7.ナッツヌーンにて
「...昔はそんなことがあったわね」
夕焼けを見ながら、現人神ジネヴラは過去の記憶を思い出していた。
「...」
とりあえず、ジネヴラはそのあってはならない事実から目を逸らすようにマホロアのことを思い浮かべる。
「もう少し一緒にいてあげればよかったかしら...でも嫌だったのよ。だって彼はもうすぐ...」
ジネヴラの目から涙があふれ出る。神様だからと言って、簡単に生命を生き返らせることができる訳ではない。ジネヴラは基本命を奪う神だ。それに、バンバン生き返らせてたら、この世の法に触れ、また封印されてしまうかもしれない。
「どうしたの?」
どこかから声がする。このポップスターの英雄、星のカービィだ。
「いいえ、何でもないわ。」
黒い涙をふき取り、かすれた声で返す。ジネヴラは泣き止んだ後、カービィに問いかけた。
「私の友人に、マホロアってひとがいるの。知ってる?」
「え、マホロア?知ってるよ!あの青い煮卵でしょ!ボク、マホロアの友達だよ。」
ジネヴラは小さく笑った。まあ、強ち間違ってはいない。実際丸いのだから。
ドロッチェに比べればスタイルもよくないし、何よりあのクソうざい性格。正直女にはモテないだろう。それ故に、身体上の性別なんか無いジネヴラには憎めない存在でもあった。
あの頃が、一番楽しかったかも。
いろいろなことを思い出したまま、ジネヴラはポケットからある「もの」を取り出した。
「そいつにさ、これを渡してほしいの。」
命を救うことができないのであれば、ちゃんとその魂を天国へ届けてやろう。
ジネヴラは、マホロアへの「想い」をカービィに託した。
「うん、分かった!こんど会ったらわたすね!」
カービィは元気に手を振りながらその場を去っていった。
ジネヴラはその場にとどまり、すっかり暗くなったナッツヌーンの黄昏を眺めていた。あの様子だと、自分のことは、カービィたちには言わなかったようだな、と彼女は思った。
どこか遠くから「空のワルツ」が流れる。ジネヴラのお気に入りの曲であり、マホロアが彼女のために作った曲だ。実際のところ、ジネヴラは能力的にも人格的にも空を飛べるような軽々しい者ではない。「アースバウンドウィッチ(地から離れられない魔女)」という異名を持つぐらいなのだから。
「...彼は、私のことをどう思っていたんだろう?」
数日後、カービィたちはマホロアにナゾの女性からもらった「もの」を渡すべく、ローアに向かった。
しかしそこには、機械の電源を付けっぱなしにしたまま、うつ伏せに倒れているマホロアがいた。
すでに息はしておらず、手遅れだった。
手遅れだった。