あしかのらいぶらりぃ
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執筆者: ディン/投稿日時: 2022/08/01(月) 01:05:21
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ボムやプラズマなど、えげつないコピー能力が飛び交うエアライドに免許があれば、
パワーアップや操作技法より体力や死なない肉体の強さが注目されそうですね。 書いててそう思いました。
第二十三話 ケケとエアライド免許試験
「うん、このぐらいの大きさで大丈夫かな」
ププビレッジの海岸、その少し先にある切り立った断崖。 本来なら、そこは大人でも立ち入り禁止の場所である。
しかし『七彩の暴食』のネスパーはそんな危険であるはずの崖に小舟をつけて作業をしていた。 彼の手には、粘着テープが手にされており、崖には大柄の大人一人が通れるほどの枠が、テープで模られていた。
「横幅も、スイートスタッフが通れるぐらいだし……よし、そっちは大丈夫ですかー??」
ネスパーが念波で通信している先――そこでは海底の住民たちの代表、スイートスタッフに繋がっていた。 彼らの背後には、ネスパーが先ほど作っていた様に、粘着テープで模られた丸い円。
「ああ、こっちも準備万端だ。 グランク、タイミングよく頼むぞ」
「了解」
グランク――と、呼ばれた頭に赤い触手を持ったイソギンチャクの様な形をしたアニマは、テープで作った円を触手で触れるとエネルギーが走り出す。 彼が精いっぱいにエネルギーを伝えていると、電撃が弾けだしてそこらへ飛び広がる。
「うわぁ!!」
近くに見物に来てた子どもたちも思わず声を上げて逃げ出す。 それをお構いなしに、エネルギーは勢いを増して――真っ白な光の柱が、真上へと突き出した。
「やった!! 成功だ!! ネスパーさん!!」
グランクのガッツポーズ――触手なので、ガッツポーズかどうかはさておき、その通信をネスパーも受け取ると彼は額の汗をぬぐって、目の前の粘着テープの輪を見上げた。
さきほどまで、ゴツゴツの岩肌だった崖は、テープで作られた枠の中だけ、真っ白な歪んだ空間の様なものができている。 今にも吸い込まれそうな、歪まれた空間だがこれが彼らがずっと試していたものだった。
「どうする、今から動いていいのか?」
グランクからの念波の通信が、ネスパーに届いている。 彼は海岸に落ちていた二枚貝の貝殻の片割れを拾うと、こめかみに指を当ててグランクに返事をする。
「待ってください。 こちらから貝殻をそちらに放り投げます。 そちらの空間に届いたら、今度はグランクさん――貝殻をこちらに返していただけますか」
それだけを伝えると、ネスパーは手に持っていた貝殻を空間に放り投げた。 静電気が起きたような、軽い音が鳴ると同時に貝殻は粘着テープの輪の中に――消える。
それとほぼゼロコンマ何秒、同時に近いタイミング。 スイートスタッフ一同海底の住民たちが見守る海底の円にできた空間から、貝殻が気泡と同時に真上へと飛び上がっていった。 それを、グランクや海の子どもたちは歓喜の声を上げて見届けた。

「おお!! 素晴らしい、完璧につながってる!!」
「はい、それではププビレッジと海底の国の魔法トンネル――開通です!!」


「やったー!!」
海底の子ども達は我先にとばかりに魔法トンネルを抜け出して、地上へと飛び出していく。
彼らにとって初めて見る地上は、真新しい景色ばかり。 目を輝かせて海岸から砂浜へ一直線と走り出す。
「俺が一番乗りだぞ!!」
「ずるい!! あたしも!!」
砂浜には、ププビレッジの住民たち――子どもたちも集まっていた。 彼らもみんな、今日この瞬間を楽しみにしていた者だ。
「お、きたきた!! おーい、こっちきて遊ぼう!!」
子ども達はあっという間に適応した。 海底の子どもの姿かたちだとか、地上の子どもはどうして水の中で喋れないのとか、そういう疑問を考える前に、ビーチボールや海底のおもちゃを持ってきて見事に適応していた。
「いやぁ、子ども達はあっという間に馴染んで、素晴らしいですな」
「いやいや、全く。 我々も彼らを見習わなくては」
ププビレッジの村長レンと、『七彩の暴食』のマスターモソは海底のスイーツを頬張りながら、子ども達を見守っている。 横には、スイートスタッフや海底の国のお年寄りが二人と並ぶように海岸に浮かんでいる。
「お近づきのおしるし――どうでしょうか」
「いやはや、こんなお気遣いありがとうございます。 どれ、私もウチのギルドで料理番しているブレイドという者がお近づきのしるしにと――」
大人たちは大人たちの世界で関係を作ろうとしているようだ。 その少し離れた場所に――サファイアは、いた。 彼の横には、ソードナイトと村長たちの会話から離脱したスイートスタッフが近づいている。

