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小説「
第四十三話 ワンサイドゲーム
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作者名
ディン
タイトル
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内容
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……シティトライアル予選第二組の組み合わせを発表いたします。 参加者の皆様はご注目ください。 機械的な女性の高い声が会場に響き渡る。 いまだに予選第一組の参加者の中で、グレープの爆弾に巻き込まれた者達はフィールド上から救護班によって次々と会場の外へ担ぎ出されていく。 第一組から、ド派手な試合が行われた事で観客のボルテージはいきなり最高潮だ。 次はどんなドラマが待っているのか、テレビの向こうでも世界中の視聴者はきっと釘付けだ。 「おい、第一組の瞬間最高視聴率はどうなった!?」 「へぇいディレクター。 爆発による『演出の瞬間』はいきなり過去最高に迫る81パーセントでして」 大会の運営達は、怪我人の安否はなんのその。 この世界大会の注目度にしか視界が狭まっている。 『安全地帯』である巨大な会場を見下せる強化ガラスで囲われた室内の放送席から、悪い笑顔を見せている。 「いいぞいいぞ。 四年に一度のお祭りなんだ。 『四つの穴』なんかにかこつけて、遊んでいる冒険者どもめ、この祭りの間だけは俺たちの金儲けに協力してくれよな!!」 「ブレイドさん!! バヘッドさん!! ご無事ですか」 救護班による手当が終わり、第一組参加者だったブレイドとバヘッドは『七彩の暴食』と『鏡の大迷宮』の応援席に帰ってきた。 二人は絆創膏なり包帯を頭につけて、観客席から会場を見つめている。 「ブレイド、バヘッド。 よく頑張ったの。 一戦目から勝ち抜く者がウチから出るのは想像以上じゃ」 「しかし……まさかいきなり『七彩の宝玉』のメンバーが出てくるとは……」 バヘッドは悔しそうにビジョンの予選突破者を眺めている。 一人はブレイドでもう一人は……グレープ。 応援席に集めるメンバーは皆二人に視線が集まっている。 ただ、別世界から来ている『鏡の大迷宮』のシミラ達は呆然としているが。 「あの、皆さんどうしてサファイアさんとドロッチェさんを見ているのですか?」 「二人はね。 『七彩の宝玉』とちょっと因縁があるみたいなんだよ」 ピッチの言葉だ。 本人達が口を閉ざす中で話が進んでいく中、サファイアは重い口をようやく開いた。 「オレもこの大会にグレープが参加するとは夢にも思ってなかったし、やってる事は五年前から変わんねえなって言う感想でしかねぇよ……」 「あの時の光景は今でも瞼の裏にこびりついてる……決して他人の空似でもドッペルゲンガーでもねぇ。 あの時見たティンクルの集団にいた男の一人で間違いない」 あの時見た集団。 ドロッチェが、『真紅の窮鼠』が壊滅したあの日、彼を結果的に助ける事になったのは十数年前の『七彩の宝玉』の面々だった。 その中に確かに、グレープの姿は見覚えがあるというのだ。 「アイツはオレの仲間達の仇の一人だ。 借りはこの大会で絶対取ってみせる」 「指名手配されてる癖にこんな大会に出て……何が狙いなんだ? グレープ」 第四十三話 ワンサイドゲーム 予選第二組 デスマッチ 先程までレースの様に周回していた会場は、まるで魔法の様に箱庭型の平面フィールドに様変わりしている。 さながら、サッカーやラグビーのフィールドの様だ。 一つだけ、変わっているとすれば青や緑色のコンテナが広いフィールドに点々と存在する事か。 立方体のその箱は、ケケも初めて仕事をした時ーーサンドーラでマルクと勝負をした頃ーーに見覚えがあったものだ。 「今回の予選の説明です。 