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小説「
第二十四話 絶望と憎悪(前編)
」を編集します。
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作者名
ディン
タイトル
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内容
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この日はいつも通りの朝のはずだった。 朝早くからブレイドがギルドで食事の支度をして、たまたま早く来た人達が依頼書の仕分けをする。 そして、朝帰りのクエストの報告をするチーム、依頼を一足先にと早朝からギルドにやってきたチームが依頼板とにらめっこ。 「……これは、ちとメンドイのがきたのぉ」 たまたま早く来たケケが、仕分けの手伝いの際に見つけた手紙。 そこには金色のシールで封をされて『重要』と魔力で刻み込まれたものだった。 第二十四話 絶望と憎悪(前編) 「あの、マスター。 この手紙なんなんですか」 神妙な顔つきで手紙とにらめっこしているモソの顔を、ケケは覗き込みながら質問する。 その横には、ブレイドが立っていてケケの肩をそっとつかんだ。 「ケケ、あんたはあっちに行ってな……これは『評議会』からの手紙さ」 ブレイドのその言葉に、ギルドに集まっていたメンバーは顔色を変え、ざわつきだす。 互いに互いの顔を見て、隣り合う者同士が小声で静かに騒ぐ。 そんな動揺をものともせず、モソは一つ大きな咳ばらいをすると騒がしかったギルドの内部は一気に静寂に包まれる。 皆が、モソに注目すると彼は口を開いた。 「安心せい、別に誰かが悪さをして呼び出しを食らったとか、そういった類じゃない」 「な、なんだ!! あの時のミスで呼び出し食らったんじゃないんだな!! 良かった」 サファイアとマルクの後ろにいるデッシーが、ボクシンググローブを胸に当ててほっと撫で下ろす。 まるで自分に心当たりがあるかのようなそれに、ブレイドは「えっ」と口を開いた。 「デッシー……アンタ、何かしたんだね」 「っべぇ!! バレた」 ブレイドの強力な睨みに、デッシーは震えあがってマルクの後ろに隠れるように引き下がる。 それを見た皆は、デッシーのそんな姿に笑いを上げて先ほどまでの暗い雰囲気を明るく飛ばした。 「はっはっは!! 隠れてねえぞデッシー!!」 「早くマスターに謝った方が良いぞ、今のうちに」 「プルプル、ボク、デッシーハ、ワルイコト、シテナイト、オモウノ、サ」 マルクの声真似をしながら、デッシーは自己弁護をしているがあまりにもマルクに似通っていない声色は、逆に周りを爆笑の渦に巻き込むだけだった。 突然自分も巻き込み事故にあったマルクは、顔を赤くして後ろを振り向かずにデッシーの頭頂部を掴んで――耳元でささやいた。 「デッシー……これから行く討伐対象の魔獣のエサになりたいか、ピッチの焼き鳥の材料になるのか、好きな方を選ばしてあげるのサ」 「ひぃぃ……、俺はただウィスピーのリンゴを集める仕事で、毛虫が紛れているのに気づかなかっただけだよぉ」 白状。 異物混入はとんでもないミスなのだが、それは『直前で気づいて素早く取り除いたから被害はほぼなかったし、ちゃんと綺麗なリンゴを集めなおした』というデッシーの報告があり、不問になった。 そして本題。 モソやブレイドたちも恐れる『手紙』の内容に関してなのだが。 「メンドイというのは、まぁ形式として、という意味での。 『ちゃんとギルドとして活動できてるか見に来ますよ』っていう話なだけなんじゃが」 「へぇ……でも、皆ちゃんと仕事してるし、報告はしてるのに見に来るんですか」 ケケのその言葉に、ギルドの玄関から数回ノックの様に叩く音が聞こえた。 そこには、白いスーツを着た亀のような姿をした男、そして同じような黒スーツに身を包んだ時計の形をした大型のティンクルの男が立っていた。 「失礼します。 