あしかのらいぶらりぃ
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執筆者: ディン/投稿日時: 2020/07/21(火) 23:28:10
投稿者コメント:
第一話です。ゲームに登場しない地名もちらほらありますが、基本的にポップスターとプププランドが舞台だと考えていただけたら幸いです。
第一話 七彩の暴食
 七彩の宝玉。 700年前に巨大な穴からただ一人生還したという青年が中心となって立ち上げられた、現代までに続く唯一で最古のギルドである。
彼に憧れてこのギルドの門をくぐる若い冒険者たちは後を絶たない。 そして、そこに入れなくても七彩の宝玉のようなギルドになりたいと願って、このギルドにあやかった名前を付けて立ち上がったギルドは数知れず。
このギルドに所属するということは、総てにおいて最高の栄誉であり最強への近道だといわれる。


――ここまでが、七彩の宝玉に関して一般庶民でも教えられる話だ。 ただし、彼らがどこで活動しているのか、どこにギルドの本拠地があるのかはデマも出回り誰も口を開かない。
それだけ入団するまでの競争率も高いのだ。 自分だけが正しい情報を確保して、出し抜こうという話なのである。

「それが、七彩の宝玉の伝説がゆえん。 クソみたいな作り話でも、七彩の宝玉ならありえるって信じられるからな」
周りを見渡せるほどの広場の隅のベンチに、サファイアとピッチは座っていた。
サファイアは缶ジュースを飲み干して近くのごみ箱に投げ捨てる。 ピッチは彼の横で、集会所から走っていく雑踏を眺めている。
先ほどボンカースと名乗った男についていく、七彩の宝玉入団希望者たちだ。
「みんな騙されちゃうんだよね。 今月も各国でこういう詐欺が3件あったって」
「ああ、貿易会社の社長が投資詐欺で数千億フェルトだまし取られたって話は盛り上がったな」
サファイアは苦笑いを浮かべながらゆっくりと歩き出す。
「さてと、行くか」
「さっきもそういったけど腹減ったって立ち止まったじゃん」
ピッチもあきれるように彼の頭に飛び乗っては山を眺める。 ここが彼の指定席のようだ。
「もうエネルギーは十分だって。 偽ギルドの言ってた試験も気になるしな」

 偽ギルド。 サファイアとピッチだけが知っている、ボンカースは七彩の宝玉の関係者ではない。
ただし彼を信じ切って自分も七彩の宝玉に入れると思っている入団希望者たちはそんなの知る由もない、ギルドに案内する。 その一言に浮足立って彼らは先ほどの町から遠く離れたあぜ道をずっと走っている。
「や、やべえ。 どれだけ走るんだ」
一人の青年は息も絶え絶えについていく。 ボンカースはそのずっとはるか先になって米粒のようになっている。
「さすが世界一のギルド、入団試験もひとちがいだ」
若くて、武器を持った男は鼻歌交じりにボンカースのすぐ後ろについていく。 集合時、百人近くはいたであろう入団希望者は、この長距離走についていけず、あるいは道にはぐれて半数ほどが脱落していた。
「ひ、ひぃー。 死ぬ、吐きそう、やばい」
ケケ・キージ、彼女はすでに横っ腹を抱えながらも必死にボンカースを見失うこと無いようについて行く。 目もかすむ、あごもすでに上を向くほど限界にきているが、それでも彼女はあきらめない。
「ぎ、ギルドに入って、最高の学者に……なるんだ」
夢をぶつぶつ繰り返して口にしては、ケケは走り続ける。 やがて、彼女の前に人影が消えていく。 相手が決して速いのではない、体力が限界の彼女の足取りが重くなってきているのだ。
やがて彼女のすぐ後ろに走っていた少年が足を止める。 そして踵を返した。
「やめやめ、これじゃあ田舎で畑の手伝いしてたのと変わんねえよ」
彼女の前をずっと走ってた覚えのある格好をした女性が岩に座っている。 煙草をふかしていた。
「あー、ギルドに入れば華やかな暮らしができると思ってたのに」
集会所にいたときに、すぐ横にいた家族持ちだという男性がケケとすれ違うように逆方向に歩いて行った。
「わりいな、みんな……父ちゃん、こんな世界ではやってける自信ないよ」
「……ッ」
ケケはそんな彼らを次々目にしては、黙って走っている。 ひょっとしたら、自分もこんな感じで数秒後には諦めるかもしれない、一瞬だが頭によぎる。

