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小説「
第三十五話 反撃開始
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作者名
ディン
タイトル
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内容
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「いやぁ、まさかアニマと言葉が通じない鳥がこの島に来るとはなあ」 アニマ連合の本部付近のベンチ。 公園のような憩いの場は現在警察やギルド関係者が厳戒網を張り巡らせている。 先ほど、マルクが呼び出したフェニクロウはこの辺り一帯を飛び回り叫び回り、まるで威嚇さながら暴れ回ると手荷物検査の中断と住民たちのパニックを引き起こした。 それからフェニクロウはどうなったか、ベンチの下のカバンの中に身を潜めているマルクは知る由もない。 ただ操っていた彼自身が、しばらくすると手応えを感じなくなったのでコントロールできない領域に脱したか、あるいはーー。 彼のもう一つの顔である『パペット使い』について説明する。 人形や動物に模した物体をそれらしく操作できる能力だ。 サファイアやケケ達とチームを組む前から取り組んでいた彼の特技の一つ。 目隠し状態でも操作するのはお手のものサとはマルクの言葉。 そんな得意技をここに惜しげもなく披露したのは理由は単純。 今この場で彼のこの力を知っているのは『七彩の暴食』のメンバーのみ。 特に逃走中のケケが見れば、ここにマルクがいるとアピールにもなる。 合流はその後の流れ次第だ。 しかし、当のケケはこの時間ナゴやキャロライン達と邂逅しているとはマルクは知る由もない。 しかし彼の隠れている『モソの郵便袋』にある影が忍び寄っていた。 「なんだ……これは、ここに集まっていた市民の忘れ物か?」 「クー様、我々はあの巨大な鳥の確保と会話ができないか確認に行きます」 クー。 『アニマ連合』幹部の一人であり、現在マスターを務めている男ーー。 部下と会話をしていた男の様子を、郵便袋の隙間から伺っていたマルクはまさかの来訪者に喉を鳴らした。 「コイツはーーたしか手荷物検査の時にマスターと呼ばれていた……」 マスターほどの男となれば、ケケだけではない、きっとサファイアやモソの居場所も把握できているはずだ。 マルクは思いもよらぬ大魚がやってきた事に、口元を緩ませた。 第三十五話 反撃開始 「あらあら、一人で私たち四人に挑むつもり?」 廃屋の廊下のど真ん中。 正面にはキャロライン達幹部四人、後ろには傷ついたチュチュ一人。 助けを呼ぼうにも頼れる仲間は今はいない、ケケにとって多勢に無勢とはこの事だ。 キャロラインの挑発に乗らずケケは冷静だった。 正面の四人を睨み、チュチュを背後に隠す。 覚悟を決めた彼女を見てキャロラインはそばにいたリックとゴルルムンバに指示を出す。 「二人は外に出て裏口や窓の逃げられそうな場所を封鎖して、入り口は私一人で充分よ」 「キャロライン、オンナはナゴに任す?」 ゴルルムンバの言葉に、キャロラインはナゴを流し目で見て返事する。 「大丈夫、コイツに万が一があれば私が加勢する」 「そんな必要ニャいんだよぉ!!」 そう息巻くとナゴは思い切り拳を振り上げてケケ目掛けて襲いかかる。 チュチュを抱えてたケケは咄嗟に横跳びしそれを回避すると、古い床が一気に砕かれ、埃が舞い上がる!! 「しめた、コレで……」 ケケは視界が悪くなった中で記憶を辿り、窓に向かって走り出す。 しかしそれを読んでいたかの様に、煙の奥からはキャロライン、蹴りかからんとする彼女の姿!! 「ほらね、筋肉バカのサポートは私がしなきゃ」 咄嗟にガントレットを前に出して、キャロラインの蹴りを防ぐケケ、彼女もチュチュに衝撃を与えない様にと必死にキャロラインの攻撃を受け流そうとするが、思いの外キャロラインの蹴りが強かった。 よろめいてケケは倒れ込み、チュチュも床に突き飛ばされた。 