あしかのらいぶらりぃ
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執筆者: ディン/投稿日時: 2022/10/02(日) 23:54:59
投稿者コメント:
この章はこれで終わりじゃないぞ。
もうちっとだけ続くんじゃ。

毎回個人的にキリのいいところで終わらせようとしているのですが、書きたいものを書いているとその分削らなければいけないのが多くなっていきます。

会話と地の文のバランスもしっかりしないといけません。 素直に反省です。
第二十八話 シミラの奥義・コピーとの衝突
「おお!! ケケちゃん、ピッチ、マルク!! お前ら探したぞ、どこほっつき歩いてたんだ」
ププビレッジのど真ん中で、突然現れた形でシミラの鏡の世界から戻ってきたケケ達に、『七彩の暴食』の皆とキャピィ族の視線が集まる。 その様子を見て、サファイアを乗っ取ったシミラは天を仰ぎながら彼の顔に張り付いていた『全年齢向け』の表示を――手で引き剥がした。
「ああ――ようやく拝めた、外の世界の太陽!! ティンクルの身体はまだ慣れないし、この子もそんなにいい姿じゃないけど――新しい人生を始めるにはまぁまぁな身体ね」
サファイアinシミラ――いつもの目つきではない、ハイライトのない黄色一色の両目を灯したサファイア――彼女は乗っ取った体を好き勝手に物申すが、そんな事情は彼女とケケ達しか知りえない。 暴食のメンバーとキャピィ族の皆は突然サファイアの性格が何もかも変わった様子を見て、顔を引きつらせる。

「お、おいサファイア――そんなんだったっけお前??」
「暑さでやられちまったのかぁ? サモのバーで変な酒でも飲んだとか??」
サファイアの顔の前に手をかざして、ホヘッドが心配そうに声をかける。 そんな反応に舌打ちをしながら、シミラは器用にサファイアの身体を操りホヘッドを払いのけた。
「私の『新しい身体』に気安く触るんじゃない!! 私はセクシービューティなシミラ様よっ」
そんな自信満々に叫ぶシミラの背後から、いくつかの矢が飛んでくる。 すぐさま背後を振り返るシミラは、サファイアの身体を難なく操り、冷気を発揮させる。 矢はそのまま氷、地面に落ちた。
シミラと相対するように、マルクが翼を広げて臨戦態勢。 そのすぐ後ろには、ピッチとケケが構えている。 傍から見れば、サファイアとマルクたちが仲間割れを始めたようにしか見えないが。
「シミラ、計算違いしたのサ。 ここププビレッジはボクらのホームグラウンド。 つまり周り全員が君の敵なのサ」
「サファイアの体一つでも、暴食の皆でかかれば取り押さえる事は不可能じゃないよ」
ピッチが自信満々に両翼を広げて威嚇のようなポーズをとる。 彼の重力魔法で、頭上から押さえつけられたらシミラも逃げる術はない――ケケは確信し、周りにいるメンバーたちに声を上げる。
「皆さん!! サファイアを抑えるの、手伝ってください!! 操られているんです!!」
ケケの言葉に、『七彩の暴食』のメンバーたちは騒ぎ出す。 そんな中、ホヘッドが隣のメンバーとともに声をあげた。

「まじかよ、あのサファイアが操られてるって、どんなヘマしたのか、凄い敵なのか?!」
「まじかよ、あのサファイアが操られてるって、どんなへましたのか、凄い敵なのか!?」

静寂。 ほぼ同じ声色で、同じ言葉が響くと皆が耳を疑う。 まるでエコーしたかのようにホヘッドの声が続けて聞こえてきていたのだ。
するとそこには本物のホヘッドと全く瓜二つの姿をした『もう一人のホヘッド』が。 二人のホヘッドはしばらく自分たちを見つめると、静寂を打ち破るように、叫んだ。
「な、なんで俺が二人も!?」
「どこから出てきたんだよ、この偽物?!」
がっぷりよつに互いの手を組みあって、顔を突き合わせる。 二人のホヘッドの口からは小さく炎がいきまいて、互いに声を張り上げた。
「てめぇ!! マネするんじゃねえ、偽物!!」
「そっちこそ!? マネするんじゃねえ、偽物!?」
そんな二人のホヘッドの喧騒に、ケケはハッとして周りを見る。 そこには、彼らと同じように他の暴食のメンバーと『瓜二つのもう一人の自分』が、にらみ合っているではないか!!


