あしかのらいぶらりぃ
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執筆者: ディン/投稿日時: 2021/01/15(金) 22:53:05
投稿者コメント:
【人物紹介】
人名:ピッチ
性別:男
年齢:15歳
所属:七彩の暴食
種族:アニマ
魔法:重力
【MEMO】
緑色の小鳥のアニマ。
普段はサファイアと行動を共にしており、ギルドの近辺にある『七彩の暴食』御用達のアパート暮らし。 サファイアとは互いの部屋に遊びに行き合う仲。
ギルドで一番小柄な体格ながら魔法は強力。 本気になれば多人数がかり相手と相撲対決してもピッチには敵わない。
第九話 グルメレース
 ペパーミントパレス。 白の騎士団の、所属する町。
「さすがスノウだな、あの四つの穴の一つを制覇したんだとよ!!」
ギルド内ではスノウとサファイア達の活躍で話が持ちきりだった。 みんな楽しげにスノウの活躍を話しているが、そこにスノウの姿はない。
「おい、それなのに肝心の主役はどこに行ったんだよ」
「なんか、昔の友達から連絡がきたんだとよ。 しばらくは帰ってこないって」
フロスの言葉に、ああとみんなは口を閉じる。 彼らも少し心配そうに俯き、つぶやいた。
「あいつの、昔の話になると暗くなるのにさ」
「大丈夫かね、いじめとか受けてないよな」
「――まあ、何かあれば俺たちでそいつをぎったぎたにしてきてやるぜ!!」
白の騎士団はみんながスノウを敬っている。 そして、スノウも彼らを信頼している、これが――白の騎士団であり、スノウがたびたびギルドを開ける理由なのは、彼らは知らない。




  第九話 グルメレース




「さぁさぁ、今年はいろんな味の楽しめる五味キャンディー持ってきたよぉ!!」
「こっちは南の島が発祥のボムココナッツでぇい!!」
ププビレッジ、国の端っこにある閑静な田舎町。 そこは普段は七彩の暴食と住民が行き来するだけののどかで平和な場所だが、今日だけは人だかりが集まっている。
町の至るところには、出店が所狭しと立ち並び老若男女がそこに集まっていて食べ物と金銭を交換する。
「はいよ、アイランドアイス名物のソフトクリーム!!」
「わぁっ、本当に売ってたぁ!!」
ケケは出店で手に入れたソフトクリームを満足げに手に取って、足取りも軽やかにスキップする。 彼女の両手には、それ以外に色々なメニューの入った袋が二つ。
「ケケ、そんなに食ったら太っちまうのサ」
「女子に太るなんて言葉禁句ですよ!? マルクさん」
マルクはケケの上に飛びながら呆れつつ彼女の様子を見守っている。 ケケはソフトクリームの包み紙をゴミ箱に捨てながら、マルクに声をかけた。
「マルクさん、サファイアはいつ発走するんですか?」
「今のレースの次なのサ。 お、ちょうどゴールになるころだ」
マルクが空から確認すると、屈強な男たちが皿やら串やら、プラスチック容器を手にしながらゴールテープを通過していく。 それを見て、観客たちはワイワイ歓声を上げながら、楽しんでいた。

「さぁ、ただいまのレースは一着がザブンビーチ出身のスクイッシーさん!! 十本の足を見事に活かしてメニューを食べまくり、足も速い!! ポイントはみごとにトップの50!!」
「やるなぁ、あいつはグルメレースのうわさを聞いて、ここにやってきたゲストなのサ」
マルクは観客席に腰を下ろしてレース会場を見下ろす。 横には、ケケが焼そばをほおばって辺りを見渡す。
「本当にすごい客ですね。 みんな町の人たちですよね」
「そうなのサ。 ウチはこういったど田舎だから、年に数回の町おこしイベントはみんな仕事をお休みして、こうやってワイワイするのサ――グルメレースっていうんだけどね」
ケケは、それを聞くとパンフレットを手に取った。 そこの歴史の概要を見ると首をかしげる。
「でも、なんで他の町の人たちやよその町のお店も来てるんですか」
「……噂で集まったのサ。 昔は、こういうど田舎だから、みんなお金集めに苦労してね」