八十名余りの参加者全員で一斉にこの箱庭フィールドの中での生き残りをかけたサドンデスをしてもらいます」 「げっ、一番やりたくなかった種目だ……」 ケケは落胆気味に肩を落として説明を聞いている。 彼女の両サイドには、説明を聞くなり待ってましたとばかりに興奮する他ギルドのティンクル達。 血の気の多い周囲に勝負の前から気圧されてるケケの後ろから、威張り散らかす様な笑い声が聞こえてくる。 「ガッハッハ!! 戦う前から弱気じゃあ、勝てる試合も勝てねえぞ」 「……あ、あなたは……昔サファイアとピッ君にやられた」 声のする真後ろを振り返ったケケはその声の主に見覚えがあった。 忘れもしない、自分を『七彩の宝玉』の仲間にしてあげると罠で陥れた、詐欺集団の首謀者!! 「……ボンカース!! あなた、まさか脱獄を!?」 「おいおい、人聞きの悪い事言うなよお姉ちゃん。 俺達『森林の暴君』はれっきとした参加チームなんだぜ」 『森林の暴君』、彼らはサファイアとピッチの活躍により、警察に連行されたいわゆる『闇ギルド』の一つである。 ケケにとっては、『七彩の暴食』加入のきっかけの存在でもあり、場合によっては彼女自身彼らの手によって奴隷にされたかも知れない……憎むべき存在だ。 「俺達はなぁ、ずっと刑務所の中で『七彩の暴食』に復讐する夢を描いていた……それが今日叶うかも知れねえんだ!! 早くお前をぶっ叩いてやりてえなぁ」 「……私をあの時みたいな夢みがちな少女って侮らない事ね。 私だってサファイアやマルクさん達と仕事をして強くなったんだから」 「随分と強気ね。 ケケ」 ボンカースとケケの前に一人の女が立ち塞がった。 赤いベレー帽に、緑のスモッグを身につけたヒトガタ。 「アドレーヌ!! あなた達もこの大会に!?」 「アナタ、あの村に引きこもっていて、エアライドマシンのエの字も知らなかったはずなのに……世界大会に参加するなんて、『七彩の暴食』の人材不足はとうとう本格化したのかしら??」 アドレーヌは試合開始前からケケを見下す様に笑っている。 それは決して油断でもない、絶対的な自信による威圧感にケケは一瞬怯むもののすぐに不敵な笑みを浮かべてアドレーヌに言葉を返した。 「生憎様、私もサファイアやピッ君にマルクさん達のおかげで、エアライドの知識は蓄えてるんだから」 「知識を蓄えた頭でも、『宝玉はティンクル以外入れない』きまりは知らなかった癖に?」 アドレーヌはケケの神経を逆撫でする様に、すれ違い様に痛い所を突いてくる。 しかしケケは怯まない。 フィールドに向かって歩いていく参加者達についていきながら、アドレーヌに聞こえる様にはっきりと彼女は宣言する。 「もうあの時の私じゃない」 「そう、少しは楽しませてもらうわね」 ケケとアドレーヌの二人の会話から、弾き出されていたボンカース。 彼は臆することなく、そんな二人の背後を睨んで不敵な笑みを浮かべていた。 「くくく……余裕ぶっこいてるのも今のうちだぞ、ガキども」 『改めてルールの説明をします!! 箱庭フィールドに点在するコンテナの中には、エアライドマシンを強化するパーツの他に、『即効アイテム』と呼ばれるパーツがあります』 会場のビジョンには、グローブや盾、ワープスターが描かれたパーツの絵柄が表示されている。 「このパーツは、コウゲキやボウギョパーツ等と違って取った瞬間にマシンの性能が飛躍的に上昇します」 「え!! じゃあそれ一杯とったらすぐ最強のマシンできるじゃん」 勉強してきているとはいえ、ほぼ初心者のケケ。 彼女の勘違いはエアライド初心者のよく通る道とも言える。 「違うぞ小娘。 即効アイテムは制限付きだ。 数秒経過したらすぐに解除されちまう」 「逆に言えばその短期間はライバルを一気に蹴落とす大チャンス!! カスタマイズパーツをいそいそ集めているライバルの横から、即効強化したマシンで体当たりしてリタイアさせる!! なんてことも可能です」 つまりーー即効アイテムで早期決着をつけるか、カスタマイズパーツを集めて持久戦に持ち込むか。 この選択がこのバトルロイヤルの戦いの肝なのです。 そうウォーキーが叫んだ途端に、ケケや参加者達の周りに、青や緑のコンテナが空から降ってきた。 