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小説「
第二十五話 絶望と憎悪(後編)
」を編集します。
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作者名
ディン
タイトル
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内容
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「ピンク、終わったぞ。 この穴にも『財宝』は『無かった』ようだけどな」 氷漬けになった巨大な蛇の像を取り囲んで、何人ものティンクルが辺りを散策している。 そこには、赤、白、紫に、水色と――似たような身体で、全く違う色をしたティンクルが氷の一部を砕いてから巨大な蛇の像から宝飾を抜き取っている。 ドロッチェ達にとってはお宝だったはずの蛇の像だが、彼らには何もないに等しい――と言う事なのだろうか、いくつか分別しては地面に放り投げている。 「こんな地道な作業じゃ、いつになったら『人類の選抜』の目標に達することができるか、分かんないよ桃君」 「スノウ、ちゃんと作業を続けろ。 ピンクへの連絡は俺がするから」 スノウ、ピンク――ドロッチェは朦朧とする意識から現実に必死に引きずり戻ろうと、身体を動かす。 先ほどから聞こえる会話は何だ? 今、彼らは何をしている――?? ドロッチェは耳を必死に向けて、力を振り絞り情報を収集する。 「あっ、動かないで!! 今は危険ですよ」 ドロッチェが起き上がろうとした瞬間、二人のティンクルが彼を抑えつけた。 オレンジ色の身体と、薄い紫の身体をしたペアのティンクルだった。 「お、おい……あの怪物は――」 ドロッチェは二人のティンクルに抑えられてもなお、目の前の光景に目を向ける。 先ほどまで暴れていた蛇の像は、今は氷漬けでおとなしくなっている。 「大丈夫ですよ、ドク・ロ・ガラーガの住処に間違えてきてしまったんですね……お気の毒に」 オレンジ色のティンクルが、ドロッチェの腕に包帯を巻いている。 その言葉にドロッチェは目を細めて、横を見る。 そこには――先ほどまで一緒にいたはず、笑いあっていたはずの――スピン、ストロン、そしてドクが……真っ白な布をかぶらされて横たわっていた。 「……えっ」 ドロッチェはその光景に目を疑った。 薄い紫色のティンクルは、言葉をもう発さないスピンたちの横に座り、ドロッチェに頭を深々と下げた。 「ごめんなさい!! ごめんなさい!! 私たちが来た時には、彼らはもう――懸命に救助活動はしたのですが!!」 薄い紫色のティンクルの声を聴き流しながら、這いずるようにドロッチェはスピンたちのもとへと近づく。 彼らの体温は――すでにヒンヤリと冷えてきていた。 「そ、そんな……」 ドロッチェの顔色は見る見るうちに青ざめて、三人の手を手に取る。 スピン、ストロン、ドク――三人とも二度と目を覚ますことはなかった。 「まったく、初心者は穴に挑戦しないでほしいんだよな。 こう何人もケガ人出されちゃ、こっちも救助活動が面倒くさい」 「ちょ、ちょっと……生存者がいるのに、そんなひどい事言わなくても」 ドロッチェの背後に、心無い声が容赦なく飛んでくる。 ドロッチェは、脈拍、鼓動、呼吸――ありとあらゆる手立てで三人の無事を確認しようとするが、結果は変わらない。 「ラベンダーちゃん、ダメだよ。 ちゃんと今のうちに厳しい世界を知らないと、子どももこんな甘え切った冒険者になっちゃう。 ねーサファイアちゃん」 スノウはラベンダーの後ろに、おんぶの形で背負われてる小さな群青のティンクルのほっぺたを触る。 その子どもは、辺りを見渡していると、スノウの方を見て手を振って笑っていた。 「おお〜、サファイアちゃんもそう思うか〜。 ちゃんと『教育』されてて、偉いですね〜」 ドロッチェの絶望を横目に、ティンクル達は帰り支度を始めている。 その後ろからは、槍を持ったワドルディたちが隊列をなして、やってきた。 「失礼!! ここで怪物が暴れだしたと連絡があって救助活動に来たのですが」 「遅かったねえ、国の派遣さんたち。 もう終わったよ」 スノウはワドルディたち、国の兵士たちと話をしているようだ。 それに気づいたドロッチェが、ワドルディ兵の一人の肩を掴んで、叫んだ。 「た、頼む!! 仲間が、仲間がひどいけがなんだ!! 金なら出す、医者を連れてきてくれ!!」 既にドロッチェは錯乱しているようだった。 白い布で顔を覆われたスピンたちを見て、兵士達は動揺する。 一人のリーダー格のワドルディ兵が、スノウにアイコンタクトをとると――彼は黙って首を横に振った。 「それでは、我々はここで。 そこのアニマの『遺体』は」 「ええ、我々国の方でお任せください。 