あしかのらいぶらりぃ
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執筆者: ディン/投稿日時: 2025/04/08(火) 15:44:23
投稿者コメント:
次回、アニマ連合編完結です。
この話は難産続きでしたが、失踪せずに何とか書ききれそうです。
第三十九話 気の持ちよう
「こいつは……どういう事だニャ」
ナゴは狼狽えている。 目の前に繰り広げられる光景。 それはアニマがアニマを無理やり襲い、ヒトガタやティンクルがそれを遮る。
この島で教わってきた『それ』とは正反対の現実。 ナゴは呆然としていたが、部下の一人を見つけると正気に返り声を荒げる。
「やめろオミャーら!! 敵はそっちじゃない」
「うるさい!! クー様のお意志だ」
彼が引き留めたのはクー派の兵士だった。 つい先ほどまで、自分を慕っていたはずの兵士に突然反抗的な態度をとられて、ナゴは目を点とする。
「……クー、様??」
「ナゴさん、貴方にもこの高尚な使命を教えますよ……我々は虹神様と、クー様について行きアニマ大連合を築き!! 『七彩の宝玉』に対抗……」
その時だった、ナゴに嬉々として演説していたアニマの兵士の頭上にドロッチェが足蹴にするように降りてくる。
見事に頭上に衝撃を受けて、兵士は情けない声を上げてうずくまる。 ドロッチェは杖を取り出して、緋色のマントをはらって辺りの兵士を威嚇する。
「全員その場を動くな!! 一般市民を襲う逆賊は今ここで取り押さえる!!」
それを言うとドロッチェの持つ杖からは星形弾が発射される。 それはクー派の兵士達の背中を抑え込み、『七彩の暴食』や『メタナイツ』、『白の騎士団』と対峙していた兵士たちを確保するとどめとなる。
「よっしゃ、よくやったドロッチェ!!」
「そこと動くんじゃないダスよ」
アイドランやメイスナイト、同盟のメンバーが次々と反乱を鎮圧させていく。 そのすぐ傍には、小さなアニマの子どもが背中に隠れるようにいるではないか。
「ありがとう、おじさん」
「お、オミャー!! そいつはティンクルで……危険」
ナゴが、子どもとメイスナイトを引き離そうとした瞬間に、チュチュの触手がナゴの頬を思いきり叩く。
それを見た人々は、呆気にとられた。 アニマ連合の一末端が、仮にも幹部メンバーに反攻などあってはならないから。
だが、チュチュの目は動じない。 その真剣なまなざしを見てナゴも何かを察したのか、腫れあがった頬を手でなでるだけでそれ以上は何も言わなかった。
「……冷静になりましたか??」
「ああ、状況も飲み込んだニャ」
ナゴとチュチュは頭上を見上げて、飛び上がるダイナブレイドとそれについて行く点々とする影を見た。 辺りの騒がしさは少しずつ落ち着いていく。 同盟側に、『アニマ連合』は少しずつだが鎮圧されているのだ。
「お前さん達が……『アニマ連合』の幹部でいいんじゃな?」
二人の頭上から、年老いた声が聞こえてくる。 その真上には、再接近した戦艦ハルバード、その甲板からモソがこちらを伺っている。
「積もる話もあるじゃろ。 そこの鎮圧はワシやメタナイト殿の仲間がやってくれる!! まずはアンタらのマスターを救助に向かうぞ」

そう、この騒ぎの大元は、クーがレオンガルフを襲撃した事。 国民の殆どは虹神ダイナブレイドに振り落とされた国王に呆気にとられたあまり、このクーデターに対処できないでいる。
と、すればまずこの騒動の抑え方は同盟による国民の救助と、国王の無事の知らせ。 しかしそこには問題がある。
「彼ら部外者がレオンガルフを救助したところで、国民は安心できないわ。 だって人質と勘違いされるのだもの」
「確かにニャ……」
モソ達に誘われるがまま、ハルバードに乗り込んだチュチュとナゴは甲板から国王を見渡し探す。
「つまり、おれ達二人で、国王の無事とこの船の連中は安全だって説得する役目って事だニャ」
「それもある……それと、もう一つ」
チュチュは少し寂しそうな表情を浮かべて、呟いた。
「半端ものでも、ここは私が育った故郷だから。 ここは母親の故郷だから、姿形は否定されようが、家族の思い出まで否定されるいわれは、ないわ」
そんな真剣なチュチュの表情を見て、ナゴは少しばかり居心地の悪そうな様子で、首を縦に振った。




