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小説「
第五十六話 ウチ一番の成長株
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作者名
ディン
タイトル
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内容
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「いくぞ!!」 ドロッチェが叫んだその一言を皮切りに、ドロッチェとバヘッドは両サイドからシトラスに飛び掛かる。 限界までに身体がボロボロになった彼らが、今からシトラスに勝てる見込みは、ほぼ無かった。 ましてや、彼らの傷はマルクとケケを入れての四人がかりだったはずだ。 しかし、ドロッチェとバヘッドにもプライドがあった。 ギルドの一員として、そして何より彼らには『七彩の宝玉』相手には譲れない意地が。 (一発だけでも、喰らわせねえと……あの日オレ達を哀れむような目で見下してきたアイツらにまた負ける事になってしまう!!) ドロッチェの意地、かつての探検で崩壊した『真紅の窮鼠』は、シトラスはじめとする『宝玉』のメンバーから見下すような目、哀れむような目で見送られながら最期を迎えた。 (あんな目で見られっぱなしでここで死んだら、先に逝ってしまったアイツらに顔向けできるわけがねえ!!) そう覚悟を決めた瞬間に、ドロッチェは緋色のマントから真っ赤な爆弾を取り出した。 そいつはシトラスを優に超える大きさ。 片手で持ち上げるのも一苦労だったが、ドロッチェは野球の投球の様に右腕を振りかぶり投げた。 「食らえ!! フレアボム」 地面に設置した途端フレアボムは外殻から分裂し、炸裂手裏剣の要領で中から小型の爆弾が飛び散った。 そいつは爆竹のように音を立てながら爆ぜていき、火花が、火気がシトラスに眼前に降り注ぐ!! 「牽制のつもりか?」 火花が目の前に降り注ぐもシトラスは全く怯む事なく、冷静に剣でそいつを消し飛ばす。 風圧が周囲の雑草を揺らしていく。 地面に落ちた火種は風圧であっという間に消えていくが、ドロッチェは爆弾を両手に構えたまま、シトラスの目の前に飛び掛かる!! 「牽制?? 殺すつもりだよ。 死ぬまでオレの爆弾が尽きるか、お前の腕力が保つか、競り合おうぜ」 ドロッチェはそういうと両手で杖を構えて頭上へ振り上げる。 脳天直撃をあからさまに狙った攻撃に、シトラスは受けて立つとばかりに剣の峰で受け止めた。 「オラァ!! バブルショット!!」 背後からバヘッドが口から水泡をシトラスに向かって飛ばしてきた。 シトラスは背後に迫る攻撃を片目で見つめると剣に炎を灯して蒸発させる。 「アドレーヌとボンカースを閉じ込めた水泡か……捕まると厄介だな」 シトラスも、水泡の能力を見ているので大方の察しはついていた。 指先に触れるだけで簡単に割れそうなシャボン玉が、女性のアドレーヌのみならず大男のボンカースまでも無力化させる檻のようになっていた事実。 シトラス本人は、腕力や剣の腕前には自信はある。 囚われても脱出できるという自信が。 だが万一の可能性もある。 「複製、コピー合成!! ファイアソード」 シトラスがそういうと剣に真っ赤な炎が宿る。 そいつはあっという間にシャボン玉を蒸発させると、剣戟はバヘッドの頭スレスレを通り過ぎる。 「んにゃろ!! まだまだぁ!! バブルショット!! ショット!! ショットオオ!!!!」 もはやなにふり構わずと言った様子で、バヘッドは口から大小さまざまな水泡を発射する。 時にはシトラスを中に閉じ込めるのもできそうな大きさから、手のひらサイズの水泡まで。 シトラスの攻撃に蒸発、あるいは届かずに地面に落ちて虚しく弾けるシャボン玉。 「バヘッド!! むやみやたらに撃つんじゃねえ!!」 