7話「虚空の謎」
六花に導かれた勇者たちは、今までと全く違った世界に辿り着く。
「何、ここ…?真っ暗……」
不穏な空気を感じ取ったのか、小沢が不安げに呟く。
「こんな世界見たことないぞ…」
「みんな、どこに行っちゃったの?」
全てが暗黒に包まれた世界。人や物が全く無いのは勿論のこと、
自分たちが踏みしめているはずの地面すらも、真っ暗だった。
「り、六花さん…?ここは……?」
「ここは……私が居た世界よ」
「え?」
「―――――――――消滅したの、私の世界は」
あまりにも衝撃的な告白だった。
「昔……もう4、50年は前かしら。この世界の消滅をきっかけに、他の世界がどんどん消滅してしまってね…」
「4、50年?オマエは今いくつなのサ?」
流れを遮って、マルクが問いかける。
「17歳よ。……クロノスワープ・ショックって知らない?」
「知らないのサ」
「何十年もの間、時空間移動をしていると、人間の体に異常をきたすのよ。私は世界の消滅を止めるために、あらゆる時空を渡り歩いて――――」
六花は、歩きながらも口調を変えず、淡々と話し続ける。
「―――消滅を防げた場所も、防げなかった場所もあったわ。その時のクロノスワープ・ショックで、私は年を『取れなく』なったの」
「……消えてしまった世界だから、ここが何処か分からなかったのですね」
寄り添うように、ロゼッタが言葉を返した。
「そう。何故、この本がここへ導いたのか……分からないわ」
「この世界のどこかに、ファイルがあるのでしょう。探すしかありませんね…」
(スマブラ界の)マルスが呟く。
「はぁ……ねぇ、まだなのー?あたい、もう疲れたわよ」
チルノがぼやく。幾ら歩いても変わらない景色に、他の勇者たちも嫌気が差し始めていた――――その時。
「…あ、あの人影は?」
勇者たちの目の前には、暗闇の中にぼんやりと浮かぶ女性がいた。
「…………六花さん!?」
来太がいち早く気づいた。その女性は、六花と瓜二つだったのだ。
「良ク来タナ、モウ1人ノ私ヨ」
「何故貴女がここにいるの?貴女はこの世界と一緒に滅んだはずでしょう?」
六花以外の勇者たちは、状況を理解するのに精一杯で、言葉も出ない様子だ。
「貴女はこの世界に居てはいけないの。もう一度消えなさい」
中国拳法の構えを取る。戦闘態勢だ。
「消エルノハ貴女。貴女ガ消エテ、私ガ貴女ニナル………ナる…なル……」
訳の分からない言葉を呟きながら、女性は異形の怪物に変身した。首は180度ねじ曲がり、腕が6本に増え、背中からは悪魔のような翼が生えている。
「邪魔者ハ失セロ!!!」
「「「「うわあああぁぁ!?!?」」」」
その女性……否。怪物が腕を一振りすると、六花・小沢・岐部以外の勇者たちを、空中に封じ込めてしまった。
「え…これ、俺らまで戦う流れ!?」
「完全に巻き込まれましたね……」
「…………消エロ消エロォォオオ!!!」
怪物が呻き声を上げながら、3人の下へ迫ってくる!
「ライトシールド!」
即座、岐部が3人の目の前に、シールドを描き上げた。怪物はシールドに阻まれ、跳ね返される。
「グッ……小癪ナ!」
怪物は6本になった腕から次々と赤黒いオーブを放ち、シールドにぶち当てて壊していく。
「まずい、このままじゃ…!」
「昌幸!下がって!」
小沢が背負っていた銃「大和旋龍砲」を向ける。
『黒』『炎』『土』『龍』『獣』「岩鱗龍弾(ガリリダン)!!」
引き金が引かれると、岩で出来た巨大な龍が現れ、オーブの弾幕を防ぐと同時に、火炎を吐く。
「グワアアァ、熱イ、熱イ…!」
暴れ狂った怪物の腕が、ありとあらゆる方向に襲い掛かる。
「光雷旋風百脚!」
六花が目にもとまらぬ速さで、腕に蹴りを入れていく。
「闇には光を、と……光獅子ブラスト!」
岐部がスケッチブックに描いた絵から、光り輝く獅子が現れ、怪物に牙を剥く。
「グッ……!」
怪物はもう満身創痍だが――――最後の力を振り絞って、全身から闇の波動を放った!
「闇楼气炎派零式!!!!」
あまりにも強大な力に、岩鱗龍弾が破壊され、裏に居た小沢に波動が迫る!!
「小沢さん危ない!!!」
小沢を庇った岐部が波動をもろに受け、その場に倒れる。
「っあああああぁ!!」
「昌幸!!! …後でちゃんと治してあげるから!」
そう言うと、小沢は銃を六花に向けた。
「六花ちゃん!多分あいつの弱点は頭!! 頭を狙って!!!」
『黒』『飛』『風』『羽』『空』「空翔生翼弾(クウショウショウヨクダン)!!」
撃たれた六花の背中に、白く大きな翼が生えた。
「それで空を飛べるから!額に攻撃を入れて!!」
「分かったわ。一敬さん…ありがとう!」
そう言い放った瞬間、六花は大きく飛び上がり、怪物の頭へ急速に近づく。
「残念ね。これで終わりよ」
不敵な笑みを浮かべ、掌底を放つ。
「气波動蒼天!!!!!!!」
掌底から放たれた青白い光が、怪物の額を貫いた!!!!