   第三十九話 気の持ちよう





「ピッチ、国王とは違うが私もお前の事は評価している。 雑用をこなしつつ『アニマ連合』や虹の島の調査を、周囲に気づかれず遂行するその偵察力……賞賛に値する」
「コソ泥を褒められるのは良い気がしないな。 まぁありがとうと言っておくよ」
空飛ぶダイナブレイドの背中、クーはその羽を刃の様に尖らせながら、ピッチに向かって振るう。
まるでボーガンの矢のように、正面を飛び出してくるとピッチはすぐに飛び上がって、それを回避する。
「空中からでは、回避できん」
そう言うと狙い撃つように、今度は頭上に羽を飛ばすクー。 しかしピッチは先ほどとは打って変わって、高速で空中からダイナブレイドの背中に落ちていく。
「できるさっ」
「なるほど……重力を変化させる魔法……複製で言うと『ストーン』か『メタル』に近い」
ピッチはゆっくりと着地すると右の羽を振り回す。 何かを試すかのような動きをしているが、クーはそれを気に留めない。
「もう少しで何かわかる気がするんだよなー……」
「何か試したところで、それを私が許すとでも?!」
クーはそう言うと足から鞭のような物を振るってピッチに向ける。 ピッチは即座に羽に力を込めるが、衝撃の瞬間に羽毛が飛び散る。
「い、いったぁ……!! オマケにビリビリする」
「我々鳥のアニマは、ある種の耐感電の力があるがそれは大きな弱点にもなる。 これは犯罪を犯した国民の刑罰の一つに使えるのだよ」
そう、例えば……とクーは横目にすると、電撃の鞭を空に放り投げる。 それがダイナブレイドの下に落ちた途端に、ピッチの聞きなれた声が聞こえる。
「きゃあ!!」
「マルク、ケケ!! 大丈夫か」
ダイナブレイドのはるか下。 接近するかのように飛び出していたサファイア、ケケ、マルクはクーが投げ捨てた鞭に驚き怯んだ。
ケケを背負っていたマルクの体勢が偏ると、ケケは彼の背中にしっかりしがみつく。 マルクの羽には焼け焦げたような跡がある。
「くそっ、あんなおっかねえ武器があるんじゃ、簡単には近づけねえのサ……サファイア、ケケを頼む」
そう言うとウィングスターに乗っていたサファイアのもとへ、ケケが投げ飛ばされる。 サファイアは彼女を受け取るとマルクは急上昇し、ダイナブレイドに相対する。

「悪いな、ピッチ!! こいつは俺が仕留めちまうのサ!!」
羽から幾多もの矢が生成され、ダイナブレイド向かって発射される!! しかし、マルクの飛ばした矢はダイナブレイドの羽に当たるも鉄同士が接触したような音を立てて、弾かれていく。
「おいおい……どんな生き物だよコイツ」
マルクの矢を弾く様子を見たケケはすぐ様掌をダイナブレイドに向ける。 サファイアはウィングスターを器用に操作しゆっくり接近する。
「ピッ君!! そこにいたら少し離れて!!」
ケケの言葉を聞いた途端にピッチはすぐさま飛び上がる。 それに気づいたクーも飛び出した途端、ケケのガントレットから電撃が繰り出される。 だが、それに気づいたダイナブレイドは、急降下をしてケケの電撃をあっという間によけてしまう。

「ええ!! 何あれ、あの図体でズルい!!」
「サファイア、お前の能力でアイツの動き止めるのサ」
マルクの考えは、サファイアにも伝わっていた。 アイスの能力を使って、ダイナブレイドの羽を凍らせるなり、身体に巨大な氷塊をくっつけるなり、それだけでスピードはだいぶ落ちるはずだが。
「やろっ、にゃろっ!! こらっ、逃げるなぁ!!」
サファイアの冷凍光線は、ダイナブレイドに器用に回避されている。 時々鼻歌が聞こえてくる中で回避されていき、サファイアの苛立ちも積もっていく。
「くそっ、あのバカ鳥舐めるなよ!!」
そう言うとサファイアはウィングスターから飛び出して、ダイナブレイドに大の字で飛び掛かる。 おおと、ケケとマルクが感嘆をあげると同時に、ダイナブレイドの上にいたピッチがクーの様子を伺う。
「ダメだ!! ダイナブレイドにもサファイアが感電する術式が仕組まれている!!」
「えっ!?」

