第四十五話 決勝メンバー出揃う!!
「まさか本当にワタクシがギルドに介入するとはねぇ」
マルクとスノウが決勝進出を決めた第三組、『ポイントストライク』が開始する直前。 観客席裏の通路をモソとハルトマンは小走りで走っていた。 行き先は『七彩の暴食』のメンバー控え室。 時々横切る参加者や観客からは二人を横目に小声で噂話の様に囁いている。
「アイツって……確かエアライド事業の」
「そんなバカな、だいぶ前に不正でギルドにしょっ引かれたって噂あるぞ」
彼らの話題はハルトマンのかつての栄華と不正の顛末。 サファイア達と対峙し、マルクに敗北した後、『ハルトマンワークスカンパニー』はエアライド事業から除名され、会社も事実上消滅したのはプププランドのみならず、世界中のトップニュースを掻っ攫った。
「コイツは司法取引じゃ。 『七彩の暴食』がお前さんを保護する代わりに、今回の大会……奴らの暗躍を阻止する為に協力してもらうぞ」
「ええ、もう会社が潰れた以上、彼らにとってもワタクシの存在意義は彼らにとっては虫ケラ同然……彼らの言う『人類の選抜』に爪弾きにされるのは御免被る」
そういうと『七彩の暴食』の控え室前に二人は到着した。 勢いよく扉を開けると、試合を終えたマルク達や、ベッドで静養中のケケ達がモソ達の方へ視線を集める。
「マスター……?? それに、その方は」
バヘッドがもその背後のハルトマンを覗いた瞬間に、マルクは臨戦態勢を整える。 試合を終えたばかりの彼も息つく暇もないとばかりに眼を光らせる。
「お前……ハルトマン!! いつ刑務所から脱獄したのサ」
「おちつけマルク。 コヤツはウチのチームの専属コーチじゃ」
モソのその言葉に、マルクとピッチは口を真一文字にして眼を見開く。 いったい何を言っているのか、と眉間にシワを寄せながら、頭にクエスチョンマークを浮かべた。
「『七彩の宝玉』がこの大会に絡んでいる以上、こちら側も対抗する力が必要じゃ。 お前さん達もわかっとるじゃろう……一般観客達は気づいておらんが、この大会、ほぼ全ての組において……」
「あっ、そうだ!! グレープって人に、アドレーヌ……スノウさん。 勝ち抜いた人達のほとんどが『七彩の宝玉』のメンバーとその関係者よ!!」
ケケの見つけた共通点は、マルクとピッチも薄々勘付いていた。 元々伝説とまでされていたギルド『七彩の宝玉』のメンバーだ。 エアライドの実力も折り紙付きなのは覚悟の上。
「うむ、実はこの大会は『国際ギルド連盟』が『七彩の宝玉』に仕掛けた罠じゃ。 国際指名手配の連中を、この大会という巨大な鳥籠に囲んでオマケに大会の中で倒して捕まえ……連中の企む『人類の選抜』について情報を引き出せば御の字」
だが、ほとんどの連中が勝ち抜いてしまっとるのが誤算じゃがな、とモソは呆れ果てた様に呟いた。
上にとっても、せっかくの罠が『七彩の宝玉』メンバーの実力を宣伝する機会になっているのは遺憾の様だ。
「それを本来、阻止する為にあなた方に手を貸す事になったのがワタクシですよ」
ハルトマンがようやくとばかりに口を開いた。 彼が柏手を打って合図を出した途端に、センカイにチャージアップ……多種多様なカスタマイズパーツが病室内に出現する。
「ワタクシの会社で生産した、正真正銘本物のパーツ。 コイツをあなた方に提供して生き残りに協力する……実はですね、これまでの予選に参加したあなた方のマシンにも我が社が生産したパーツで補強はしていたのですよ」
