第三十四話 反抗
バレた。 バレた。 バレた!!
ケケは本能だけで走り回る。 アニマの誰かとぶつかりそうになるのを危機本能的な回避能力ですり抜けて、息を切らしながら『けいたいつうしんき』の画面も見ずに素早く打ち込む。
ナゴと合流していた三人のアニマ、キャロラインと名乗っていた女性のアニマの手には確かにケケが写ってる写真があったのだ。 浮かれているナゴでもすぐに自分が騙されていたと気づくに違いない。
と、なれば次はどうなるか。 捕まると尋問……サファイア達の身にも危険が及ぶし『白の騎士団』『メタナイツ』との同盟に不利益が被るのも時間の問題だ。
「あっ、ごめんなさい!!」
ぶつかりそうになるたびに、そう断ってできるだけ人通りのある大通りを走っていく。 人混みにさえ紛れ込めれば、あの巨体のナゴでは追いつけないという考えの元だ。
そう、今ケケが危険視するのは『アニマ連合』の幹部達だけーーそう考えていた矢先だった。
「あっ国王様だ!!」
小さな子どものアニマが空に向かって指差して叫んでいた。 それと同時に通りを歩いていたアニマ達、あるいは店やアパートの窓から住民や従業員、客達も動きを止めてそこに注目する。
空に映された巨大なビジョン。 それは虹の島一帯に同時中継されていた『ある中継』だった。
第三十四話 反抗
「ーーつまり、我々は外の世界と友好な関係を築く為に、過去にとらわれない新たな歴史を」
ケケが逃げ始めたのと同じ時間。 虹の島のとある場所ではギルドの長達による演説が行われていた。
虹の島は『アニマ連合』がほぼ唯一のギルドと言われているが、実際はそうではない。 それだと独裁政権とばかりに海外から良い顔がされないので、一応小さなギルドが各島に1つか2つ存在している。
ただ殆どが、アニマ連合の当て馬だ。 彼らはアニマ連合の主張と真反対の主張を続けているが、国民には良い顔はされない。
「ひっこめー売国奴!!」
「私たちはアニマ連合の『あの発表』を聴きにきたのよ」
こんな調子で罵声を浴び、物を投げつけられ、完全アウェイで立たされる。 まさにアニマ連合の引き立て役だ。
そんな聴衆の罵声を鎮めるかのように、柏手をしながら舞台に立つ大きなアニマの男がいた。 それが会場の、そして島中のビジョンに映し出された途端割れんばかりの大歓声。
「レオンガルフ様!!」
「レオンガルフ国王!!」
「国王様ー!!」
「皆の衆、今日は我らがアニマ連合のために集まっていただき感謝する!!」
そう、この中継はほぼ毎年行われるアニマ連合の巨大な発表会見、ケケ達の住むププビレッジのある国でいうところの国会中継。
ただ、ケケが感じた恐怖はまるでアニマ連合ーーいやアニマ以外の存在を否定するような、レオンガルフの主張とそれに熱狂的に同意する聴衆達ーーケケは立ち尽くし、当惑していた。
「な、何……これは」
この中継は、マルク達が戻ってきたアニマ連合内部でも中継され、同じ様に熱狂的に受け止められていた。
食事やクエストの選別を中断し、調理や掃除をしていたギルドの従業員たちさえも拍手喝采の大熱狂。
まるで宝くじでも当てたかの如くの喜びようはウォンキィやガルルフィもたちすくむ。
「な、何が起きてるんだよこれは」
よそ者の彼らから見れば異常とも取れる熱狂ぶり。 外に目を向ければ、空や住宅の壁に今彼らが見ているものと同じ映像が映されている。
そんな外とギルドの観察をしている最中、ギルドの奥からチュチュが息を切らしてウォンキィ達の元へ帰ってきた。
「ご、ごめんなさい……今ここにはいないって……私以外にアニマ以外の種族の子が潜り込んでるなんて思いもしなかったので」
「いやぁ、問題ないのサ。 それならそれでアイツの居場所はなんとなく絞り込める」
