れて、ケケは財布の中を開けて小銭を確認する。
「ピッ君、100デデンどれぐらい残ってる?」
「ふぇっ!? えっえーっと、サファイアとマルクの財布の分も合わせて……四十枚ぐらいかな」
「そう、私の財布の小銭も合わせると、皆の大事なもの全部取り返してもお釣りが来るね」
「えっ? へっ?」
ケケに一枚の硬貨を掌に手渡される村長、ケケは再びボードを手に持つと爽やかな笑顔でゲームを開始した。
「大丈夫ですよ。 その後ろにある新作ゲームは盗んだ皆の大事な荷物を返してもらってから、頂きますので」
順番は大事ですから。 鼻歌混じりにゴールにボールをまた入れたケケの慣れた手つきに、村人中のワドルディ達は背筋が震え上がったと言う。


  第五十話 “化け物”


焦る様子も、思い通りにいかず苛立つ様子も見せずに淡々とクリアして、屋台に飾ってあった景品をドンドン取り上げていく。 ケケのその姿はまさに、化け物だと––。


「いやー、結構楽しかったね!! 皆の荷物も取り返せたし」
手提げカバンに景品を詰め込みながらケケは小刻みにステップを踏みながら、意気揚々にワープスターの元へ歩いて行く。 サファイアとマルクとピッチの三人は、そんなケケを羨望の眼差しで見つめていた。
「いやぁ、人は見かけに寄らねえな」
「今回ばかりはケケがいて助かったのサ」
「ガソリン代まで注ぎ込んでたら、帰れなかったもんね」
大きな荷物を抱える三人は、大手を振ってこちらを待っているケケを眺めて空を仰ぐ。 もう夕暮れ時だ。 今から帰ってもギルドは閉まっているだろう、サファイアは携帯で近くのファミレスを探していた。
「今日は奢ってやるか」
「幸いお札まで手をつけてないから余裕はあるネ」
マルクもピッチも、財布を覗いて残金を確認した。 彼らの心残りといえば、ケケが予算オーバーになる程食わないかどうかだった。



 そして––景品はもぬけのから、何もかもがケケにごっそり持って行かれたワドルディの村。
先程までサファイア達を嘲笑っていた空気はどこ吹く風か。
村人達もすっかり意気消沈で「これからどうしようか」と嘆いている様はまさに台風一過でも起きたかの様。
「とんでもねえ化け物を、村に入れちまったッス」
とは、ワド太郎の言葉だ。 だが彼を責めるものはいない、流石にここまで取り上げるのはあっぱれとも言うほどだから。

すっからかんの屋台の中で、村長は空を仰いでタバコを一服すると静かにぼやいた。
「……真面目に仕事受けるかぁ」

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