 第二十八話 シミラの奥義・コピーとの衝突



「お、おい!! 俺にも偽物が出てきてる!!」
「お前の方が偽物だろ?! 失せろ、偽物?!」
そんな光景が、点々と散見される。 彼女は、苦虫をかむような表情を浮かべて、マルクとピッチに声をかけた。
「マルクさん、ピッ君。 すぐシミラを倒すよ!!」
「ケケ、この光景、まずはどういうことか説明しろなのサ!!」
そう言いながら、マルクは翼から矢をサファイアに向かって放出する。 サファイア――シミラは目の前に飛んでくる矢を冷気で凍らせると、すぐにその凍った矢を掴んで、砕いた。
「力も申し分ない。 昔の身体とは、全く違う新鮮な気持ち!!」
シミラのうっとりとした表情は、サファイアがそのまま気味の悪い笑みになっている。 ピッチは初めて見るサファイアの『変な顔』に背筋を凍らせて、答えにたどり着いた。
「つまり――シミラがサファイアの身体を乗っ取ったって事!?」
「そして、ホヘッドさんたちの偽物が出てきてるのは――きっとシミラのとっておきの魔法」
ケケは横目に『もう一人の自分』と衝突しているホヘッド達の様子を見る。 彼らも、突然出てきた自分の偽物に手間取り、対応に苦慮しているようだ。 そして、そんな皆を見てププビレッジの住民のキャピィ族たちは、走り出す。

「うわあ!! 逃げろぉ!!」
「きっと俺たちの偽物も出てくるぞ、自分に殺されちまう!!」
『七彩の暴食』とは違い、ププビレッジで自営業を営んだり、平穏に暮らしてるキャピィ族達は戦ったり争う術を持たない。 ホヘッド達の様に、もう一人の自分とタイマンの勝負を強要されたら、勝ち目はないのだ。
そんなキャピィ族達を見て、シミラはサファイアの身体を借りた目で、冷たく見届ける。 ため息交じりに、見捨てるように呟いた。
「あんな雑魚連中、コピーするわけないじゃない。 こっちだって一人コピーを作るのに大変なんだから」
「コピー!? それじゃあ、ホヘッド達の偽物を作ったのは――」
マルクの言葉に、シミラは笑みを浮かべる。 「そう――私」と、答えようと彼女が口を開けたその刹那、頬に止まった蚊を潰すように、サファイアの右手は顔面を思いきり叩いた。
「な!?」
「へ!?」
「痛っ!!」
その光景は、サファイアが自分で自分を殴ったようだった。 サファイアを乗っ取ったシミラは足取りを崩し、よろめくと顔面の右半分に生気が戻っていた。
「――っはぁ!! 死ぬかと思ったぁ!!」
サファイアだ。 シミラの洗脳は上手くいってなかったのか、サファイアが強かったのか。 いつもの目つきと、シミラの様なハイライトのない黄色い丸い目が同時に存在しているようだ。
「サファイア、良かった。 無事だった」
「いや、この目つきは――無事なのか、病気なのか……心配になるというか、怖いのサ」
マルクのその言葉通り、見る側には不安しか感じられない姿だが、すぐにその目つきは両目が黄色一色になる。 シミラの支配が強まったのだ。
「こいつ……おとなしくなさい!! この身体は今日から私のもの、そして――この村は」
シミラは片手をかざすとププビレッジの民家の窓ガラスが輝きだす。 そこに映っていたケケや、マルクたち――『七彩の暴食』のメンバーと瓜二つの影が、窓から実体化してきたのだ。
「私が支配するんだからぁ!!」
シミラのとっておき、彼女の技は――複製。 他人を映し出し、作り出す力である。
窓の中から出てきたそれは、まるでマジックの様に次々と現れる。 その怪奇的な現象に、逃げ遅れてるキャピィ族の悲鳴がさらに大きくなる。
「まずいのサ……、おい皆!! シミラが作り出した幻、消していくぞ」
「幻とは、酷い評価ね。 結構本物に近い仕上がりなんですけど」
シミラは少しばかり自慢げに、声をかける。 彼女の横には、ケケ、マルク、ピッチのコピーが顕現されており、横並びに立っていた。
それを確かにまじまじと見ると、自分が目の前にいるようだった。 シミラはコピーと、本物を見比べて満足げに首を縦に振る。

