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小説「
第二十二話 『七彩の暴食』・ソードナイト
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作者名
ディン
タイトル
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内容
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ケケが走り出した先には、小さな子ども達が逃げ惑っていた。 おそらく、そこらで遊んでいた最中にこの事件に巻き込まれたのだろう、泣き叫びながらも戸惑う子どものもとへケケが到着すると、すぐに彼らの手をひき走り出す。 「こっちよ」 ケケの言葉通りに走り出す子ども達。 頭上には、ファッティホエールが暴れて飛散する欠片や、サンゴなどが降ってきている。 「ケケ、危ない!!」 どこからか、アイアンマムがケケに叫んだ。 ハッと目の前を見ると、ケケと子ども達の目の前には巨大なサンゴが降ってきているではないか。 「きゃあ!!」 先陣に立って、守るように背中を向け子どもを抱えるケケ、現実逃避するかのように、彼女は強く目を瞑っていた。 そして、サンゴとケケの背中の衝突は――起きない。 恐る恐る、目を開けてみるとサンゴの破片が二つ、綺麗に割れるように彼女と子ども達の目の前に落ちていた。 そう、まるでそれは何か鋭い刃物で斬った様なものだった。 「……あー、お嬢ちゃん、ちょっと質問があるんだけど」 ケケの背後から、男の声が聞こえてくる。 後ろを振り返ると翡翠色の鎧を身にまとい巨大なパイプを背負った、ヒトガタの剣士が立っていた。 「ここにエアライドマシン、落ちてなかったか。 ウチのギルドの借り物なんだよなあ」 「え、知らないですけど。 あの、どちら様」 ケケは、この現場の騒ぎを意に介さない男の登場に、呆気に取られていた。 既にケケがかばった子どもの親が傍までやってきていた。 ケケに助けられた子どもは一目散に親元まで駆け寄り、親はケケのもとへ歩み寄る。 「本当に、本当にありがとうございます」 ケケにお礼を言う親の言葉はケケの耳には届いているか。 この緊急事態に場違いな質問をする男の登場に、ケケの意識は集約されていた。 この騒ぎを見て、何も思わないのか――と、内心突っ込んで。 「おいおいおい、せっかく到着したと思ったらすごい騒ぎなのサ」 ケケの頭上には、真っ二つに割れた体に、黒い渦を発生させて瓦礫を吸い込んでいるマルクの姿があった。 ファッティホエールが暴れて崩れてきた海底の土砂は、巨大な氷の壁にその行く手を阻まれていた。 そして――各々逃げ遅れていた人たちを、ドロッチェが安全な場所へ誘導する。 ドロッチェは持っている杖を振るうと、星型弾を発射させ、マルクが『吸いこみ逃した破片』を砂塵レベルにまで粉砕する。 「おい、もっとうまく吸い込め」 ドロッチェのその突っ込みに、割れた状態のままマルクは舌を出していたずらっぽく笑みを浮かべる。 すまん、すまんと笑いながら答えると。 「でも、ちゃんとバックアップして流石なのサ、ありがとねドロッチェ」 「ったく、都合がいいんだからよ」 「あ、ありがとう!! あんた達はいったい」 海底の住民たちのお礼を聞く暇もなく、群青色のティンクル――サファイアは真っ先にケケのところへ駆け寄った。 一方で、ピッチはアイアンマムら『誘拐された魔導士たち』のもとにいた。 「あれ、そこの人。 どこかで見たことあるよね。 サファイア」 「……アンタ達、確か『森林の暴君』を壊滅してくれた二人組だね」 アイアンマムは、サファイアとピッチの二人を覚えていたようだ。 