それを合図の様に、ビジョンに『GO!!』の文字が表示された。 「制限時間内に最大四名勝ち残れるか!? エアライダーの実力だけで無く、『アイテム運』も試されデスマッチ……今スタートぉ!!」 「ケケ、走りな!!」 ブレイドの叫び声と同時に、ケケはすり鉢状の会場の真ん中から観客席側へと一気にライトスターを発進させる!! 目の前にはウォーキー達の解説通り、青いコンテナがどこからか魔法の様に現れて降ってきた!! 「コレは、カスタマイズパーツの箱!!」 ケケはガントレットから電撃を放出するとコンテナから白い羽のパーツが出てきた。 これはピッチやブレイドとの免許勉強でよく見覚えがある、『ヒコウ』パーツだ。 「いいぞケケ!! 今はフィールドの外側でパーツを集めるんだ!!」 ピッチの指示通りに、ケケはフィールドを囲む観客席の壁をなぞる様にライトスターを走らせ、的確にコンテナを砕いていく。 フィールドの中央では、既に腕っぷしに自信のある参加者達が、各々の力をぶつけ合っている様子が窺える。 「おおっと!! 早速マシン同士の一騎打ちがフィールドの至る所で発生してる!! マシンから落下したらその時点で失格だぞ」 人々の注目はフィールド中央のいわゆる『優勝候補者』同士による一騎打ちだ。 ケケは横目に見ながら、その様子をしっかり確認していた。 「あ、あの人この間テレビでやってた競星で三着になった人……サファイアが三連単外して文句言ってた人に……」 つくづくケケはとんでもない大会に参加したものだと思った。 にわか仕込みの知識だけで、プロのエアライダーも参加している大会のど真ん中にいる現状は、命知らずと言っても過言ではない。 「お嬢ちゃん、よそ見は禁物だぜ!!」 ケケの正面から、一人の男が飛んできた。 コンテナから獲得したソードを手にしてケケにどんどん近づいていく。 既に間合いはそこまできていたその瞬間、ケケはライトスターにプッシュブレーキをかけると、その姿勢を一気に屈めた。 「何!?」 男のマシンはケケの頭スレスレを飛んでいく。 そしてケケの頭上に男のマシンが通過した途端、黄色と赤で彩られた筒状の花火を抱えているケケ!! 「いっけぇ!!」 ケケのその合図に、『クラッカー』は花火弾を発射させる。 真下からの攻撃に男のマシンは回避できないまま、吹っ飛ばされてーーそのまま男は身のまま地面に叩きつけられた。 『落下だーー。 『七彩の暴食』ケケ選手、エアライドの大会自体初参加でいきなりライバルを蹴落とす大金星!!』 無論、これはケケの思惑通りではない。 『ビギナーズラック』に観客が沸く一方で、彼女の心臓は激しく脈打っている。 それだけ強襲に驚いたし、紙一重の攻防に安堵していた。 「……もうちょっとだけ、離れとこ」 ケケはマシンをフィールドの外側に指針を向けて走り出す。 敵前逃亡ともとれるが、ブレイドとの約束の一つだ。 「いいよ、ケケ。 ちゃんと約束は覚えているね」 ケケがこの大会に参加する前にブレイドと交わした約束。 『無茶はしない』事だった。 ほぼエアライド初心者のケケが暴走をすれば、それこそ大怪我の元につながる。 ケケも承知の上で、数少ない好機の中で予選突破を目指していく。 「名付けて『漁夫の利』作戦。 疲弊してきたライバルを蹴落として、ケケが生き残る確率をあげるのさ」 「あまり威張れる作戦じゃないですね」 シミラの容赦ないツッコミはともかく、ほぼ試合はブレイドとケケの筋書き通りに進んでいた。 カスタマイズパーツを集めつつ、混戦している場所を避けてケケはフィールド内を巡っている。 少しずつだが、ライバルも減っていき暴れている参加者を把握できる様になっていく。 「ガハハハ!! シャバの連中も弱っちぃな!!」 ボンカースだ。 紫の薄い円盤とその周りに桃色の球体が三つ旋回しているマシン『スリックスター』を乗りこなし、彼は持ち前の怪力でハンマーを振り回してライバルを次々弾き飛ばしていく。 一人、また一人とボンカースのハンマーの餌食になっていく。 