「――ううん、違う」
そう言い聞かせて、坂を上りきる。 その坂の頂点には、女性が立っていた。
「あたしは、アイアンマム。 あんたも試験の参加者だね」
試験官の一人だ、ボンカースと同じ仲間なのだろう、ケケは直感した。
「は、はい」
「ゴールはここだよ、よく頑張ったね若いお嬢ちゃん」
マムはケケに手招きをして走っていたあぜ道から脱線させる。 高い坂道の頂点の原っぱに、気持ちいい風が横になびきケケの肌を気持ちよくなでる。
ケケはマムの手招きに信じるがままに彼女の後ろをついて行った。 試験に合格した、というよりようやくこのきつい長距離走から解放されたという安ど感がケケを支配していた。
「ご、合格って事は……次は」
「ああ、待ちな。 今やってるから」
そう言ってマムの手には何やら銃の形をした機械が握られていた。 一回ピッと音が鳴って、レーザーポインタがケケの黒い装束に浮かび上がる。
「ほう、お嬢ちゃん魔導士かい。 魔力があるようだね」
「はい!! 七彩の宝玉に入るために、この日のために修練は積んできましたからっ」
「そうかそうか、それで――あんた」
「ケケです。 ケケ・キージ」
ケケはようやく自己紹介をできる程度の呼吸に整える、ニコリと笑顔を浮かんで憧れのギルドの関係者に、少しでも好印象を持ってもらおうと取り繕った。
「ケケか、いい名前だね」
そう言ってマムは一枚の書類とペンとインクを取り出した。 それをケケに手渡すと切り株を指さす。
「これが契約書に血判代わりのインク。 かわいい子に血を出させるわけにゃいかないからね」
「わー!! 契約書!!」
ケケは舞い上がり契約書にさっそく署名を始める。 マムは優しい笑顔でそれを眺めると、ケケに話しかける。
「慌てなさんな、ちゃんと内容にも目を通すんだよ。 最近は勘違いして後悔するって人もいるんだし」
「はーい、えっと何々」
ケケは血判代わりのインクを人差し指ににじませて捺印をしながら、書類を読み始める。 最初は、笑顔だった彼女も、ある場所で目を丸くする。

「――奴隷、契約? あの、マムさん奴隷って――」
「ああ、ちゃんと読んでくれたかい。 それじゃあもう勘違いしないし、安心だね」

マムはそれだけを言うとケケの背後に回り――思いきり――。

蹴り飛ばした。
「えっ」
あっけにとられ、受け身をとるのも忘れてケケは坂の頂点からどんどん転がっていく。 その様子を、マムは笑顔でずっと見つめてケケに向かって言い放つ。
「あんたほどの魔力があれば、ペット用で売り払うのももったいないねえ!! 金持ちの世話係か、大企業の作業用奴隷として高額で売り払えるよ」
受け身をとれず、そのまま勢いよく坂の下まで転がり落ちたケケ。 思いきり地面に背中を打ち付けられ、アザだらけの身体を何も意味も分からず起こすだけで精いっぱいだった。
「あんた達、その子も売れ筋だよ。 籠の中に閉じ込めな!!」
「はっ!!」
坂の下で待機していた、ナイト族の男たちがケケを抱え上げて近くの巨大な虫かごのような箱に押し込んだ。 かごの中には、ケケのように傷だらけの試験参加者たちが閉じ込められている。
「畜生!! なんだお前らは」
「ボンカースさんはどこに行った!! あの人は七彩の宝玉のメンバーだぞ、やられちまえ」
籠の中にいる試験参加者たちは、外にいる豹変したマムとその仲間に威圧する。 それを聞いたマムたちは、鼻で笑って言い返した。
「ボンカース? ああ、うちらのボスならちゃんと後で会わせてやるよ?」
「もっとも、その時はあんたらは奴隷オークション会場で質入れされた時だがね」
その言葉に、参加者たちは絶句する。 そして、自分たちが騙されていたことを初めて気づいた。
「奴隷……だって?!」
「お前たち、七彩の宝玉って聞いただけで犬がしっぽ振るように集まるんだもんね」
「そんな連中はまあそれなりに腕っぷしに自信があるんだろう、奴隷として売れば、俺たちの遊ぶ金が集まるってもんだ」
ボンカースだ。 さきほどまでのさわやかな笑顔とは似つかぬ、ニヤケ顔でマムの横に現れる。
「畜生、だましたんだな」
籠の中にいる一人の試験参加者の言葉に、外にいるボンカースたちは高笑いした。 ケケも籠の中で倒れてそれをじっと見ている。
「それで? マム、首尾は上々か?」
「剣士に、薬剤師、拳闘家に、魔導士――まあ今回は素材がそろったね」
銃の後ろについてる画面を眺めながら、マムはニヤケながら折り指数える。 そして銃から何かの書類に持ち帰るとざっと目を通す。
「総額400万フェルトは手に入るよ。 相場だけどね」
「上出来。 よし、お前ら。 仕上げは明日にするぞ!! 今日はここでキャンプを張って明日朝一番に市場のテグノガノンにこいつらを連れていく」
ボンカースの言葉に、ナイト族の男はぞろぞろキャンプ支度を初める。 檻の中の試験参加者たちは、ただ悔しそうにそれを眺めるしかできない。
ケケも、傷だらけの中で、檻の内側からそれを見つめる。