そんな彼女の反応を前に、ケケの横にいたサファイアは、背後のアイアンマムに一瞬目配せすると吐き捨てる。 「犯罪者の事はいちいち覚えてねえ」 「冷たい人だねえ。 モテないだろ」 アイアンマムの精いっぱいの嫌味。 サファイアは意に介してないようだった。 そして、彼らに続くように、黒装束の魔導士――ネスパーが空間の渦から顔をのぞかせる。 「す、すみませんサファイアさん……時間かかっちゃって」 「おう、ありがとうなネスパー。 助かった」 「あ、ネス君」 ケケもサファイアから顔をひょっこり出してネスパーに目を向ける。 そんな彼らをよそに、ソードナイトはファッティホエールの頭上に飛び乗ると何かを引き抜いた。 そして、背中に背負っていたパイプをファッティホエールの口元に、投げ出す。 「ほらよ、神様の大事な忘れもんだ。 もう失くすなよ」 「あ、あんた……海神様の荷物、いったいどこで」 スイートスタッフが、不思議そうにソードナイトに問いかける。 彼はうーんと、ひとしきり考えた後に答えた。 「戦利品だ。 ここに来る前にいろいろあってな。 神様の大事なもんなら、返すよ」 ソードナイトのその言葉通りだった。 先ほどまで暴れていたファッティホエールはパイプと頭上に刺さっていた何かが無くなったおかげか――上機嫌で、海底に戻るように潜っていった。 第二十二話 『七彩の暴食』・ソードナイト 「いやしかし、酷い有様になったものだ」 ファッティホエールの暴走が過ぎ去った海底の国は、酷いものだった。 ほとんどの居住地は見事に破壊され、舗装されてたであろう道は荒れだらけ。 スイートスタッフ達が口にしていた復讐など、到底実現不可能なありさまだ。 住民たちは困ったようにその場をうろついていた。 これからどうしようか、そう悩んではいるものの、誰もスイートスタッフ達を責める者はいなかった。 ――それもそのはず、彼らもまたスイートスタッフ達が叫んでいた『復讐』に同調していたのだから、自業自得だと心の奥で理解していたのである。 「……はい、これで貝殻の真珠がまた増えました」 「わー!! ネスパーの兄ちゃんすっげー!!」 「もう一回、もう一回!!」 「ドロッチェ兄ちゃん、そのシルクハットから何かでねーの!?」 「お菓子!! お菓子!!」 「いや、俺のシルクハットそういうのじゃねーからな!?」 荒れ果てた海底に、子ども達の楽しげな声が聞こえてくる。 恐怖におびえ切った子供に一時の娯楽をと、ケケの頼みでネスパーとドロッチェが超能力や手品で子どもたちの気を紛らしてくれていた。 「それで――スイートスタッフ、あなた達はこれからどうするんですか」 ケケのその言葉に、スイートスタッフ達は黙っている。 復讐などバカなことをやるのではなかったという後悔と、これでは民に示しがつかないという苦悩も。 「ここが、ようやく見つけた俺たちの安住の地だったんだよ。 今更、地上に行っても俺たちを迎え入れてくれるところはないからな」 ここでまた、やり直すよと、スイートスタッフが言った途端に、マルクが足を踏み鳴らす。 「冗談じゃねえのサ。 散々迷惑かけておいて、考えた末に出た答えがそれかヨ」 次はお前をぶちのめすぞと、脅すように言うがマルクもそこまでやるつもりはない。 ただ、スイートスタッフ達の反省を促すための発破ではある。 そんなマルクに、ソードナイトが彼の肩を叩いて傍に立つ。 まぁまぁと言いたげに、ソードナイトは笑って見せた。 「ところで、スイートスタッフよ。 お前の言うカインって友達は、俺知ってるぞ」 ソードナイトのその言葉に、スイートスタッフは目を見開く。 すぐにソードナイトのそばに駆け寄り声を荒げる。 「ほ、ほんとうか!!」 「ああ、『アニマ連合』ってギルドだったな、顔合わせもした覚えがある。 元気だった」 数日前の話だ。 