第三十七話 クー
「ああ!! 懐かしい、この青空、この空気!!」
大声援に耳を貸さずにダイナブレイドは青空を見上げて翼を広げる。 それに追随するようにダイナブレイドの影が会場のアニマ達を覆い尽くさんとばかりに広がるが、彼らは半狂乱してダイナブレイドに叫び続ける。
「虹神様ー!! 我らにかつての栄光をもう一度〜!!」
「あの先が、我々の憎き敵がいるヒトガタやティンクルの居住地です!!」
一人のアニマの男が、海の向こうを指さして煽るが、それを聞いたダイナブレイドは巨大な脚で踏みつけんとばかりに観客達に振り下ろす。
「黙れ!! 貴様らの恨みなど、妾には何の関係もない!! それよりエサをもってこい」
「おいおい、随分わがままなお姫様だな」
サファイアとスノウと相対してるリックはよそ見しつつダイナブレイドの言葉に耳を傾ける余裕があった。 サファイアとスノウは氷で出来た刃を右手に生やすとリックとゴルルムンバに向けて振り下ろすが、二人は白刃取りの要領でそれを両手で押さえた。
「まだ虹神様ってのが、やる気ないうちに説得することって出来ないか?」
「う〜ん、僕もそれ考えてたんだけど、お高くとまってる女の子って感じでお近づきになりたくないかなあ」
スノウの緊張感もない言葉に、サファイアはため息を吐いて呆れ返る。 走って詰めてくるリックから距離を取りながら、また刃を横に薙ぎ払った。
「そうだった、あんたってそう言う人だったわ」
そして、ケケは大混乱の会場のギャラリーを戦艦ハルバードの上から眺めている。 キャロライン達との戦闘で出来たばかりの切り傷とアザが痛々しい。
「マルクさん……マルクさん!!」
彼女はキャロラインに飛び掛かったマルクの行方を追っていた。 一体どこからケケを助けてくれたかは知れないが、彼を一人にするのは得策ではないとケケは予感していた。
ほんの一瞬の隙で姿形を見ていたが、アレはいつものマルクの様子ではない。 目は剥き出し、口からは鋭い牙が生えていて、黄金に輝いていた彼の翼は黒っぽい紫に染まっていてーーアレではまるで。
「マルクさん!!」
ギャラリーの流れを見ていると、それから離脱するような地面が抉れるような形が見えた。 それはまっすぐ続いていて、辿ってみるとケケやサファイア達が捕まっていた会場から伸びていた。
「あそこだっ、あそこにマルクさんがいるっ」
ケケはそう言うとハルバードの倉庫からライトスターを引っ張り出した。 突然の行動に周囲のメンバー達は慌てて彼女を抑える。
「ちょ、ちょっとケケちゃん!!」
「今更どこにいく!! 今はサファイアとピッチに任せろ」
デッシーがケケの腕を掴んで押さえつける。 今この場にはブレイドがいない以上彼女をしっかり嗜める者は下にいるサファイアとピッチだけだ。 ケガもしている彼女に無理をさせられない。
「でも、マルクさんが!!」
「マルクだったら大丈夫さ。 アイツはキミらと組む前から1人で大丈夫なんだ、だから今回もきっと……」
「違う!!」
ウォンキィの説得を大声で遮って、この場を一瞬で収める。 ケケは身勝手を分からない子ではない。 それは『七彩の暴食』の皆も周知の事実だ。 ただし、今回は。
「あの時のマルクさん……泣いていた」
「泣いていた??」
モソが聞き返す、ケケは首を縦に振りあの時の記憶を思い返す。 キャロラインに攻撃した時のマルクの姿。
「理由はわかりません……でもあの時のマルクさん、泣きながら助けに来てくれて。 真っ黒で、怖い姿で、私が勝手に行動して追い詰めてしまって……」
「そうか……あやつ、封印していたあの姿に」
モソはヒゲを触りながら、ケケの横に立って彼女の肩にそっと触れる。 耳元でそっと囁く。