七彩の暴食の皆様はお揃いですね」 「我々は『評議会』からやってきました、ローリングタートルと隣はミスターチクタク」 自信をローリングタートル、と名乗った亀の男は手に持っている書類を広げて辺りを見渡す。 それを見たモソは、二人の前にゆっくり歩み寄りブレイドは彼らの横のテーブル席の椅子を引く。 「ああ、おかまいなく。 仕事を終えたらすぐに移動しますので」 「いやいや、アンタらを待っていたんだよ。 後、申し訳ないが一人……ちょっと泊りがけの仕事でここを離れていての」 モソは『まぁまぁ』と二人をなだめて席へと誘導する。 タートルとチクタクは互いに見合って暫く黙っていたが、モソに促される形で席に着いた。 「ワシも、最近ここで起きてる事件に関しての話を、アンタらからいくつか聞きたいと思ってたんじゃ。 ゆっくりしていきんさい」 そうやって――まるで時間を稼いでいるようなモソは二人の注意を引いて、ブレイドは背後から手を振って合図を送る。 その合図の先は――サファイア達だ。 ――時間稼いでる間に、アイツのところに行って忠告してきな―― ブレイドのその合図を確認すると、サファイアとマルクはそっと床を這うように身を低くして裏口へ回る。 ピッチは高い位置にある換気用の窓から抜け出して、ケケは抜き足差し足でサファイア達について行く。 「ほれ、これが昨日までの仕事の報告書のコピーじゃろ、これが納税証明書に、資産管理用の書類――」 モソは手早く書類を取り出して、まるで彼らの注目をこちらに集中させるように口早にまくしたてる。 それと同時に、サファイア達がギルドを抜け出したのを、窓のそばに立っていた『七彩の暴食』の仲間が確認をしっかりしていた。 足音を立てないように走り出して一分ほど、ケケは先を走っているサファイアとマルクの背中に、声をかける。 「ねぇ、今からどこ行くつもりなの!? て、言うかモソさんもブレイドさんもなんであんな不自然に――」 「ケケ、マスターが言ってたでしょ、ギルドの活動を確認しに来たって」 ピッチはケケと並走するように、低空飛行を続けている。 ケケはそれを聞いて、うんと首を縦に振る。 そして、それを理解していると確認をすると同じように空を飛んで移動をしていたマルクが、前方から声を出した。 「ギルドの活動条件は、ギルドマスターを除いて十人以上のメンバーが、いないといけないのサ」 「へ、へぇ……それって大変な条件ですね――っ?」 ケケが皮算用をするように、指折り数えている。 ギルドマスターを除く、それを呟きながらゆっくり一人ずつ名前を上げていく。 「サファイア、ピッ君、マルクさんに、私……ブレイドさんとソードさんでしょ、ホヘッドさん、バヘッドさんに、ネス君、デッシーさん……」 彼女は次々と『七彩の暴食』のメンバー、自分の同僚の名前をつらつらと読み上げる。 既に指折りは一往復を余裕で超えたあたりだ、やがてキリのいいところで、彼女は打ち切るとピッチに声を張る。 「十人以上いるじゃん!!」 「ウチはね、ちゃんと十人は余裕で超えてるよ。 で、ププビレッジにはもう一つギルドあったでしょ」 その言葉を聞いて、ケケはハッと顔を上げた。 そう、彼女も時々足を運んでいた、『七彩の暴食』とは別の、ププビレッジにあるもう一つのギルド――。 サファイアが足を止めると、そこにはケケも既に馴染みのある場所だった。 ――シャッターで締め切られた、ガムテープで補強をしただけのガラス窓。 横には、キャピィ族の子どもたちがベーゴマやメンコと懐かしいおもちゃで遊んで騒いでいる。 「……『真紅の窮鼠』……そうか、ドロッチェさんのギルドは」 ケケも、すぐにサファイア達の行動に気づいたようだ。 ピッチはケケの横で、首を縦に振って彼女の言葉に続く。 「……一人だけだよ、今はね」 サファイアとマルクは『真紅の窮鼠』の酒場の入り口を押して、中に入る。 いつものように、灯りもないボロボロのギルドだ――朝っぱらだから、部屋の電気をつける必要がないと言う事か。 「おい、ドロッチェ。 いるのか」 サファイアが声を張り上げて、ドロッチェを呼ぶ。 