 むかしむかし、ププビレッジはすごい田舎で、お金が全然ありませんでした。
そんな田舎に住んでる若者たちは、みんなこう言って出ていきます。

「つまらん、都会で暮らしたい」
「農家を継ぐなんて俺の性には会わねえぜヒャッホーイ!!」
ププビレッジのお年寄りたちは困りました。 そこで、ある日村長さんが考えました。

「若者がハッスルできるイベント考えようや。 ああ、優勝賞金はわしがポケットマネーで出す」
町の人たちは、みんなが考えたイベントの中で『自分たちの料理を食べてもらいながらマラソンをする』というイベントをやる事に決めました。

「おい、なんか隣町で面白いことやってるやんけ!!」
「僕らも混ぜてくださいよ!!」
やがて、それはププビレッジの近隣の村の人たちにも噂になり――。
「なるほど、我々都会のレストランの名物料理をここで出せば、さらにアピールになるやがな!!」
噂を聞き付けたププビレッジとは縁の無いはずの都会の名物レストランのオーナーも、自分の店の権威のアピールのためにププビレッジまでやってきてグルメレースの参画に加わりましたーー。



「こうして、その時たまたまウチのグルメレースに金と飯を出してくれたオーナーさんが、めっちゃすごい人でネ。 ププビレッジのグルメレースはそのオーナーが口を滑らしたことですごいイベントになっちゃったのサ」
マルクは、食べ物をほおばりながらケケに説明をしてくれた。 このイベントの目的は、町おこしと、外貨獲得だったということ。
「だけど、外からのお金稼ぎって七彩の暴食があったんじゃ――」
「その時は、ギルドは存在しなかったって言われてるのサ!! だけど、グルメレースで優勝したこのププビレッジの若者たちが、集まってできた組織が今の七彩の暴食」

「さー!! 次のレースの予想が出たよー!! 皆はったはったぁ!!」
ブレイドの大声が会場に響き渡る。 観客席から見える舞台には、レースの参加者の名前と、横には数字が並べられていた。
「あ!! サファイアの名前がありますよ!!」
「あいつの倍率は2.3なのサ。 まあこの中じゃ一番人気だネ」
このイベントの一つの楽しみ。 色んな地方の大食い自慢と速さ自慢が競う――それが、グルメレースだ。

「ギルドで暴れたりする奴らが、自分の力を誇示するために参加するのがグルメレース」
「一方で、たまには息抜きしようってボクやケケみたいなのはこうやっていろんな町の名物料理を食べ歩いて、グルメレースにかけたりして遊ぶのサ」
レースが始まった、サファイアはいの一番に飛び出して、レースの舗装された一本道のわきにある出店に飛びついた。
「おいおい、慌てなくても焼もろこしは逃げねえよ」
「これうめぇな!! 醤油くれおっさん!!」
焼もろこしを両手にほおばって、サファイアは次の店に直行する。 サファイアの後続のランナーは、バツ印をつけて首を横に振る焼もろこしのオーナーに、肩を落とした。
「グルメレースは、ただ一着を競うだけじゃないのサ。 一番多くの店の料理を食って、なるべく一番に近くなる――」
「ただ、飯を食いすぎて後でぶっ倒れてビリになるかもしれないし、順位ばかり考えて、飯をあまり食わなかったら失格になったりするのさ」
ホヘッドが、ケケの隣から割り込むように話してくれる。 ケケはへぇと言ってボヘッドに声をかけた。
「ホヘッドさんは、グルメレース参加しないんですか!?」
「さっき参加したよ!? もしかして気づいてなかったの」
ホヘッドは驚いて口から炎をこぼしながら叫んだ。 あーと、ケケは一つ声を出して、記憶をたどる。
「マルクさん、それっていつの話ですか」
「さっき、ケケがアイランドアイスのアイスクリームを買いに行ったときだったのサ。
 その時、ホヘッドのレースが始まったはずなのサ」
ケケは、少しバツの悪い顔をして、両手を合わせる。 ホヘッドに、謝るために。
「ご、ごめんなさい!! 次ホヘッドさんの出るレースは、ちゃんと応援しますからね」
「……うん、来年になるけどね。 それだと」