ソードのそんな気さくな回答に、スイートスタッフや、従者たちは安どの表情を浮かべていた。 「……そうか、カインは……生きているのか――無事なのか」 そのすぐ横では、サファイアとピッチが携帯通信機で外部と連絡を取り合っていた。 すぐ横には、アイアンマムが最初から観念するように鎮座している。 「一応警察からも手配書出てたし、連絡したから帰るついでに連れてくぞ。 アイアンマム、一応あんたは脱獄犯って話だからな」 「いや、脱獄というかこいつらの魔法に連れてこられたんだよね……しかし、また豚箱暮らしかい。 久しぶりに娑婆の空気吸えて楽しかったんだけどね」 アイアンマムは苦笑いを浮かべながら、リラックスした雰囲気で居座っている。 同じように連れてこられた魔導士たちは、既に自分のギルドに連絡を入れて次々と帰っていく。 「それでは!! ケケさん、『七彩の暴食』の皆さん、ありがとうございました!!」 「このご恩は一生忘れません!!」 「はーい!! お礼はアイランドアイスの『チョコレートアイスバー』とかのお中元希望です!!」 ケケが元気よく魔導士たちに声をかける。 それを聞いたマルクががくりとコケかける。 「おいおい、お前さん今何している最中なのサ」 「はい、親睦会ついでに、子どもたちと地上と海底のスイーツ交換会です」 既にネスパーとドロッチェがやっていた手品ショーはひと段落、ケケは口に海底のスイーツをほおばりながらピースサインを送る。 既に子どもたちとは込み入った仲になったようである。 そんなケケの様子に、たくましくなったやら、楽天家すぎるやら、マルクはため息を吐いてから苦笑いした。 彼はケケの横に座るとポケットから飴玉を取り出した。 「ボクのキャンディーとも、何か交換してちょーよ」 そして――サファイアとピッチのそばに、ソードナイトが静かに歩み寄っている。 「ブレイドは、怒ってるか」 「うん、だって僕らも君の顔見たの半年ぶりだよ。 たまには奥さんのところ帰ってあげなよ、ソード」 ピッチのその突っ込みに、ソードナイトは黙って後頭部を掻き俯く。 サファイアはそんなソードの姿を見て、岩場に腰を下ろして問いかける。 「マスターにも黙ってずっと留守にしていたんだ、何か重要な事でもあったんだろ、ソード」 「ああ、まぁ重要といえば重要だ。 サファイア――」 ソードの言葉を待つばかりと、サファイアとピッチの間の空間は時間が止まったようになる。 しばらくして、ソードナイトはその重い口を開いた。 「『七彩の宝玉』の怪物と、話した」 そのソードナイトの言葉を遮るように、ケケが目を輝かせて割り込んでくる。 思わずそれにぎょっと反応したソードナイトとサファイアは胸をなでおろして呼吸を整える。 「宝玉のメンバー!? すごいすごい、誰と話したんですか!!」 「おい、この嬢ちゃん……」 ソードナイトが歯切れ悪く、バツの悪そうに聞いてくる。 サファイアも、ため息交じりに肩を落として、ケケの頭に拳骨を一発お見舞いする。 「っ痛ぁ!! サファイア酷い!!」 「悪いなコイツ、宝玉に憧れてるというか……」 「ああ、お前とピッチが解決したっていう事件の被害者――その一人がウチに来たって、ブレイドが連絡で寄越してた」 ケケの興奮する様子を背後から頭を叩いてドロッチェとマルクが抑える。 彼らとピッチは、既にネスパーが作っていた魔法陣に入ろうとしていた。 「おい、そこの仲良し二人組。 お前らはネスパーのお迎えが来るまで仲良くしとくのサ」 「とりあえず、土産に海底のスイーツもらったから、暫く食いもんには困らねえよ。 いい仕事紹介ありがとよ」 ドロッチェは袋一杯のスイーツを背負いながら、手をひらひらと振ってからかって見せる。 ケケはあんぐりと口を開けてそれを見る。 「あ、あぁ!! いいなぁドロッチェさん!! 