「うんうん、初めてにしては上出来上出来。 私もダークマインド様並みに才能があるのかもね」
「ほーん?? そんな偽物作って、ボクに勝てる気でいるのかい、お嬢さん」
マルクは挑発的に見下して、目の前にいる自分を蹴り飛ばした。 無反応でマルクのコピーは空中に放り出され、地上から本物のマルクは羽を広げて翼から矢を用意した。
「五秒で消してやるの――あっ」
マルクは地上に放り上げた偽物の様子を見て、顔色を変えた。 偽物の身体は真っ二つに割れていて、中から真っ黒な渦ができている。 これはマルクの必殺技の一つ、すべてを呑み込む『ブラックホール』の起動だ。

「おまっ、村のど真ん中でそれは無しだろぉ!!」
マルクは慌てながら翼を広げて、コピーの頭上のさらに上に空を飛んだ。 コピーはそのままマルクに標準を合わせて、ブラックホールの向きを空に向ける。 そのままコピーは、空に向かって吸引を開始する。
「くっそっ、これでも食っとけ馬鹿」
マルクは糸でつるした人形を帽子の奥から取り出した。 それをそのまま手放すと、コピーマルクは人形を吸い込んでブラックホールを閉じた。 そんな彼の様子を見て、マルクは冷や汗をかきながらホッと息をついた。
「やべーやべー。 ププビレッジでブラックホールなんて、マスターにばれたら説教どころじゃないのサ」
マルクとコピーマルクの空中戦を眺めていたケケとピッチは、その攻撃の応酬に気を取られていた。 視線はくぎ付け、そんな二人の背後、ピッチの後ろに肩を叩く音が。
「ピッ君、後ろ!!」
「え、何?! ごぉ」
シミラによって作り出されたピッチのコピー。 彼は拳を鉄のように固くして、本物のピッチの顔面に思いきり叩きつける。 そのまま、本物ピッチは吹き飛ばされる。
「そ、その技……まだ練習中なんだけど!?」
ピッチにとってはまだ使ったことのない技での攻撃で、呆気にとられたようだ。 そのまま空中で止まり、口元の血をぬぐうと下唇をかみしめる。
「くっそー、偽物に負けてたまるかよ!! ケケ、一緒にコピー倒すよ……」
ピッチは、横にいたケケとチームを組んで戦うつもりで、彼女に声をかけた。 しかし、そのすぐ横ではケケはキャピィ族のみんなの前で、黒装束をたくしあげているではないか。
「おお!!」
「ぎゃああああ!! 偽物があああ!!!」
突然の変質行為に本物のケケは近くの民家に会った竹箒を振り回しながらコピーをけん制する。 キャピィ族を『挑発』していたケケのコピーは、ニヤニヤと笑みを浮かべながら、黒装束に手をかけて、ひらひらと振り回している。 本物のケケを、挑発するように。
そして、シミラはそんな様子を見てまるで子供のように喜んでいた。 両手を叩いて、大口をあけて笑っている。
「あーっはっはっは!! いいわよぉ、私のコピー、どんどんやっちゃえ!!」
「あいつ、ぶっ飛ばす!!」
自分のコピーの先にいる、サファイアの姿を借りて笑っているシミラに向かってケケの殺意は向けられていた。 ケケに握られている竹箒は、ミシミシと割れるような音を立てていた。



「うおお!! くらえ偽物、ホヘッド様の火炎弾!!」
村の裏で、ホヘッドがシミラの力で作り出されたもう一人の自分に攻撃をする、偽物もほぼ同じタイミングで、火炎弾を吐き出してほぼ同じスピードで衝突する。
先ほどから、村のはずれに移動しながらホヘッドはこれを繰り返していた。 彼の意図通りシミラに作られた偽物は、本物のホヘッドに追尾し同じ攻撃をやってくる。
ホヘッドが火炎弾を出せば向こうのホヘッドも火炎弾を。 そしてそれは空中で衝突して、煤けた弾が地面に落ちる。
「くそっ、キリがないぞ……あいつ、いつになったらバテるんだ」
そう言って、移動をしようとした瞬間に聞き覚えのある声がする。 その方角を振り返ると、バヘッドがまたもう一人のバヘッド相手に巨大な泡を連続で噴出している。