彼は不適な笑みを浮かべながら周囲を見渡すと、フィールドの隅っこを走っているケケに標準を合わせる。 「見つけたぞ『七彩の暴食』ぅ!!」 「げっ、ボンカース!!」 ライトスターの頭を思い切り持ち上げ、ケケは滑空をしてボンカースから距離を取る。 彼もスリックスターで滑らかに曲がり、ケケの着地地点に向かっていく。 「貴様らのおかげで、俺たちはなぁ!!」 「うるさい人攫い!! それ逆恨みって言うのよ」 周囲はお構いなしとばかりにボンカースは自前のハンマーを振り回しながら、ケケを追い立て回す。 彼の振るったハンマーが他の参加者にぶつかっても、お構いなしだ。 『ああっと!! また一人リタイアだァ!! ボンカース選手のハンマーに次々と参加者達が餌食になっていく』 スタート時点では八十人以上はいたはずの参加者達は、既に半数近く脱落していた。 その渦中の一人、ボンカース。 ケケを追い回すついでに、ライバルを蹴落としていく。 「それに……どうして逮捕されてたアンタが正規の参加者ってどう言う事なの!?」 「簡単な事だよ。 刑務所にずっと閉じ込めて置くだけじゃ俺達のストレスは溜まる一方だろ?? だからこう言う大会に時々刑務所チームって名目で参加させて、ストレス解消に利用させてもらうのさ。 まぁ、言うなれば立派な社会復帰活動ってやつだ」 ボンカースは付近のコンテナをハンマーで破壊しつつ、ケケを追い回して笑っている。 奴の目は決して逮捕から改心した様子は微塵も無い。 ただ目の前のケケを付け狙う、猛獣そのものだ。 「最悪……こんな奴も参加OKな大会なんて、運営は何考えてるの?」 同時刻 箱庭フィールド別のエリア。 ケケがボンカースと交戦している時も、また別の戦いが幕を切っていた。 一組八十余人が一斉に戦う今回の大会、あるエリアで争いがあれば、また別の地点でも同様の事が起きる。 そこの渦中にいたのは……バタービルディングのギルド『バトルクラブ』のバウファイターと言う一人のアニマの男だった。 「オラオラァ!! 弱い弱い弱い!!」 バウファイターは大きな耳をまるで腕の様に器用に振り回して、周囲の参加者を次々と蹴散らしていく。 彼の周辺には既に主人のいないエアライドマシンが裏返っていて散乱している。 「バウッフフフ!! 世界中の腕利きたちが集まる大会だって言うから楽しみにしてたのに、拍子抜けだぞ!! エアライダーってのはそんなもんか!!」 「バウファイター!! 油断するんじゃねえ」 観客席から、バトルクラブの応援団が一人ナックルジョーが叫んでいる。 彼は今回は別の組での参加になったが、仲間であるバウファイターにセコンドの様に声をかけている。 「問題ねえ、ジョー。 このマシンはボウギョのパーツを重点的に集めて強化している。 俺の持ち前の力があれば、そりゃもう無敵だ!!」 彼の作戦は、マシンの防御力を徹底して鍛える事。 それに持ち前の力が加われば向かう敵無し。 バウファイターの理想は既に実現しているかと思われた。 周囲を見渡せば、もう参加者の影もまばら。 ちょっと前は四十ちょっとだった参加者ももう数えられる程だ。 ラストスパートとばかりに、バウファイターはマシンのエンジンを吹かせる。 「さぁ、最後のもう一仕事と行くぜ……っ!!」 その瞬間だった。 バウファイターのエアライドマシンのエンジンが急にストップする。 先ほどまで勢いがあったスピードもどんどん減速していき、フィールドのど真ん中に急停止する。 戦場の中心に停止は自殺行為だ。 バウファイターは突然のトラブルに戸惑い、背後を振り返る。 彼のマシンには、バツマークの描かれた灰色のチャージの『カスタマイズパーツ』が張り付いていた。 「こ、こいつは……『チャージカット』!!」 一定時間チャージ、つまりスピードを出せなくなる妨害パーツ。 いつの間にかそれを取り付けられたバウファイターは、慌ててそれを取り外そうとするが、正面からアドレーヌが急接近してくる。 「ま、まずい!!」 そう叫んだが、遅かった。 黒っぽい紫のマシン『デビルスター』に乗っていた彼女は、勢い落とす事なくバウファイターに一直線!! 