そう、ピッチは地上での光景を見ていたのではっきり覚えている。 ダイナブレイドに乗り込む際の条件のある『術式』が、条件を満たしダイナブレイドの上で発光する。


 『国王とその支持者、『70歳以上』の者はダイナブレイドに乗り込む事を禁ずる』


 そのエラーメッセージはケケとマルクにもはっきり見えていた。 ダイナブレイドの上空で出てきた大発電を見て二人は呆気にとられる。
「まじか……」
「サファイア!! サファイア大丈夫ー!?」
ケケが叫んで、黒煙に包まれたサファイアに声をかける。 レオンガルフの様に、落ちていく影は見当たらない。 ダイナブレイドの上で、焦げて倒れていると考えるのが当然だ、そんな黒煙を目の前に、クーは勝ち誇ったように表情を崩す。
「バカか、わざわざ死に急ぐなど……っ!?」
次の瞬間、腕を氷で覆ったサファイアがクーの顔面にストレートをお見舞いする。 突然の不意打ちに呆気にとられたクーはそのまま倒れこみ、サファイアを見上げる。
彼の足には、まるで靴の様に氷で膜が幾つも作られている。 これで、電撃を防いでいるのだ。
「バカな……」
「一か八かの策だったけど、成功してよかったよ。 これで2対1だな」
サファイアの勝利宣言の様な一言に、クーは表情を崩さない。 彼にとってはこれは不利でも何でもないとの様子だ。
「サファイア、アイツの持ってる指輪がこのデカブツを操ってる」
ピッチの指さす先、確かにクーには『たいようのゆびわ』が。
「なるほど、それを奪えばいいわけだ」
「無駄だ、虹神様!! ティンクルを振るい落とせ!!」
ダイナブレイドは急降下と急上昇を繰り返し空を縦横無尽に飛び回る。 さながらジェットコースターの様に、近辺を飛んでいるマルクとケケも思わずその動きについてこれず離脱する。
「おわっ!! ケケ、いったん逃げるのサ!!」
「は、はい!!」
ダイナブレイドから逃げるように、降下をしていくマルク、その背中に乗っていたケケは、不安そうに頭上を眺めていたが……その中で一つの違和感を覚える。
「……マルクさん、ダイナブレイドって鉄みたいな生き物ですよね」
「ああ、ありゃ鉄より硬いものでぶん殴らなきゃ言う事聞かねえだろうよ」
羽毛は鋼鉄か何かで出来ているのかと、それほどの硬さ。 それは二人も目撃していた。 ケケはある一点を見て、疑問を持っていた。
「……あそこも、電撃は効かないのでしょうか」
「あ??」


