第4話 星集めるだけで1UPとかムカつくわ〜!
残機制。 カービィに限らずアクション系のゲームには既に欠かせないものである。
そして、これらはゲームクリアのために重要な要素である分、様々な救済手段が用意されている。
これさえあれば、どれだけゲームが苦手な人でも簡単にゲームオーバーにならずに繰り返してプレイする事で、やがてある程度のプレイができるようになる。
だが、この残機制で繰り返してプレイをするという事は、敵キャラも繰り返しそれに付き合わされるという事。
つまり何度もカービィにやられてしまう、彼らにとってはストレス以外の何者でもない。
「ああああ!私のヘソクリの1UPがあああ!」
「あんた何隠してたんでダスかあ!」
そして残機制という事はある程度の救済措置が設けられている。 ステージのいたるところに1UPと呼ばれる、残機が増えるアイテムが設置されているのだがこれがカービィの悪魔たる所以を増長させているのだ。
「おーい、お前らのステージカービィどれだけ倒した!」
「へっへー、驚くなよ! なんと5機も潰したんだぜ」
「まじかー、俺のステージは3機だぜ」
「まああいつ残機3桁とか余裕で貯めてるから、何の自慢にもならねーけどな!」
「それもそうだな!あっはっはっは!」
そうやって部屋の隅っこで笑う敵キャラたち、彼らの身体は長い間カービィと戦った傷でボロボロだ。
ひとしきり笑い合い、目の前の自動販売のコーラを買って飲み干すと、ゲップの代わりにそれはそれはウルルンスターの深海よりふかーい溜息を吐きだした。
「キリがねえ…」
「残機200とかこの短期間でどうやって溜め込んでるんだよアイツ…」
肩を落として愕然とする彼ら。 それも当然だ、最近のカービィでは残機数すらオートセーブなんて彼らは知らない。
(流石にそれまで伝えてしまったら、敵キャラ全員でストライキにされる可能性があるのであえて伝えてないのだとかが通説だ)
「くっそう、それもこれもポイントスターをいくつも設置してるステージが悪いんだ!」
ポイントスター。 とはカービィの残機を増やすアイテムの一つだ。
これを100個集めるとカービィの残機が1UPする、この収集要素もカービィというゲームを面白くしている理由の一つ。
これをたくさん隠している部屋を見つけると、カービィの残機も増えてウハウハ。 対する敵キャラたちはカービィにその部屋を見つけられまいと必死に守りを固める。
「この間も隠し部屋に入られてごっそりポイントスターをかっさらわれたしなあ(第1話参照)」
「いっそのこと、ポイントスター手に入らないようにステージの外に捨てておくか! ガハハ」
缶ジュースを捨てながら、廊下を歩いていく敵キャラたち。 するとふと横を見るとダンスをしているカービィが目に入る。
「…ゴールゲームか」
「あそこを1まで飛ぶと1UP手に入るのも、俺らにはヤバイんだよな」
そう言っているとカービィの頭には次から次へと1UPが降りていく。 ピロンピロンピロンピロン…と、残機のアップする音が聞こえてくる。
「あ、あのやろう…」
「順番に7から1まで飛んでやがった」
☆
「クッソ! このままじゃ永遠にカービィをゲームオーバーにできねえじゃねえか!」
地団駄を踏みながらステージ隅の楽屋のような部屋で悔しそうに唇を噛みしめる雑魚キャラたち。
しかし1UPはゲームが苦手なプレイヤーのための救済措置でもある。 流石にこればっかりは隠したりするのはダメだと怒られる。
「悔しいよう、ワドルドゥ。 あいつ僕ら雑魚をかき集めてはマジックのルーレットで1UPに変換するんだ」
「俺もだワドルディ、いっそのこと一思いに倒してくれればいいのに、変換とか屈辱でしかねえよ」
「だいたい俺らは一発で負けたら即消えるのに、あいつだけ何度も攻撃耐えて、オマケに何十回もやり直しきくとかズルいんだよ!」
雑魚キャラの悔しそうな叫び声が聞こえる。 彼らの悔しそうな顔は毎度毎度悲壮感が漂う。 そうしてカービィをギャフンと言わせられないかと、誰もが思案する。
ーーと、そこで控え室の扉が開かれた。 ひとりのデッシーが息を切らして部屋に入ってくる。
「ど、どうしたデッシー!」
「またカービィが来たのか!?」
肩で息をしているデッシーを心配そうにみんなが取り囲む。 彼の手には一本のゲームソフトとニンテンドーDSのソフトが抱えられている。
「…お、思いついたんだ! カービィから、残機を増やされない方法を!!」
☆
ポップスターの外、とある宇宙空間。
どこからか借りた宇宙船に乗って雑魚キャラたちはある場所に来ていた。彼らの目の前には、猫のような顔をした黄金の巨大な球体と、青と赤の二股帽子を被った道化師が立っていた。
「だからってーーボクとノヴァを頼るって他力本願なのサ」