「ケケよ。 今のマルクはお前さんから逃げる様に飛び回ってるはずじゃ。 じゃがあの姿になればそう長い時間は続かん」
「知ってるんですか?!」
ケケの言葉に、モソはニヤリと笑みを浮かべる。 真っ白にな大きい眉から黒い眼光が覗いている。
「アイツとは付き合いは長い。 クックック……どこに隠れるかも分かるぞ。 なんせワシは……おまえさん達のマスターじゃからな」
自信満々に、モソは笑って見せた。
「急げ!! 地上では虹神様がもう飛びたって下すってる様だぞ」
「だが……入り口に仁王立ちしてるあのババア、全然倒れねえ」
地下牢から地上へ繋がる出入り口。 階段のすぐ前ではブレイドが地下牢の衛兵達を抑えんとばかりに剣を振るい薙ぎ払う。 次々と飛びかかり、また吹き飛ばされる衛兵たちは疲労の色濃い。 ブレイドも同じだった。
「ネスパー、こっちも限界だよ。 サファイア達はもう居ないんじゃないかい!!」
念波を使って遠距離で会話のできるネスパーの能力、 ブレイドは最悪の展開を想定しているがネスパーが帰ってくるまでの時間稼ぎはしないといけない。 ブレイドの地上への参戦にはネスパーは必要不可欠だからだ。
「そうですね……奥の階層も魔力の反応がありません……恐らく、転移魔法か何かでサファイアさんは飛ばされたのかと」
「ぎゃーっはっはは!! おまえら、あのティンクルのために残ってたのか!! アイツはとっくに虹神様の復活の為にレオンガルフ国王によって連れてかれてたのに」
衛兵の勝ち誇った様な叫びに、やっぱりとブレイドは剣を鞘に戻す。 すでに疲弊し切った彼女の肩を持つ様に、テレポートで戻ってきたネスパーと衛兵の集団は相対する。
「観念するんだな。 ヒトガタの犯罪者二人。 我々に逆らった罪で、この地下牢に永遠にな」
「ああ……あんた達と遊ぶのはもう勘弁……」
ネスパーはブレイドのその言葉を待ってましたとばかりに、指を鳴らす。 次の瞬間アニマの衛兵達の身動きが一切取れなくなる。 まるで金縛りにでもあったかのようだ。
「な、何を……!!」
「何って……あなた達が僕らにやった事と同じ仕返しです。 まぁ、一日経てば金縛りも解けるので、安心してくださいね」
ネスパーが勝ち誇った笑みで手のひらを広げるとそこが光源となり薄暗かった地下牢の壁が、床が天井が明るくなる。 そこにはびっしりと描かれた術式が。
「『コレより23時間59分33秒……アニマの行動を一切禁止する』……こ、これは!!」
「さぁ、行きましょうブレイドさん」
背後から怒号と恨み言が聞こえてくるが、二人はゆっくり地下牢の階段を上がっていく。 苦笑いを浮かべながら、ブレイドはポツリと呟いた。
「ちょっと大人気なかったかね」
「僕一応年少者なので……頭で上回ったって事でいいですか??」
出口が見えてきた。 久しい地上の光に照らされた二人は空を見上げると真っ黒で巨大な鳥の影が薄ら見えている。 周りには熱狂し逃げ惑うアニマ達が二人を気にせず右往左往していた。
「ただ事じゃなさそうだね。 ネスパー、テレポートいけるかい」
「ダークキャッスルと言ってましたね。 会場は確か……」
ネスパーは虹の島の観光用に用意していた地図を広げた。 そこには七つの島の絵が描かれており、島の名前もしっかり明記されている。 ダークキャッスルも描写されていた。
ここは真っ暗な林の中。 マルクに飛ばされたキャロラインはマルクの帽子や羽にしがみつきながら、振り落とされない様に必死だ。 マルクが飛んでいる後方にはバキバキと折れ落ちる木の枝や抉れた地面はずっと続いていて、その先に何かがあると伝えている様だ。