「国王レオンガルフの落下地点に到着します。 残り300」
空中で移動をしているハルバード。 甲板からレオンガルフが落ちたであろう地点を眺めながら、チュチュとナゴは真剣なまなざしだった。
「国王様の姿を見かけたら、すぐに知らせて。 大丈夫、彼らは人質を取るなんて野蛮な行為はしないわ」
「ああ……チュチュ、すまなかったニャ」
ナゴは申し訳なさそうにチュチュに声をかける。 彼女は顔色一つ変えずに、ナゴの言葉に耳を傾ける。
「おミャーやケケちゃんを非難して、追い立てて、こんな事になるって分かってたら……」
「それは、私も同じ。 この国から逃げ出すために、ケケや『七彩の暴食』を利用しようとして、こんな混乱を起こしてる……貴方は、クー派のクーデターを……」
「知らなかった、きっとキャロライン達も同じだニャ。 何故かカインはそいつを知っていたみたいだけどニャ」
「確かに……カインは、記憶を失ってここに流れてきたって話だけど……どうしてこの混乱を知っていたの」
二人の会話を遮るように、艦内放送が響く。 メタナイトの声が響いた。
「間もなく、国王の落下地点に到着する……チュチュ殿とナゴ殿、そこから何か見えないか」
甲板から二人は外の景色を眺める。 そこは真っ青な海だ。 周りには、レオンガルフの持っていた装飾がまばらに海面に浮かんでいる以外、変化はない。
「まさか……国王様」
「縁起でもねえこと言うニャ!! もっとしっかり探すのニャ!!」
ナゴの叱咤が響く海上、静かに水泡が海面に浮かび上がる。 二人はその様子に凝視すると――たてがみと大柄なマントを背中にした大男のアニマの姿が、イカやタコのアニマ達に担がれて上がってきた。
そしてすぐ横には、水色のマンボウのアニマ!!
「よかった!! 間に合いました!!」
「カインさん!!」
「おミャー!! どこに消えたのかと思ったら」
大男、レオンガルフはハルバードから用意された救命ボードに乗せられる。 そのまま錨を上げるように、そいつはロープでゆっくりつり上げられて回収される。
「カイン、あなたも上がってきて。 ここももうすぐ戦場になる!!」
「え!? 一体どういう事ですか」
カインはチュチュのその言葉に、寝耳に水の様子だった。 甲板に出てきていたメタナイツ、そして艦長のバルから作戦が言い伝えられる。
「虹神様……ダイナブレイドを鎮めるには、海に叩き落すしかあるまい。 地上では被害が甚大になりすぎる」
彼らの理屈は間違っていない。 ただでさえ国王派とクー派のいざこざが起きている地上に、ダイナブレイドが叩きつけられたら、更なる混乱は必至。
「よって、近海の水生アニマの人たちに、避難の協力をお願いしたい……部外者が勝手な作戦指揮を執る形になり、申し訳ないが」
メタナイトの申し訳なさそうな言葉に、カインに異論はなかった。 そして彼は意を決して首を縦に振る。
「分かりました。 協力します。 ただ僕は周囲の仲間にこのことを伝えて、子どもや年寄りの避難に当たります。 そちらに乗船はできない」
「感謝する。 チュチュ殿、ナゴ殿……国王陛下は無事か」

「無事だ……わざわざ部下に看護してもらう事もない……」
国王レオンガルフは気を取り戻していた。 ナゴに支えられ起き上がり、甲板で呼吸を整える。
「……通信機での会話となり不躾だが、時間がないので手短に言う。 今島は反乱軍とそれを抑える我ら連合軍、そしてその混乱に戸惑うアニマ連合……この事態は全て」
「ああ、私の計画が元凶だ。 クク……他種族への復讐とアニマを救う象徴がアニマの混乱を招き、それを他種族が抑えんとする……皮肉だ」
レオンガルフは既にこの状況に打ちひしがれている。 彼はこの混乱の中心にいたのだ、信頼していたはずの忠臣が反旗を翻し、それになびいた部下が戦場をかき回す――彼の絵空事は完全に破綻したといえる。
「どんな処罰も受ける覚悟――だが、欲しい答えはそれではなかろう」
「さすが島の統治者、話が早いのぉ」
甲板から、『七彩の暴食』のリーダーモソが現れる。 彼の目の奥の光は、どす黒く怒りに満ちている。
「ワシやメタナイト殿の仲間達がこの動乱に動いているんじゃ、お前さん達も多少の苦労は願うぞ??」
「どんな要求も、聞き入れる所存です」
レオンガルフは甲板に額を打ち付け、土下座する。 その贖罪に、横にいたチュチュとナゴは戸惑うが、よしとモソは頷いた。
「要求は一つじゃ、あのでかい鳥を抑えつけられる、人の住んでいない土地はないか?」
「土地……ですか!?」



 ダイナブレイドの上、クーは目の前のサファイアの肉弾攻撃、上空からのピッチの重力魔法によるのしかかりを見事にかわし続けている。 超スピードで展開するダイナブレイドの身体の上での戦闘だ、二人にはとても厳しい。
「はははっ、そんな踏ん張ってついてこれるのか、ティンクル」
サファイアは突風吹き荒れるダイナブレイドの上での戦闘だ、慣れないうえに下手をすると自分が吹き飛ばされる。 クーに煽られても、自分がそれが一番よくわかっている。
そしてピッチも、高速で移動を続けるダイナブレイドについて行くので精いっぱいだった。 重力魔法も、すぐに解除しなければクーについていく身軽さを得られない。
「くっそ……調子に乗って余裕だな、あのバカ鳥二号」
二号とは、クーの事だ。 さしずめ一号はダイナブレイドなのだろうが、毒づくのでサファイアも精一杯。 氷刃を展開して遠くにいるクーを狙うも、ダイナブレイドの動きでそれも標準がぶれてしまう。
そしてピッチは……この状況の中で一人何故か落ち着いていた。