カバンの奥で小さくなってるマルクは虹の島の観光マップを広げながら、チュチュに返事をする。 彼の持つページには、いくつかの観光名所が描かれており、そこにいくつかの丸が描き込まれている。
「とりあえず、海水浴場の焼きそばか……牧場のヨーグルトあたりを潰して回るか……」
マルクがケケの居場所を吟味してる時に、ガルルフィが『けいたいつうしんき』の画面を覗き込む。 それを見た途端ガルルフィの顔色が一変する。
「お、おい!! ケケちゃん、幹部にバレたって!!」
「あぁ!? 一体なんでそんな事になってるのサ」
カバンの隙間でマルクとガルルフィが言い争ってる中、映像中継を一人見つめていたウォンキィが、現状を把握している貴重な一人だった。 それは正に『最悪に近い』状況だ。
「……いや、ケケちゃんだけじゃないぞ。 ヤバいのは」
虹の島 路地裏
『アニマ連合』のチラシ配りを放棄して『ダイナブレイド』の情報収集をしていたピッチとドロッチェの二人も、映像中継を目の当たりにしている。 横には彼らをたまたま見つけた魚のアニマが一人呑気に立っている。
「な、何なのアレ? ドロッチェ」
「時々やってるアニマ連合の集会だな。 ああやって自分達が正当な権利を持ってるんだって主張してるんだ……」
「け、権利っていうと……」
「僕たちアニマにも、外で自由に暮らす権利がある。 って理屈ですね〜」
口を開いたのはカインだった。 彼の言葉を聞いたピッチは、眉間に皺を寄せながら彼の言葉の続きを聞く。
「この島に定住してる人たちのほとんどは、故郷を差別で追われたり、ギルド同士の争いで住む場所を滅茶苦茶にされた人達だと。 特にティンクルには強い恨みを持ってるらしいですよ〜」
「そ、そんな……」
ピッチにとっては予想もできない答えだった。 彼の住んでるププビレッジは、ティンクルもヒトガタも、アニマでさえもみんな仲良く楽しく暮らしている村だから。
外で自由に暮らす権利など、考えた事も無かったのである。
ピッチがそんな事実に愕然としてる間に、映像には見覚えのある写真が映し出された。 ケケとマルクの写真だ。
『なお、現在虹の島にてアニマ以外の種族が潜入していると情報がある!! この写真は現在逃亡しているヒトガタとティンクルである』
「げげぇ!!」
「おいおい、こっそり潜入って話じゃなかったのかお前ら。 大胆だなあ」
ドロッチェの呑気な言葉にピッチは焦燥ある顔色で見上げて叫ぶ。
「んなわけないでしょ!! どこかで僕らの侵入が感知されたんだよ」
「空港か、港ですね〜。 あの背景ですと」
カインの言葉通り、ケケの写真の背景のゲートには見覚えがある。 最初にこの島に来た時の空港だった。
「最近この島は、外との接触を特に嫌がってますから〜。 多分色んな場所で身体検査が起きると思いますよ」
「色んな…場所で??」
そういうとカインは背を向けて歩き出す。 ゆっくりと歩き出した彼に、ピッチとドロッチェの二人はゆっくり歩を進めてついていく。
「お二人なら大丈夫そうですね〜。 この島の悪事を、阻止してください〜」
アニマ連合の周りの住宅、そして内部では警察官が集まり、人々に列をつくらせていた。 そこは一般市民、ギルドのメンバーの垣根は関係ない。
「今から侵入者炙り出しのため、身体検査を行います。 これは国王様でありギルドの名誉リーダーレオンガルフ様の命令であり、ギルドの現責任者クー様の同意もございます!!」
拡声器で人々を並ばせ、手荷物を確認する警官達。 それは正に郵便カバンの中に隠れているマルクの最大の危機である。
「おいおい、どうするんだよ!! このままじゃマルクがバレちまう」
かと言って今ここでモソの私物であるカバンを捨てる訳にもいかない。 マルクはカバンの隙間からあたりを見渡すと、噴水を囲う様にベンチが設置されてる場所を見つけた。 この島の住民の憩いの場の様だった。
「あそこがちょうどいい。 ケケがここまで逃げてくると引きずり込めるし」