「この、クソピエロ……くたばりなさい!!」
吹き飛ばれていたキャロラインはその鋭い前足の爪をマルクの帽子に食い込ませると振るいあげる。 振り払われたマルクはそのまま路上の植え込みに放り出されてしまう。
「マルクさん!! ちょっと、仲間を傷つけないでよ」
抉れる地面を頼りに、二人を追いかけていたケケはキャロラインにガントレットをはめた掌を向けて威嚇する。 埃をはらいながらキャロラインはそんなケケに目を背けない。
「今はあなたに構う暇はないわ。 コイツ……危険すぎる」
「えっ」
キャロラインの視線の先、マルクは鬼の様な表情で目の前を見据えている。 仲間であるケケですら、すくんでしまう程に。
「ヨクモ……ヨクモ、ケケヲ……」
「マルクさん……まさか私のために」
ケケは知らない。 キャロラインに人質にされていた自分を助ける為にマルクがこの様な姿になってでも突撃した事を。 ただマルクは怒りのあまりケケが無事であるのを理解していないのか……キャロラインに敵意を向けるばかりだ。
「周りが見えなくなるくらい暴走するなんて、魔導士失格ね。 こんな奴とチームを組むなんて、アニマの同志であってもお断りだわ」
「チーム……まさか」
ケケは思い出していた。 あの日、ケケがマルクをチームに誘っていたあの時のことを。
ーー『僕は一人でのんびりクエストやってお金もらって一人で楽しく暮らしていけばそれでいいのサ』ーー
「あの言葉、そう言う意味も」
確かに、こんな姿では単独行動も危険だ。 周りから敬遠される予想もたやすい。
「こんな危険因子、島に立ち入るだけでも大変よ……早い事抹殺を」
爪を鋭く尖らせ臨戦体制に入るキャロラインの頬に、電撃が一筋飛んでくる。 マルクの横にいたケケが掌から電撃を出して、キャロラインを牽制している。
「動かないで」
「……あなた、気づいてないの? コイツが私に飛びかかってきた時、一歩違えば貴方も巻き添えになってたはずよ。 コイツは危険よ!! 放っておけばいつか同じ問題を」
「知った風な口を聞かないで!! マルクさんの事何も知らないくせに!!」
ケケは大声をあげてキャロラインを竦ませる。 すぐ隣のマルクは、威嚇最中の犬の様に牙を向けているが、ケケはそんなマルクにそっと手を触れる。
「……ごめんなさい、マルクさん。 私が不甲斐ないばかりに迷惑かけて、この姿になってでも助けようとしてくれてたんですね」
「……ケ………」
「はい、私は無事です。 ここにいますよ」
顔を突き合わせてケケとマルクは視線を合わせる。 鬼の様な恐ろしい表情をしていたマルクの目は、焦点が合わさって真っ直ぐケケを見つめている。
「私はもう大丈夫です。 ちょっと怪我したけど、こんなの慣れっこですから!! マルクさんも回復しましょう」
ケケが回復魔法をかけると、あたたかい光が二人を包む。 今この瞬間、キャロラインは二人を襲うのも野暮だとも思ったのか、薙ぎ倒された大木に腰掛けて、様子を見守っていた。
「……恋愛ドラマ見せられた気分で、やる気も失せたわ。 あなた達二人、種族が違うのにそう言う関係なの??」
「はぁ!? マルクさんはチームの仲間で、尊敬する先輩ってだけで……!!」
ケケは顔を真っ赤にして反論しようとした途端、地震のような大きな揺れが林を襲う。 キャロラインは伏せて、ケケはマルクと抱き合う様に身を屈めると、草木の隙間から大きな翼を広げたダイナブレイドが飛び回っているのが見える。
「アレは……虹神様!!」
「うわー。 おっきーい、ダイナブレイドって……」
ケケは首が痛くなるほどに、ダイナブレイドを見上げる。 その後方からはハルバードが!!
