最終話 けっきょくぼくがいちばんつよくてすごいんだよね
「結局、星のカービィなんだからな。 あいつが活躍しなきゃゲームじゃないし」
時にはそうやって放棄する者も現れた。
「俺たちはあいつの引き立て役が一番なんだな」
時にはそうやって諦める者も多くいた。
「もうなんだっていいのサ。 付き合いきれんのサ」
全てに絶望し、流れのままに流されようとする者もいた。
全てはあの怪物、神童、豪傑ーーそんな言葉では片付かないような、悪魔とも形容しがたい存在に組み伏せたのであった。
彼らがどれだけ工夫を懲らそうが、どれだけアドバンテージを奪い取ろうが、悪魔は何度でも彼らの想像を超えていく。 そう、全てはーー。
星のカービィが 「主役」 だからだ。
☆
「そうか、またヤツが来るか」
カービィのゲームには比較的楽にゲームを進行しつつ、アイテムを回収できるステージがある。 これは以前のお話でも紹介した折だ。
今回もカービィはそのステージをひたすら往復している。 使い慣れたコピー能力を獲得し、作業ゲーのごとくステージを周回する。
もちろん、敵キャラ達もそれに合わせてスタンバイする。 カービィにまたやられる為にーー? 否!
「もうこれ以上俺たちをボロ雑巾のように攻撃させてたまるかよ!」
「へっへっへ、俺たちだってもう覚悟はできてるんだぜ!」
そう言ってるワドルディら雑魚キャラたちは頭にボンバーを構えて立ちはだかる。 カービィもろとも、自決して大ダメージを与えてやろうという魂胆だ!
「ダメだ! ワドルディ! そんな事してお前の家族はどうなる」
中ボスのボンカースは、彼らを心配してやってくる。 だが、ワドルディたちはそんなボンカースに掌を突き出しーー声を振り絞る。
「わかってる、わかってるよボンカース!」
「だけど、俺たちだってカービィをしばきたいんだ!」
雑魚キャラたちは、カービィに吸い込まれるか、空気弾やスライディングで星に散る運命。 中ボス以上のボンカースとは、ワケが違う。
「ただ、吸い込まれて終わりなら!」
「ただやられておしまいなら、せめてダメージを1つでも与えてお前に引き継いでもらうぞ!」
ワドルディ達の覚悟は、本物だった。 ボンカースも、固唾を呑んでその決意の言葉を耳にする。
「ワドルディーー」
「カービィが来たぞー!!」
ステージの端から、先頭集団から号令が飛んできた。 それと同時にみんなの叫び声と突撃の合図が鳴り止まない!
「いくぞ!」
「ボンカース! 俺たちが敗けた後は頼んだぜ」
ワドルディ達もカービィに向かって気合の入った声で突進する! ボンカースが彼らを止める間もなく、姿が見えなくなる。
「…ワドルディ、わかったぜ。 お前たちのその決意、オレが! ステージボスの大王様も、受け継いでくれる!!」
☆
そう、カービィにやられても、次の敵がカービィに挑んでくる。
いつかカービィも体力を疲弊し、負ける時が来るのだ。
カービィだって、彼らと同じ人の子。 カービィのコピー能力だって、彼らと同じ能力なのだ。
相性の悪さ、修練の数、体力の差。 全てにおいてカービィが常に圧倒できるわけではない。 いつかはカービィを超える敵が出てきて、カービィを倒してくれる。
「来るか! カービィ」
ボンカースはハンマーを構えて、ルームガーターとしてカービィと相対する。 彼もまた、カービィを超えるかも知れない、その運命を持った男なのだ!!!
運命がーー
実力が、チート的存在を、超えたらの話、だが。
頭のウィスピーウッズの葉が生い茂り、その上のはピクスがクルクル旋回している奇怪な姿。
背中にはゼロツーの羽が不気味に羽ばたき、HR-Eのハサミが両手に揃ったその姿。
申し訳程度にミラクルマターの模様が頬と、ヨガン模様のスカートはまさに欲張りのオールスター。
星のカービィ64で、特別な手段でしか見れないぼすぶっちカービィだ。
「いやぁ、何度も同じステージ周回するの飽きちゃうからね。 こうやって簡単に攻略できるコピー探してたら、こうなっちゃった」
その笑顔、悪魔の如し。 カービィの無慈悲とも情け容赦も無いとも言える姿に、ボンカースは構えたハンマーを床につけた。 彼の目には、うすら涙が浮かんでいた。
「ーーお前残機いくつあるんだよ」
「まだ315ぐらいあるかな」
☆
君はゲームをプレイする時、周りの敵キャラの気持ちって考える?
少しでもゲームを楽にしたいな。 そんな気持ちで頑張ってる時でも、ちょっとした瞬間でもいい。
カービィのゲームじゃなくても、無敵に近いプレイアブルに挑んでいくCPUに、寄り添ってくれたら嬉しいな。 約束だよ。
「カービィをしばきたい!!!」
「次こそはしばけるといっすねー」
桃玉しばき隊へようこそ!! おしまい☆