「ええっ!! それって不正になるんじゃ」
「いや、予選開始前に検査をしているから、異常があればそこで弾き出されるはず……あたし達のマシンに不正はないよ」
ブレイドはケケを安心させる為に横槍を入れた。 ハルトマンの笑みに、マルクは不満げに顔をしかめるが観念した様に息を吐いて、ハルトマンに詰問する。
「本当に不正はないんだな?」
「ええ、異常が見つかればすぐに運営が飛んでくるのは、過去の世界大会を観ていたことがあれば分かる話ですからね。 あくまでワタクシはあなた達が勝ち抜く為に縁の下で協力していた……と認識をいただければ」
ハルトマンはそれだけを言うとまっすぐマルクの目を見ている。 しばらくしてマルクは息を短く吐くと立ちあがり、翼を手の代わりに差し出した。
「わかったのサ。 僕らもどうしても負ける訳にはいかない理由があるからネ。 ルールを守って正々堂々、それで協力してくれるなら、僕は何も言わないのサ」
「ふふふ……まぁ結果はご覧の通り『宝玉』が目立つばかりで誤算なのですが……しかし、第四組は期待できますよ。 こちらも自画自賛したくなるほどの仕上がりにできましたから!!」
「じ、自画自賛……??」
ハルトマンが両手を広げて、天井に向かって大笑いする様子を、ピッチは怪訝な顔で見つめている。 すると病室内のスピーカーから、スタジアム内外に響く放送が流れた。
『……予選四組の開始十分前です。 観戦希望の方は観客席までお越しください。 繰り返します』
そしてーー予選四組参加者が集まる控え室。
「コレが、マスターと元社長が用意したって言うパーツか」
ドロッチェがマシンの周囲に散乱する多くのパーツを見比べて手に取る。 丁寧にマイナスパーツまでも用意されている徹底ぶり。
「それで……今回のカスタマイズ制限は……プラス10、それ以外の条件無しか」
ドロッチェの言った制限とは、パーツをマシンに組み込める合計数だ。 例えばコウゲキのパーツを4個、ヒコウパーツ6個マシンに追加すると他のパーツはマイナスパーツを加えない限り追加はできない。
ただし、ボウギョを疎かにしたらマシンは破壊されるし、サイコウソクやチャージを犠牲にしたらスピード勝負に敵わない。 コレはエアライダーが次の競技をしっかり予測してパーツを組み込むセンスを求められる。
そしてサファイアは……ハルトマンから提供された大量のパーツを前に腕組みをしてにらめっこの状態だ。 ドロッチェはある程度パーツを拾い上げて、カスタマイズに取り掛かっている。
「ドロッチェさん、悩まないんですね」
応援に来ていたネスパーだ。 即決即断のドロッチェと悩んでいるサファイアの対照的な光景に、彼は率直な感想を述べる。
「ああ、過去の大会の傾向を見るに、次の競技はある程度予測できるからな……多分次は、『エアグライダー』だ」
エアグライダー。 一斉に滑空をして一番高い地点まで飛び続ける競技。 スピードを保ったまま上空を飛び続け、一番高い地点に到達した者が勝者となる。
これまでの競技の中では、比較的シンプルな競技。 だからこそ参加者達の妨害も激しいものになる。
「それならハルトマンが教えてくれたこのレシピが参考になる。 流石エアライド事業の元社長、餅は餅屋って訳だな……サファイア、お前もコイツ見たほうが良いぜ」
ドロッチェが背中を向けたままのサファイアに声をかける。 サファイアは上の空だ、彼の意識は次の予選の他にももう一つ……気になることがあった。