そこのアニマの生存者さんも、我々にお任せを」 国の兵士たちが、担架でスピンたちを次々と運んでいく。 ドロッチェは、兵士に担がれる形だが、すぐに振り払いスピンの担架にしがみつく。 「まってくれ!! まってくれ!! こいつらは死んでない!! 生きてるんだ、ちゃんと確認をしてくれ!! 頼む、かく――」 ドロッチェのみぞおちに真っ赤なティンクルの蹴りが直撃する。 そのまま、ドロッチェは詰まった息をはきだして――膝から崩れ落ちた。 「うるせえ、クソ雑魚ギルドのマスターが……おい、早く病院に連れていくなら行けよ。 こっちはまだ仕事が残ってるんだからな」 視界がぐるぐる回るように、朦朧としているドロッチェ……彼の最後に見た光景は、自分に攻撃をしたのとはとまた別の色のティンクルが財宝を兵士たちに押し付けて何かを会話している光景だった。 「……それじゃあ……遺体は……宝玉で」 「……はい…………記録は……お任せを」 彼が記憶している『真紅の窮鼠』の最後の活動――それはここから時間が止まったままだった。 「あれから、我々はあなたにしっかり進言しましたよ、ドロッチェさん――新しいメンバーを集めなおせば、『真紅の窮鼠』をちゃんと再認可すると」 チクタクは、書類を手に取るとページをめくって何かを確認する。 「ああ、あったあった」と、何かを見つけると咳払いをして声を張り上げる。 「えー、ドロッチェさん。 貴方のおっしゃる『真紅の窮鼠』のメンバーが見殺しにされた……というのは誤解がありますね。 当時救助活動していたギルドは、貴方以外即死で救助の手立てすらなかったと、証言があります」 チクタクはそれだけを言うと書類を勢いよく閉じて、微笑んで『真紅の窮鼠』の酒場の椅子を蹴り飛ばす。 飛んできた先の近くにいたケケが思わず声を上げてピッチの後ろに隠れる。 「早く、ここから、立ち退いてください。 もう我々もあなたに付き合う時間がないんです」 ドロッチェは、その瞬間にチクタクの胸ぐらをつかんだ。 目つきも変わり、チクタクを床に押さえつけると大きな声で叫びだす。 「てめぇ!! 仲間の椅子に手ぇ出したなぁ!!」 「ドロッチェ!! おい、やめろ!!」 サファイアがドロッチェの腕を掴んで彼を抑えつける。 チクタクは口元をぬぐい取ると目を震わせて、してやったりとの顔つきをしていた。 「公務執行妨害だ!! タートル、今すぐこいつを取り押さえろ!! 『真紅の窮鼠』は差し押さえ!! リーダードロッチェは逮捕する!!」 嬉々として叫ぶチクタクに、タートルはドロッチェのそばに駆け出そうとする。 その瞬間に、入り口から足音が聞こえてきた。 「そこまでじゃ、ドロッチェ。 サファイア達も、いったん止まれい」 その声に、『真紅の窮鼠』にいた皆が静まり返る。 そこにいたのは『七彩の暴食』のマスター、モソ。 彼は心配でサファイア達の後を追っていたのだ。 「ドロッチェ、お前さんはいつからそんな横暴になったのじゃ。 もう少し落ち着いて、冷静にならんか……あと、そこのチクタク殿とタートル殿」 モソは『評議会』の二人を名指しにして、注目をさせる。 モソの手には、二枚の写真。 彼はそれぞれをチクタクとタートルの二人に渡すと、話を続ける。 「ププビレッジでこれ以上騒ぎを起こすのは、こちらとしてもやめてもらいたい……じゃなければ、この写真、評議会のお偉いさんにばらまくぞ??」 「えっ、ちょ、これって……え!!」 「おいおい、確か誰も付いてきてなかったはずなのに――なんで!?」 チクタクとタートルの顔色はみるみる青ざめていく。 モソは、静かにほほ笑むと、彼らに耳打ちをそっとして声をかけた。 「……今日のところは、穏便に引き下がれい。 ドロッチェの説得はこっちでするでな。 ――年寄りのアドバイスは素直に聞き入れるが吉じゃ」 モソのその言葉にチクタクとタートルは互いに顔を見合わせているだけだった。 彼らの額には、脂汗……そして、青ざめた表情でモソとドロッチェの顔を見比べる。 しばらくすると、わざとらしく喉を鳴らし咳払いをした。 「ま、まぁ今回のところは突然でしたので、逮捕までは致しませんよ。 ね? タートル」 「そうですね、ドロッチェ君にもしばらくの時間を与えますので、その間に身支度をしっかりとお願いしますね、そういう事で」 回れ右の態勢で踵を返すと、チクタクとタートルはそのまま『真紅の窮鼠』の外へと出て行った。 サファイア達も、すれ違いざまに二人の顔を見るが、先ほどまでの威風堂々というか、自信たっぷりな態度は鳴りを潜めている。 ケケはそんな二人が持っていた写真に目を向けた。 彼らが隠すように背後に手をまわしていたその写真の中身を見ようとした時、マルクの翼が彼女の視線を遮った。 「……お子様が見る者じゃないのサ」 「あっ!! 子ども扱いなんてひどい!! ちょっとだけ、ちょっとだけだから」 マルクがとおせんぼうをするその二人の写真を、背丈の低いピッチの視線はちょうど彼らの腕の高さと同じだった。 