「うるせえドロッチェ、攻撃の手を緩めるんじゃねえよ」 バヘッドとドロッチェ、二人は口論を続けながら攻撃の手を緩めない。 シトラス自身、ダメージはないが止まることを知らない波状攻撃の連続に、うんざりしていた頃だ。 「鬱陶しい、その口喧嘩も、冷たいも暑いも感じるその技も……白玉と赤玉の喧嘩にそっくりなんだよぉ!!」 シトラスの剣が黄金色にオーラを纏う。 今までにない攻撃が来る。 直感したドロッチェとバヘッドの二人は避けるように頭を抱えて飛び込んだ。 「ソード……ビーム!!!!」 剣を振り下ろした瞬間にシトラスの体色と瓜二つの光は、シトラスの言葉を合図に剣から放たれる。地面と並行に飛んだ光線は、頭上スレスレの低さでドロッチェとバヘッドの頭を過ぎると、スチールオーガンの崖に炸裂する。 大きな地響きと粉塵が舞い上がると、晴れていく景色の奥から真横一文字の傷跡が、崖の横幅数十メートルほど……焼き焦げた跡もおまけに、深く抉り取っていた。 「ひぃぃ……。 あんなの食らったらひとたまりもねえぞ」 バヘッドの言葉にドロッチェも思わず喉を鳴らす。 シトラスはわざと彼らに攻撃を当てなかったのだ。 それは『いつでもお前達を殺すのは容易いぞ』と忠告に等しい。 「悪いが、お前らの攻撃は痛くも痒くもねえ。 何度も言うが、サファイアの身柄さえよこしてくれたら、こっちはお前らと戦う理由は無いんだ」 「よく言うぜ!! その後はどうせあそこのアドレーヌやボンカースのように洗脳して使いっ走りにするんだろ!?」 バヘッドは聞く耳を持つかとばかりに叫んだ。 それを聞いたシトラスは、考える間もなく間髪入れずに次のように即答した。 「なんだ、ちゃんとそこまで考えが至るほど馬鹿じゃない訳か」 「外道が」 ドロッチェの言葉に、シトラスは含み笑いを浮かべる。 その様子に背筋が凍る感覚をバヘッドは覚えると、背後から砂利を踏み鳴らす音が聞こえる。 「さっきシャボンに捕まった時、ファイア系の複製だと破壊は容易だって確認できた。 だったら後は……手助けしてやるだけ、簡単だよな」 ドロッチェが後ろを振り返ると、シャボン玉に囚われていたはずのアドレーヌとボンカース……そのシャボンが融解して露呈しているではないか!! 先ほどのシトラスが出した技『ソードビーム』は、アドレーヌとボンカースの解放にも一役買っていたのだ。 「うげ!! 結構硬度高めて発射したはずなのに!!」 バヘッドはいかにも想定外と言いたげな言葉で焦りを見せる。 ここでのアドレーヌとボンカースの解放は、シトラス側の戦力の増強に繋がってしまう。 ギリギリのところで踏ん張っていた戦いも一気に不利に転じるが……。 「余所見禁物なのサァ!!」 地面スレスレの高さから、マルクがシトラスの目の前に飛んでくる。 マルクの背に乗ったケケは、ガントレットに電撃を纏い、握り拳を突き出してシトラスの顔面を狙う。 「マルクさんのスピード×私の電撃を数倍纏ったパンチ……当たれぇ!!」 猛スピードで突貫するケケの拳に、シトラスはしっかり目で捉えていた。 ヒラリと半身を翻して攻撃を避けるが、頬に触れたのか、電撃の焼きついた痛みが感覚で残る。 「惜しいな、不意打ちにするなら確実に仕留めねえと」 余裕とも取れるアドバイス、シトラスを倒すのは容易ではない。 覚悟の上でバヘッドは水泡をどんどん吐き出してシトラスめがけて飛ばしてくる!! 「何度も同じ手を食うか!!」 「馬鹿野郎バヘッド!! 他に何かねえのか」 ドロッチェの無慈悲とも言えるツッコミ、爆弾や冷凍光線、星型弾をシトラスに仕向けてくるドロッチェとは対照的に、バヘッドの攻撃は至ってワンパターンだ。 ドロッチェの怒りのツッコミに眉間に皺を寄せながら、バヘッドは負けじと言い返した。 「うっせえ!! そりゃオレだって他にネタがあるならやれるわ、コレしかねえんだから仕方ねえじゃんか!!」 「役立たずかよ!!」 「なんか言ったかァ!?」 戦闘そっちのけの口論に、シトラスは二人に飛びかかり剣を地面に振り下ろす。 