静寂だけで、返事は帰ってこない。 「『評議会』の連中が、あさりに来たのサ。 お前、一人だけなのにメンバーの話どうするつもりだ」 マルクの叫び声に、ギルドの床下から物音がすると、板が一枚外れて緋色のシルクハットが顔を覗かせる。 下から、眠け眼を擦りながらドロッチェがサファイア達を不機嫌そうに睨んだ。 「……なんだよ、お前ら。 仕事の手伝いなら、報酬折半しろよ」 「違う違う!! お前のギルドに、手紙来てないのかよ!! 『評議会』が、ギルドの視察に来たんだよ!!」 サファイアの叫び声に、ドロッチェは目をハッと開かせて飛び上がる。 顔を突き付けるような形に近づいているとドロッチェは歯ぎしりをして焦る顔を見せた。 「……なんだと、視察ってウチは俺一人だけなんだぞ」 「だから、俺たちがメンバーって事で話を合わせてこの場を騙し通すか、他に話を併せられる知り合いいないのか、確認しに来たんだよ!!」 サファイアの言葉に、シルクハットを深くかぶりなおして、ドロッチェは小さな声で唸る。 数秒ほど、それで返事を曇らせていたら――ノックの音がした。 ケケとピッチが振り返る。 そこには、先ほど『七彩の暴食』でも出会ったローリングタートルとミスターチクタクの姿だ!! 「失礼、こちら『真紅の窮鼠』で間違いないですね」 「……さて、そちらにいるのは『七彩の暴食』で出会った人達ですね」 チクタクの言葉に、マルクは小さく舌打ちをする。 彼らが考えていた『自分たちをドロッチェのギルドの一員と言う事で視察をだましとおす』――この作戦はあっさり瓦解した。 「ドロッチェさん、『真紅の窮鼠』のメンバー、他の方はどちらにいるのでしょうかね……」 タートルが、意地悪な口調で辺りを見渡しながら、ドロッチェのそばに歩み寄る。 彼はゆっくり膝をついて、ドロッチェと視線を合わせると、ニヤリと口角をあげた。 「十名以上、メンバーがいなければ……ギルドは閉鎖。 知ってますよね」 「そ、そんな!! 閉鎖だなんて、そんな横暴……!!」 ケケの異議にピッチは羽を出して声を遮る。 ピッチも、悔しそうに口をかみしめながら、ケケに忠告をする。 「あいつらは、その気になれば公務執行妨害で僕らを取り締まれるよ、ケケ」 だから黙っていた方が良い。 そういって、ピッチはケケを引き下がらせる。 勿論、ピッチもドロッチェに助け船を出してあげたい。 それだからこそ、自分たちがドロッチェの部下としてやり通す――そのはずだった。 ドロッチェは、口をかみしめてタートルとチクタクを睨みつける――こちらにも、言い分はあるぞと言いたげに。 「……あの時、ウチの仲間を見捨てて――あの組織におべっかかけた『評議会』サマが……随分と偉くなったものだなぁ!!」 「ええ、偉いも何も、我々のお陰であなた達ギルドは活動できますから」 ドロッチェの言葉を、かわすようにチクタクは一笑に付す。 ドロッチェは立ち上がり、声を張り上げようとするものの、タートルが追撃をする。 「そもそも、マスターがギルドの部下の命をしっかり預かれない以上、貴方が我々を批判する権利はないのですよ、ドロッチェ君」 「――あれは、事故だったんですから」 十数年前――とある地方の、とある町のはずれ。 そこでは以前からある話が人々の中で格好の話題だった。 その内容は――『青年が宝を持ち帰ったという穴が見つかった』。 七百年前からの伝承に伝わる、伝説の穴の発見。 それはありとあらゆるギルドに瞬く間に噂となり、彼らはその町を拠点に穴へ向かう準備をしていたのだ。 「うわー、ここにいるの皆ライバルっチュかー!!」 黄色い身体と、サングラスと赤いスカーフをしたネズミのアニマ、彼が辺りにいる他ギルドの面々を見て感嘆の声を上げる。 「騒ぐでないスピン、田舎者だと思われてしまうじゃろ……ストロン、お前さんは肉ばかり食うでない、仕事前じゃぞ」 「え〜、ドクじい古いよぉ。 だって言うでしょ、『腹が減っては戦はできぬ』」 ドク、と呼ばれた真っ赤な円盤を操縦している老体のネズミのアニマは呆れるように周りをたしなめる。 