「……レッド、アイツは俺の年齢の秘密を知ってるかもしれねえ。 この大会で絶対に、聞き出してやる」
そう言って、サファイアはようやくヒコウのパーツに手をかけた。
『第四組、エアグライダーの説明です!!』
数分後、サファイアやドロッチェ達参加メンバーが出てくると同時に、司会ウォーキーの声が会場に響き渡る。 会場のど真ん中には先ほどの『ポイントストライク』の様なジャンプ台。 しかし先ほどと違うのは得点板は存在せず、地平線が見えるほどまっすぐ伸びる直線コースだった。
『全参加者が一斉にジャンプ台を飛び出して、10分間飛行を続けてもらいます。 地面に着した時点でその参加者の挑戦は終了!! 10分経過時点で飛び続けており、かつ飛行距離が最も長い最大上位四名が決勝戦に進めます』
「へぇ……それで、ライバルへの妨害は?」
『もちろんアリです!! 仲間で結託をしてライバルを蹴落とすのもよし、そんなサバイバルから出し抜いて真っ先に飛び続けるのもよし!!』
ドロッチェの質問に、当然と答える様にウォーキーは口走る。 それと同時に観客席にいるケケ達の元にタブレット端末が目の前に出現する。
『エアグライダーは他の競技とは違い、長い距離を飛び続けるという特性上ギルド仲間がどの辺りにいるのか判りづらい競技です。 お手元の端末で仲間の情報を入力すれば、今何位か、どのあたりにいるのかが応援席の皆様は判ります』
「へぇ、そりゃ便利なのサ」
つまり、ケケ達にもお手軽にサファイアとドロッチェの順位がわかる道具である。 サファイア達の名前を入力すると、スタート地点に横一線に並んでいるのが確認できた。
『テレビをご覧の皆様も、アプリをDLしていただければ気になるライダーの情報を把握できます。 それでは、一発勝負の長距離飛行走『エアグライダー』開始5秒前!!』
ウォーキーの合図と同時に、マシンのエンジンが蒸される音が聞こえてくる。 サファイアはワープスター、ドロッチェはウイングスターに搭乗したまま、チャージをめい一杯かけていた。 いよいよシティトライアル最後の予選の幕が開く!!
第四十五話 決勝メンバー出揃う!!
『スタートです!!』
ウォーキーの合図と同時に八十名余りの参加者達は我先にへとジャンプ台に向かって突進していく。 その集団の中に、早速各々の武器や魔法が飛び交う集団が見えていた。
「邪魔だ邪魔だァ!!」
「そっちこそ、退けぇ!!」
スタート地点から僅か数メートルの直線コース。 既に血気盛んな参加者達はライバルを蹴落とそうと妨害、攻撃の応酬だ。 それを後ろにどんどんスピードを上げている集団はカソクやサイコウソクでカスタマイズしている参加者。 ライバルを出し抜いて安全に長い距離を飛ぼうとする者達だ。
「へっへっへ、素人どもめ。 この競技はバトルロイヤルじゃないんだ。 勝手に争って潰しあってくれよ」
彼らの眼前には開けた光景。 背後からはライバル達の衝突する音や、悲鳴が聞こえてくる。 それをバックにあとはのんびり空の旅……とはならないのが、この競技だ。
「ちょうど良い的があるな」
真っ黒な悪魔の翼の様なエアライドマシン『デビルスター』を使役しながら目の前の集団を捉えたのは、レッドだ。 彼は火山をイメージした帽子を被り、口から巨大な溶岩弾を前方に向けて吐き出した。
「ボルケーノファイア!!」
「あぶねえ!! 避けろ」
そいつは目の前のライバル達の頭上にどんどん降り注ぐ。 団子状態になってた集団は逃げ場を失い、あっという間に地上に向かって真っ逆様!!