私もお土産買っとけばよかった!!」 そして――ここは『七彩の暴食』、その入り口付近。 「モソのじいちゃん!! ケケねーちゃんまだ見つからねえの!!」 「おれたちも探すの手伝うからさ!!」 ケケが失踪した最初の目撃者――キャピィ族の子どもたちは、マスターのモソのもとに集まっていた。 彼らも、ケケの心配と失踪の責任を感じて『探すのを手伝う』とは言っては引き下がらない。 モソとブレイドは彼らをなだめるのに必死だ。 「大丈夫だよ。 サファイア達がもうすぐケケを連れて帰って来るから――」 「それより、お前さん達は家に帰りなさい。 親が心配するぞ」 モソのその言葉に、子どもたちはほぼ一斉に同じ言葉を繰り返す。 「いやだ!!」――『暴食』の玄関口はもうこの応酬でいっぱいだった。 「ケケねーちゃんが帰って来るまで、おれら帰らねーからな!!」 「それじゃあ、そろそろ帰り支度するんだな。 ガキども」 彼らの背後に立つは群青の鎧を着た一人の男。 彼の横には、マルクとピッチ、ドロッチェが入り口の前を陣取る子どもの背後に並んでいた。 「あんた!!」 「おお、ソード!! 半年ぶりか、それにマルクたちも戻ってきたことは――」 「ああ、ケケとサファイアはもうすぐネスパーが連れて帰って来る頃だと思うのサ」 マルクのその言葉通り、背後から魔法陣が地面に浮かび上がるとネスパーに連れてこられたサファイアとケケが現れた。 ケケの両手には――食べ物の入った袋。 彼女も、ドロッチェの真似をして海底のスイーツを買いに戻っていたようだ。 サファイアは『余計な手間かけやがって』とぶつくさ言いながらも、片手に袋を持っていた――いや、『持たされていた』が正しいか。 「大体お前なー!! 元々はお前のためにみんな来たんだぞ。 それなのに、最後まで『スイーツを買いたい』ってワガママ言いやがって」 「え?? でもサファイアもお店でスイーツ見繕ってたよね?? 何だかんだほしかったんでしょ?? スイーツ」 ほれほれ〜と、ケケは買い物袋をサファイアの目の前で振るって挑発をして見せる。 サファイアは額に青筋を浮かべて、手のひらから冷気を発生させた。 「そうかそうか、スイーツを腐らせないために、一番強力な保冷剤を用意してやるよ」 「ネス君、超能力でサファイアの攻撃を反射だ!!」 「えっ、そんなの無理です!!」 そんなサファイア達の様子を見て、マルクとモソ達――そして、そんな騒ぎを『七彩の暴食』のギルドから出てきて確認したホヘッドら『留守番組』は安堵していた。 ああ、これが一番『七彩の暴食』らしい、姿なのだと。 そして、ソードナイトがモソのところへ歩み寄り――。 「マスター、今からいいか。 報告」 「おお、お前さんも半年ぶりの帰還なんじゃ。 それもいいがゆっくりしていけ」 七彩の暴食、その内部。 ケケの帰還と、スイーツのお土産に全員が集まってパーティの様に騒いでいるところに、ソードの一言は彼らの祝賀ムードに一石を投じるものになった。 「すまん、マスター。 仕事は失敗した」 「やはり――そうか」 モソとソードのその会話に、暴食のみんなは思わず手を、足を止めた。 これから仕事に行こうかと身支度をしていたチームも、目は二人のもとに集まった。 「ソードが、失敗した!?」 「バカ言えよ、ソードさんはウチの現役だと最強の人なんだぞ!!」 ソードの実力を知っている者、全てはそう言って彼の失敗を否定する。 ケケはその様子を見て、近くにいる仲間に声をかける。 「あの人――そんなにすごい人なの、ウォンキィさん、ガルルフィさん」 ガルルフィとウォンキィは、ケケも知っている暴食で仲のいいコンビだ。 『犬猿の仲』と言うことわざも、『七彩の暴食』においては「ああ、ウチのウォンキィとガルルフィのコンビの事ね」と言って笑い飛ばすほどに。 