「やっぱり、ここにいたのか。 サファイア」
サファイアが出て言った直後に、ソードは彼を追いかけていた。 サファイアは、海底トンネルの近くではしゃいでる子ども達を見守りながら、ソードの言葉に耳を傾ける。
「……どうして、ついてきたんだよ」
「何となくだよ、別にお前の昔の仲間の事について聞きたいわけじゃない――お前も、余計な詮索はしてほしくないだろうし」
これは俺の話だから。 ソードはそれだけを言って、サファイアの横の岩場に腰を下ろす。
そして――スイートスタッフが二人のところに来た理由。 それは。
「俺は、アンタに聞きたいことがあるんだ。 ソードナイトさん」
「ほぅ」
ソードナイトは、手に持っていた剣を磨き始めながら、スイートスタッフに耳を傾ける。 スイートスタッフは、あることに疑問を抱いていたのだ。
「海神様の、頭の上にあったもの――あれは間違いなく、地上で作られた――刀の様なものだった。 あんな業物、少なくとも海底ではここ数年見たことがない」


 海神・ファッティホエールが暴れていた原因――それは頭の上に突き刺さっていた『何か』のお陰だった。 それはソードナイトやサファイア達がタイミングよく来たお陰で、最悪の被害は免れたのだが。
「なるほど、剣士の俺が、海神様にちょっかいかけたんじゃないかって……スイートスタッフさんはそう考えてると」
「助けてもらったくせに、こんなこと聞くのは野暮だとは思ってる。 だが、こちらは海神様を守り続けてきた手前。 知りたいのだ、何があったのか」
スイートスタッフのそれは、本心だろう。 自分たちが信仰の対象としている者に、何が起きたのか――彼の胸につっかえるそれを取り除きたいのは、当然の話である。
「おい、スイートスタッフ。 悪いがソードはそんな事する奴じゃねぇ」
サファイアが身を乗り出すように、声を上げる。 ソードは、サファイアの目の前に手を突き出して、彼を制する。
「……あの事件の数日前から、俺はあそこにいたんだけど――そこで会っちまった。 そいつの名前は――シトラス」
「シトラスだと!? あいつが!! 犯人だと!?」
サファイアは声を大きく張り上げる。 その様子を見て、ただ事ではないとスイートスタッフは割り込むのをやめる。

「その証拠が、さっき見せた俺の額の傷だよ。 サファイア」
ソードは呆気からんとして、『七彩の暴食』の中で見せた傷の事を引き合いに出す。 サファイアはソードの話を聞きながらも歯ぎしりをしながら興奮を抑えきれない。
「……信じられない、って感じだが。 まぁ俺が見たのは間違いなくそいつだったからな。 確かにあれは――シトラスで間違いない」
ソードナイトは、それだけを言うとゆっくり立ち上がる。 彼の手には、財布が取りだされ近くに来ていた海底の住民が海のスイーツを手にしている。
「三百デデンです」
「ほらよ、ちょうど」
海底のスイーツを手にすると、ソードは仮面をあげて口の部分を露出する。 スイーツを頬張りながら、神妙な面持ちのサファイアを見守っている。
「……アイツは、お前の事を気にしていたぞ。 可愛い弟分だって言ってた」
「はぁ、そういう気の利いた事言う様になったのか、あいつも」
サファイアは、それだけを言うと近くの石を蹴り上げて立ち上がる。 背中を向けて、その場を立ち去るサファイアを見つめながらも、ソードは会話を続けているていで、話を続ける。
「シトラスは――アイツは、ウチのギルドに来ないかって最後に誘ってきやがった。 当然、断ったがな……サファイア、俺は絶対にお前を裏切ったりしないぜ」
こんな傷もつけられて、黙ってられるか。 それだけを付け加えると、ソードナイトは高笑いをする。 傍にいたスイートスタッフに、ソードは忠告とばかりに声をかけた。