『おおっと!! ここで一気に数名のライダーが落下!! 『烈火の兎宴』のレッド選手!! 一気にライバル達をリタイアに追い込んだ!!』
レッドの吐き出した溶岩弾はそのまま床に落ちて延焼し続けている。 前方をある程度片付けたと判断するや否や、レッドは背後を振り向き同様に口から溶岩弾を吐き出す。
「ついでに後ろも片付けてやる!!」
「サファイア!! ドロッチェ!! 逃げるのサ!!」
タブレット端末から、マルクはレッドの背後に二人がいるのは把握していた。 レッドの攻撃に警戒した彼は、声が届くわけがないが二人に向かって叫ぶ。
ーーが、二人は違った。 そのまま、真っ向勝負でレッドの向かって突っ走る。
「アイスソード、冷気滅多斬り!!」
サファイアは凍てつく氷の刃を右手に出すと、目の前の溶岩弾に縦横無尽に振り払う。 レッドが放った弾は一気に細切れになり空中に霧散する。
それに続くかの様に、サファイアの背後からドロッチェが飛び出してきて、レッドの眼前に迫ってくる。
「会いたかったぜ!! 『七彩の宝玉』!!」
「お前は……!!」
レッドは、微かな記憶を辿りにドロッチェの事を思い出していた。 そう、それは解散前のあの日……巨大な蛇ドク・ロ・ガラーガを退治したあの日にいた……。
「あの時のヘボリーダーか!!」
「お前達を見返す為に、俺は今日まで生きてきたんだ!!」
ドロッチェの三つ星の杖と、レッドの燃える炎の様な剣は衝突した。 それを出し抜くかの様に、サファイアがエアグライダーのフィールドを前へ飛んでいく!!
「サファイア!! こいつは俺が仕留める!!」
「気をつけろよドロッチェ!!」
「待て!! その手には乗らねえよ!!」
レッドは何かを合図すると、すぐ横切った参加者が手をサファイアに向けてかざした。
「術式か!!」
ドロッチェが反応するよりも早く、サファイアの目の前に巨大な警告表示が現れた。 それは虹の島でも見覚えがあるーーあの文字列。
ーーこの先、『アイス系』の魔導士は通行できないーー
「ひでえ!! なんでもありじゃねえかそんなの!!」
ドロッチェが抗議するが、術式は巨大な壁の様に道を塞いでいる。 何人かの参加者はすり抜けているが、多少の参加者はまるで見えない壁に衝突したかの様に真っ逆様に落ちていく。
そんな術式でできた壁に、サファイアはまっすぐ飛んでいく!! このままでは、壁に衝突し真っ逆様は必至!!
「こんな術式なぁ……ネスパーとの特訓で慣れてるんだよぉ!!」
しかしサファイアは真っ向から壁に飛び込んだ。 右手拳に凍ったグローブの様な塊を作り出し、壁に何度も何度も殴りつける。 そしてサファイアが乗るワープスターも、壁に負けじと真っ向から壁を削り続けていく。
「砕けろぉ!!」
サファイアが最後の一撃とばかりに拳を振うと術式の壁は砕け散り、ガラスの様に前方に飛散した!! それを見ていたドロッチェは拳を握り締め、勝ち誇った様に笑って見せる。
「よし!!」
「やるじゃねえか……!! だが、今の壁への体当たりで、サファイアのマシンの勢いは!!」
そう、サファイアは何度も壁に飛び込んだがあまり、彼のワープスターのスピードは削れている。 それと同時に彼の高度もどんどん落ちていく。 地上には既に落下して撃破された他の参加者のマシンから出る煙で地面が見えなくなっている。
「クソっ!! コントロールが効かねえ」
「サファイア!! 船首を上に上げろ、上昇するんだよ」
エアライドマシンは、その船首を上に向ける事で揚力で空を飛ぶことが出来る。 サファイアはワープスターの船首をずっと上に持ち上げようとするが、それが全く上がらない。
「サファイアのマシン!! 全然上向かないよ!!」
「きっとさっきの壁の破片がマシンに当たって、機能がイカれちまったんだ!!」