ウォンキィ――そう呼ばれた、黄色い体毛と赤い肌をした猿のような姿のティンクルはケケの言葉に何度も首を縦に振るう。 「マジマジやばい人なんだよ。 あのあの人はサファイアとマルクが束になってようやくいい勝負ができるんだからね」 ウォンキィのその言葉に、ケケはソードに視線を合わせる。 その甲冑に身を包んだ男は、彼女がいつも一緒にいるあの二人より強いという事実に、目を見開いた。 「そ、そんなやばい人の失敗って――!! 大変じゃない」 「いやぁ、あの人がだめなら……ウチのギルドではそのクエストは拒否した方が良いってレベルだからね!! 笑えないんだよ、これ」 ガルルフィ――と呼ばれた、犬のような姿をしたアニマも、首を横に振って諦めを促すような声を出している。 彼が指さす先、いつもケケ達も使っているクエストボードがあるのだが。 「あそこにある依頼、ソードさんなら二十四時間あれば一人で全部解決できるって言ってるんだよ、皆」 二人からのその評価に、ケケは関心と尊敬を持ちながらも――そんなソードでも解決できない仕事というのに興味を持っていた。 「そんなすごい仕事――私もいつかできるかな」 そんなケケの言葉に、ピッチは彼女の頭に乗ってきて髪の毛を引っ張る。 「あいた!! ピッ君何するの」 「ダメだよケケ、仕事を選ぶにもレベルは選ばなきゃ」 「だから、ちょっと興味があるだけで――ソードさんはどんな仕事してたんですか」 そのケケの言葉に、カウンター席で食事をとっていたサファイアの口と手が止まる。 横でチェリーパイをほおばっていたマルクも、そんな彼の様子に気づいて口を止める。 「……ソードの仕事、国際テロ組織『七彩の宝玉』の壊滅だ」 サファイアのその言葉に、ケケは思わず声を詰まらせる。 サファイアの口ぶりから、何かの事情を知っているかのようだったが、それ以上に――憧れを持っていたケケからは信じられない一言がサファイアから聞き逃すことはない。 「国際――テロ組織?? な、『七彩の宝玉』が!?」 ケケのその反応に、サファイアの横にいたマルクもそうだよなと反応する。 彼女が『七彩の宝玉』に憧れを持っていたのは、皆知っている事実だから。 「まぁ、俺一人じゃなくて他にも国中のギルドから色んな奴らが集まってたんだが――いやぁ、あいつらのやばさったら半端ないね!!」 ソードは大笑いをしながら身に着けている翡翠の鎧を脱ぎ始めた。 そこには、いくつも巻かれた血のにじんだ包帯と、傷だらけの体。 その様子を見て、暴食にいた皆は思わず声を詰まらせる。 中には、気分を悪くしたのか嗚咽が漏れる声も聞こえた。 「サファイア。 おれがここに戻ってきた理由は、お前にある。 ――マルクも、ピッチも、そこのケケって嬢ちゃんも――会ってるんだろ?? 宝玉のメンバーに」 傷だらけの身体を、特に恥じることも無くソードはカウンター席にいるサファイアのもとへ歩み寄る。 しかし――サファイアはそんな身体で近づいてくるソードを避けるかのように、席を降りると玄関へ向かう。 「待ってよ、サファイア」 ピッチが彼の後をついて飛んでいく。 ソードが聞こうとしたことを、わかっているのかサファイアは逃げ出すように歩いているが、そんな事をお構いなしにソードは話を続ける。 「スノウという奴や、レッドってのと会ってるんだろ――どうよ、今のアイツら……やっぱり、潰すべきだって思うか??」 潰す。 その言葉に、ケケは口を真一文字にする。 その二人は、ケケも面識のある二人であるからだ。 ケケの心象では、レッドは彼女の故郷を襲った一人だが、スノウにはさほど敵視する理由はない。 むしろ、スノウは彼女にとってもサファイアにもとても友好的な態度をとっていたからだ――『穴に向かう』その誘いをしてきた時、ケケは一人つまはじきされたが、それは彼なりの心配であった事は、ケケは理解している。 