「チクショウ偽物!! バヘッド様のバブル光線パクるんじゃねえよ!!」
バヘッドも、同じようにもう一人の自分と攻撃パターンが被って困っているようだ。 それを見たホヘッドは走り出すと、バヘッドの背後から飛び出した。
「バヘッド、ちょうどよかった!!」
「ホヘッド!? お前、何でここに」
そう聞いて、バヘッドが見た先にはもう一人のホヘッドの姿。 すれ違いざまにホヘッドはバヘッドに耳打ちをする。
「自分同士でやりあうから、決着つかないんだ。 お互いにお互い処理して、終わらせるぞ」
「なるほど、一理ある。 その提案、乗った」
バヘッドはホヘッドの作戦に同意し、背中合わせに互いの視線を交換する。 これで、ホヘッドはバヘッドの偽物と、バヘッドはホヘッドの偽物と対峙する形だ。
「行くぞ、偽物!!」
「俺たちのコンビネーション、くらいやがれ!!」
そうして、ホヘッドとバヘッドは同時に火炎弾とバブル光線を発射させた。 火炎弾はバヘッドに、バブル光線はホヘッドの偽物にそれぞれとびかかる――!!

……しかし、相手も同じだった。 ホヘッドが出した火炎弾は、相手も同じ攻撃を出すし、バヘッドのバブル光線もしかり。 同じ属性の攻撃の衝突から、互いに打ち消しあう攻撃の衝突に、変わっただけだったのだ。
「……」
「……なぁ、ホヘッド。 これ、どっちみち決着つかなくね??」
バヘッドの言葉に、ホヘッドは黙ったままだった。 図星だったのは、当然言うまでもない。


デッシーもまた、もう一人の自分と対峙していた。 彼はボクシンググローブを前に構え、連続で拳を突き出している。
「右アッパー!! 左フック、右ブロー!! 左ストレート!!」
叫び声と同時に、鏡の世界から出てきたデッシーも、同様に攻撃を繰り出している。 グローブが衝突音が聞こえるだけで、彼らの攻撃は一向に収まる事を知らない。
「チクショウ、こんなにイライラする相手、初めてだぞ!!」
いつもなら、もっと手ごたえあるのによぉ!! デッシーはそう叫びながら、ひたすら攻撃を繰り返す。 鏡のデッシーも、同じ様なことを叫びながらも、こちらの世界のデッシーのラッシュの応酬に負けじと応戦している。
「あああ!! イライラするぞ、もう反則技使っていいよなぁ!!」
デッシーはそういうと右足を突き上げてもう一人の自分の顔面に膝蹴りをかます。 しかし、次の瞬間には彼の目の前に同じ様に膝が飛んできている――結局、向こうのデッシーも全く同じ思考で、攻撃を切り替えてきている。
『こちらの世界』のデッシーは、ひとまず呼吸を整えるため、後ろに飛んで距離をとった。 そして、横目にそらした瞬間に、ウォンキィとガルルフィの姿が見える。
「ウォンキィ、ガルルフィ!! そっちは大丈夫かい!?」
デッシーはすぐにその二人に声をかけた。 その言葉を聞いたのか、ウォンキィとガルルフィはサムズアップのポーズをしながら、その場に倒れこんだ。
「なんとか……」
「自分に負けるわけには、行かないもんな」
とはいっても、勝ってもいない。 彼らの先には、同じ様にボロボロになりながらも倒れた、瓜二つのウォンキィとガルルフィの姿があったのだ。 つまるところ、相打ちである。
「……っ!! これじゃあ、どこに行っても同じかもね」
デッシーの読みは当たっていた。 シミラの実体化で生み出された『七彩の暴食』のコピー達は、相打ちに次ぐ相打ちで、本物を確実に追い詰めていたのだ。

 マルクは真っ二つになった体を元通りに合わせて、一息ついていた。 足元には、マルクが被っている二股帽子と瓜二つのものが落ちているが、それは鏡が割れる様に砕けていく。
「マルク、ブラックホール使ったの??」
ピッチの足元には、ぺしゃんこになったコピーがあった。 マルクは不敵な笑みを浮かべながら、指を立てて笑った。
「こっちにはこっちのとっておきがあるのサ。 あの女の作ったコピーはそこまで『学習』出来ていなかった」
「あ、なるほど。 コピーの考える事を上回ればいいんだ」
「そういう事なのサ。 それを証拠に――」
マルクは翼から何本の矢を様々な方向にぶっ放す。 すると周辺にいたコピー達は正面、あるいは背中からマルクの矢を受けると一気に動きを止める。
「止まった!! サンキューマルク!!」
ホヘッド達は自分たちのコピーの動きが止まった瞬間に攻撃の手を強める。 殴られ、燃やされ、『援護』を食らったコピー達はそのままトドメを受けて消滅する。
「どうやら、こいつらは『サシ』限定でしか対応できないみたいなのサ。 ホヘッドとバヘッドの戦いを見て気づいた」