「ぐっ……」 歯を食いしばり耐えて前を睨むケケ。 目の前のナゴとキャロラインは仁王立ちで構えてゆっくり歩いて距離を詰める。 「ヒトガタでも、従順ニャら部下として使ってやってもいいんニャがな」 ナゴのその言葉、チュチュの下に潜り隠れていた時に見せた態度と変わらない。 『アニマ連合』のギルドの中で見せていた優しげな態度と打って変わっての豹変ぶりに、ケケは嫌悪感を抱く。 「なんですか……ヒトガタだの、アニマだの……そんなに姿形が大事ですか?!」 「この島の歴史を知らない部外者が、説教垂れても意味ないのよ」 キャロラインの言葉だった。 彼女はケケの横にいつの間にか歩みを進めており、うずくまるチュチュの顔を覗き込んだ。 「やーね、せっかく助けてもらってるのにただ寝てるだけ。 しょせんは役立たずの『半端者』ね」 「ハンパモノ……??」 ケケはおうむ返しにキャロラインの口走った言葉をつぶやく。 その隙をとるように、ナゴはケケの背後から拳を振り上げて攻撃体制だ。 「アニマと他種族の混血をそう言うんだ……ニャッ」 ナゴの振り下ろした拳に咄嗟にケケは下がって避ける。 彼女の足には電撃が流されており、足の筋肉を刺激して脚力を引き上げていたから、ナゴの攻撃を間一髪回避する。 「チュチュさんが……混血!?」 「この女の母親は、虹の島の外に出稼ぎに行って、ティンクルと結婚したのよ。 父親の方はギルドの仕事で失敗して行方知れずで、母とそいつは逃げ帰ってきたワケよ」 キャロラインは面白おかしく笑いながら、チュチュの過去を勝手に暴露する。 それを聞かされていたチュチュも、うずくまりながらも悔しそうに唇を噛み締める。 「せめて外の世界でもアニマ同士で生まれていれば良かったのにニャ……お前みたいなヒトガタでも知ってるだろ、オイラ達アニマは……」 「魔力無しで水中でも呼吸ができたり、空を飛び続けられる翼がある。 劣悪な環境にも適応できる毛皮も持ってる種もいるわ」 ナゴとキャロラインの理屈を聞いて、ケケは顔色が悪くなる。 コレは彼らだけではない、『虹の島の住民』全体の総意なのだ。 サファイア達の魔力を奪い、ダイナブレイド復活のエネルギーに転換。 チュチュから聞いた話も眉唾物だったーーしかし、ここまで差別に肯定的なら、自分達より劣る種族と見下されていたとしたら……彼らの行動に合点がいく。 彼らがティンクルやヒトガタを見下してる理由は分からないが、コレを見逃していたらチュチュやケケ、そして囚われの身のサファイア達にも関わる問題だ。 「さて……無駄話もここまで。 侵入者に制裁がそもそも目的だったものね」 そう言うとキャロラインは一本の剣を取り出した。 横にいたナゴ、そしてケケがそれに注目する。 「いい得物持ってるニャア」 「侵入者から取り上げたのよ。 ちょうどいいから試し斬りしようかとね」 「ちょっと!! それブレイドさんの剣!! 返して」 電撃で足の筋肉を強化したケケが一気にキャロラインの懐に飛び込んだ。 しかしそんなスピードにもお構いなしとキャロラインはケケの攻撃を半身で回避するとブレイドの剣を振り下ろす。 「お友達のだったの? ごめんなさい、今日から私のモノなの」 ケケは咄嗟にガントレットを突き出してキャロラインの振り下ろした剣と衝突する。 火花が飛び散り、相打ちとなった瞬間キャロラインとケケの頭上から石が飛んでくる。 ナゴの攻撃だ。 「ニャロ、ニャロ、コンニャロー!!」 廃屋の部屋にあったビンや分厚い本もケケ目掛けて飛んでくる。 とにかく部屋の物あたり構わずぶん投げてくるナゴだが、牽制にはもってこいだ。 「ちょ、ちょっと」 「オスネコ!! 狭い廊下でそれはやめなよ」 と、叫んだキャロラインだが彼女はすぐさま天井に飛び移りナゴの攻撃の動線から離脱した。 華奢で運動神経ある彼女は身のこなしもうまい。 廊下の壁と壁を繋げ支える梁の上に飛び乗ると、走り回るケケをすぐに目で追いかける。 「こんニャロ!! ニャローめ」 「ちょ、ちょっとナゴさ、あっ!!」 ケケは逃げ回っているうちに廊下の奥に誘い出されていた。 