あしかのらいぶらりぃ
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執筆者: ディン/投稿日時: 2023/01/12(木) 02:08:48
投稿者コメント:
今回で三十話に到達しました。
そして、これからは新章・虹の島『アニマ連合編』です。
いきなり思い切り長い前振りになっていますが、頑張って書いていきます。

どうかよろしくお願いします。
第三十話 格闘王への道
 ププビレッジの朝は早い。 朝日とともに羊たちが小屋を出て、草を食べては気高い鳴き声がこだまする。
鶏の鳴き声の代わりとばかりのそれと同時に、占い小屋、ガソリンスタンド、コンビニとキャピィ族が経営している店が次々と開かれて人の声が漏れ出てくる。
『七彩の暴食』に所属している冒険者たちも、ウォーミングアップとばかりに外に出て体操をしたり、ジョギングを始める時間だ。 まばらに「おはよう」と軽い挨拶も聞こえてくる。
村の大通りに、人々が一度顔を合わせて「今日もよろしく」と声をかけようとしたその時に、大きな二階建てのベランダから、大きな声が聞こえてきた。

「今日は!! 俺が!! 主役だぁぁ!!」
大きな金切り声がすると同時に、一気に周囲の目はそこに集まった。 『七彩の暴食』のギルドに所属している冒険者御用達の二階建ての集合住宅地のベランダには、両手のボクシンググローブを天に突き上げて、小型の犬のアニマがそれは意気揚々に目を輝かせていた。
「デッシーの奴、張り切ってるなー」
コンビニの店長、タゴが笑いながらそれを見つめている。 彼がオーナーを務めるコンビニの入り口には、一枚の告知チラシが大きく張り出されていた。

『格闘王求ム!! 第XX回 かち割りコロシアム』

『優勝賞品は 虹の島遊覧チケット』

デッシーは、ベランダからそのコンビニの告知を見つめて、ボクシンググローブを前に突き出して、今一度叫んだ。
「格闘王に、俺はなる!!」


  第三十話 格闘王への道


 ププビレッジから、西へ西へと数十キロメートル。 平均的なスピードを出せるエアライドマシンで二時間ほど。
ププビレッジのような緑も豊かな田舎とは、全く正反対ともいえる都会の街バタービルディング。 そこに『七彩の暴食』の皆は足を運んでいた。
「見て見て、ピッ君!! このアイスクリームすっごくおいしい!!」
都会の店からカップ容器のアイスを持って出てきたケケは、目を輝かせながらピッチにそれを見せる。 ピッチは突然ハイテンションのケケに気圧されるも、ケケから渡されたアイスを受け取る。
「ケケったら、ずっとこの調子なんだから……あっ、美味しい」
ピッチもケケから貰ったアイスを口にして声を上げる。 そんな二人を見て、ため息交じりにブレイドナイトは呟いた。
「二人とも、早く中に入りな。 もう皆応援席についてるんだから」
そう言ってブレイドナイトは大きな円形闘技場の入り口の前に立っている。 大きな看板が目立つように派手な配色で、『かち割りコロシアム会場』と書かれていた。

ケケ達は円形闘技場の入り口から突き進む。 目の前には出口の光が見える一本道。 大きな歓声がこだましている通路を抜けると、老若男女多数の客が席を埋め尽くさんとばかりにコロシアムに集っている。
耳を裂くような大歓声、ケケは一瞬圧倒されるがブレイドに誘われるがまま通路を通り、客席に腰を掛けた。
「ケケ、ピッチ。 買い物は済んだのか?」
そこには先に席に座っていたマルクがジュースをすすっていた。 ケケとピッチはその問いかけに親指を立ててばっちりと返す。
「ケケの買い物が長かったんだよ。 それ以外は問題なし」
「ピッ君だって、何だかんだ付き合ってたじゃん。 あ、マルクさんはホットドックでしたよね」
ケケから差し出されたホットドック十本、マルクはそれを受け取ると一気に口の中に頬張る。 そのままホットドックをさしていた串だけを器用に引き抜くと咀嚼を始める。 マルクの毎度おなじみの一気食いの栄養補給。 ケケももう見慣れたものだ。
「サファイアとデッシーの出番はまだなの?」
「これからなのサ。 ちょうど今から二人の出番」
マルクの言う通り、闘技場の中央にはサファイアとデッシーの姿があった。 二人の他に、何人かの屈強そうな男たちが腕を振るって気張っている。