「おかしい……僕の重力魔法に何度も背中を打ち付けているのに、ビクともしない……かなりの重さになってまで落下しているのに、コイツの筋肉、どれだけ丈夫なんだ」
「筋肉と体格の違いだよ、貴様は全力のはずだろうが、虹神様にとっては虫刺されの様な痛みにすぎん」
巨大すぎるのだ。 ワムバムロックを粉砕した時とは違う、ピッチの重力魔法でもダイナブレイドを圧迫するには小さすぎるのだ。
「だったら!! 地道に攻撃するだけだろ」
サファイアはクーの正面から拳を振り下ろして彼に攻撃する。 クーはすぐさま空中へ飛びかわすと、頭上からピッチが降ってくる。
「またか、ワンパターン。 ピッチ、キミは一直線に落ちてくるだけ……それではこの私をッ!?」
次の瞬間、ピッチは羽を拳の様に握りしめて、クーの顔面に叩きつける!! まさかの右フックを食らうような形になったクーは狼狽えながら、そのまま立ち止まる。
「おお!! ピッチ、お前『重力魔法』で動けるようになったのか」
「ふふん、まぁね」
「……なぜだ。 貴様、アニマ連合の入団試験を見ていたぞ。 そんな技はなかったはず」


 実は、最初期ピッチやケケ達がアニマ連合に潜入した時の事。 彼らは入団試験として手の内を見せるようにされていたのだが。
「はい!! 猫のケケ!! 電撃出せます!!」
「おお〜!! 合格ニャ!!」
ナゴがケケを煽てていたころに、ピッチも同じように他のアニマに披露をしていたわけだが。
「なんだ、そのまま重いまま動けねえわけなのか」
「そ、そうですねぇ……まぁ、奇襲するにはこれで十分なんですけど」
ピッチはバツが悪そうに受け答えるする。 これはスパイなのだ、簡単に手の内を明かすわけにはいかないが、これが彼の精一杯でもある。
「うーーん、悪いってわけじゃないけど、何というか、地味だな」
(大きなお世話だっての……でも、確かにシミラの出した映し身の様に動けたらいいんだけどなぁ)
ピッチは一人黄昏ながら、あの時の記憶を思い出していた。 鏡の国からやってきたシミラが、ププビレッジでひと悶着起こしていた時。
彼女の出したピッチの分身は、彼にできない攻撃を披露していたのだ。 実はあの後、彼はひそかにその攻撃を練習していたのだが……。
「中々難しいんだよなぁ……それが」
と、諦めていたのだが。 そんな『可哀想なアニマ』を見つけてか、アニマ連合のメンバーは彼の肩を組んで怪しい笑顔を浮かべる。
「しょうがねえ、俺が指導してやるよ!! ついでケケちゃんにカッコいいとこ見せれるからな」
「心の声漏れてますよ」
この時、たまたまピッチと同じ『重力魔法』の使い手のアニマが傍にいたのだ。 彼の下心があったとはいえ、これに乗らない手はないと、ピッチはひそかに思いつく。
「……それじゃあ、お願いしますね――リックさん」
「おうよ!! こういうのは、気合いだ!! 気の持ちようなんだよ!!」
「そんな無茶な」


 ダイナブレイド、その周辺には戦艦ハルバードから飛び出した同盟メンバーとクー派がエアライドマシンで交戦している。
その肝心の戦艦は海上に佇んでいたが、その戦線を外れるように指針を変えて飛び立った。
「なんだ!? 逃げるのか」
クー派の一人がそう感じた途端に、二連主砲から砲弾が飛んでくる。 ダイナブレイドにそれは直撃するが大したダメージにはならない。
「それでいい、ダイナブレイドの気をこちらに向けるのだ」
メタナイトの指示により、ハルバードから次々と砲弾がダイナブレイドに飛ばされる。 まるで蚊に刺される程度の痛みだが、それが続くとなると。
「ああ!! 鬱陶しい鳥じゃ!! わらわにちょっかいをかけるな!!」
そうしてダイナブレイドはハルバードに焦点を向ける。 サファイア達はその上で交戦しているが気に留める暇はない。
「いいぞ。 このままついて来い、サファイア殿達には気をつけろ」
メタナイトの指示通りに『メタナイツ』メンバーは攻撃を続ける。 そんな彼らの横で、虹の島の地図を広げるバル艦長は船首から見える景色と照らし合わせる。
「候補は二つ。 あの虹神の化石が元々埋まっていた『レッドキャニオン』に誘導するか……もう一つは」
「『アイスバーグ』だな。 確かに、あの寒さだとダイナブレイドといえども動くのは容易くない」
操舵手の傍でメタナイトは答える。 それに呼応するかのように、右に舵を大きく回されると戦艦は旋回する。
「目標『アイスバーグ近海』!! 約数十分ほどで到達できます」
「よし、それまでの時間勝負だ!! 我々がくたばるのが先か、ダイナブレイドを誘い出せるかが先か……」