ピッチ達が心配してサファイア達の様子を客席から伺っている。 マルクはサファイアに向かって大声で叫んでアドバイスを送る。
「サファイア!! 『スタースリップ』だ!! 他の奴の背後につくのサ!!」
スタースリップ。 前方に飛んでいるマシンの背後にピッタリくっ付く事によって、スピードを維持できるテクニック。 サファイアはマルクの言葉通りに、めぼしい参加者の背後に近づいて、落下を阻止しようとするが……。
「あら、懐かしい顔だね。 七彩の暴食」
「お前は……アイアンマム!!」
ボンカースも参加している今回の大会。 彼の仲間である『森林の暴君』他のメンバーも、競技に参加しているのだ。
サファイアが背後についた相手は、アイアンマム。 ケケと因縁のある相手は、今回はサファイアの相手だった。
「ヤダねぇ。 こんなババアにストーカーなんて、アンタはここで……リタイアしな!!」
アイアンマムはそう言いながらマシンをコマの様に激しく回転させて、サファイアのマシンと衝突する。 クイックスピンのテクニックだ。 そのままサファイアのマシンは制御を失いーー真っ逆様に落ちていく。
「サファイア!!」
ドロッチェ、ピッチ、マルク、会場の客席で応援していた『七彩の暴食』の皆の声が会場の歓声にかき消される。 サファイア、落ちるな、負けるな!! そんな必死の叫び声を聞き取る余裕も無く、サファイアはワープスターにしがみつきながら、何度も何度もマシンを叩いている。
「くそっ、起きろ!! 動け!! 俺は負けるわけにはいかねえんだよ!!」
どんどん地面との距離が近づいていく。 地上はサファイア以外に既に失格となった参加者達と落下の衝撃で砂塵が舞い上がっている。 いずれ落下すればサファイアも……。
「アイツらに、負けるわけにはいかないんだ……!!」
彼のまぶたの裏に映ったのは、ケケの首根っこを掴んでいるアドレーヌの姿。 バトルロイヤルのあの一幕。 あの時、ケケを助けてやれなかった悔しさを彼はずっと胸に抱いていた。
「負けてたまるか!! このっ……」
その時だった。 砂塵に光る何かがサファイアの目の映ったのは、それは他の参加者でも何も無い。 だがどんどんとサファイアの前に接近してくる!! 新たな敵か、身構えた途端に『それ』はサファイアのワープスターのすぐ下に飛び込んだ!!
「…………お前は!!」
エアグライダー、開始から既に7分が経過した。 殆どのメンバーは滑空を終えて、会場の巨大な掲示板には滑空を終えた者の距離、マシンから離れて着地した者つまり失格者の名前が表示されている。
残る参加者は数名程度、だが上位と下位の差は天地の差だ。 レッドとドロッチェが横並びで飛んで、その遥か先にアイアンマムら後続集団が続いている。
「あと3分だぜ。 なぁネズミ男……お前は俺達のこと死ぬほど憎いんじゃねえのか」
レッドはすぐ横のドロッチェに発破をかける。 みえすいた挑発だとはすぐにわかる。 ドロッチェはレッドに向かって冷静な態度をとっていた。
「最初はそう思っていた。 だけどすぐに落ち着いたさ。 昔の俺は未熟だったんだ」
ドロッチェは、かつては『七彩の宝玉』をティンクルを憎んでいた。 だがサファイア達と接していく上で、それがいかに愚かしい事だったかも、分かっていた。
「ライバルとの競争で負けただけの『あの日』を俺はもう恨んじゃいねえ。 だが、仲間であり友達のケケを傷つけたお前のギルドの仲間は軽蔑する」
ドロッチェは一つ一つ、言葉を選んでレッドの前を飛び出した。 目の前に出たらレッドの攻撃の餌食になるのも覚悟の上だ。
「そこだけは譲れねえ。 お前に勝って、俺は『七彩の暴食』の強さを証明する!!」
「だったら、勝ってみろ!! 俺に!!」
レッドはそう言うと今度は黒い竜に紫炎が逆立つ帽子をかぶっていた。 彼の『複製』の能力の一つ、『ドラゴニックファイア』だ!!