『決まったー!! アドレーヌ選手、ここで大暴れしていたバウファイター選手を討ち取った!! コレで第2組の残り人数は二十人を切った!!』 会場のビジョンには制限時間と残り人数が表示されている。 19、17…残り人数はスピードを落とす事なくカウントダウンしていき、それを見た観客達も大盛り上がりだ。 「ケケちゃんは!? ケケちゃんは無事なのか??」 「慌てるでない、まだ残っとる」 双眼鏡でケケを追いかけながら、モソは静かに見守っている。 サファイアとピッチ達は、予想以上に奮闘するケケを目で追いかけて、時間が来るのを待っている。 「もう少しだ、頑張れケケ!!」 ピッチがそう叫んだ途端に、サファイアは立ち上がった。 彼は見逃さなかったのだ、ケケの後ろをとっていた一つの影に。 「ケケ!! 後ろにアドレーヌだ!!」 ケケとボンカースが交戦している中に、アドレーヌが一直線で突っ込んでいく。 ボンカースとアドレーヌに挟み撃ちにされた形になったケケは、思わずライトスターにチャージをかけて停止する。 コレは序盤で彼女が成功した、プッシュブレーキで姿勢をかがめてアドレーヌの攻撃を躱そうとする動きだった。 そのまま、アドレーヌの攻撃がボンカースに直撃すれば、コレ幸いとばかりにケケは思っていたーーしかし!! 「オレ様の獲物は渡さねぇぞ!! 小娘ェ!!」 ボンカースはハンマーを地面に思い切り叩きつけた!! その勢いでフィールドは一気に砂埃が舞い上がり視界が一気に悪くなる。 ボンカース、ケケ、アドレーヌの三人は砂埃に突っ込んでいく形になり、外からは様子が一切見えない!! 「ちょ、ちょっと!! ボンカース……っ」 ケケは砂を吸い込まない様に口元を押さえていたが、同時に正面からアドレーヌ!! 目と鼻の先にまで迫っていた彼女は、ケケの首根っこを左手で一気に掴むとそのままデビルスターを上空に急上昇させる!! 会場の客席からは、突然の砂埃の頂点からアドレーヌとケケが抜け出してきた形に見えるだろう。 しかしケケは首を掴まれて持ち上げられているのでーーライトスターは既に地上に置いてきぼりだ。 上空ではアドレーヌがケケを宙吊りにしている形。 観客席はその異様な光景に思わず息を呑んで見守るばかり。 「ア、アドレーヌ……苦しっ」 「……」 アドレーヌは何も答えない。 地上では、ケケの乗っていたライトスターは既に参加者達の衝突によりボロボロだ。 このままケケを地上に落とせば、アドレーヌの勝ちはほぼ決まる。 『ど、どうしたのでしょうかアドレーヌ選手!! このままケケ選手を地上に着地させれば……良いだけですのに』 ウォーキーの言う通りだ。 マシンも無い、既に逆転の手立てもないケケをそのまま生かす理由はアドレーヌには一見無い様に思える。 そんな中、地上ではボンカースが残りの参加者を蹴散らしていく。 「地上は彼に任せるわ……そしてケケ。 私の夢を聞いてくれる??」 「夢……??」 突然のアドレーヌのカミングアウト。 ケケは首根っこを掴まれたまま、アドレーヌの腕を両手で掴んでもがいたまま、彼女の言葉に耳を向ける。 「そう、私の夢……サファイアやブレイドと本気の勝負をしたかった。 でも、同じギルドの仲間だった私とは、彼らはなぁなぁで終わらせて……悔しかったなあ」 「勝負……?? 四つの穴の宝探し……とか?」 ケケにも覚えがある事だ。 マルクとのオール探しをはじめとして、彼女も仕事の最中に軽いゲームと言ってサファイアやピッチ達と賭け事をしていた事があったから。 「そう、でも今の私にそんな事を言っても、彼らは良い顔してくれないはずよね……だから、思いついたの!!」 アドレーヌの右手には、コンテナから取ったであろう『クラッカー』。 それをケケの目の前に突きつける。 「ねぇ、ケケ……『七彩の暴食』で可愛がられてるあなたが……にあったら……」 「まさか……!!」 サファイア達の脳裏に、最悪のシナリオが過ぎる。 ピッチは観客席から身を乗り出して、アドレーヌに向かって叫んだ。 