背後に壁、追い込まれる形となったケケの正面は正気を失い暴れ回るナゴ。 「しめた!! チャンス」 キャロラインはこの機会を逃すまいと梁からケケ目掛けて飛び出した。 ブレイドの剣を構えて、一直線にケケ目掛けてダイブする!! 「よしっ掛かった!!」 ケケはそう言うと目の前に迫るナゴの懐に身を思い切り屈めて隠れた!! キャロラインの視線からは、ナゴがケケを覆いかぶる形に見えていた。 「あっ!! ナゴ、避けて」 「ニャギャァ!!」 ナゴは獣の如くケケに一直線に飛びかかっていた。 そしてケケの頭上からはキャロラインの攻撃。 ケケは二人を相手するより相打ちになる方向性を、探っていたのだ。 目論見通り、キャロラインの爪はナゴの背中を見事に斬りつける。 突然の背後からの攻撃にナゴは悲鳴をあげて倒れ……る前に踏みとどまった。 「おーい、今の悲鳴どうした?」 「加勢、スルか? リック」 廃屋の外から、ナゴの悲鳴を心配したリックとゴルルムンバの声。 そんな心配をよそに、ナゴは笑いながら立ち上がる。 「心配無用……この女今からぶち殺す事に変更だニャア!!」 ナゴは四股の要領で右足を振り上げると、床を思い切り蹴った。 一瞬地震が起きたような揺れが起きると、ケケは足元から崩される。 「きゃっ、ちょっとそんなのありぃ!?」 壁際に寄りかかり、揺れに必死に耐えるケケ。 キャロラインは先ほど同様、梁に飛び移って揺れが収まるのを待っていた時に、違和感を覚える。 「……何をしてるの、チュチュ」 チュチュだ。 ナゴの攻撃の最中に梁の上に隠れていた彼女は剣を持ってるキャロラインの腕に絡みついていた。 剣をキャロラインから奪わんと、彼女の触手は必死に巻き付いている。 「……これ以上、あの子の邪魔はさせない……」 「……あー、そう言うことね。 確かにあなたにとってあの子は大事な交渉相手」 そう言うとキャロラインは剣を思い切り窓に向かって放り投げる。 必死に剣にしがみついていたチュチュ諸共、それは窓を突き破って外に放り出されてしまう。 チュチュはその瞬間、スローモーションになった様に眺めていた。 キャロラインはすぐさま梁から飛び出して、ケケに攻撃をしようとしていたが、外に放り出されていたチュチュに何ができようか。 そしてケケだ。 ナゴの地鳴らしに足元を救われそうになりながら、彼女は廊下に落ちてた鉄パイプを手に持っていた。 ガントレットから電撃が走り出し、それは鉄パイプを伝って赤く発熱する。 「こ、このぉ!! いい加減に……」 興奮状態のナゴ目掛けて、鉄パイプを振り上げた。 先ほどから大振りな攻撃ばかりのナゴだ。 落ち着いて一撃叩き込めば、勝機は近づくとケケの打算だったーーが。 「ふんニャアアア」 「ウソぉ!?」 ナゴの拳は鉄パイプと衝突した瞬間ソイツを見事にひん曲げる。 ケケも予想外な攻撃の結果に気を取られている内に、背後からやってくる攻撃に気づかなかった。 背中を、抉り削る様な鋭い痛みに。 「ーーえっ?!」 鋭い爪を剥き出しにしていたキャロラインが、ケケの背後に仁王立ちしていた。 爪先を綺麗に立てながら、彼女は妖艶な笑みを浮かべて呟いた。 「大丈夫よ、毒は仕込んでない。 まぁ、半日は痺れて動けないはずだけどね……」 その言葉通り、急に足元から崩れたケケは震えてうずくまる。 いつの間にか落ち着きを取り戻していたナゴと、チュチュが窓をぶち破って飛んでいったので様子を見にきたリックとゴルルムンバ、キャロラインはケケを取り囲む様に立ち尽くしていた。 「これは戦争よ、アニマ連合対その他の国のね。 あなたも手加減なんてせずに殺すつもりできなきゃ」 顔色ひとつ変えずに、キャロラインはうずくまるケケを見下しながら呟いた。 そしてーーここは虹の島のとある位置。 カインに誘われるがままに連れてこられたピッチとドロッチェだが、『そこ』に到着するや否や不穏な空気を感じ取る。 「レッドキャニオン、クラウディパーク、ビッグフォレストと色んな島を見てきたが……ここはだいぶ異質だな」 大地は真っ黒で空も分厚い雲に覆われる。 まるで外との繋がりを拒むかの様な島の中央には、要塞の様なお城がそびえ立つ。 