ピッチはそれをまじまじと見つめていると、軽蔑するかのような鋭い目つきになり――ひと言吐き捨てた。 「ケケ、関わらない方が良いよ。 あんな変態には」 ドロッチェの逮捕は、免れた。 しかし、ギルドのメンバーが足りない以上『真紅の窮鼠』の運営はこれ以上継続できない。 「こればかりは、こちらも手助けできん。 メンバーの数の規定は、昔から決められているルールじゃ」 モソは残念そうに『真紅の窮鼠』のドアの張り紙を見つめて、呟いた。 その横には、ドロッチェが荷物を大きなカバンに詰め込んで仁王立ちしている。 ――関係者以外立ち入り禁止。 解体予定地。 『真紅の窮鼠』のドアには、そんな張り紙が。 いつものように寂れたギルドの内部は、とうとう主をも失い静寂が支配している。 そんなギルドの周りには、『七彩の暴食』の皆やププビレッジの住民が集まっていた。 彼らも、ドロッチェのギルドの行く末を静かに見守り、心配をしていたのだが――結局、結末は皆が予想していた通りだった。 ドロッチェは、そのギルドを黙って見上げているだけだった。 しばらくすると、ドロッチェは口を開く――声はかすかにふるえていた。 「……俺たちはさ、元々根無し草で色んな所を回っていた。 ギルドなんてそんな制度も知らなかったし、アイツらもノリでギルドの立ち上げに賛同してくれた」 アイツら――とは、スピンにドク、ストロンの事だろう。 ドロッチェは遠い昔の事を思い出しながら、言葉を詰まらせても静かに言葉を紡いでいく。 「色んな失敗もした、ケンカもした。 俺たちみたいなバカの噂を聞いて、ウチに入りたいっていうモノ好きもやってきて――ちょっとは楽しいって思えたんだ」 サファイアとケケ達は、そんなドロッチェの話を黙って聞いているだけだった。 時折さみしそうなドロッチェの横顔を見て、ケケは下唇を思いきり噛む。 ドロッチェは、シルクハットを深くかぶりなおした。 何かを悟られない為か、肩を震わせて『真紅の窮鼠』の入り口にかかっている『CLOSE』の掛札を……取り上げた。 「こいつぐらいは、形見で持って行ってもバチは当たらねえだろ、ハッハッハ」 そういって乾いた笑いをしながら、ドロッチェは静かにギルドに背中を向けた。 目の前には、モソ。 その後ろにはサファイアやケケ達『七彩の暴食』の皆――そして、そこから少し離れるようにププビレッジの皆が見守っている。 「じじい。 アンタはこんなぐうたらな俺を告発して真正面から潰す事もできただろ?」 「はて――『評議会』の腐敗っぷりを憂いていたら、そんな事を気にする余裕も無くての」 二人のマスターの会話は彼らのお上を皮肉るように笑みを浮かべながらだった。 モソの言葉に否定もしない限り、ドロッチェも『評議会』に思うところは『今回の件』の他に思い当たる節があるようだ。 「……ありがとよ。 モソ」 「やめんか、今更名前呼びなんて、気持ち悪い」 そんな会話をした横で、ドロッチェはサファイア達に目を向けた。 ケケは目を真っ赤に充血させてドロッチェの方を見つめていた。 「ああもう、泣くなよ嬢ちゃん。 俺が泣かしたみたいじゃんか」 「だって……ドロッチェさん、いい人なのに……あいつら話一切聞かなかったの、悔しいですもん!!」 ケケのそんな言葉を聞いて、ドロッチェは鼻で笑うと彼女の髪の毛を思いきりクシャクシャとなで回す。 「ぎゃあ!! な、なんで!?」 「知った風に言うんじゃねえよ、ガントレットをまだ使いこなせてないド素人魔導士が」 ドロッチェはケケの傍を横切ると片手を振ってケケをからかうようにいなす。 ケケはもみくちゃにされた髪の毛を抑えながら、ドロッチェの視線の先に目を向ける――サファイアだ。 「当てはあるのか」 「さぁな。 こんなドブネズミを引き入れてくれる場所なんて、刑務所か地獄ぐらいだろ」 自虐的に笑って見せて、ドロッチェは空を見上げる。 分厚い雲の隙間に、太陽が少しだけ顔を覗かせていた。 「……まぁ、いつまでも昔のまま立ち止まってたら、あいつらにも申し訳ないしな」 もう一度、やり直してみるよ。 それだけを言ってドロッチェはサファイア達を後にする。 ドロッチェが歩き出す先、そこはププビレッジと決別を示すための外への道。 そこに続く道で待っていたププビレッジの住民のキャピィ族たちは、ドロッチェを拍手で見送る。 「頑張れよ、ドロッチェ」 「腹が減ったら、かえって来いよ!! いつでもおごってやる」 そんな彼らの言葉を浴びたドロッチェのその表情――先ほどまで怒り狂っていたドロッチェの顔は、空の輝く太陽の様に何故かとても晴れやかだった。
投稿者コメント
ドロッチェ編、これで終わりです。 かなり長くなってしまい二つに分ける事になってしまいましたが、書きたいことは書けたとは思います。
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