「ダイナブレイドは森に飛んだ模様」
アックスナイトが望遠鏡を覗いてダイナブレイドを追う。 主砲はゆっくり標準を合わされる。
「冷静に対処しろ。 あんな化け物が島の外に出たらパニックになるのは必須」
「虹の島の中で撃墜させて、以前通り土の中でおねんねしてもらうのが最善ダスね」
メイスナイトのセリフは物騒だ。 島の住民やアニマ連合が聞いたら反発は間違いないが、『メタナイツ』のメンバーには異論はない。
「……出来れば、平和に済めばいいのだがな」
メタナイトはやや自嘲的に答えた。 彼は、甲板で待機している救助された『七彩の暴食』の元へ、そこにはモソ達が裂くような風の中立っている。
「お身体が冷えます。 中へ」
「ありがたい申し出じゃが、ガキどもが必死な時に楽するわけにいかん」
モソの言葉に、メタナイトは首を縦に振る。 風除けにとばかりにモソの横に立つと頭を深く下げた。
「このような場所で、紹介も遅れて申し訳ない」
「お互い様じゃ、そちらにウチのガキどもが世話になったらしい。 ありがたい」
モソはイタズラっぽい笑みを浮かべて、メタナイトを茶化してみせた。
「虹神様!! お早く、我らの復讐の為に……」
「ええい!! 妾に指図するな小物がァ!!」
住民の叫びを握り潰す様に、街のど真ん中に降り立って住宅の上に降り立った。 ダイナブレイドの重みで住宅はメリメリと潰れるが、気にせずダイナブレイドは住民を見下ろした。
「餌をはよう持って来い!! お前らを食っても良いのじゃぞ!?」
地団駄を踏む様に暴れ回るダイナブレイドを、クーに掴まれて飛んでるレオンガルフは呆然と見つめている。 彼が、島が思い描いていた外への復讐の足がかり。 その鍵となる『虹神様』は、傍若無人そのものだ。
「ど、どう言う事だ……虹神様!!」
「国王、ご安心ください」
レオンガルフの頭上から、クーが話しかける。 彼の手には『太陽』の様な装飾の施された指輪が。
「ダイナブレイドは久々の外ではしゃいでいるだけ。 まずはコチラに引き入れる事を優先しましょう」
「そんな事分かっておる!! 対話でもなんでも良いから、虹神様を説得して来いクー」
「説得……あんな我儘の権化を『何も無し』で言い包められるとでも?? つくづく貴方の理想論には呆れる」
「……なんだと??」
クーの突然の豹変に、レオンガルフは声を詰まらせる。 次の瞬間、クーはレオンガルフを掴んでた脚を離してーー彼をそのままダイナブレイドの元へと落とした。
「他人に任せるのではなく、ご自身で説得してきなさい。 私は一切関与しない」
「き、貴様ーー裏切る気か……」
その瞬間だった、レオンガルフがダイナブレイドの羽毛に触れようかと言う途端に、彼の身体に激しい電撃が包んだ。 まるで落雷に打たれたかのような激しい稲光は、虹の島の空を真っ白に包む。
「ぐぎゃあああ!!」
「こ、国王様が!! 虹神様の謀反か!?」
焦げた身体で、落ち行く中恨めしくクーとダイナブレイドを見上げるレオンガルフ。 彼が最後に見た光景は、不敵にほくそ笑むクーの顔だった。
「今日からこの虹の島も私が統治する。 生ぬるい復讐など必要無い、国王派の思想もな」
(まさか……術式……いや、クーにそんな魔法は無かったはず……)
黒煙を口から吐いて意識が薄れゆくレオンガルフ、勝ち誇ったクーはダイナブレイドの上に立ち、翼を広げてある文字列を空中に展開する。 そこには赤文字で一部強調されこう書かれていた。
『『国王』とその支持者、70歳以上の者はダイナブレイドに乗り込むことを禁止する』
(まさか……まさかあいつ……)
薄れゆく意識の中で、レオンガルフはある一つの結論に達した。
(四つの穴のお宝の力で……虹神様を……っ!?)
「あいつ……クーってやつ、国王と何かやり合ってるよ」
地上からダイナブレイドの様子を伺っていたピッチ達は、空の異変に気づいている。 ドロッチェと二人だったピッチは翼を広げ急上昇し、離脱する。
「お、おいよせ!!」
ドロッチェが慌てて引き止めようとするも、ピッチは耳を貸さない。 その様子を見ていたのはサファイアだ。
「ピッチ、俺もすぐ行く!!」
「ええ!? サファイアもしかして、僕だけにこんなむさ苦しいゴリラとハムスター相手させる気!?」
スノウはサファイアの行動に異議を唱えながらも、ゴルルムンバとリックの猛攻を避け続ける。 避けた先に攻撃が来たら、氷の盾でうまくいなしている。
「コイツ、意外ト強イ」
「ああ、ナゴの元カノナンパして即捕まったのにな」
「ああ、シロちゃん。 あの子毛並み綺麗で可愛かったね。 逮捕とかなかったらお茶のお誘いできたのに」
スノウにとってはいつもの事なので特に悪びれる様子もない。
「サファイア君、追うならこれを使え」
ハルバードからメタナイトの声が聞こえる。 投下口から青い羽の姿をしたエアライドマシンが一台降りてくる。
「ウイングスター!! 誰か知らねえがありがてえ」
ウイングスターに器用に飛び乗るとサファイアは空中に船首を向ける。 ピッチに続けと勢い良くチャージダッシュをかけたその瞬間。 レオンガルフ同様の稲光がサファイアを包んだ!!