 ホヘッド、グルメレース第1回戦 3組目で、惜しくも2着。 1回戦で姿を消していた。



「……あれ? そういえばピッくんはレースに参加するんですか」
「あいつは店番なのサ。 レースは出ることはない」
「お店!? どこどこ、どこにあるんですか」
ケケは立ち上がる。 あたりを見渡して、ピッチのお店をくまなく探す。
「お前、この期に及んでまだ食べるのか」
「ケケちゃん、案内するぜ。 ピッチの店はウチのギルドの近くでやってたはずだ」
ホヘッドに手招きされて、ケケは小走りで後にする。 マルクに手を振ってケケは叫んだ。
「マルクさーん!! 私とホヘッドさんの席、ちゃんと見張っててくださいね!?」
「あーはいはい、見張っとくのサ」

マルクは、はしゃぐケケを見守る保護者のように彼女を見送りレースにまた視線を送った。 しかし、マルクはすぐに後ろを振り返る。
「……三つ、いや四つほどか。 すごい殺気がするのサ――ホヘッドに向けて」


 グルメレースの、会場の外。 そこでは観客用に出店が並んでる。
レース内部に出店しているお店とほぼ大差ない、ここでレース走者がうまそうに食べてるメニューを見た観客が、ここにきてお金を落として食べ物を買ってくれる仕組みだ。
「ちなみに、よその町からの出店は、売り上げの40パーセントをウチの町に収めるってルールがあるんだ。 持ちつ持たれつだな」
「へぇ、それじゃあ七彩の暴食にもお金が入るんですか!?」
「ああ、毎年誰かが店を出して、その売り上げがウチの臨時収入になるわけだけど――」
ホヘッドとケケは目の前の光景をただ見ていた。 会場の外にも、人だかりはそこそこあるが彼女たちのそこの先には人の海がすこしまばらになっている。
「……今年の、出店当番はピッチでさ。 あいつの得意料理で、みんなを唸らせてやるって、意気込んでたはずなんだ」
「あれ、どう見てもミスマッチですよね」
二人の、視線の先。 まだ全然売れ行きがよくないのか、プラスチック製の容器に入った焼き鳥を山にして、ピッチは無言で空を見上げていた。

「――素人は黙っといて――これからが、僕の逆襲劇なんだから」
「えーっと、ピッくん……私とホヘッドさんで、買おうか?」
「マネーロンダリングだよ、それじゃあ」
ケケの精いっぱいの気遣いも今のピッチにはきつい現実を突き付けるだけだった。 仲間に買ってもらっても、意味がない。
「サファイア達の応援、行こうか」
ホヘッドのようやく絞り出してきた言葉に、ピッチはうなずいた。


――ピッチの焼き鳥屋。 カニバリズムっぽいという理由で、売れ行き不調。




「どうせ無理だと思ってたのサ」
「俺たちは、もう慣れていてあいつの得意料理とかは不思議に思わないんだけどな」
サファイアは、いったん小休止と言ったところか。 観客席に合流しマルクと横になって昼食代わりにホットドックを口にする。
「お前、レースで散々食っといてまだ食えるのか」
マルクも少しばかりひいてサファイアから離れる。 サファイアは、ああとだけ答えてホットドックを一気に丸呑みする。
「戦いと休憩の飯は別腹だ」
「さすがなのサ」
二人の会話のさなか、ケケたちは戻ってきた。 中には、店番をやってたはずのピッチも合流しているようだ。
「おお、オーナー。 お疲れ様です、売れ行きいかがっすか」
「いかがっすかなのサ」
サファイアとマルクはピッチをからかうようににやついた。 ピッチは少しばかり目に涙をためており――ケケの頭に飛び乗った。
「ああああ!! ケケ、助けて!! 二人がボクをいじめる!!」
「サファイア!! マルクさん、かわいそうだからやめてあげて!!」
ピッくんも頑張ってたんだからとケケは必死に抵抗する。 サファイアは、腰を上げて席を立った。
「お、次のレースの準備か」
「おうよ、このまま優勝して――飯食い放題券をゲットしてやる」
「お金じゃないんだ……」
ケケはすこしばかり肩を落とした。 これほどの大会、どれだけの賞金や賞品か期待値は高かったのだが。
「そのかわり、国中のあらゆるレストランやホテルで使い放題だよ。 1年間有効なんだ」
「ギルドで仕事終わりとかに、使い放題だからな。 そう考えると、結構お得だろ!?」
サファイアとピッチの力説に、ケケはおおと感嘆の声を上げる。 彼女も、自分が想像し得る高級レストランのディナーを想像すると、喉が鳴った。
「サファイア」
「おう!!」
ケケとサファイアは、拳を突きあった。 それは、共通の夢という野望。