「おお、出たぞ!! サファイア―、デッシー!!」
「頑張れよー!!」
マルク達の周りには、『七彩の暴食』のみんなが集まって二人の応援をしている。 闘技場は四方八方から大歓声なので彼らの声が二人に届くかは厳しいが、皆全力で二人に向かって叫んでいる。
「……おい、サファイアあっちか?」
「いや、あれじゃないか? ほら、ブレイドの甲冑が見える」
闘技場のど真ん中、二人は見上げながら客席を指さしていた。 確かにそこにはピンク色の甲冑が見える、二人も見慣れているその姿はブレイドナイトだ。
ブレイドナイトは、叫んでいるギルドの皆とは別に、腕を組んでどっしりと構えて座っている。 そんな彼女は甲冑の奥から視線をサファイアとデッシーの二人をしっかりとらえている。
まるで『しっかりやんなよ』と言いたげの威圧感。 客席から闘技場にしっかり届くそのオーラに、サファイアとデッシーは圧を受ける。
「……勝たなかったら、何されるんだろうな」
「少なくとも、ごめんじゃ済まなさそうだ」

「ウチは小さな集落のぶん、妙な噂一つでギルドの評判に関わるんだから」
ブレイドはそう言いながらチュロスを頬張っている。 彼女も意図的に二人にプレッシャーを送っているようだ。 ブレイドはそう言うと、ケケの持っていたフライドポテトを一本抜きとり、口に運ぶ。
「やるならきっちり勝ってもらわなきゃ」
言葉は優しいものの、目は鋭いものだった。 ケケはこわばり、喉を鳴らす。 すると会場に設置されてる拡声器から、声が聞こえてきた。
『えー、皆さんこんにちは。 今回の格闘王の司会をさせていただく、ウォーキーというものです!!』
客席のどこかに、放送席があるらしい。 そこから司会をしているウォーキーは、闘技場にいる選手を見つめて話を続ける。
『今回集まってくださった力自慢!! 今日はギルドや力仕事ではなく、この数多の客を熱狂させるのが、キミ達に課せられた使命だ!!』
ウォーキーの口上と同時に、客席から大歓声がこだまする。 その熱狂ぶりに参加者の何人かは負けじと叫び、ある参加者は目を閉じて集中をしている。
『今回もルールはいたってシンプル!! サンドバックさん相手に思う存分力をぶつけろ!! 一番高得点を取った者が、優勝だ!!』

「サンドバックさん??」
ケケがその言葉をおうむ返しに聞いて首をかしげる。 それと同時に空から一体の小さなガレブのぬいぐるみが降ってくる。
それはサファイア達のいる闘技場の中央に綺麗に着地する。 大きさ的にサファイアやデッシーと同じぐらいか、それは闘技場にある大きなモニターに映し出され、観客席からも歓声がする。

「きゃー!!」
「これこれ、コイツを見に来たんだ―」
「みんな頑張れよー!!」
サンドバックさんを見た途端、観客のボルテージは上がってくる。 ケケは何でこんなにテンションが上がっているのか、理解が追い付かないまま、会場の空気に飲み込まれる。
「あの、ピッ君」
「ケケ、すぐわかるから」
ピッチはそれだけを言うと、指先を闘技場に向ける。 ケケはいわれるがまま視線を向けると、ちょうど一人目の挑戦者が、拳を振るってぬいぐるみを思いきり――。