「あべべびび!!!!」
「ええええ!?!?」
その情けない姿に、見上げていたスノウも、リックやゴルルムンバ、飛び立っていたピッチやハルバードから見守っていた同盟相手みんなも、まさかの光景に呆然と見つめるしかない。 レオンガルフ同様に黒焦げになりながら、サファイアはスノウの足元に帰ってくる。
「……おかえり『国王支持者』」
「んなわけあるかぁ!! 一体何のバグだ!!」
バグ、と言うと語弊があるが術式には本来サファイアにはどれも当てはまらないはずなのだ。
「『アニマ連合』以外アウトなら、ピッチ君も弾かれるはずだもんね」
スノウの推理は尤もだった。 部外者であるピッチは問題なく素通りできている。 なら理由は他にあるのだが……その理由は赤文字で強調されてサファイアの目の前に突きつけられた。
『国王とその支持者、『70歳以上』の者はダイナブレイドに乗り込む事を禁ずる』
「……年寄りは労わらねえとなぁ」
「おじいちゃん、墓に帰レ」
リックとゴルルムンバの情けとも取れる一言に、スノウは一人笑いを堪えるのに必死だ。 サファイアは顔を真っ赤にしながら言い返す。
「ぶっ飛ばす」
「クー様から連絡が来たぞ!! レオンガルフは失墜した」
虹の島の至る所で、一部の衛兵達やギルドメンバーは一気に騒ぎ出す。 それを待ってたとばかりに人々はエアライドマシンを取り出して島散り散りから飛び立っていく。
「な、何事!? クー様が、国王様がどうしたって?」
「お前らも心に決めろ!! 旧体制はたった今ここで終焉を迎える!!」
マシンの上から見下ろす様にクー派のアニマが市民達に言い放つ。 武器を取り、空に掲げて威勢よく声を荒げながら。
「故郷の奪還!? 虹神様との平和な暮らし?? それだけで我らと先祖の恨みは晴らされるのか!! 今こそ立ち上がり、『七彩の宝玉』が作り出した今の世界に、宣戦布告を!!」
そう言い切った瞬間に、衛兵の背後から棍棒を持ったチュチュが飛び出してくる。 大きく横殴りではらうと前のめりに吹き飛ばされる。
「きゃー!!」
「チュチュ、アニマ連合の居候が、何の用事……」
「コイツらの言葉に耳を傾けないで!! 戦争なんてしたら、次こそ虹の島みたいな平和な場所なんて無いわ!!」
チュチュは必死に民衆に説得する。 彼女の言葉に人々は萎縮するが、すぐに威勢を取り戻して反抗する。
「だから、勝つ為に虹神様を……」
「じゃあ何? 国王を無視して、島のど真ん中にふんぞり帰って、飯だ飯だと女子供を脅かして喚き騒いでるあの鳥が神様だって言うの??」
チュチュの言葉は映されてるダイナブレイドそのままの感想だ。 チュチュの言葉に大人たちは閉口する。 映像には住宅を肘掛けがわりにして、腹をだらしなく見せてフルーツをむさぼる虹神様。 現地のアニマ達は必死だが、当人はどこ吹く風だ。
「き、気が変わって……平和の為に動いてくださるかも」
「今まさに、ダークキャッスルが平和を脅かされてるけど?」
チュチュの言葉は正論だ。 映像はダイナブレイドの横暴に呆然としてる大人達、泣きじゃくる子どもの声、そしてーーそれはジャックするかの様に、突如切り替わる。
「クー様!!」
「え!?」
突然のギルドマスターの登場に、チュチュも思わず振り返る。 ダイナブレイドの頭上に、クーが一人立っていた。
「同志たち……そしてアニマ連合のメンバーと虹の島の諸君。 決断の時だ」
「前国王レオンガルフは、虹神様と共に故郷を取り戻す為に戦うといった……だが、それだけで良いのか?」
「……えっ?」
国民達は、クーの言葉に呆気からんとする。 クーは翼を大きく広げ、仰ぐ様に叫ぶ。
「我らには翼がある!! 水中でも生きれる力がある!! 土の中を、極寒の血を、枯れた大地でも適応できる力がある!! そう、神が与えたもうた力は世界の頂点に立つにふさわしい!!」