マルクの理屈はこうだ。 どうせ相打ち狙いなら、コンビペアを組んで一対二でこちらの戦力を潰せば手っ取り早い。
ただし、シミラのコピーはマルクとはマルクのコピーと、ホヘッドとバヘッドのコンビでも二人のコピーで相手をしていた。
「ボクもバカだった。 最初から律義に取り合わずにアローアローでまとめて排除するべきだったのサ……」
「マルクさん、俺たちも一応頑張って偽物と戦ったんですよ」
ウォンキィとガルルフィは傷だらけになりながらも、悲しい目をしてマルクの背中を見つめていた。 しかしそんな二人の背後から、数回肩を叩く音がする。
振り返るとそこにはケケがいた。 彼女はほっとした笑顔で二人を見つめている。
「おお、ケケちゃん。 キミもコピーを倒したんだな」
「いやぁ、よかったよかった……後はサファイアを乗っ取ってるシミラを――」
ウォンキィとガルルフィの注目を引いたケケは、次の瞬間黒装束をたくし上げる。 にんまりと笑みを浮かべるケケと思わしき姿と、思わず視線を落とそうとするウォンキィとガルルフィの頭上に。
「あああ!! くたばれ偽物ぉおおお!!」
ケケの掌から放たれた雷が降り注いだ。 頭上から落ちてきた落雷に、『ケケのコピー』とウォンキィとガルルフィは見事に感電する。 一度、二度、骨が見えるお決まりの現象がマルク達の前に出てくると、焦げた地上のど真ん中には真っ赤な顔のケケが仁王立ちしている。
「はぁっ……はぁ……やっと消えた」
ケケは顔を真っ赤にしながら自身のコピーが最後にいた場所を思いきり足蹴にする。 タバコの火を消すように足裏で何度も地面を擦ると周りにあった『窓ガラスの破片』も砕けて、巻き添えになったウォンキィとガルルフィを肩を持って前後に振る。
「すいませんウォンキィさんガルルフィさん!! 何も見えてないですよね!! 見えてなかったですよね!!」
「お、おう……」
「おはようケケちゃん、今日はいい天気だな」
二人とそんな会話をした途端に、ケケは勇ましく立ち上がる。 ずっと奥には、二人と同じように黒焦げになったキャピィ族達の姿が幾つもあった。
「よし!! 今日もププビレッジは平和!!」
「ケケ、キミ恐怖政治の才能あるよ」
ピッチは怯えながらケケを見上げていた。 そんな姿を遠巻きから見ていた、サファイア――シミラが乗っ取った姿――が悔しそうにしている。

「そ、そんな……私のコピーが、こんな簡単に負けるなんて、何かのまちが――ふごっ」
その瞬間だった、サファイアの右手が自分の顔面に触れると一気に顔に氷がまとわりついて行く。 乗っ取ったシミラは急に自分の口や鼻に覆いふさがれる氷にパニックになりよろめくとケケ達の前に現れる。
「あ!! サファイア!!」
「いや、なんで顔に氷つけてるんだ、サファイア」
周りの言葉にシミラは聞く耳を貸す余裕もない、突然自分鼻と口に氷がまとわりパニックの彼女は、顔を真っ赤にしている。

(だ、だめ――これ以上呼吸が……コイツ、何らかの方法で自殺する気じゃ)
シミラはそう予感すると窓ガラスの前に仁王立ちする。 するとサファイアだけが映っていた窓ガラスに、シミラの姿が映ると同時に彼女は窓から一気に飛び出した。
「チクショウ、今度は他の魔導士に乗り移って――っ!!」
実体化して逃げようとした瞬間、サファイアは飛び出したシミラの腕をつかむと彼女の顔面と自身の氷の顔を衝突させる。 見事に頭突きを食らった形のシミラは顔を抱えてうろめき、サファイアの顔に付いた氷は砕けると彼のいつもの笑みが戻っていた。
「な、なぜ!? どうして!? 顔に氷が付いたままあんなに動けるなんて」
「ダテに氷の魔導士何年もやってないんだ。 あの程度の氷、顔にへばりついても一週間は呼吸が続く」
サファイアは腕に氷の刃を展開させてシミラと対峙する。 その後ろにも、マルク達が構えていてシミラを取り囲んだ状態だ。
「終わりだな。 謝まるなら今の内だ」
「謝る……?? ふざけないで、『私の獲物』を横取りした奴、許すものですか!!」
シミラはそれを言うと窓ガラスから一人の魔導士を実体化させた。 それを見るや否やケケ達はすくみ上り、震える。
「ウソでしょ……」
「お、おい!! アレは反則だろ!! なんでブレイドちゃんのコピーまでも!!」
シミラの横には、みんなが知るブレイドナイトのコピーが立っていた。 シミラは勝ち誇ったように笑い、握りこぶしを突き上げる。
「あなたの記憶の中を探らせてもらったわ!! この女、このギルドでの最強なんでしょ?? アンタ達はこのコピーに全滅させられるのよ!! そして――」