「……しばらく、海神様のそばにも誰かついてやりな。 海神様の命を狙う奴が、またいつ来るか分かったものじゃないからな」
「ああ、わかった。 忠告、感謝するよ」



 第二十三話 ケケとエアライド免許試験



「無免許だったんです。 彼女」
『七彩の暴食』のそばの道。 半べそをかいてうなだれてるケケをよそ眼に、彼女に切符を切った警官ボルンにピッチは呆然と口を開けたまま動かない。
ピッチは、何度もケケとボルンを見比べている。 そんなまさか――と、ピッチは確認をするようにボルンに問いかけた。
「ケケが、違反なんだよね?」
「はい、間違いなく。 無免許です」
「エアライドマシンの? 無免許?」
「はい」
ボルンのその仕事気質の回答に、ピッチの頭脳はフル回転させる。 そう、ケケはウチの大事な仲間だ――彼女が警察のお世話になったりしたら、それはイコール『七彩の暴食』の信用問題につながりかねない。
ピッチはそう言えば――と、ケケとエアライドマシンの関係を記憶の奥底からひねり出す。 そう、彼女は確かに――。


『ケケ、エアライドのパーツってどうやって手に入れるか知ってる?』

これは以前、ピッチがケケに投げかけた質問だった。 これはエアライドを知っている者なら、常識ともいえる問題なのだ。 そして、そんな問題を彼女は――。


『露店!!』

暫く真剣に考えていた結果、自信満々にそう答えたような気がする。 そうだ、そう言った途端マルクもサファイアも『帰ろう』って切り出したんだった。
そう、ピッチもようやく思い出したのだがケケはエアライドマシンの基本知識が完全に欠落していたのだった。 それであれば当然、エアライドマシンの免許なんて持ってるはずがない。
「……うう、まさか私、刑務所いきなんですか……」
ケケの弱気なその言葉に、ボルンは帽子に手をとって声を詰まらせる。 本来であれば、問答無用でブタ箱行き――と、言いたい所だが。
「ギルドが、あなたの免許の有無の確認を怠っていたら、そちらに責任があるので……まぁ厳重注意って事でいいですけど」
「良かったねケケ。 ウチのギルドとププビレッジ、結構仲いいからこういうのなぁなぁで済ませてくれるんだって」
ピッチの砕けすぎた言葉にボルンは大きく咳払いする。 そういう問題ではない、と言いたげだろう。 ピッチとケケは少しバツが悪い顔をして頭を下げる。

「ごめんなさい」
「まぁ、エアライドマシンに乗りたいなら、うちでやってる試験に来なさい。 その気があれば、ですがね」
こうして今回は厳重注意という形でお開きになった――が、これでケケは無事釈放というわけにはいかない、今回彼女には大きな問題が残ってしまったのだから――それが。


「ええ!! ケケちゃん『今更』エアライドマシンの免許受けるの!?」
『七彩の暴食』、その中でカウンター席に過去問のプリントを手に頭を抱えてるケケと、教師役のブレイドが指導しているのを見て、暴食のメンバー全員が面食らった顔をしていた。
それもそのはず、彼らも当然ケケがエアライドマシンの免許は問題なく持っていると信じて疑わない者はいなかったのだ。
ケケは、自分の後ろのざわつきと、問題の内容で集中できないと頭を抱えている様子で下唇をかみしめている。
「えっとぉ……暴走するのが……このパーツで」
「ハイ残念、チャージタンク暴走はこっちね」
ブレイドは容赦なくケケの間違いを断罪する。 それと同時に、横に置かれていたモチのお菓子をブレイドは一つ手に取り口に入れる。
「ちゃんと正解しないと、ケケちゃんの欲しかったイモモチ、全部私が食っちまうよ」
「うわー!! それだけは、それだけは!!」
免許問題対策に、相応のスパルタが繰り広げている中でモソは頭を抱えて一枚の紙を眺めていた。 これは最初に、ケケが来た時に書いた契約書だ。

「しまったのぉ、ちゃんと免許を持ってるか聞いておくべきじゃった」
「ですね。 ボルン署長が来るまでに、私も確認怠ってたので、説教できる立場じゃないので」
ブレイドは苦笑いを浮かべてイモモチを片手に取る。 横にはピッチが団扇でイモモチを仰いでケケに向けている。
「ほらほら、ケケちゃん次の問題から五秒で答えないと時間無くなるぞー」
「鬼だ。 この人すごい怖い、ピッ君やめてそれ」
「ごめんねケケ、手伝ってくれたらイモモチを家に持ち帰って良いってブレイドが言うから」
完全に買収されている。 ピッチは自分の欲望のためにケケの妨害にいそしんでいる。