「『ダークキャッスル』と呼んでいます。 大昔、ここにきたアニマ達が、自分たちの基地として作り上げたのだとか」 「その……外の世界への復讐、の為だね」 ピッチの言葉に、カインは首を縦に振る。 魚が首を縦に振れるのか、そもそも何故陸上で呼吸ができるのかはさて置いて、カインは城の入り口を開けるとどんどん進んでいく。 「この島の皆さんは、とりわけアニマに対してはとても友好的です。 しかしソイツはあくまで『自分たちの仲間として取り入る』ために過ぎません」 カインの言葉を聞きながら、ピッチとドロッチェは後をついていく。 城の中はランタンで照らされてたがほぼ真っ暗だ。 ぴょこぴょことカインの歩を進める音が頼りだった。 「そしてーーこの島の悪事ってやつは……この先にあるわけか」 「はい、ちょうど今着きましたよ」 カインがそれを言うと三人は大きな客間の様な場所に辿り着いていた。 真っ暗な廊下からほんのり薄明るい大きな部屋は、真っ赤なじゅうたんが敷かれている以外何も変わった様子は無いーーと思われた。 『……言語設定、オート……認証システム作動中……認証中、アニマ連合所属冒険者確認』 「な、何!? 何が起きてるの」 ピッチは思わず辺りを見渡しながら不安げになる。 突然女性の声が聞こえたと思ったら、今度はピッチ達のいた部屋の床が大きな音を立ててーー下降する!! 『ダイナブレイド研究ツアー起動します。 お客様、右手の壁をご覧ください』 音声案内のガイドに誘われるがままに、ピッチとドロッチェは右手の壁に注目する。 いつの間にか立体映像が映し出され、そこにはティンクルやアニマが戦争をする様な影絵が出ている。 「これは…アニマ連合の歴史?」 「違うな……それもあるが、古書で読んだアニマの歴史そのものだ」 ドロッチェの言う通り、映像には彼らが『ダイナブレイド』について調べた時読んだ本に書かれていた内容とそっくりそのままの内容が映像化されていた。 『戦争の結果は両者痛み分けでした。 いつの日かの再戦の為、先祖と虹神様は療養の地としてここ虹の島を選んだのです』 映像は巨大な鳥とアニマ側が七つの島に行き着く場面で締めくくられていた。 『ーーこうして我々の先祖と虹神様は、新天地にこの虹の島を選んで、ティンクルとヒトガタの悪の手から平和を取り戻したのでしたーーしかし、一方で水中や空中で問題なく暮らせる我々アニマが、この様な僻地に暮らさざるのを得ないのは、屈辱であると言う意見もありますーー』 「へぇ……ずいぶん勝手な言い分だな」 ドロッチェが音声ガイドに毒づいた。 しかし彼の言葉は意にも介さず、音声ガイドはいよいよクライマックスに入る。 『ーー我々の母なる組織、アニマ連合はその屈辱を晴らすべく、島中の至る採掘現場から虹神様の組織や化石を日夜掘り出していき、復活のための研究を続けていましたーー』 ーーやがて、下降を続けていた床は静かに動きを止めた。 ピッチらの目の前に大きな自動ドアが見えると『プシュ』と大きな音と出したと思えば、白い煙を吐きながらドアは左右から開かれた。 『それではご覧ください!! アニマ連合とレオンガルフ国王の英知を集結し復活を目前とするーーダイナブレイドです!!』 音声ガイドに誘われるがまま、そしてカインに着いていくまま二人はゆっくり円形の部屋の中に歩み入る。 そしてそこには……ピッチなんて豆粒に思える程の巨大な強化ガラスの筒に満たされた緑の液体、おそらく培養液と、そんな筒が手狭だとばかりに羽と脚を抱える様に丸まって眠っている、巨大な鳥!! ピッチはハルバードの立体映像で確認した『あの時』を思い出していた。 そこの映像と、目の前の怪鳥はまさに瓜二つ!! 「……バカでけぇな」 「そんな……もうここまで復活が進んでたなんて、早く『メタナイツ』や『白の騎士団』に連絡しないと……」 「その必要は無い」 背後から聞こえる気高い声。 背後を突かれていたピッチとドロッチェは振り向きざまに、既にカインが割り込んで立っていた。 そして目の前には二本足で立つ巨大な体躯のライオンのアニマ、ピッチも彼の事は映像で知っていた。 