「な、何を言ってるんだ??」
「ケケにしかわからないサインを送って誘導するって意味なのサ。 どさくさに紛れて、カバンをベンチに放置していてくれ」
ガルルフィの持っているカバンから、糸でできた巨大な火の鳥が現れた。 燃え盛る様な巨大な鳥に、住民や警官達は大慌て。 逃げ戸惑い、発砲音が飛び交い、もはや持ち物検査どころではない。
「なんだァ!! また侵入者か!!」
「援軍要請!! 市民の避難誘導を!!」
そんな騒ぎに乗じて、ガルルフィとウォンキィは火の鳥『フェニクロウ』とは逆方向に走り出す。 マルクの潜んでる、カバンをベンチの下に放置して。
「なるほど、マルクはここでケケちゃんを待って」
「あのパペットで相手を撒いてる隙にオレ達は逃げてケケちゃん探し再開できるわけだ」
ただのカバンの忘れ物だから怪しまれることも無い。 更にこの混乱だとあんなベンチの片隅だと誰も気づかないだろう。
『フェニクロウ』にもケケ捜索の保険が反映されている。 マルクとケケの初めての邂逅の時に見せていたパペットだ、気づいたらカバンの方へ向かってくれる期待を待っているのだ。
「それじゃあ、私はあっちを探してきます」
チュチュがガルルフィとウォンキィに声をかけた。 新たに加わってくれた協力者に、二人は頷いて笑顔で答える。
「頼んだぜ、チュチュさん」
「でも無理するなよ。 危険を感じたらすぐに俺たちの『けいたいつうしんき』に連絡をくれよ」
はじめましての相手にも、親切に対応してくれるガルルフィ達に、チュチュは目頭が熱くなった。 三手に別れた後、涙を堪えながらか細い声でつぶやいた。
「……いいなぁ、私も『七彩の暴食』にいたらなあ……」
一方で、ここはレッドキャニオン。
化石の発掘作業もひと段落し、『アニマ連合』の皆はケケの捜索に参加、あるいは帰路に着く最中だ。 その中で立派な軍服を身に纏った、ワシのアニマが一人汗を拭い爽やかな笑顔を見せていた。
「いやぁ、ワシ本当に頑張ったなあ」
彼の名前はバル。 実はケケとピッチ達が最初にメタナイツと邂逅してハルバートで作戦会議をした時に、ケケ達が伝えられていた『メタナイツ』の先の潜入メンバーだ。
彼はここに配属されて以来、『メタナイツ』への連絡ができないでいたのだ。 理由はシンプルだった、それは。
「はいオッサン、もう仕事中に遊ぶなよ」
「ウィーッス!! 以後気をつけまーす!!」
見事に酷い理由で取り上げられていたのだ。 これを正直に書くといい歳こいたバルの貫禄にキズがつく。 すぐに彼は『けいたいつうしんき』を取り出して電源をつける。 これでもかと言うぐらいに上司や部下であるメタナイトやメタナイツのメンバーからの連絡がここ数日ギッシリだ。
「…ヤバい、もうみんなブチギレて見捨てられてるかもしれん」
肩を落として項垂れながら、バルは『潜入先の職場仲間』と共に宿舎へと戻っていく。 食堂では一働きした汗臭い男職人達がお盆を手に食事の配膳を待っている、バルもそれに倣えと腰を上げた途端に『けいたいつうしんき』が震えた。 相手はーー上司のメタナイト。
「こんばんは。 今日も風が強い日だ」
「ええ、そんな日に戦艦の桟橋や外への仕事があれば…『寒い、高い、怖い』ですな」
取り決められたかの様な会話をすると、通話の向こうから咳払いが一つ。 メタナイトは他愛もない会話から厳かな声色に変わった。
「この会話を聞き取られては?」
「部屋の端に陣取っています。 電子探知器も異常無し」
バルはいつの間にか持っていた機械を周囲に振り回して安全を確認した。 それを待っていたかの様に、メタナイトは本題に入った。
「作戦に参加してくれた同士が増えた。 今から情報を共有し、作戦の進捗に活かして欲しい」
「了解。 こちらからも一つ報告が……」