「――嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ」
あこがれだったギルドは偽物だった?
奴隷で売り飛ばされる、もうギルドに入って魔導士や学者になるって夢どころではない。
ケケは唇を思いっきりかんでは、悔しそうに涙をこぼす。
「案内するって、言ったじゃない。 七彩の宝玉のギルドに入れるって、信じてたのに!!」
「何も調べず信じるのが悪いんじゃないのか?」
叫んだケケのすぐ横で、いや、檻を挟んでいるから外からだが、突然ケケの目の前に顔をのぞかせる群青の身体。 ケケだけじゃない、檻にいた皆がギョッとその男に一歩身を引く。
「だ、誰? あいつらの仲間?」
「俺? いやいや、あんな人間の風上にも置けない屑と一緒にしないでくれ」
手を横に振っては、否定をする。 この非日常な空間に突然の来訪者に、ボンカースらも当然気づく。
「なんだ、まだ試験の参加者が残ってたのか」
「はい?」
ボンカースらの仲間であるナイト族の男、紫色の甲冑をかぶった男が剣をもって群青の青年に突き付けた。
「今すぐ殺されたくなければ、中に入れ」
「いや、俺そんな趣味ないんで」
即座に否定。 ケケたちも、目の前に繰り広げられているコントのような何かに開いた口が塞がらない。
「面倒だ、ソード、そいつ殺せ」
ボンカースの言葉にハイとだけ返事をすると、ソードと呼ばれた男は剣を青年に振り下ろす。 危ない、檻の中にいる誰かがそう叫んだ。 だが、吹っ飛んだのはソードだった。
群青の青年の右には美しく光る氷の剣。 それが右手に生えるように伸びていて、もうひとなぎすると、ケケたちを囲んでいた檻の入り口を割った。
「檻を壊しやがった!!」
「戦闘態勢に入れ、奴隷を逃がすな、男を殺せ!!」
ボンカースの言葉に、マムやナイト族の平兵士たちは武器を手に構えるが、すぐに彼らは違和感に気付いた。

「う、うごけない!!」
「どういうことだい、なんであたしらの足元が――凍ってる!!」
彼らの足元は、凍っていた。 もう既に彫像のように、びくともしない彼らを群青の青年は素通りし、同じく足元が凍って動けないボンカースに目の前に来る。
「七彩の宝玉の責任者ってのは、お前だな」
「そ、それがどうした」
「俺はサファイア。 本当に七彩の宝玉だったら、ってちょっと期待してたのにな。 がっかりしたよ」
サファイアの横に小さな鳥が降り立った。 緑の羽毛と白い腹の小鳥は携帯を持ち出して何かを見る。
「サファイア、検索終わったよ。 こいつは森林の暴君ってギルドの責任者だ」
「へー、それはそれは。 公安の情報に載ってるってことは」
「クロだね」
小鳥の笑顔にボンカースは思わず背筋が凍る。 その小鳥の気圧に驚いたのではない。 彼らが一番恐れる言葉が――。
「公安って、お前らまさか」
「う、嘘だろ?! 警察組織」
檻の中にいるケケたちも、それを目にごくりと喉を鳴らす。 警察の人たちに、さすがも一般市民も安堵というより驚きの声がする。