 ――天に向かって、殴り上げ。

「ほんぎゃあああ!!」

 ――そして、ぬいぐるみから情けない叫び声が聞こえた。
「えっ、何あれ」
初めて耳にした叫び声に、ケケは思わず本音の感想が飛び出した。 口にしていたフライドポテトも落としながら、空に飛んで落下していくぬいぐるみを見て呆然とするケケ。
その一方で、客席は爆笑の渦に包まれる。
『いやー、今年もスポンサーをしてくださるガレブさんのうつし身の人形、素晴らしい悲鳴です!!』
ウォーキーは変わらないテンションで実況を続ける。 人形は闘技場の中央に着地すると、裂けて綿が見えている口元をゆっくり動かす。
「……よ、413痛ぇ」
人形はそれだけを言うと電光掲示板に挑戦者の名前と数字が表示された。 その後暫定順位表と出た項目に、挑戦者の名前と人形が言った数字が映し出された。
ケケはその一部始終を見て、気難しそうな顔をしていた。 なんだか、納得いかないようなそんな表情ではある。
「……なんか、もっと、こう。 男と男の拳一つの勝負とか、そういうのかと」
「言いたいことは分かるよ、私も最初に見た時、ケケと同じ感想を持ったものさ」
ブレイドは何度も首を縦に振ってケケの意見に肯定した。 それとは正反対に、客席の熱狂はケケを置いてけぼりにするには十分な状況だ。

『さあ、どんどんまいりましょう。 今回も最後まで目が離せません!! ガレブさん人形の痛覚がいつ無くなるか、それまでに全参加者まで回るでしょうか!!』
この大会に詳細なルールなど存在しない。 ただ殴り続けて高得点を叩きだした者が優勝である。 参加者が全員人形を殴る前に、人形そのものがギブアップを宣言し、暫定一位がそのまま優勝だった年もあるのだ。
そして、全員が一通り人形を殴った場合は――。

『おおっと、今年の人形はタフだぞ!! 全参加者が無事一回目のパンチを成功させました!!』
ウォーキーのその司会進行と同時に、順位表が表示される。 表の半分が暗い網掛けで埋め尽くされると何人かの参加者たちは肩を落とす。
『現在名前が残ってる人達以外!! 残念ですがここで敗退です!! お疲れさまでした』
その司会と同時に敗退が決まった参加者たちは闘技場を後にする。 中央には、生き残った参加者達が睨みあっている。 そこには、サファイアとデッシーもいた。

「ちゃんと残ってるな、デッシー」
「ったりめーよ!! そこらのおっさんとは鍛え方が違うんだい」
デッシーは誇らしげに笑い、サファイアは顔色一つ変えない。 お互い、まだ全力を出してないぞとけん制しているようだ。
『さあ、二巡目です。 疲れただの、手が痛いだの、弱音を吐く奴は漢じゃねーぞ!!』
ウォーキーの発破をかけるような実況も、観客たちを熱狂させるものだ。 一人、また一人と参加者たちがガレブさん人形に殴りかかる。
そして、それと同時にガレブさん人形の悲鳴も客席にこだまする。 そんな悲鳴に観客たちは笑い、拍手喝さいを送る。 『七彩の暴食』のみんなも、マルクもピッチも拍手をして参加者と人形をたたえあう。
――そして、ケケは。

「ちょっと、あの人形……可哀想、な、気が」
ひたすら殴られ役の人形を、憐れんでいた。 サファイアとデッシーの順番が来る前に、あの人形の限界が来るのではないか、という一抹の不安もよぎる。
「大丈夫なのサ。 ケケ、あれはしょせん人形なのサ」
「そうそう、あの悲鳴はギャラリーを盛り上げるためだよ、ため」
マルクとピッチのそんな言葉も、ケケは理解はしていたが同情は隠せなかった。 そして、ある参加者のパンチで人形は高く舞い上がり――客席に向かって飛んでくる。
「わっ、こっちにくる」
ケケは思わず両手を突き出して人形をキャッチした。 それを見た周りの観客たちは大喝采。 ケケに拍手を送る。
「嬢ちゃん、ナイスキャッチ!!」
「とったら投げ返すんだぞ。 大丈夫、ただの人形だ」
周りの客のアドバイスが聞こえる中、ケケはその人形をよく見た。 糸もほつれてボロボロだ。 先ほどの不安が的中するそのひどい状態の人形に、ケケは同情をした――が。