「仕事終わりに良い雰囲気の店で食い放題!!」
「有名レストランや、三ツ星ホテルのめっちゃ豪華なディナーも食べ放題!!」
サファイアは、レース会場に飛び移り歩き出す。 ケケは身を乗り出してサファイアに声援を送った。
「勝って!! サファイア!!」
「当たり前だ」
そんな二人の、芝居のような様子に、マルクは溜息を吐いた。
「……現金な奴らなのサ」




 ――そして。
サファイア達が、住んでいる国――プププランドから遠く離れたある場所。 某国のとある会議場。
そこには、世界中のギルドの代表者たちが円卓を囲んで集まっていた。 ケケやサファイア達七彩の暴食のリーダーである、モソもそこにはいた。
「では――この声明を我々国際ギルド会議の総意として全世界に発表します。 よろしいですな」
ロッキー族の男が、円卓の上にある木槌をたたいて横に並ぶギルドリーダーたちに促した。 彼らは全員首を縦に振って声を合わせる。
「異議無し」
「――七彩の宝玉の、国際的テロ組織への認定。 そして、彼らの緊急逮捕のために世界中のギルドの精鋭たちと警察組織の協力を要請――これで、本日の会議は」
その時だった。 円卓で、座っていたはずの一人の男が立ち上がる。 彼も、今日このために集まったギルドのリーダーだった。
「……待ってほしい。 その会議」
「ど、どうなされましたか――何か異論でも」
横にいたリーダーが、異変を感じ取り声をかけるが立ち上がったリーダーは掌から気功波を放つ。 至近距離から直撃を受けた彼は、黒煙にまみれ――そのまま。
「なっ……何をしている!!」
「そいつを捕らえろ、救護班を」
円卓にいたリーダーたちは立ち上がる。 だが、それを一喝するようにモソが声を荒げた。
「まて!! お前さん、遠くから彼を操っているのじゃな――?」
「ほう、さすガぎルどのリーだーダ。 ご名答デす」
モソの言葉に、反応したその洗脳されたリーダーは立ち上がる。 彼の横にいたはずのリーダーたちはみんな遠ざかり、彼に警戒心を仕向けている。
「貴様、いったい何者だ!!」
「私ノ要求は、一ツでス……七彩の宝玉のテロリスト認定の撤回――それダけ」
「撤回?――貴様は誰だ」
リーダーたちの声に、操られたリーダーは口を開いた。 そのあとに、糸が切れた人形のようにパタリと倒れて、動かなくなって――。


 私の名前は、ピンク。

 七彩の宝玉のリーダー。




「それで、ちゃんとメッセージは伝えたの、桃君」
とある、密室。 そこにはスノウの姿があった。 彼の視線の先には、巨大なコンパスや、懐中時計に風見鶏――宙に浮いてるそれを眺めている、桃色のティンクルの姿があった。
「もちろん、でもこれで彼らが言うとおりにするとは思わないけどね――」
桃君、そう呼ばれた男は携帯電話を取り出した。 携帯電話の電話帳には、彼の仲間である連絡先が次々と並んでいる。
「……それで、サファイアは何だって」
「今いるところが好きらしいよ。 みどくん達をけしかけても、無駄じゃないかな」
スノウの言葉に、男はそうかとだけ答えた。 携帯を操作すると、そこにはサファイアへの連絡を拒否するという、メッセージが入っている。
「そっか、まぁ――どのみちみんな消えるんだけどね」

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