一番巨体のネズミのアニマのストロンは、能天気に笑い飛ばすと、ドクににこやかに笑って言葉を返す。 「まったく……おい、マスター。 こいつらにびしっと一言言ってやらんか」 ドクは呆れるようにストロンを見つめて、後ろにいた『マスター』に声をかける。 その彼こそが現在までただ一人『真紅の窮鼠』の看板を守り続けているドロッチェだ。 「ははっ、元気なのは結構。 暗い奴にはお宝の方から逃げちまうからな!!」 さあ、行こうぜ!! と、緋色のマントを翻し、先陣を切ってドロッチェは歩いていく。 その後ろに、意気揚々と笑ってついて行くスピンとストロン、緊張感のないこの面子に一抹の不安を抱きながらも、結局彼らが好きなドクも一呼吸おいてはついて行く。 ――これは、『真紅の窮鼠』がギルドとして本格的な活動をした、最後のクエストである。 この日を境に『真紅の窮鼠』の周囲を取り巻く環境は大きく変わっていく事になる。 ――サファイア達も挑戦したことのある『四つの穴』は、いつの時代も様々な冒険者たちが挑戦を止めなかった。 ドロッチェ達が挑んでいる今回の穴も、『真紅の窮鼠』とは別のギルドのグループが、洞窟の内部を次々と進んでいく。 中には、枝分かれしている場所もあった。 いくつかのグループはうまく人をばらけさせて、内部の攻略の効率化を選んでいく。 「おい、ここの宝石の欠片は俺たちが先に見つけたんだぞ!!」 「ほざけ!! 貴様らの様な名前も聞いたことのない泡沫ギルド連中が、我々に楯突こうというのか!!」 中では見つけた財宝の争奪戦も行われているようだ。 洞窟のどこかから、叫び声と銃声が聞こえるとドロッチェ達は岩場にその身をひそめて様子を伺う。 「ドク、偵察カメラの様子」 「ほれ、映像に映っとるのは――コイツと、コイツがリーダーっぽいの」 ドクが用意したモニターには、リーダー格と思わしき男が二人、刀剣が弾きあう音と、倒れていく冒険者たちのど真ん中で叫ぶ二人を見てドロッチェはため息をつく。 「やれやれ……こんなのが一番上にいるのも、不幸なものだな……スピン」 「任せるっチュ!!」 スピンが二つのクナイを手に取ると真っすぐ振り投げる。 音もたてずに飛んでいくクナイは、地面スレスレに飛んでいき――リーダーの二人の足に直撃した。 「ってぇ!!」 「ぎゃあ!!」 そのまま悲鳴を上げて倒れこむリーダー二人。 突然自分たちのリーダーが倒れこむ様子に、周りの冒険者たちも思わず攻撃の手を止めてしまう。 「り、リーダー!?」 「どうしたんですか、ワンパさん!!」 リーダー二人に駆け寄る二つのギルドのメンバーたちの足元に、巨大な真っ黒い影が映りこむ。 ふと見上げると、そこにはストロンの巨大な体躯がボティプレスの様に覆いかぶさっている。 「一網打尽!! ストロンプレース!!」 洞窟内部に、地震でも起きたのかと勘違いするほどの揺れが起きる。 その揺れに、どこかで隠れていたネズミかコウモリが逃げるように飛び出してきたいるのか、女性の悲鳴が聞こえてきていた。 「チクショー!! 覚えてろよ」 「今度会ったら、八つ裂きにしてやらぁ!!」 ドロッチェ達に身ぐるみ剥がされた二つのギルドのメンバーは、お約束ともとれるセリフを残して、ボロボロのリーダーを抱えて退散していく。 そんな彼らの負け惜しみのセリフを無視して、ドロッチェ達は強奪した食料等を分配して荷物に詰め込む。 「ようし、バカギルドの潰しあいでライバルも減ったし、飯の心配ももういらねえ!! 後はベースキャンプの確保さえしたら、一週間はここでじっくり探索ができるぜ」 ドロッチェの高笑いとスピンとストロンはスキップの様に小躍りでグルグルと近くの岩場を回り始める。 笑顔で意気揚々の三人を見て、ドクは声を張り上げて一喝する。 「調子こくんじゃないわ!! お前さんたちはもう少し緊張感というのを……」 「ドクじい〜、ノリ悪いっチュ〜。 おいら達ちゃんとメリハリはつけてるつもりだっチュ」 つもりじゃいかん。 そう言ってスピンをたしなめるドクに、ストロンはキャラメルを差し出した。 「イライラしてたら、判断が鈍るよ。 