第2話 無敵キャンディのBGMで一番のお気に入りは64版
カービィを語るにおいて外せない要素といえば、『コピー能力』である。
敵の特性を摂取して文字通り複製し、それを使って謎解きをするのはカービィの醍醐味の一つと言える。
そして、そのコピーの仕様はまた様々な作品において変革を遂げていく。
例えば、ある作品では全く別の能力同士を統合されたり、新たにコマンドが追加されたりもする。
全く見たこともない新しいコピーとの出会いも一期一会、その度にカービィは様々な体術を会得し、戦士としての力をまざまざと見せるのである。
「き、きたぞ! ホイールをコピーしている」
カービィを迎え撃つ敵キャラたちの目の前には一つのタイヤに変身したカービィがこちらに突撃する姿。また彼に巻き込まれた同胞は弾き消えていっている。
「クッソー!このまま終わるか!」
チリーが冷気を吐き出し、地面の一部を氷漬けにする。そこはホイール状態のカービィの動線と一致している。
「ワハハ!スリップしてしまえ」
チリーの目論見、高速移動するホイールが氷漬けで滑りやすくなった道の上に乗ると、スリップ。その一瞬残ったみんなで袋叩き……完ぺきと思える作戦だが、カービィのホイールは真っ青に変色した。
「し、しまった!巻物所持だ!!」
先ほどまで、弾かれ消えていた敵キャラは今度は氷ブロックに閉じ込められる。そしてそれはカービィのホイールに押しのけられ、前方に飛んでいく。
「ぎゃあ!」
「うわあ!」
前から飛んできたブロックと衝突した敵キャラたちが次々と倒れ、道は開かれる。カービィはそんな彼らを尻目に開かれたある場所へそのままホイールで突っ込んでいく、とそこはカービィを迎えたと同時にシャッターが下りた。
「クッソ〜!宝箱をとられた〜」
こうして彼らはまたしても一矢報いることすらも叶わずカービィに敗北した。 シャッターの向こうは空っぽになった宝箱がむき出しの状態でむなしく放置されているだけだった。
「クッソ〜!コピー能力ってずるいわ!」
ステージの何処かにある敵キャラたちの休憩所、自分たちの持ち寄った食べ物を食べながら、カービィに恨み言と愚痴を言うのがいつもの光景である。
「悔しいよワドルドゥ、僕だってトロッコや槍を使えるのに、いつでも基本スカキャラ扱いなんだよ」
「俺もだワドルディよ、バリエーションがパラソルだけとか俺の存在意義がワドルディの劣化版みたいで悲しいんだ」
「だいたいあいつ一人だけで何種類もの技術体術を操れるなんて不公平なんだ!」
テーブルを叩きつけながら誰かが叫んだ。それを聞いた敵キャラたちは水を打ったように静まり返ったが、やがて異口同音にそれを肯定する。
「でも、こっちもいろんな仲間集めてカービィに寄ってたかっていくよね」
「まあ…でも、そうしないと俺たち勝てないわけだし」
カービィはそもそもスライディングやホバリング、空気弾と吸い込みとアドバンテージが豊富だ。
これに加えて、コピーで様々な体術を使われるとなると、まさに鬼に金棒。 多勢に無勢でかからないと勝てないと、敵キャラたちは分かっていた。
「せめて、奴のその動きを制限できたらいいだけどなあ」
そう、対戦で一番有利になるのは相手の行動範囲を狭める事。 カービィが動ける場所さえなければ、こちらの攻撃当て放題だし、戦略は一気に拡大する。
「…行動を、狭める。 か」
それを聞いた一人の敵キャラがちらっと横を見る。すると一人の敵キャラはWiiUを使って遊んでいる。
「お前何遊んでんだよ!みんな必死なのに」
「スーパーマリオメーカー。 この密集ステージめっちゃ難しいんだ、時間制限あるし」
そう言われて画面を見ると、確かに所狭しとマリオシリーズの敵キャラが密集していた。もうどこにマリオがいるのか、ゴールの旗があるのかわからないほどにごちゃごちゃしているが、それを見た敵キャラはハッとする。
「…そうか、その手があったか!」
☆
とあるステージ、とある場所。 そこでカービィをやり込んだ人なら嫌でも聞いた、敗北BGMが響き渡る。
泥だらけ傷だらけになって転がっていくピンクボールを、敵キャラたちは笑いながら見ていく。
「あっはっは!どうだ、俺たちの勝ちだ」
カービィの残機が減っていくのを見て、彼らは誇らしげに笑う。 彼らのとった作戦、それはゴール周辺に守りを徹底に固めてカービィを妨害することだった。
幾重にも輪のようにゴール扉を取り囲み、カービィが突貫しようが隙を見せるとダメージを与える事ができる。まさに彼らなりに見つけた最強の布陣。
「あっはっは!もう諦めろカービィ、お前のダメージを受けた後の無敵時間も計算の上ゴールは取り囲んでいる! お前はここでゲームオーバーだ!」
ここまでくると無理ゲーというより、クソゲーの域だが彼らも彼らなりに必死の抵抗。カービィに負けないように日々死に物狂いなのだ。
「くっくっく、これで今回は俺たちの完全勝利、無敵キャンディが5本ストックされてない限り、この布陣を破ることは不可能」
そう、誰もがそう思っていた。
横目に見ると、枝のような緑の触手に一つ、大きな赤い木の実が生えてきた。
カービィと、敵キャラの群れはそれを見た瞬間顔色を変える。
片方は、希望。 もう片方は、絶望。
「き、きせきの実…」
「や、やばい!あれをカービィに食わせるなああああ!!」
そう叫んだのもつかの間、カービィの身体はあっという間に虹色に包まれる。これはきせきの実を摂取した状態でないと見れない『ビックバンカービィ』!
形成は、一瞬に逆転した。見る見るうちに青ざめていく敵キャラの顔色と、対照的にカービィは鬱憤を晴らすかのごとくに、不敵な笑みを浮かべた。 その笑み、まさに悪魔の如し。
「に…逃げろ! 吸い込まれるぞっ」
そう叫んだ途端、彼らの身体は一気にカービィに吸い寄せられた。 あの小さな口からどうやって出ているのかわからない世界でただ一つの吸引力!
ある者は走り出し、ある者は柱なり地面にしがみつき、ある者は障害物に身を隠す。
が、それを諸共せずカービィはまるごと敵キャラを吸い込んでいく。どんどん、どんどん彼らの叫び声が聞き取りにくくなる中で、ステージ内部も質素で簡素になってしまった。
「…ゴホッゴホッ、ケホン」
既に台風一過とも言える殺風景な中、カービィはとあるものを吐き出した。 先程まで、敵キャラのみんなが守っていたはずの、ゴール扉だ。
敵キャラのみんなは、ある誤算を忘れていたのだ。マリオの攻撃手段は、踏みつけとファイアボールしか基本はないが、このピンクの悪魔は『なんでもあり』だった。 と。
スッキリした笑顔を浮かべて、カービィはゴールの扉をくぐっていく。 めでたくステージクリア、そんな晴れやかなカービィの腹の中では、悲痛な叫びが聞こえていたのだが、それはまた別の話。
「くっそ〜! 主人公補正なんて、大っ嫌いだ〜」
タイミングよく、攻略アイテムが落ちているのはゲームではよくある事。