ドロッチェとバヘッドはすんでの所で逃げ出すと粉塵を巻き上げながら、水分を吸った砂埃を肌にしたシトラスが苛立ちを隠せず声を張り上げる。 「あぁ……もう、こっちはお前らの喧嘩漫才を聞く余裕ねえよ!! こっちのギルドに合流して仕事しなくちゃいけねえのに……早い所お前らも『フレンズハート』にかかっちまえよ!!」 「おお、とうとう本性見せたぞコイツ」 ドロッチェのその言葉通りに、シトラスは顎をあげながら見下すような視線で睨む。 剣を持っていない右目を手のひらで覆い隠すようにして、鋒をドロッチェ達の方へと向ける。 「コイツらの始末は任せる。 ボンカース」 シトラスは後ろにいるはずの『手駒』のボンカースに命令をするが、一向に実行に移される様子も無い、ふと背後に目をやるとそこにはシトラスには信じられない光景が広がっていた。 「……くっそ、『暴食』の連中に助けてもらうとはな……おい、小娘……気は確かか?」 正気に戻ったボンカースだ。 シティトライアルで受けた洗脳がいつの間にか瓦解し、膝を地面についてゼエゼエと息を切らしている。 得物であるハンマーを杖のように地面に立ててようやく立ち上がれる、と言った様子だ。 「問題無しよ。 アンタみたいなボス猿に心配されるほどヤワじゃないわ」 アドレーヌも、筆で床に絵を描いて……Mのマークが描かれたトマト『マキシムトマト』を実体化させるとそのまま齧って頬張っている。 見る限りその様子は、先ほどまでの洗脳でケケの言葉に涙を見せた程度の反応とは、全く別物だ。 「おっ、それ良いな。 オレにもよこせ」 「イヤ。 絵の具大事にしたいもん」 「馬鹿な……『フレンズハート』の力が、なんで解けている!?」 「オラ、他の事に気を逸らしてる場合かヨ」 その瞬間に空中からマルクが急降下で突進する形で、シトラスの眼前に蹴りを入れる。 迂闊に不意打ちを取られた形のシトラスは、防御姿勢を取る暇もなく、マルクの攻撃を受ける形になり、吹き飛ばされる。 そして……その時に視界に入った。 マルク達の背後には、ガントレットに電撃を溜めたケケの姿。 (そうか……あの女の電撃!!) 第五十六話 ウチ一番の成長株 数分前。 マルクとケケが空を飛んでいた頃。 「マルクさん、飛びながらでいいんで話を聞いてくれませんか」 「大方アドレーヌとボス猿の事だろ?」 ケケが切り出してきた会話に、マルクは即答した。 ケケはおおと声を出した。 存外冷静沈着なマルクの様子に感心した様子だ。 「マルクさん……その変身、見た目すごいのに意外といつも通りですね」 「与太話ならお前を今から振り落とすぞ?!」 「アドレーヌ達を元通りにするの、シトラスを倒さないといけないんですかね」 マルクのツッコミをスルーしてケケは会話を続ける。 ケケの疑問は、どちらを優先して倒すべきかと言う思案だ。 シトラスを差し置いてアドレーヌとボンカースを解放できるなら、それに越した事はない。 「この手のセオリーは、黒幕を倒して救い出すってのが常套句だろうよ。 君の好きな漫画にもそんな場面あっただろ」 「あっ、マルクさん『ラブリーシミラ』読んでくれてるんですか!? それ確か八巻の話ですよね!!」 ケケは久しく自分の趣味に理解をもらえたような喜びようで、マルクに前のめりに話す。 が、現実はそれどころではない、すぐさま二人は落ち着きを取り戻して、地上を見下ろした。 水泡をジタバタしている、アドレーヌとボンカースをそれぞれ見据えて。 「ただボクの話したセオリーは『この場合に限り無意味』の可能性があるのサ……シトラス本人に、洗脳の力は無い。 何故なら」 「『洗脳の複製』があるなら、わざわざ魂を吸い取るお宝やフレンズハートなんてものを使う必要はない……ですよね??」 ケケの自信満々の答えに、マルクは頬が緩んだ。 「賢い子は嫌いじゃないのサ。 じゃあ次にやることは……」 「アドレーヌとボンカースを、タコ殴りにして叩き起こします!!」 シャボンから解放されて、起きあがろうとしているボンカースとアドレーヌの後頭部に、ケケの両手のガントレットからの電撃を纏った拳骨が入った。 