「レオンガルフ国王……」 「カインよ、部外者をここに呼び込むとはどう言う意味か、分かっておるな」 レオンガルフはそう言うと、右手を挙げて何か合図を送る。 円形の部屋は大きな警告音を立てると、培養液の中のダイナブレイド諸共上昇する!! 「ええ、覚悟はできていますとも。 元より自分は、初めからそのつもりでしたから」 「……大嵐の日、海岸に打ち上げられ、記憶も失っていた貴様を助けた恩を忘れたのか」 「忘れるわけがない、いや……そもそも私は記憶を失ってはいませんよ」 先ほどまでののんびりした言葉遣いのカインとは別人の様だ。 ピッチとドロッチェは面食らい、カインの後ろに一歩下がった状態でレオンガルフに警戒を崩さない。 「あなた達の計画の侵攻先には、私の故郷と仲間もいる。 彼らの住処を、奪われるわけにはいかない」 「ここは何人にも侵されない楽園になる。 アニマであれば、君の態度次第で仲間も歓迎するのだがな」 レオンガルフの言い分はこうだ。 今から引き下がれば、カインも彼の仲間も許してやろう。 しかし、その会話の中にピッチが割り込む。 「カイン、君の故郷と仲間って……?」 「……海の底に、眠る神様と一緒に暮らす平穏な場所でした。 最近は確か地上からのゴミが降ってくるとかで、ちょっとした問題にはなっていましたが」 そのカインの説明に、ピッチはおろかドロッチェも思い当たる節があった。 忘れるわけもない、ケケが行方不明になったあの日あの時。 「おい、その仲間の名前って……」 「スイートスタッフ……元気にしてますかねー?」 カインは懐かしそうに目を閉じながら空を仰いで呟いた。 それを聞いた時、ピッチは笑みを浮かべて彼の横に立つ。 レオンガルフと相対する同志が増えたのだから。 「彼らはププビレッジ近くの海岸で平穏に暮らしてるさ。 皆、君に会いたがっていた」 「それは良いことを聞きましたー。 …尚更ここで死ぬわけにはいかないですね」 ピッチ、ドロッチェ、そしてカイン。 三人はいよいよ覚悟を決めてレオンガルフと向かい合う。 空は明るく、日差しが強くなってきた。 「あいにく、あんた達の侵略先は俺の昔のギルドだった酒場もあるもんでね。 他人の思い出を踏み倒すって言うなら……こんな物、もう必要は無い」 そう言うとドロッチェは、『アニマ連合』のシンボルが描かれたペンダントを放り投げる。 レオンガルフの足元に転がったそれはまさに決別の意味。 しかしドロッチェの不敬とも、裏切りとも言う行為にレオンガルフは怒りもせずに、不気味に笑っていた。 「貴様たちは……理解してないのか。 追い詰められてるのは、貴様たち自身だと」 クラウディパーク路地裏 窓ガラスから放り出されたチュチュは、傷だらけになりながらも足を引きずって歩いている。 そんな傷だらけの彼女を、近くの住民は不可思議な目で見て避けていく。 「ふふ……キャロライン、ざまぁみなさい」 彼女はそう言いながら、懐に忍ばせていた鍵に目をやる。 あの時キャロラインの腕に飛びついた時に鍵をくすねていたのだ。 だが窓ガラスの破片で手足を切ってしまった。 彼女は痛みを耐えながら道の端を歩いている。 サファイア達との約束の核ーーマルクやケケと合流、そしてブレイドの剣の奪還。 コレらは果たす事はできなかった。 だが、チュチュはケケの戦いぶりを間近で見て、彼女は一つの賭けに出たのだ。 「……牢屋からさえ出してあげれば、『七彩の暴食』は、なんとかしてくれるはず」 藁にもすがる思いだった。 見ず知らずの自分に簡単に頼み事をして、幾度も信頼してくれて、ケケの様に必死に庇ってくれるーーチュチュにはこの島にいては絶対あり得ない事だらけだった。 いつの間にか、彼女は信用に足りうる組織を『七彩の暴食』に決めていた。 そして彼女の決断は間違いでは無いと答えはすぐに出る。 「チュチュさん!? 大丈夫かよあんた」 「ひでえ怪我だ。 ケケちゃんは居ないのか」 ウォンキィとガルルフィだ。 チュチュを見るや否や、駆け寄る二人に手を出し遮ると、チュチュは鍵を突き出す。 「地下牢の鍵よ。 