部屋の中心部、大の大人の作業者たちが色めき立って騒いでいる。 中には「懸賞金山分けだ」だの、「皆で囲んで吊し上げ」と物騒な言葉が聞こえる。
ケケの潜入露見は、既にレッドキャニオンにまで届いていたのだ。 はるか上空からと距離をとっていたハルバートでは、気づかれないほど迅速に。
「……ヒトガタの侵入者がいるって、周りが騒いでいるのですが……『メタナイツ』は無関係ですよね」
「……すまない」
メタナイトは、眉間に手を当てて答えた。 ここにきて作戦への支障は、想定したく無い事態ではある。
本来であれば、ケケを切り捨てて作戦続行が筋である。 本来であれば。 だがこの作戦は三つのギルドの協力なしでは不可能だと、メタナイトは判断している。
「その人は我々の協力者だ。 できるだけ早く接触をして保護を願いたい」
失敗は許されない。 ケケの保護はこの作戦の最優先課題に上がってしまった。
チュチュはクラウディパークの裏路地にまで足を運んでいた。 ナゴが彼女を連れ出したのがここだと、近隣のギルド仲間に教えてもらったのだ。 今現在キャロラインやリック達もがケケを探してこの島に警戒網を張り巡らしている。 そんな状況で一人脱出は容易では無いとチュチュは推察したのだ。
実際、それは当たっている。 クラウディパークのエアライドマシン発着場や、民間用の船着場も既に『アニマ連合』の厳戒態勢が敷かれており、強行突破は難しかった。
廃屋と廃屋の隙間の裏路地から、そんな厳戒態勢を遠目から眺めて、チュチュは焦燥にかられている。 この作戦はチュチュ自体の『虹の島脱出』のためにも成功させなければいけないのだ。 時間は残されていない。
「どうしよう……こうしてる間にも、ナゴやリック達がケケって子を見つけ出してるかも……」
「やばい……あそこもすごい人だかり、どこに逃げたらいいんだろう」
廃屋の上階からの声が聞こえてくると、チュチュは思わず上を見上げた。 その上の声の主も、同じタイミングでチュチュに気付いたのかこちらを見下ろしている。 双眼鏡を手に取った、黒装束の猫耳をしたヒトガタの女の子ーーお尋ね者のケケだった。
「っば!!」
「あっ、待って!! あなた、マルクやウォンキィって人達のお友達でしょ!!」
同じタイミングで廊下へ飛び出し、階段の最上部と下部で鉢合わせになるケケとチュチュ。 追われてる身のケケは片手に電撃を纏わせて完全な警戒体制だ。 チュチュはそんなケケに刺激を与えない様に、両手を上げる。
「待って!! 私はあなたを売るつもりはない。 それに外には『アニマ連合』の幹部達がいるわよ」
「幹部……ナゴさんやキャロラインって人達のことね」
ケケもチュチュの話を聞いて電撃を引っ込める。 逃走している身だ。 下手に騒ぎを起こして追い詰められたら元も子もない。
階段の最上段と最下段で、二人は距離を保ちながら会話を始める。 ただ互いに警戒している身だ。 ほぼ最低限のキャッチボールで話が進む。
「どうしてここが分かったの」
「たまたまよ。 あなたのお友達に付き合わされてね」
「マルクさんたちと、サファイアやブレイドさん達は無事なの?」
「『マルクさんたち』なら、あなたを探すのに集中してるわ。 サファイアって……牢獄に捕まってるティンクルよね。 彼らと私は一応会話はしてるわ。 結論から言うと今は無事」
「『今は』??」
ケケがチュチュの言葉に引っ掛かりを覚える。 そんなケケの疑問を察したのか、チュチュは静かに話を続ける。
「あなたも見たでしょ。 レオンガルフ国王の中継。 その最後に『虹の島の最終計画』の経過報告があったのーーダイナブレイド復活の為の、計画のね」
ダイナブレイド復活。 それはケケもハルバートで作戦会議を聞いていたので中身は知っている。 しかし、その計画はケケが想像しても否定し続けてきた最悪の展開だった。