不意打ちの攻撃お構いなしに、二人の洗脳を解放するための作戦は短時間のうちに遂行された。 そして現在に至る。 「いや、力技すぎる」 「ホントよ、少しは加減てものを……」 ドロッチェのツッコミに同調するように、アドレーヌは呆れるように呟いた。 が、それに間髪入れずにケケがアドレーヌの両頬を鷲掴みにするとゆっくり引っ張って……笑顔でつぶやいた。 「ア・ド・レーヌ〜〜?? 忘れたとは言わせないわよ……ププビレッジでやった事、村でやった事……あとシティトライアルの借り⭐︎ アレは痛かったな〜」 「あっ……あの時は、レッド達について行けば本当に世界を平和にできるって信じてて」 「新興宗教にひっかかるバカの常套句よそれ」 ケケはそれだけを言うとアドレーヌの額にデコピンを一発お見舞いした。 「痛っ」と一言だけ漏らしたアドレーヌは赤く染まった額を右手で隠して抑え、そんな様子を見たケケは鼻で笑う。 「これが終わったら、まずはププビレッジに引きずり出す、そのあとはドロシアさんの所ね」 「生きて帰れたら……ね」 アドレーヌの視線の先には、ボンカースとマルクがシトラスに間髪入れずに攻撃を繰り出す様子。 そしてシトラスの攻撃の流れ弾を、バヘッドはひたすらシャボンに閉じ込め、ケケ達への衝突をすんでの所で押さえ込む!! 「ケケちゃん、アドレーヌ!! 話は後だ、まずはシトラスを倒す!!」 「倒す?? 洗脳は解いたみたいだが、こっちを一人にしたとて、勝てんぜお前らは」 そう、アドレーヌとボンカースを洗脳から解放したとしても、シトラス一人の戦力は絶大だった。 マルクの攻撃を難なくいなし、ボンカースが振り下ろした木槌を剣一本であっさり受け止める。 「もう一度、コイツを喰らうか……??」 シトラスが剣を天高く掲げてそう言った。 先ほどと同様に剣は炎を纏って天高くまで延焼する。 それを見上げたケケ達は、暑さで張り付く喉を鳴らした。 「こりゃたまらんぞ!! おいどうすればいい」 迫り来る熱波は木槌で遮っても涼まない。 ボンカースは丸太のような腕でも顔に影を作るようにしながら背後を振り向くと、ちょうど彼の影に隠れるように、ケケとアドレーヌが身を屈めていた。 「チクショウ考えたなお前ら!? オレは岩陰じゃねえぞ」 「ちょっと黙りなさいよ猿。 アンタの汗がかかって汚いじゃない」 「アドレーヌ。 実体化の能力は後どれぐらい出せる??」 ケケの質問に、アドレーヌは背丈ほどの絵筆の毛先から出てくる絵の具を眺めながら静かに唸る。 しばらく思案すると、彼女からは諦めたかのような声が出てくる。 「どの絵の具もこの暑さでカチカチよ。 無理矢理使うなら後一色か二色。 それも大量には出せないわ」 「白色は使える??」 「……出せると思うけど、ケケ。 一体何を」 「ドロッチェさん!! シトラスの足止めをお願いします!! ボンカースとアドレーヌはちょっと着いてきて!!」 何かを思いついたような顔つきのケケは、アドレーヌとボンカース、二人の手を引いてバヘッドの方へと走り出す。 シトラスもそれに気づいたか、剣からの光線を発射しようとするも、ドロッチェがすぐさま目の前に飛び出した。 「そこをどけ」 「と、言われてハイと返事するお人好しはいねえだろ。 ウチ一番の成長株が何か思いついたんだ」 杖を振りかぶってシトラスの顔面に思い切り殴りつける形となると、シトラスは真後ろに大きく吹き飛ぶ。 受け身をとってすぐさま左手を見るとケケとアドレーヌが背を向けて走っていた!! 好機と受け止めたシトラスは剣から光線の斬撃を飛ばすも、すぐ後ろを張っていたボンカースが割り込んで、木槌で斬撃を受け止めた!! 「行けぇ!! 『七彩の暴食』!!」 ボンカースの叫びと同時にケケとアドレーヌはマルクの側へと到着した。 ケケがマルクの背中に飛び乗ると同時に、アドレーヌはその場で地面に被さるように膝をついた。 