「あ、違います。 これハッキングなんで、僕ら警察官じゃないんです」
「おいピッチ、ばらすな」
ピッチの即座否定に、サファイアも呆れるようにため息が出る。 そして、彼はすぐにボンカースに目を向けて右手に冷気を漂わせる。
「まあ、冥途の土産にお前らにも詐欺被害者にもはっきり言っといてやるよ。 お前らは三つ、過ちを犯した」
するとサファイアはボンカースの腹部に右ストレートを放つ。 突然の重い一撃に、ボンカースは嗚咽を出す。
「一つ、七彩の宝玉はティンクル限定のギルドだ」
ぐらついたボンカースの頭部をつかんで、今度は彼の顔面に蹴りを入れる。
「お前みたいな大柄なヒト型は末端にもなれねえ」
すぐ横からは、ヤバイと声を出しながらケケたちを檻に閉じ込めたナイト族の男たちが逃げ出そうとするが、それを見たサファイアは右手から冷凍光線を放った。
「二つ、七彩の宝玉は入団試験なんてやってねえ」
男たちの目の前を遮るように、サファイアが放った冷凍光線が飛んでくる。 やがてそれは、彼らを取り囲むように逃げ道をふさいでいた。
「すべてギルドマスターの気まぐれで加入が決まる」
――そして、マムの頭上にはピッチがいつの間にか立っていた。 彼女が、持っていた檻のカギを口にくわえて。
「三つ、これが一番大事だ。 耳の穴かっぽじってよく聞け」
マムは、何も身動きすることはなかった。 本当であれば、ピッチをつかんで取り返すこともできたはずだが、目の前の圧倒的戦力差に戦意も喪失していたのだった。
「七彩の宝玉は5年前に解散した。 もうどこにも活動なんてしてねえんだよ」
 数分後、通報を駆け付けた警察たちが、ボンカースやマムたちを逮捕し護送車に連れ込んだ。
それを遠くから見ていた詐欺にあった人たちはこれからどうしようかと、茫然としている中でケケは頭を抱え座っていた。
それを見かねた、サファイアが彼女の横に立ちじっと見つめる。
「何そんなにしょげてんの」
「しょげるわよ!! さっきの話本当なの!? 七彩の宝玉よ!! 世界最強のギルドよ!? 5年前に解散したって、聞いたこと無いんだけど」
ケケの精いっぱいの叫びに、サファイアは耳をふさいでうっとうしそうに顔をしかめる。 ケケは今にも消えそうな声で続ける。
「ショックだ……それに入団制限もあったなんて」
「お前本当に七彩の宝玉のファンだったのか」
「うん、入りたかった。 だからずっと勉強もしてきたのに」
ケケの言葉に、ピッチも横でそっと彼女の肩をたたいた。
「元気出しなよ。 ギルドならほかにもたくさんあるじゃん」
「やだー!! 私世界一のギルドに入りたかったの!! 世界一のギルドの世界一の学者で世界中からキャーキャー言われて玉の輿にも乗って金に困らない優雅な余生を送りたかったー!!」
「最悪だこの女」
「もっと純粋な動機だと思ってた」
ケケの言葉にドン引き状態のサファイアとピッチだが、ケケのかんしゃくは止まらない。 呆れたようにため息をはくと、サファイアは彼女の腕をつかんで無理やり起こす。
「そんなに人気になりたいなら、もっといい方法があるぞ」
「何!? どこに七彩の宝玉の相続ギルドがあるって?!」
「言ってない」
 こうして、七彩の宝玉を騙った誘拐事件は未遂に終わった。 逮捕されたボンカース達は、中心街の裁判所で懲役刑の判決を受け、彼らのギルド『森林の暴君』は資格停止を受けた。
平和が、戻ってきたのだった。 ケケも、七彩の宝玉の夢は潰えたものの、きっとどこかで立ち直ることだろう。

そう。
「えー、サファイアとピッチがめでたく事件を解決したのを祝いまして、そして」
とある、酒場。 もうおんぼろで、床も板がところどころ腐食しているそんな酒場ともいえない酒場に、人々が集まっている。
「キージ・ケケちゃんの加入と、我々七彩の暴食のこれからの発展をお祈りして――」
ケケはそこで、ソフトドリンクを手に持たされ、酒場のど真ん中のテーブルに座らされていた。 周りには、むさくるしい男たちが、彼女を凄い目で見つめているのが、ケケ自身悪寒を感じて分かった。
「乾杯だー!!」
「サファイア―!! イッキしろイッキー!!」
ここは、七彩の暴食。 まごう事なきギルドである。
「私、帰りたい」
彼女は、インクで赤くなった指と“無理やり欠かされた加入書”を眺めて、泣きながら飲みだした。
                                第一話 七彩の暴食

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