「やめろアドレーヌ!! ただ地上に落とせばお前の勝ちじゃないか!!」 「ケケ、負けでも良い!! アドレーヌから離れるのサ!!」 「……っ!? ぐっ!!」 マルクの必死の叫びに、ケケはアドレーヌの顔面にガントレットを突きつけて、電撃を放つ準備をする。 しかし、アドレーヌが先手だった。 ケケの攻撃よりも前に、彼女はクラッカーの起動ボタンを押した。 一発、二発、三発!! 会場の上空からまるで打ち上げ花火の様な発射音が轟いた!! アドレーヌは眉間一つ動かさず、ケケに標準を合わせたクラッカーを微動だにせず発射し続ける。 もう何発直撃しただろうか。 真っ白な煙と爆音がケケとアドレーヌを包んで何も見えなくなっているが、上空の惨劇を目の当たりにした一部の観客からは悲鳴の様な泣き声も聞こえてくる。 上空では、閃光と白煙がその状況を伝えようと残っている。 晴れていく煙の中から、その身一つになったケケが、頭を下にしてゆっくり落下していく。 そしてそのケケを憐れむような視線で見下ろしながらーーアドレーヌはその様子をただ眺めていた。 「……ケケっ……ケケーーっ!!!!」 マシンからその身を外したケケが会場の地面に落下したと同時に、ビジョンの制限時間は0に達し残り人数のカウントもケケ一人分減った。 『だ、第二組終了!! バトルロイヤル、時間制限になりましたのでここでタイムアップ!! 生き残った参加者は三名!! 規定の四名以下のためサドンデスは行いませんーー!!』 司会者の案内よそに、サファイア達は会場に乗り込んでケケの落ちていった場所に一直線に走っていく。 そこにはマシンに乗った大男がケケを抱えていた。 「あんたは……『白の騎士団』のフロス!!」 「やっぱりお前らのとこの子だったか『七彩の暴食』!! 怪我がひどいぞ、早く医務室へ!!」 予選突破者の一人、フロスはケケをストレッチャーに優しく乗せる。医療班に運ばれるケケを、ドロッチェやピッチが付いていく中で会場のど真ん中……サファイアはアドレーヌを睨んで氷刃を作り出した。 「アドレーヌ……やり過ぎだ。 それに、ケケは同じ村の仲間だったんじゃないのか!?」 「あら、大会期間中は試合以外でギルド同士の紛争は御法度よ、サファイア」 アドレーヌは笑みを浮かべながら、マシンから降り立った。 彼女は思い出した様に会話を続ける。 「それに……試合に村の仲間だとか何だとか、ケケが甘っちょろくなったのは、『暴食』の教育のおかげかしら?」 「……言いたいのはそれだけかい? アドレーヌ……」 ブレイドだ。 彼女は静かに声をかけるが、その声色は今までに無いほど怒りに満ちている。 その後ろにいたフロスは、二人に聞こえるようにアドレーヌの真意を、語った。 「アイツは……あんた達と本気でやり合いたいと……それで、ケケを」 フロスの言葉にサファイアは黙ったままだった。 その代わりに静寂を破る様にブレイドは静かに語った。 「良いだろうアドレーヌ、アンタの望み通りにやってやる。 ただし覚悟しておくべきだね……アンタも『七彩の暴食』にいたんだから分かってるはずだよ」 ケケの元へ戻る様に、ブレイドは背を向けて歩き出す。 それをアドレーヌは黙ったまま……少しばかり満足げに見守っていた。 「アンタは絶対に怒らせてはいけないギルドを怒らせた。 何が目的かは知らないけど、覚悟しとくんだね」 それだけを聞き届けたアドレーヌは、満足したかの様に、ブレイド達とは反対方向に振り返り、歩き出した。 シティトライアル 予選第二組終了 八十五名中三名突破 アドレーヌ ボンカース フロス
投稿者コメント
エアライダーのプレイアブルキャラ、前作からどれだけ増えるか楽しみです。 カービィだけでなくワドルディやキャピィ達もワープスターやデビルスターに乗せて操作できたら良いですね。 そうでなくても、好きなキャラに好きなマシンを乗せる妄想が叶うのが小説。 これからも書きたいことガシガシ書いていきます。
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