「今現在、虹の島では外部からの種族を捕らえているわ。 彼らから魔力を無理やり奪い、ダイナブレイドの化石を復活させるエネルギーに転換させる装置が、とうとう完成したの」
「そ、そんな!! サファイアやマスター達はどうなるのよ!?」
魔力を奪うと言うことは、サファイア達に危害が加えられると言う事だ。 彼らを救出するために、監禁場所と解放の鍵を探すために『アニマ連合』に潜入していたケケ達に取って、これはあまりにも過酷なタイムリミットの宣告だ。
「……『アニマ連合』の目的は、過去の復讐。 わざわざ部外者のティンクルやヒトガタを、生かす必要はないわ」
「そんな……」
チュチュの宣告に、ケケは呆然と立ち尽くす。 完全に警戒心が解けたと分かったチュチュは本題に、ケケをマルク達と合流させる方向に取り掛かる。
「お願いだから、今は私を信じて。 今からあなたを安全な場所ーーマルクやウォンキィ達の場所へ案内をーー」
「ここかぁ!! ヒトガタ女」
廃屋の下層の入り口を蹴破りながら、ナゴが颯爽と登場する。 ホコリを撒き散らしながら吹き飛ばされた扉は大きな音を立てて、怒り狂う侵入者の来訪をケケとチュチュに警告した。
「やばい!!」
ほぼ同時に二人の声が重なった。 駆け足で階段を登る音がして、登り切るとナゴが急ブレーキをかけて上層へ到達した。 目の前には、チュチュの姿一つだけだ。
「あら、ナゴさん」
「おミャー、こんなところで何してる、チュチュ」
かなり走り回ってケケを探していたのだろう。 肩で息をしながらナゴは睨みをきかせてチュチュに話しかける。
チュチュの足元、真っ暗な倉庫でよく見えないが黒い装束が見えていた。 中にいる『何か』はすぐにそれを引っ込めると、チュチュはいつもギルドでやってる『営業スマイル』でナゴの警戒心をほぐすために答えた。
「やだなぁ、私も侵入者の調査ですよ。 同じ『アニマ連合』の仲間じゃないですか」
「……ふんっ、ついてこい。 おミャーがいるぐらいでも多少マシになるかもしれニャい」
そう言ってナゴが背中を向けた途端に、装束を引きずりながらもゆっくりチュチュは歩き出す。 すぐ横に迫っていた、もう一人の影も気付かずにーー。
「ニャ? リック、ゴルルムンバ。 キャロラインはどこに行った」
入り口を見るや否や、さっきまでいた幹部の紅一点がいない事にナゴは気付いた。 そんな彼の疑問に、呼ばれた二人は黙って奥を指さしている。
「チュチュが裏切ったのか……取り込まれたのかわからないけど、ナゴは誤魔化せても私の目は誤魔化せないよ」
キャロラインは右手の爪をチュチュの頭に食い込ませて持ち上げていた。 苦しそうにもがくチュチュの下にはケケの姿。
「ちょ、ちょっと!! 離してよ」
ケケがキャロラインの右腕を掴むとすぐにキャロラインはチュチュを離した。 食い込んだ爪痕から薄ら血が滲み出ている。
「……仲間でしょ?」
「ハハッ、侵入者を隠匿する奴は仲間だろうが粛清の対象だろうが」
リックは笑いながらケケの言葉を一蹴する。 すぐ横ではナゴが独り言を呟きながら、キャロラインの前に立つ。
「おい、キャロライン。 コイツはオイラにやらせろ」
「甘っちょろい様子見せたら、すぐに交代だからね」
鼻息荒く、ケケをまっすぐ睨みつけてるナゴの仁王立ち。 彼もケケをさっきまでアニマの仲間だと信じていたので、怒りの程は大きい。
すぐ横には傷ついたチュチュ。 さっきの様に走り回って逃げる事は叶わない。 ケケは覚悟を決め、ガントレットに電撃を溜める。
「待って…相手は幹部……叶うわけがない」
チュチュの警告は尤もだった。 仲間は『アニマ連合』にとらわれている。 だがチュチュを見捨てる訳にも、抱えてマルクやピッチ達を探す時間も無いのはケケは分かっていた。
そしてこれはーーケケの決死の覚悟だった。
「逃げるわけにはいかない。 私だって『七彩の暴食』の一人なんだから」