「クソっ蒸し暑くてたまらん……」 シトラスの周囲は自身が出した炎と、バヘッドが出した水泡やドロッチェの技の一種『冷凍光線』で水蒸気が充満していた。 彼自身もこの異常な空間に、不快な汗を掻きながらも、さすがは『七彩の宝玉』の幹部と言ったところか。 ほぼ無傷でここまで戦いを優位に進めていた。 後少し、ケケ達の体力も限界のはずだ。 一人ずつ仕留めて行けば、勝機はあると--考えていたその時!! 「できたわよボンカース!!」 「まかせろ、ネズミ、タコ助!! 距離を取れぇ!!」 地面に覆い被さってから、その間わずか数秒。 アドレーヌがボンカースに何かを投げ渡すと同時に、彼は『そいつ』をシトラスの頭上めがけて放り投げる!! 見上げた途端それは何かの袋のように見えた。 ボンカースの合図と同時に、ドロッチェとバヘッドが逃げ出すように走ったので、シトラスは直感した。 爆弾か何かだと。 「叩っ斬ってやるよ」 燃える剣でその場で思い切り叩き割る。 袋は見事に切れ目が入るとあっという間に引き裂かれた!! 果たしてそこから漏れ出したのは……大量の白い細かい粒子!! 「うげっ!! 何だこれ、しょっぱ!! 塩じゃねえか……一体何のつもりで」 シトラスが身体についた塩を払おうとした途端に、大きな翼の生えた影が彼を覆い尽くす。 すぐ真上に、悪魔のような顔をしたマルクと背中に乗っていたケケの姿。 マルクの周囲には百……幾千……いやそれ以上の夥しい数の矢が宙に浮いて、シトラスに標準を合わせていたーー。 そして、その全ての矢に、ケケはガントレットから放たれた電撃を、指先一本ずつから矢に丁寧に纏わせている。 「塩水は電気をよく通す。 学校の教科書でも載ってる実験コーナーですよ--マルクさん、いつでもオッケーです」 「了解なのサ。 ハァーイそこのお兄さん。 ビリビリ鍼治療マッサージの体験をしてみないカイ??」 シトラスは自分の周囲をもう一度見渡す。 何もないただっ広い岩石が露出した空間。 いつの間にか隠れられそうな場所も何かで壊されたかのようにボロボロだった。 ドロッチェ達は……アドレーヌが実体化させた一つ目の雲のティンクル『コクラッコ』の集団に乗って浮上していた。 シトラスも、エアライドマシンに乗りさえすればいいだろうが、今から呼んでもきっと間に合わない。 「やるじゃん、勝ちだぜお前らの」 空に浮かぶケケ達を見上げながら全てを察したかのように、シトラスは剣を地面に放り投げて堂々と負けを認めた。 「さしずめボクとケケのフレンズ能力といったところだネ」 「バリッカ……アローアロー!!」 ケケの電撃を纏った幾千の矢の波状攻撃!! 全ての地面を覆い尽くして逃げ場を奪うような攻撃を目の前に、シトラスは笑顔を浮かべていた。 (悪いな、ピンク。 時間は稼いだ……後は任せたぞ) シトラスの不適な笑みを、マルクは確かに見逃さなかった。 彼が懐から何かを取り出した瞬間。 何らかの反撃の狼煙となる武器か何かと、遅れるようにケケやドロッチェ達も反応した。 ボンカースかアドレーヌが、「不味い」と口にしようとした瞬間だった。 シトラスは反撃をしようともせずに取り出した『何か』を地面に落として、ありったけの矢を受け入れていた。 先程の敗北宣言は、ケケ達に確かに捧げたものだと正直に答えるかのようだった。 誰かが、ふと口に漏らした。 シトラスが落とした『何か』の正体は、シティトライアルでレッドがサファイアに向けて使っていた、白いモヤを吸い取った『たましいのうでわ』そのものだった。 「……腕輪??」 それの正体を知るのは、しばらくしてからになるが。 ……ギャラクティック・ノヴァは、一人の命と引き換えに。
投稿者コメント
いつか言ったかと思いますが 『七彩の暴食』は年内完結を目指して頑張って参ります。 まさかここまで時間がかかる作品になるとは……2ヶ月であっさり終わらせていた昔が懐かしい。
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