はい、甘いもの食べて元気出してぇ」 「誰のおかげじゃ……全く」 そう言ってもストロンからキャラメルを受け取って口の中に放り込むドク。 この三人はこの調子がいつもの事だった。 その彼らの横で、ドロッチェは紙を広げてペンを走らせる。 「えーっと……ここは行き止まりだったし、後進んでない横穴は――ここと、あそこか」 これから先の、行動する場所を決めていたようだ。 ドロッチェは、彼らを先導するリーダーとして迅速に探索場所を決めている。 ウロウロと探索した場所を何度も往復していたら、体力が持たないし他のギルドに出し抜かれるからだ。 「ようし、飯も食ったしみんな元気になったな。 今から作戦会議をするから、集合して――」 その時であった、洞窟の奥から大きな音がすると天井から細かい砂が落ちてくる。 ドロッチェのシルクハットにも茶色い砂粒が乗っかると、スピンは先ほどまで自分が進んできた場所の方向へ走り出し、ストロンはさっきまで食べていた食事の余りが入った鍋に覆いかぶさる。 ドクは円盤の中から、先ほども活用した偵察カメラのモニターを取り出した。 そこには、岩や砂塵で一杯になった様子が映されていた。 「大変じゃドロッチェ、カメラに先に行かせていた横道の一つ、潰れてしもうた」 偵察のために向かわせていたカメラが、先ほどの音の何かに巻き添えになったようだ。 地震か、何か怪物か他のギルドに出会ったか――。 「リーダー!! 入り口の方は無事だっチュよ!!」 スピンの報告を聞き入れてドロッチェは立ち上がる。 休憩と拠点のために広げていた道具も、手に取り片づけ始める。 「ドク、帰り道のルートは、記録できているな」 「勿論じゃ。 道一本間違えずに安全に帰れるぞ」 ドクが誇らしげにモニターを手に取り、ふんぞり返る。 ストロンは大きな道具を背中に背負い、ドロッチェはシルクハットにかぶさった砂を払い落とすと、歩き始める。 「今からププビレッジに帰還する。 お宝は名残惜しいが、人命最優先だ」 お宝探しに、無茶はしない。 ドロッチェ達『真紅の窮鼠』の教訓の一つだった。 一体いつからこんな教訓があったのかは分からない、ドロッチェ達が『真紅の窮鼠』の創設者ではないから、ずっと前から先代マスターが作ったルールなのだろう。 ドロッチェ達も、この教訓を反故するつもりはない。 先祖が決めたルールなら、先祖が正しいに決まっている。 「アニマは、ヒトガタやティンクルよりも危険や災害に対する嗅覚が倍鋭いって言われている。 今回も、そんな感じがする」 ドロッチェはゆっくり壁を手に当てて先陣をきって帰り道の安全を確認する。 その後ろにはドク、スピン、ストロンが続いている。 スピンとストロンは、このギルドでの戦闘面での二枚看板だ。 ストロンの巨体は大抵どんな攻撃にもびくともしないし、スピンはそのすばしっこさで相手を翻弄できる。 「でも、この身体で攻撃受け止めても、痛いのは痛いんだよ〜?? スピン、たまには変わってよぉ」 「おいらじゃ吹っ飛ばされて一巻の終わりだっチュ!? ストロン、お前逃げる連中追いつめることできないだろ!!」 スピンのその言葉に、ストロンは「う〜ん」と唸って沈黙する。 暫くすると顔を明るくさせて、スピンの言葉への答えを見つける。 「転がれば、速いよぉ」 「スピン、ストロン。 無駄話はそこまでじゃ」 先陣を切っていたドロッチェが、足を止める。 その目の前には、黄金の身体を持った巨大な蛇の像が立っていた。 見る者が息をするのも忘れてしまいそうな、その黄金ので出来た身体は、ドロッチェ達も時間を忘れるほど見とれてしまうほどの美しさだ。 「これは――見つけたぞ!! これがここのお宝なんだ!!」 ドロッチェは歓喜の声を上げて蛇の像に手を触れる。 スピンとストロンは、大はしゃぎで蛇の像の上に飛び乗った。 「なるほどのぉ――こんな見事な宝飾品だらけの石像は、確かに伝説に出てくる青年一人じゃ持ち帰れないわけじゃ」 ドクは感心しきりで、蛇の像を見上げている。 彼らも知っている、この『四つの穴』にまつわる昔話――。 