「……あー。 三大会ぶりの若い女の子だー。 ええ匂いじゃ」
「は?」
ガレブさん人形、いやただのエロオヤジみたいな言葉にケケは思わず耳を疑った。 そして人形はそのままケケに抱き着こうとする。
「毎度毎度大変なんじゃ、ここで小休止してええじゃろ――」
そんな言葉を遮るように、ケケはいつの間にかガントレットを取り出して人形の脳天を強く握りしめる。 そのまま電撃を流し込むと、『アベベ』と情けない悲鳴を上げながら人形は目を白黒させる。
「さっさと――戻れっ!!」
ケケは振りかぶって人形を闘技場へ思いきりぶん投げる。 闘技場中央に見事に放り出された人形に、観客たちは大喝采。 ケケは眉間にしわを寄せ呼吸を荒げて、サファイアとデッシーに向かって叫んだ。
「サファイア!! デッシーさん!! そいつ、消し炭にして!!」
『あの、責任者がそちらに向かっているので壊すのだけは勘弁してください』
ウォーキーの申し訳なさそうな謝罪が聞こえる。 しかし『七彩の暴食』の一部からは、しっかりと人形にブーイングが向けられていた。



 ――そして、大会は終盤。
円卓の闘技場の中央には、とうとう三人の参加者が残った。 サファイア、デッシー、そして残りはナックルジョーと名乗る青年だ。
「あいつは――確かバタービルディングのギルドの」
デッシーの言葉通り、ナックルジョーにはまるでホームのような大歓声が向けられていた。 観客たちからは、ジョーコールが聞こえてくる。
「俺たちの『バトルクラブ』のヒーロー、ナックルジョーだ!!」
「今回も頼むぞー!! お前に賭けてるんだからな!!」
「よそ者もがんばれよー」
サファイアとデッシーに向けられている歓声は、冷やかし半分の様なものだ。 彼らの大半は、ナックルジョーが勝ちで決まり、と思っているようだ。
「……いやー、悪いねお二人さん。 完全アウェイは気が散るだろ」
ナックルジョーは半ば笑いながら声をかける。 ほぼ自分が勝ちで決まったと、自信を持ってる表情だ。
それもそのはず、ナックルジョーにとっては二人は『ププビレッジ』から来た田舎者。 適当にあしらって、終わらせてあげようという魂胆が丸見えだ。
「おいおいおい、お兄ちゃん。 バカにしてもらっちゃ困るね。 俺たちは優勝を狙いに来たんだから」
デッシーはナックルジョーの冷やかしにガン飛ばして応対する。 サファイアはデッシーの肩を掴んで、彼を抑えつける。
「やめとけ、デッシー。 バカの挑発に乗るなって」
「ハッハー!! バカな挑発って、ティンクルの脳みそは気楽でいいねー」
そう言いながら、ナックルジョーはガレブさん人形を天高く思い切り殴り飛ばす。 そのまま勢いよく空真っすぐ飛んでいく人形に、観客たちも首を見上げて、息をのんで見守る。
やがて、地面に落ちてきた人形は、既にボロボロだったが、必死に声を振り絞った。 これが、この人形の仕事なのだから。

「さ、30,190痛ぇ……」
その言葉に、観客のボルテージは最高潮!! ケケ達もその熱狂に、周りを見渡して浮足立つ。
「すげえ!! 三万超えたぁ!!」
「ジョーの奴、新記録じゃねえか!!」
360度からのナックルジョーコール!! もはやこの会場はナックルジョーが完全に支配をした。 司会のウォーキーも、声を震わせながら叫んだ。
『出た!! これが、これが、『バトルクラブ・殺人拳のジョー』だ!! 彼の拳に沈んだ闇ギルド、犯罪者は数知れず、バタービルディングの英雄ここにあり!!』

もうほとんどの観客達は、ナックルジョーの勝ちを確信していた。 中にはあざ笑うような目で、サファイアとデッシーを見る観客もいた。
田舎者、ウチのギルドを思い知ったか。 そんな声も消えてくる中、ケケは、ピッチは、心配になってサファイアとデッシーを見守っている。
「サファイア……デッシーさん……」
ケケの、そんな心配する声が歓声にかき消される中、大きな声が轟いた。 観客席から身を乗り出して、ブレイドナイトが親指を下につき下ろす。
「サファイア、デッシー、やっちまいな!!」
その言葉を聞いた途端、待ってましたとばかりにまずサファイア。 彼は右手の拳に氷を何重もまとわせて、大きなボクシンググローブを作り出した。
「おっ、本気でいいのか??」
「へっ?」
ナックルジョーのそんな間の抜けた声がしたと同時に、ガレブさん人形は轟音を立てて闘技場の中央に落下してきた。 人形の周りは真っ白な冷気と、氷の床が張り巡らされている。
「ご、50,012痛ぇ……」
ガレブさん人形のその言葉を、ナックルジョーは聞こえていたのか、いないのか。 そんな事はもはや問題外だった。