「そんな事言わずに! マルクさん」
「俺たち、もうアイツにいじめられるの嫌なんだよォ!」
雑魚キャラたちが縋るようにやってきたのはノヴァとマルクの元。 ノヴァはどんな願いも叶える力を持つ機械(?)で、マルクはそんなノヴァを巡ってカービィと対立したこともある、いわゆる好敵手だ。
「…まぁ、ボクもカービィの強さには嫉妬してるし、協力してやらない事もないのサ」
「ほ、ほんとうですか!」
「流石元祖カービィシリーズ最強ボスキャラ」
雑魚キャラに煽てられマルクは少しばかり得意げに笑みを浮かべる。 そして彼はノヴァに向かって口を開く。
「聞いた通りなのサ、ノヴァ! ボクらの願いを叶えるのサーー」
「全てカービィのゲームから、残機アップのアイテムを消し去って欲しいのサ!!」
「OK. デハ 今カラ データヲ 書キ換エ, カービィ ノ 残機アップアイテムヲ 削除シマス」
「あ、後ついでに今のカービィ残機エゲツないからそれも初期化してください」
念には念を。 横槍に頼んだ願いもノヴァは首を縦に振り、その猫のような眼を開いた。
「3・2・1・GO!」
☆
眼が輝き出し、敵キャラやマルクを光で覆い尽くす。 目の前が真っ白になったかと思うと、彼らはとあるステージに立っていた。
「…ここは?」
「どうやら、今ここにカービィが来ているようなのサ。 僕らはそこに飛ばされたわけだ」
マルクのいうとおり、カービィが来ているのか周りの敵キャラたちは忙しなく走り回っている。 突然他所から来た彼らをよそに、カービィを攻撃しようと一方へみんな飛んでいく。
「聞いてみよう、おい君。 ここに1UPはあるのか」
「ああ!? 1UP? そんな便利なアイテムあるわけねえだろ! そんなのあったらみんな忙しなくならんよ」
どうやら、カービィの残機が本当に存在しない世界線のようだ。 よそ者の世界から来たマルクや雑魚キャラたちは笑顔がこぼれ、勝ち誇る。
「勝った! これなら2、3回カービィを倒せば俺たちの勝ちなんだ!」
「オーッホッホッホ! サァみんな! カービィをぶっ飛ばしにいくのサ! 加勢にいくのサ」
「うおお! マルクさんもいれば百人力だぜ!」
マルクを先頭によそ者の彼らも、この世界線の敵キャラたちに混じってカービィの元へ走り出す。 たった2、3回。 たった2、3回カービィを倒せばゲームオーバーだ。 これまでにないほど簡単な作業、やる気にならないはずがない。
「ヤァヤァカービィ! ここに来たが100年目! このマルク様が成敗してやるの…」
「くそっ! 早くローリングタートルを救出しろ!」
「ダメだ、ヘルパーが守りをがっちり固めてある!」
マルクたちが見た光景。 それはスープレックスをコピーしたカービィが『もうれつストンピング』で甲羅にこもったローリングタートルを段差で足蹴にしている場面だった。
もう普通なら消えてもおかしくないローリングタートルだが、何度も段差とカービィの短い間を往復し、どこかで聞いた1UPの効果音が聞こえてくる。
マルクがふとちらりとうわの空をあおぐ、カービィの残機を表す数値が、無尽蔵に増えていくのが見える。
287、288、289…もう嫌がらせにしか見えないような数字になっているが、カービィはお構いなしにローリングタートルを蹴り続ける。
「あ、あれは一体…」
「このゲーム名物、無限1UPだよ!! コイツ、いつもこのステージで残機増やしてくるんだ!」
この世界線の敵キャラが、悔しそうに言いながらカービィに飛びかかる。 が、彼のヘルパーがすぐ横でカービィの援護で敵の攻撃を防いでいく。
「…おい、ノヴァ」
世界線を飛び越えてきた雑魚キャラたちは呆然とその光景を眺め、マルクはどこかで見守っているであろうノヴァに愚痴をこぼす。
「ハイ, ナンデショウカ」
「誰がカービィに忖度しろって言ったのサ?」
「コウシナイト, 売リ上ゲニ 影響ガ 出ルノデ」
「余計にヒドイ状況になってるのサァアアアアア!!!」
もう別のゲームじゃないか、そう愚痴をこぼすマルクに、悲鳴の声が聞こえてくる。 この世界に一緒に来た雑魚キャラたちが、カービィにやられてるのだ。
「ぎゃああ! マルクさん!」
「助けてぇ」
すぐ後ろには、マルクもよく知るピンクの悪魔の気配が迫っていた。 マルクは、唇を噛み締めて覚悟を決めたように煌めく翼を広げた。
「チクショウ、もうヤケクソなのサ! ボクのブラックホールの餌食にしてやるのサ!」
そういうマルクが相対したカービィを見ると、今度は無敵キャンディを5本常備している。 もうここまでくればヌルゲーである、マルクは青筋を数本浮かばせながら、身体を二つに割る。
「もうなるようになっちまえなのサあああああ!!!」
一番悪魔なのは製作陣だ。 味噌糞にされたマルクと雑魚キャラたちは一同に口を揃えて呟いた。