「ようし、この宝飾品一欠けらでもいただいて、この冒険はおしまいにしておきましょうかね!!」 ドロッチェが巨大な蛇の像の頭に埋め込まれている、翡翠の宝石に手を取った途端――巨大な蛇の像の目に、生気が宿る。 「えっ」 ドロッチェが乗っていた蛇の像はあっという間に立ち上がり、その巨大な身体は一気に洞窟の天井に手が届くか、というほどにまで起き上がった。 ドロッチェは振り落とされないように蛇の像に必死につかまっているが、地上にいるスピン、ストロン、ドクの三人が確認できないほどの高さだ!! 「うわああ!!」 「ドロッチェ!! まずいぞ、これは像じゃないのか!!」 ドクが円盤を操って蛇の頭部と同じ高さまで上昇する。 地上では、スピンとストロンが二手に分かれて蛇を挟み込む形で迎え撃つ。 「ストロン、おいら達のコンビネーション、見せてやるっチュよ!!」 「おう!! ドロッチェリーダーに何かしたら、許さないぞ蛇〜!!」 ストロンが蛇に飛び乗り、拳をその黄金の身体にぶつける。 が、そこには傷一つつかないし、巨大な蛇は顔色一つ変えていない。 「ええい、クナイ手裏剣!! 爆弾攻撃〜!!」 スピンが次から次へと飛び道具をこれ見よがしに放って見せるが、クナイや手裏剣はあっさり弾かれるし、爆風でも欠片一つこぼれない頑丈な身体。 蛇はびくともしていなかった。 「ドロッチェ〜!! 今助けるぞ」 ドクが円盤を操り、蛇の頭に最接近する。 そこにはドロッチェが必死につかまり、ドクの円盤に片手を伸ばしている。 「ドク!! 見ろ、コイツの身体から、宝石の欠片取れたぞ」 「教訓忘れたか馬鹿者!! 無茶はもうこれっきりで、早く帰る――」 ドクは一喝しつつ、ドロッチェがお宝を見せた時に少しだけ嬉しそうな顔をしていた。 スピンやストロンは、ドクがドロッチェのもとまで最接近しているのを見上げて、無事に全員帰還できると、安堵の表情を浮かべていた。 ドロッチェも――彼らの頼もしさと、後で説教食らうだろうなと、自分の軽率な行動を恥ずかしくも思いつつも、ドクの円盤にもう少しまで手が届く距離に来た――時だった。 「ガアアアアアア!!!!」 巨大な蛇の像が急に雄たけびを上げて、その尾を激しく振り回す。 彼に何か気に食わないことが起きたのか、不機嫌に叫びだすか蛇の像は、ドロッチェや『真紅の窮鼠』の一員皆にお構いなしとばかりに、頭を、胴体を、しっぽを容赦なく振り回す。 「お、おい!! どうした、何が起きたんだ!! ドク!!」 ドロッチェは振り落とされないように、近くに円盤で接近していたドクの名前を叫ぶ――返事は聞こえない。 「スピン、ストロン!! 危険だから、いったん逃げろ!!」 リーダーとしての責務を果たすため、地上にいた二人の仲間にも大声で避難を呼びかける――いつも様な元気な返事は耳には帰ってこない。 「なんなんだ、こいつ、止まれ、止まれよ!! おいこらぁ」 ドロッチェの、悔しそうな叫びに蛇の頭部を何度も何度も殴りつける音。 ドロッチェの手はすでに血まみれだった。 硬い蛇の像の身体は、いくら叩いても傷つかない。 が、その瞬間だった。 ヒンヤリと冷たい感触がドロッチェを包み込む。 ドロッチェを乗せていた蛇の身体はみるみる真っ白に染まっていくと、ドロッチェはその急激な寒さに震えながらあっという間に眠気に襲われる。 ――これは、氷の魔法!? 意識が朦朧とする中で、ドロッチェは地上を見下ろす。 幾つもの小さな影が――巨大な蛇を覆い囲むように、点々としていた。 「コイツは……穴の化け物では……ないね、桃君」 氷漬けの蛇を見上げるは真っ白な体色のティンクル。 ドロッチェ達の後を追うように、彼らもここにある目的でやって来た。 ――名は『七彩の宝玉』
投稿者コメント
一話にまとめるつもりでした。夢中になりすぎて制限をオーバーしてしまいました。 ですので、これは前後編で分ける事にします。 これも自分の実力不足が招いた事態ですね。 精進します。
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