そんな彼も――『七彩の宝玉』をテロ組織と認識している中で、倒すべき目標なのだろうか――ケケが不安になる中で、『暴食』の入り口に手をかけたサファイアは、去り際にこう言った。 「俺は、あいつらとは一緒じゃない。 やるなら一人でやってくれ、ソード」 サファイアが飛び出して数分。 ケケは難しそうな顔をしながらギルドの『エアライドマシン』のレンタル乗り場に足を運んでいた。 ピッチも、彼女についてくるように後ろをついていくが、目的地までは聞いていない。 単なる話し相手欲しさにケケについて行ってる様子だ。 「ピッ君、サファイアやマルクさんについて行かなかったの」 「サファイアはどこ行ったかわかんないし、マルクは疲れたからもう寝るってさ」 マルクはギルドに戻ってきた後、二階に戻ってからその場を一度も動いていない。 ケケもそれを聞いてへぇと答えてはもう一度確認する。 「で、私について行く理由は?」 「またこの間みたいに、急に消えたりしないように見張ってる」 やっぱりね。 ケケはそれだけを言うと諦めたようにエアライドマシンに飛び乗った。 彼女はまだエアライドマシン初心者だ。 初心者御用達と言われている『ライトスター』で出かける様子。 「ついて来るなって言ったら?」 「僕の重力魔法忘れたの、ケケ」 ピッチはそれを言うとケケの後ろに飛び乗ってしまう。 半ば脅しの様だが、心配でもあるのは事実なようで。 「重量オーバーになるとね、エラーのブザーがここら一帯に鳴るからね。 『ケケが乗ったらエラーが鳴った』で暫く噂まき散らしてやる」 「最低。 最悪。 鬼、悪魔」 ケケはそう言葉を紡いでピッチを罵ると目の前をパッと見る。 何か思いついたようで、ピッチに聞こえるように大声を上げた。 「あー!! すごい美人なアニマがいるよ」 「え!? アニマのお姉さん!! どこ、ケケ!? どこ」 ピッチがエアライドマシンを飛び降りて確認しようとした瞬間、ケケはマシンを発進させる。 彼女の罠に見事にはまったピッチは、あっと声を上げて走り去るケケを追いかける。 「あー!! 待ってケケ!! ダメだって!!」 「きゃっほーい!! 隣町のスイーツが私を待っている!!」 ピッチの制止を振り切って、ケケはスピードを上げて走り出す。 ピッチも空を飛んで追いかけるが、とても追い付きそうにない。 「ああ、ダメだ。 ホヘッド達でも呼んで――ケケを止め……ん?」 白黒のパトカーだ。 ピッチが目に飛び込んできたその緊急車両は、ケケのライトスターを呼び止めて、話をしている。 暫くしていると、ケケはおとなしくエアライドマシンから降りたようだ。 何度も、何度も頭を下げている様子がピッチの目には映っている。 「……あの、ボルン署長。 ウチのケケが何か?」 ピッチは恐る恐るそこへ飛んでいき、ケケと相対している警察官――ボルンに声をかけた。 彼はププビレッジの唯一の警察の職員で、サファイア達『七彩の暴食』とは別にこのププビレッジの治安を守ってくれている。 「おお、ピッチ殿ですか。 そういえば、彼女は暴食の新入りさんでしたな」 ボルンはピッチに敬礼をして頭を下げる。 ケケは俯き加減に、少し半べそをかいてるように見える。 「いやぁ、久々に村でこんな大事件が起きましたよ……ビックリしましたよ、私も」 「大事件って――ケケ、まさか」 「無免許だったんです。 彼女」 ボルンの言葉に、ケケは反省をするように、バツが悪そうに身を縮こませていた。
投稿者コメント
今更ですが『七彩の暴食』の所在地はププビレッジです。 アニメにも出てきたキャピィ族の住民たちもちょくちょく登場、活躍させていきたいなって思います。
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