「私を笑い者にした奴らに復讐を――」
その瞬間だった。 シミラの横に仁王立ちしていたブレイドのコピーは、あっという間に細切れにされて消える。 その様子を見て、目を大きく見開いているシミラと、まるで怖いものを見ているかのようなケケやピッチ達は、背筋を伸ばして不動のままだった。
ピンクの甲冑を着た本物のブレイド――彼女の兜の奥は殺気がこもっていて、全ての者に微動だもさせない威圧感を放っている。
「……サファイア、マルク、ピッチ、ケケ」
「は、はい」
サファイアが声を引きつらせてブレイドの言葉に返事をする。 ブレイドは剣先を突き出して、優しい声色で問いかける。
「皆探してたんだよ、何かいう事は?」
「め、迷惑かけてごめんなさい」
ケケが涙声でブレイドの意中の答えを出すと、ブレイドは何度も頷いた。 そして、彼女はププビレッジを見渡すと、口を開いた。
「皆さん、子どもやお年寄りまで逃げて大変だったんだよ……急に消えたと思ったら今度は喧嘩かい?? ウチも随分えらいギルドになったもんだよ」
ブレイドの甲冑からでもわかる。 血管が浮き出てるぐらいに怒っていると、ホヘッド達は涙をぐっとこらえながら、目を瞑っている。
「騒ぎ起こして、マスターが帰ってきたら何言われるか」
「帰ってきたけど、何か用か?」
「マスター、ネス君、バタモンさんも!!」
ブレイドの後ろから顔をひょっこりと覗かせる様に、モソの姿が見えた。 その後ろには、エアライドマシンを片付けているバタモンと、ネスパーの姿が見える。

「しまった、こっちの世界のマスターに会うつもりはなかったのに」
シミラはそう言うとフードを深くかぶって走り出す。 その様子を見たモソは、顔を明るくして身を乗り出した。
「おお!! アイツは!! バタモン、早速手柄じゃ!! 本部とダークマインドさんに連絡せい」
「冗談じゃない、私はこの世界じゃ自由の身なのよ!! あんな国に今更戻ってたまるか!!」
逃げるように走り出す置き土産に、シミラは鏡からマルクのコピーを作り出す。 マルクのコピーは口から大きく開くと光線を吐き出す――マルク砲だ。
「ウソぉ!! マルクさん、あれやり返してください、やり返し」
ケケはマルクの背後に隠れながら頼み込む。 自分の攻撃を眺めているマルクは、笑いながらケケに言い返す。
「いいから、ここはマスターに任せるのサ」


どんどんと迫ってくる光線。 モソは無言で郵便の集荷袋を取り出した。
「久しぶりじゃなあ。 仕事をするというのも――さーてと」
集荷袋の口を広げた瞬間、まるで掃除機の吸引の様に光線は袋の中に入っていく。 自分のコピーの攻撃を吸収されてる様に、シミラは呆気に取られて逃げ足を止めている。
「は、はぁ!?」
「ほれ、魔法量と手数料、占めて1.7倍返しじゃ」
モソがそう言った瞬間、集荷袋からはマルクコピーよりも大きな光線がシミラに跳ね返ってきた。 呆気にとられたまま、シミラは何もできずに光線に包まれて――。

「どうして、私は――笑いものにした世間を見返したかっただけなのに!!」
光線に包まれた彼女の悲鳴は、ププビレッジに轟いた。 モソはバタモンから受け取った携帯に、笑顔で話しかけた。
「おい、手柄はウチがもらった。 すぐ来い」

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