時間がない、まずはあなた達の仲間の解放を優先して」 押し付けられる様に鍵をウォンキィに渡した後、チュチュはガルルフィの頭に被さった。 「え、え!? お、おれ女の子を肩車するなんて初体験で」 「静かに、今からあなたの脳内に地下牢への行き方を送信するわ……私の魔法でね」 そう言った途端に、ガルルフィの脳内にデパートの案内マップの様に地下牢への行き方が浮かび上がった。 おお、とガルルフィは感嘆すると、迷う事なく走り出す。 それにウォンキィもついていく。 「すげーすげー。 頭にスイスイ入ってく」 「おい、俺鍵背負ってて遅いんだぞ!! もうちょっとゆっくり走れ」 ウォンキィの抗議も意に介さず。 とばかりにガルルフィは猛ダッシュで走っていく。 そしてそんなスピードに文句を言いながらついて行くウォンキィもさすがと言うべきか、あっという間に地下牢の入り口である凱旋門に到着した。 「チュチュさん? それに新入りの……どうしたんです……ふがっ!?」 「時間が無い、早く走って」 衛兵に真っ先に飛びかかり視界を奪ったチュチュと連携して、ウォンキィとガルルフィは地下へ続く階段を猛ダッシュする。 チュチュはすぐさま取り押さえられるが、彼女を引き剥がした衛兵はすぐに警報を鳴らして大声で叫んだ。 「は、反乱だー!! チュチュとアニマ連合の新入りが反乱ー!! 地下牢の囚人の所へ行ったぞー!!」 「よっしゃー!! 野郎ども、英雄の帰還だぁ!!」 「地下牢の鍵、持ってきたぞー!!」 『七彩の暴食』を捕らえてる地下牢エリア、そこまで不用心に誰も居なかったおかげでウォンキィガルルフィは容易に到達できた。 聞き覚えのある声に、牢屋の中の皆は大喝采。 「よっしゃー!!」 「待ってたぞ二人とも!!」 「かっこいいー」 そんな叫び声を一身に浴びて、ウォンキィは鍵の一つを鍵穴に差し込む。 そこに居たモソは朗らかな笑顔を見せる。 「よくやったのぉ」 「いえ、協力者のお陰です。 マスター、すぐに解放しまーーぎゃっ」 その時だった。 扉と鍵を割り込む様に炎が飛んできた。 アニマ連合に所属するメンバーが、この事態に気付いたのか追尾してきたのだ。 「ああっ鍵が」 ガルルフィが燃えて先が曲がった鍵を見て悔しそうに叫ぶ。 対照的に向こうからは嬉しそうな声が聞こえてきた。 「よくやったヒートファンファン!!」 「おうよ、裏切り者の粛清は国王様に任せられた俺たちの役目」 地下牢の中はアニマ連合でごった返しだ。 鍵の先も燃やされており、鍵穴に入らない。 絶体絶命の大ピンチ、粛清班は勝ち誇ったかの様な笑みを浮かべていたが。 「へへん、この程度の鍵、俺に取っては複製は朝飯前よ」 ウォンキィだ。 彼は懐から巨大な虹の星が施された金の鍵を取り出すと、それは一気に輝き出す。 「オールマイティ…ウッキー!! この地下牢の鍵みんな開いちまえー」 「な、何ぃ!?」 アニマ達の驚愕の声、地下牢の扉は一気に開かれる。 それは閉じ込められていた『七彩の暴食』の解放を意味する。 「よくやったよウォンキィ」 「久しぶりのシャバだー!!」 ブレイドやモソ達がゾロゾロと地下牢から飛び出して、形勢は逆転する。 見事に『脱獄』を許した形になったヒートファンファン達は、先ほどの勢いは衰え、慌てふためいていた。 好機を逃さんとばかり、ブレイドはニヤリと笑みを浮かべて正面を指差して叫んだ。 「さぁ、反撃開始だよ。 サファイア、準備はできてるかい!?」 ブレイドがすぐ後ろにいたと思い込んでいたサファイアに声をかける。 だが、彼が閉じ込められていた牢屋には、確かに開いているがもぬけの殻だった、なんならついでにいたはずのスノウもいないのだった。 「……あれ?? サファイアは?」
投稿者コメント
今回も相当文字数がギリギリでした。 削ったりしてなんとかまとめることができました。 これ以上前後編に分けたりしたら、ただでさえ長いこの小説、もっと長くなってしまう(笑) 虹の島編、いよいよ次から佳境だと思います。 そう思いたいです。
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