クーの持論を、それとなく気づいたアニマ達は大きく叫び出す。 しかし、子供や一部の大人達はその意図が読み取れない。 一人のアニマは、チュチュにすがるように問いかける。
「ど、どう言う事!? クー様は何をしたいわけ??」
「……虹の島には、三つの派閥があるわ。 虹神様と故郷を奪還する『だけ』が目的の国王派」
場面変わってハルバード、メタナイトが甲板で先陣を立ち、ダイナブレイドとの交戦に備えながら、潜入捜査をしていたバルの報告から結論づけた持論を同時期に話していた。
「我々ティンクルやヒトガタと、話し合いで諸問題を解決しようと言う穏健派」
「ああ、あの演説でブーイングされてた人達じゃな」
モソの言葉にメタナイトは首を縦に振る。
「我らにとってはありがたいが、島にとっては邪魔者。 まぁ、『アニマ連合』としては国民のストレスの捌け口として存在を許してるそうです」
「そして〜〜今問題なのが、クーの過激派ですね〜〜」
「え、誰??」
サファイアやスノウ達が対峙してる中で軽い足取りで間に割ってくるマンボウの男。 カインにスノウは思わず問いかける。 リックとゴルルムンバも拳を下ろして警戒体制を解く。
「過激派って何? リック」
「えー、あれだろ。 爆弾とかできゃー!! わーって中でグサーする悪い奴ら。 だろ? カイン」
「う〜〜ん、正解ですね」
カインのややオマケ感ある正解にリックはよっしゃとガッツポーズ。 ゴルルムンバはそれを感心する様に拍手する。 頭が良いのか悪いのか、そんな様子にスノウは呆れる様に溜息を吐いてカインに聞く。
「それで?? あのクーって人は何を企んでるのかな」
「……戦争ですよ。 虹神様を破壊兵器とした」
「そちらのお仲間に先に伝えましたが、ダイナブレイドが大量に復活したら世界は大変な事になります」
メタナイトの説明は佳境を迎えていた。 ピッチ達と説明したそのままを、解放されたモソ達にもそのまま伝えている。
「確かに、阻止する為に協力するしかなさそうじゃ……よし、遅れたがその同盟にワシも賛成する」
「ええ、遠回りしたがマスターに筋を通せて安心しました」
モソとメタナイトが固い握手をして改めて『七彩の暴食』と『メタナイツ』の同盟が確固たるものとなる。 戦艦のすぐ横には、既にダイナブレイドの姿が目視できる所まで来ている!!
「メタナイト様、動力源装填完了、ビームの用意ができたダス!!」
「よし、標的ダイナブレイド!! 標準を合わせてなるべく被害の少ない海へ撃ち落とす」
「マスター、オレ達も何か手伝わないと!!」
戦艦ハルバードの攻撃が始まる直前、ホヘッド達がモソに意見する。 モソも良しと首を縦に振り、周囲を見下ろす。
「ダイナブレイドの周りにいる、エアライドマシンに乗った連中が相手じゃ。 奴らは虹神様をひどく信じてるようでな」
「虹神様の……クー様の邪魔はさせん!!」
ハルバードを下から追うように、エアライドマシンが追尾してきていた。 そしてモソの言葉を待ってたとばかりに、『七彩の暴食』と『白の騎士団』も、マシンを借りて一気に迎え撃つ!!
「俺たちだってスノウにいい所見せるんだ!!」
「『七彩の暴食』、久々の総動員じゃああ!!」
クーの演説を、軽蔑する表情でピッチは聞いてダイナブレイドへ急接近する。 演説は佳境を迎えて、クーは恍惚の表情で持論を展開する。
「今こそ!! 我らがアニマこそ至高の種族と言う『アニマ頂点主義』による世界の変革を!!」
「何がアニマ頂点主義……何が虹神……僕の友達を傷つける様な奴らに……これ以上好き勝手させるかよぉお!!」
怒りに身を任せて、ピッチのスピードはダイナブレイドにあと少しと言う所まで迫っていた。