「だけど、大丈夫だよ。 ププビレッジの免許問題、凄く簡単なんだから」
「なんなら、ププビレッジの子ども達ですら一発合格できるレベルなのサ」
どこからかマルクがケケの横にやってきた。 彼はイモモチを一つ頬張りながらケケの顔を覗き込むように眺めている。
「マルクさん、気が散るんですけど……それと、子どもでも合格できるレベルって」
ケケはマルクのその言葉に、意識が完全に向いていた。 それなら――エアライドマシンを覚えたての自分でもまだ希望はあるのではないか……と。

「でもケケ、ここ間違えてる」
「えっ」
「ここも間違ってるのサ」
「嘘」
「おやおや、この問題も答えが違うねえ」
次から次へとピッチ、マルク、ブレイドから飛び交う指摘。 ケケのにわか仕込みの知識では、この先が思いやられるレベルではある。
「で、でも!! これが初めてですからね、最初はだれでもこんな感じ……」
そう、ケケの言う通り初めての事なら多少のミスは仕方ない話である。 この問題のミスも、繰り返していくことで減らしていけば、やがて合格にたどり着けるのは間違いない。
「ただ……ケケちゃん、間違えすぎなんだよなぁ」
誰かがぽつりとつぶやいた一言。 このギルドの空気をあらわすのにピッタリな一言だった。 そう、ケケは問題の正答率が著しく低すぎた。 ププビレッジの試験でもどうにもならないレベルで。

「ぐ……で、でもいざとなればマルクさん、私を担いで行ってくれますよね!?」
「え、ボク毎回ケケ運ばないといけないの?」
勿論冗談のつもりではある。 ケケはこの気まずい空気を打破するためにマルクに助け船を要請したつもりだが、マルクは暫くうなりながらも、崖から子供を蹴落とす猛獣のごとく断罪する。
「ケケ、キミ最近おも……いや、ボクがビョーキになったら、どうするのサ」
マルクのその言葉にケケは口をあんぐり開けて、手が震えている。 どうも聞き逃せない言葉があったがそんな無駄口を叩くなと、カウンターを拳で強くたたく音がする。

「……」
「……ブレイドさん、怖いから無言にならないで」
ケケの泣き言にブレイドは彼女の頭をやさしくなでた。 今までにないぐらいに、やさしい声色だった。
「大丈夫、そのうち受かるよ」

 もう既に、『今回はあきらめろ』と宣告されてるに等しい仕打ちだったのは、言うまでもない。





 ――そして、試験合格発表日。
ケケの手には、受験番号の書かれた紙。 そして目の前には張り出された合格者の番号。 彼女の横眼には、次から次へと合格者の胴上げと歓喜の声が聞こえてくる。
『かーちゃん!! やったよー!!』
『わーっしょい!! わーっしょい!!』
見ず知らずの人々が、次々と合格に歓喜する中で、ケケの目は彼女の受験番号を必死に探しにぐるぐる回る。 いつの間にかクシャクシャに潰れた受験番号の書かれた紙、必死に目で追いかける合格番号。
「さんさんよん……サンサンヨン……さん……」
ケケは自分の受験番号を呪文のように繰り返す。 どこだ、どこだと呼吸を整えて、視線が彼女の番号付近にようやくたどり着く。
「さんびゃく……」
331、332、333……その次にあった番号は。

「ケケ、悪い。 俺ら、ちゃんと免許持ってる新人と組むことにしたわ」
後ろから聞き覚えのある声が聞こえてくる。 振り返るとそこには、サファイアと、ピッチとマルク――そしてそこにいるのは、ケケも知らない『誰か』。
「待って!! サファイア、ピッ君!! マルクさん、置いてかないで!!」
「サヨナラなのサ。 ケケ」
彼女が憧れている魔導士からの宣告。 それはまさに地獄の審判に等しいものに違いない。

そして――彼女の背後にいたのは、いつも遊び相手になっていたキャピィ族の子ども達だった。
そんな彼らも、ケケを尊敬するまなざしとは無縁のそれだった。 彼らはケケが持っていない、免許を見せびらかしながらエアライドマシンを見事に乗り操っていた。