その時だった!! 戦艦が左右に大きく揺れて、停電が起きる!! サイレンと警告灯が鳴り響き、船内はあわただしくなる。
「大変じゃ、メタナイト!! ダイナブレイドが体当たりしてきたぞ」
「了解、直ぐに二連主砲で反攻に出ます。 モソ殿、甲板の皆は無事ですか!!」
甲板ではモソの郵便袋から飛び出してきたクラウディパークの土で覆われていた。 まるで雲の様な土は、クッション代わりにもなるようだ。
「こっちは無事じゃ。 だがすまん、甲板に多少穴が開いた。 それと……あの化け物を抑え込む場所を、国王から言付かったぞ」
「アイスバーグ沖です。 この時期、あの海域は氷点下にまで気温が下がり水生アニマも寄り付かない。 あそこに虹神様を誘い出せば……」
メタナイトの考えと、アニマ連合の長の意思表示は明確に一致した。 これから先、許可を得る必要もない。
「分かりました。 ここから先は我々にお任せください、皆さんは艦内へ」


 サファイアとピッチは次々とクーへ攻撃を繰り出す。 だが、彼はその羽を鋼の様に硬くして、鎧の様にしてはじき返す。
「重力魔法で攻撃するなら、それ以上の硬い魔法で弾くだけ」
クーが翼を突き出すと、サファイアの拳を覆っていた氷はあっさり砕け散る。 それに目を丸くしたサファイアの背後から、ピッチが飛び蹴りの要領で爪を突き出す。
クーはそいつを軽くかわすと持っていた鞭を振るってピッチの脚に巻き付ける。 そのまま彼の身体は、ダイナブレイドの背中に叩かれる。
「ピッチ!!」
「大丈夫、それよりもクーを!! ……っ」
ピッチは足を抑えてうずくまる。 それを見たクーは勝ち誇ったように笑みを浮かべる。
「ククク……効いてきたな。 さすがに感電のダメージが蓄積されると、動けない」
「感電……そうか、あの鞭にも」
サファイアの予感は当たっていた。 ダイナブレイドにもかけられていた術式、あれが露呈したのはクーがダイナブレイドを指揮した途端だった。
「お前も、ネスパーと同じだな」
「今更気づいたか、まぁこの状況なら問題ない。 術式は多少かじった程度だが、お前達を追い出すには十分だと分かった」
鞭を振るいながら、薄笑いを浮かべてクーはサファイアに飛び掛かる。 高速で飛んでくる鞭の威力は、想像以上!! サファイアの氷の拳は砕け散り、そのまま勢いに押されて後ろに吹き飛ばされる。
「サファイア!!」
「あぶねッ!!」
そのまま、サファイアは突風にあおられるように後ろに転がり、ダイナブレイドの尾にしがみつく。 勝った、クーは確信すると飛び出して鞭をサファイアに向かって振るいあげる。
「とどめだ」


 気合いだ!! 気の持ちようなんだよ!!

 そう、教えてくれたよね。 リック。

ピッチは自然に身体が動いていた。 先ほどの攻撃も、ぶっつけ本番だったので今回も成功するか自信はなかった。
だが、サファイアを助ける為、この混乱を収める為、自然と体が動いていた。 彼は足の痛みも忘れて立ち上がり、サファイアとクーの間に割り込んで――。
鉄の様に硬い羽根を、クーの腹に勢いよくぶち込んだ。
「アイアン……アッパーカットぉ!!」
「っはぐぁ!!??」
突然異物がみぞおちに叩き込まれて、クーは呼吸を止めてしまう。 白目をむいて、膝をつくと、ダイナブレイドの背中から――落下していった。

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