「バーニングアタック!!」
そのまま翼を広げた様にレッドはドロッチェに向かって突貫する。 彼の炎はすぐ後ろにも飛んでいき、後続のアイアンマムらも巻き添えのごとく攻撃する。
「危ない!! 避けろマム!!」
客席にいたボンカースが叫んだ。 空から飛んでくる火の玉を簡単に避けられる訳もなく、何人かは炎に耐えきれずに真っ逆様に落ちていく。
「やばい、ドロッチェもレッドに追いかけ回されている……このまま落ちるのも時間の問題なのサ!!」
マルクが空を見上げたまま、二人の様子を眺めていた。 現状決勝進出者はレッドとドロッチェの二人か、レッドの一人勝ちかーー観客の予想が統一される中、病室にいたケケはテレビ中継に映っている一つの影に気がついた。
「……竜??」
「マルク!! あれ……!!」
ピッチが指差した上空、分厚い雲を突き破ったのはサファイアの姿!! ボロボロになったワープスターのまま、レッドのすぐ頭の上にサファイアは陣取った。
「何だとぉ!?」
「レッド、止まれぇええ!!」
ドロッチェを追い回すレッドに向かって、サファイアは突貫する。 レッドはドロッチェの攻撃を中断して、サファイアの攻撃を紙一重でかわす!!
「くそっ、マシンがもう……動かねえ!!」
ドロッチェのウィングスターは既に限界だった。 船首を下に向けて真っ逆様に落ちていく。 サファイアが健在だと確信したドロッチェは、笑みを浮かべてマシンから飛び降りた。
「……あっ!! ドロッチェさんが」
ケケもその様子をテレビで確認していた。 この競技、地面に着地した時点で競技終了。 会場の電光掲示板には、ドロッチェの飛行距離が表示された。
「くそっ、後数秒だったんだけどな」
ドロッチェは悔しそうにシルクハットを被り直して、落下地点からウィングスターを引きずって歩いていく。 同時に、競技終了のブザーが会場に響き渡った。
『第四組、エアグライダー終了です!! 最後まで飛び続けていたのはレッド選手とサファイア選手!! これで決勝進出する参加者が全て出揃いました!!』
ウォーキーの実況と客席の大歓声をよそに、レッドはサファイアを睨んで立ち尽くしていた。 勝ち抜けが決まったのになぜか浮かない表情だ。
「何故だ……サファイア、あの時絶対負けてたはずだろ!!」
「だよな、俺も負けると思ってたよ」
サファイアのボロボロのワープスターを見てレッドの違和感は拭えない。 そんなマシンでここまで飛べるわけがないと確信があった。
(何故だ? カスタマイズパーツ規定に違反したわけでもない……だとすれば、こいつはなんらかの外部の力でここまで飛べたことになる……ウイングスターより長く飛べるマシン……そんな物、あの伝説のマシンしか……)
レッドは何かを確信したかの様に、空を見上げ目を見開いた。 そうか、そうだったのかと不適な笑みを浮かべて。
「なるほど……いくら地上を探しても見つからないわけだ!!」
「レッド、お前……いや『お前達』、何を企んでいる!!」
サファイアの叫びにため息を吐いてレッドは振り返る。 そして最後に彼は一言残して去っていった。
「またいつか、お前も誘ってやるよ。 『人類の選抜』にな。 死ぬんじゃねえぞ、それまでに」
不敵な一言を残して去ったレッドを見送って、サファイアとドロッチェは立ち尽くす。 彼が、いや彼らが何かを企んでいるのは、二人の目を持っても明らかだ。
「絶対勝て……頼んだぞ、サファイア」
「っ……ああ、当然だ」
シティトライアル 予選第四組終了
八十二名中二名突破 レッド、サファイア
予選グループ終了 決勝進出者
グレープ ブレイド
アドレーヌ ボンカース フロス
スノウ マルク
レッド サファイア
合計 九名