「グワアアァァア、アアアア…………」
割れた額から溢れる光が、怪物の姿を包んでいく。
「アアアア…アアア……私ハ、貴女ニ……」
それが最期の言葉だった。怪物は光の中へ消え、辺りは跡形も無く真っ暗になった。
「ふう………岐部さん!大丈夫?!」
「昌幸!!!」
小沢と六花は、先の戦闘で傷を負った岐部の下へ駆け寄る。
「酷い怪我……まだ息はあるようだけど」
六花がそういう間もなく、小沢は岐部に銃を向けていた。
『黒』『癒』『緑』『桜』『復』「桜花身弾(オカミダン)」
撃ち込まれた場所から、奇麗な桜の木が伸びる。そしてそれが消えると同時に、岐部はすっかり回復していた。
「小沢さん…ありがとう!」
「六花さーん!小沢さーん!岐部さーん!すごく格好良かったですー!……ここから出してくださーい!!」
空間に閉じ込められた者たちの中から、来太が声を上げた。
「ごめんごめん、今すぐ出すから!」
『黒』『解』『闇』『無』『虚』「呪解無弾(ジュゲムダン)!」
空間が崩れ、閉じ込められていた勇者たちが落ちてきた。
「「「うわぁああああ!!!」」」
ドスン。
「痛たたたぁ……」
「おい、もうちょっとやり方あっただろ!」
「あはは、ごめんごめん……」
談笑する彼らをよそに、岐部が落ちていたファイルを拾い上げた。
「……探していたのは、これですね」
《第三項》
世界が黒く染まっていく。否、消えていくのか。
まるで宇宙の混沌に浮かぶブラックホールのようだ。
私たちは、世界を護れなかった。証拠となる物まで、まとめて全部闇に溶けていく。
私ももう、長くはないだろう。辛うじてこの記憶だけでも残れば、
勇者たる者が蘇らせてくれると聞いているが―――――いつになるのだろうか。
叶うのなら、もう一度4人で平穏な日々を過ごしたい…。
読んだ瞬間、ファイルは光の球となって、六花が持つ緑色の本の中に吸い込まれた。
「前に集めた人たちの仲間、ってとこかしらね」
「うーん……集まったら集まったで、ますますよく分からなくなりますね…」
岐部が頭を抱えている。頭脳派をもってしても、難題の様である。
「とりあえず、4つ目を集めてから考えよーよ。次はどこー?」
キービィはもう次の世界に目を向けている。切り替えが早いものだ。
「次は………ここも、見えるのですが…」
「んー?あぁ、ここ!あたいたちの世界じゃない!マルクー!」
「どうしたのサ、チルノ?」
「本が示す次の場所は、あたいたちの世界みたいよ!」
「どれどれ…おや、本当なのサ!じゃあオマエたち、ボクが次の場所へ案内してあげるのサ!」
マルクが影の穴を作り、勇者たちは次の世界へ向けて、時空間移動を開始した!
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「―――――ん?あれは?」
湖のほとりに立つ羽の青年が、空を見上げる。月が煌々と輝く夜空に、それをも霞ませる程、荘厳な光の帯が浮かんでいた。
「……天馬?」
翼の生えた馬が、空を悠々と飛んでいたのだ。その馬は段々高度を下げて、マントの少女と羽の青年の下へ降り立つ。
「先生!やっぱり、先生だったんですね!お久しぶりです!」
青年に先生と呼ばれたその人は、白く輝く鎧を身にまとった女性だった。
「やはりここにいたのね。すぐに行くわよ、ここもそこまで安泰な場所ではないわ」
「麻疹さん、お久しぶりです。行きたいのは山々ですが、まだあの人が…」
「何?…また彼奴か。仕方ないわね……はぁ」
ため息をついた。
「……ふむ。3つ目の記憶も、集まったようね」
女性が湖面を見つめ、呟いた。
「そのようですね」
青年がそっと駆け寄る。
「先生、おひとついかがですか?」
「…ん?これは?」
青年の手には、黄桃缶が握られていた。
「私のものです。良かったら、食べてください」
少女が、女性に向かって微笑みかける。
「…ありがとう。頂くわ」
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【あとがき】
書いてくれって言われたから書いたけど、やっぱり戦闘シーン苦手(´・ω・`)
(勢いが出ない、長くなる、かっこよく書けない)
3人の攻撃特性を分かってもらうために、敢えて3人だけにしました。
得意分野を詰め込んだ…つもり!
天馬騎士なんてかっこいい役頂けて私光栄です(感涙)
ちなみに、六花ちゃんの語り部分は公式設定です。ご参考までに。
スイートポテト食べたい………。