続くは、デッシーだ。 彼は、ガレブさん人形を手に取り引きずると、空高く放り投げる。 そして、彼もそれを追いかけるように、思い切り跳躍する!!
「オイラの超合金パンチ、サファイアとどっちが痛ぇか、でかい声で比べろよぉおおおお!!」
人形より高く飛んだデッシーは、そのまま人形に向かって飛び降りて――拳を叩きつけた。 落下スピードも相まってデッシーに殴られたまま闘技場に叩きつけられたは、ガレブさん人形!!

隕石のクレーターの様な穴ぼこの奥には、ガレブさん人形の手足がちぎれていた。 そのまま、クレーターから這い上がってくるデッシーは、人形に目を向けないまま歩き出し、サファイアとハイタッチをする。
「オイラの勝ちだ、コーラ一本な」
「虹の島の特産品の方が、いいんじゃねーの」
サファイアは悪戯っぽく笑って、デッシーを称えた。 ナックルジョーは、自分の勝ちをどこかで確信していた彼は、目の前の光景にただ震えているだけしかできなかった。
「う、嘘だろ……こんな、事が」


「60,560痛ぇ……」
この日、最後にガレブさん人形が発表したポイントは、大会新記録として歴史に名を刻むことになった。 予想外のポイントに、観客は歓声を忘れて、茫然と見届けるしかできなかった――サファイアとデッシーを応援していた、一部の集団を除いては。





 試合終了後、バタービルディングのとあるホテル。
ホテルのバーベキュー会場にて、机や椅子を幾つも重ねて表彰台に見立てたその最頂点に、デッシーは仁王立ちする。 周りからは、デッシーコールが『七彩の暴食』のみんなから巻き起こり、拍手喝さいだ。
「オイラの名前を、呼んでみろ!!」
「いよっ、デッシー社長、プププ一〜!!」
「今日は調子に乗れ、クソ野郎!!」
万雷の拍手、指笛が聞こえる中でサファイアはマルクとピッチに挟まれている。 サファイアも、せっかくの準優勝というのに浮かない表情だ。
「気にするなよ、二番」
ピッチは笑いながらサファイアにそう声をかける。 眉間にしわを寄せるサファイアは、スパゲティを口に運びながら、反論する。
「うるへえ」
「悔しさはいつか喜びに変わるのサ、二番」
「くやひくねえ」
スパゲティを食べながらの返答に、マルクとピッチは笑みを浮かべる。 その後ろから、イチゴのパフェを持ってやってきたケケ。 片手には虹の島の観光スポットの書かれたパンフレットを持っている。
「ねえねえみんな!! 虹の島の観光名所ね、一通りチェックしたんだけど見て見て!!」
そう言ってパンフレットを広げると、いろんなところにカラーペンでマーキングが。 マルクとピッチは目を向けながら、ケケに声をかける。
「オイオイ……」
「ケケ、この名所、何日で回るつもりなの??」
流石にこの量は回り切れないと言い却下される。 ケケは残念そうな声を上げてパンフレットを突き返される。
「やっぱりだめか……ブレイドさんにも無茶だって言われて」
「せめていくつか候補を絞るべきだよ」
ピッチの正論、ケケはそうだね。 と真返事をすると改めてパンフレットを読み返す。

「そうだ、ここ行きたいな。 えっと、『現地の言語ではこの島は『二番目』を意味する言葉です――」

「ケケ、てめえ!! お前もか!!」
スパゲティを食べ終わったサファイアは大声で叫んだ。 この日のホテルの一部は、夜遅くまで『七彩の暴食』の酒場のように、明るく騒がしいものだった――。





 ――ここから先は、サファイア達が虹の島に行った先の冒険録である。 そして、それらの記録は……。

「サファイア・デラム。 貴殿は我が虹の島の法律を犯し、同胞を外の世界に拉致した罪により――終身刑にする」
「……はい!?」

 人類の選抜へと、繋がっていく。

 サファイアが連れ込まれた大きな施設。 数多のアニマが集う集会所――その名は『アニマ連合』

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