「えー!! ケケねーちゃん免許持ってないのー!?」
「キャピィ族の子どもでも持ってる免許無いなんて!!」
「そんなの許されるの、つかまり立ちした赤ん坊までだよね!!」
子どもでも許されないが、子どもだから容赦しない無慈悲な言葉。 既に完膚なきまで打ち砕かれたケケは、ひざまずき、もがいて泣き叫ぶ事しかできなかった――。


「待って!! 待って!! 次は合格しますから、バカでごめんなさい!! やだ、やだああああ!!!!」


「ケケ、大丈夫?? 凄いうなされてたよ」
ケケが覚醒した場所、そこはププビレッジの警察署、試験会場はそこの一室で行われる。 ケケはピッチにゆすられると同時に顔を上げて、そのぼうとした瞼をこする。
「あぁ……ごめんピッ君。 緊張で」
「だ、大丈夫だよ。 ププビレッジの免許試験は簡単だからさ。 だから、頑張って」
ピッチの応援と同時に、部屋の中にボルンが入ってくる。 彼の手元にはパネルが幾つか抱え込まれていた。
「では、準備はいいですな。 ケケ殿」
「は、はい」
ケケのその緊張丸出しの声に、ピッチもボルンも心配そうな表情だ。 そして廊下から試験会場の扉の隙間から、その様子を伺う二つの影。
「おい、ケケの奴緊張しすぎだろ」
サファイアは心配そうにケケの背中を見守っている。 隙間からもケケの緊張がサファイアのところまで伝わっている様子だ。
「まぁ、エアライドパーツの素人から、ちょっと勉強できたレベルまでには成長したから――あとは問題の運に任せるのサ」
マルクの神頼み。 まさにそんな感じで会場に来ていた彼らは授業参観で見守る保護者のごとく、ケケの合格を祈り続けている。

――後は、ボルンの問題の出題傾向に左右されるのみ。
「ではケケ殿、このパーツの名称は何ですかな」
ボルンが出したパネル。 そこには太いカッコと四角で形作られた、青いパーツが出ていた。
「あ、はい。 それはボウギョアップです」
「ハイよろしい。 それでは地上での最高速度にもっとも期待できるマシンは?」
「フォーミュラスターです」
「ハイ、合格です。 免許取得おめでとう」

ボルンのその一言。 それを言いきった瞬間彼はパネルを置いて拍手を送る。 ピッチも何度も深く頷いて、ケケの肩を叩いた。
「頑張ったね、ケケ」
「えっ……え?!」
ケケのその呆気にとられた――もっと難しい問題が出るのではというプレッシャー――をよそに、会場は温かい拍手に包まれた。 拍手の大きさが、ボルンとピッチでは少ないぐらい大きいのは、廊下から聞こえる音が答えだろう。
「サファイア……お前、泣いてるのか?」
「泣いてねえよ、チクショウ!! せいぜいしたんだよ、バーカ」
マルクとサファイアはもうケケに気づかれてもお構いなしとばかりに廊下で騒いでいる。 そんな環境の中、ケケだけが呆気に取られて席を立たされ、ボルンの前に立っている。

「合格おめでとう、ケケ殿。 もう無免許で走ってはなりませんよ」
「え、あ、はい」
免許をあっさり渡されて呆然としているケケ。 彼女の中では、何度も何度も、最悪の結末が頭によぎっていたため、この呆気なさは、信じられないのかもしれない。
「ピッ君、あの問題集は……」
「あれ? ケケに必要以上に不安になってもらわないために、難しい問題集渡したんだけど……言ったでしょ、子供でも受かるのがここの免許だって」



 ――『七彩の暴食』
ブレイドたち、ケケの合格を心待ちにしている皆は苦笑いを浮かべながらもパーティ会場の準備といそしんでいた。
「いやぁ、今頃ケケちゃんウチの試験の問題に呆気に取られてるころだろうな」
「ブレイドちゃんも人が悪いぜ、『プラチナ免許用』の過去問をケケちゃんに渡すんだもんな」
ホヘッドとバヘッド、彼らの言葉に皆が笑い料理をテーブルに運ぶ。 ブレイドは少しばかり意地悪そうな顔をして、ピースサインをした。
「無免許でブタ箱行きよりは、ましだからね。 あの子にはちょうどいい社会勉強になっただろ」


 ――実はブレイドに、ケケの故郷から『調子に乗ってたらちょっとばかり懲らしめてあげてください』と連絡があったのは、内緒の話ではある。

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