お食事会の行方
「...なんか変じゃないか?」
形容しがたい異臭の中、アップルパイとはまるで思えないようなどす黒い塊を前に、カービィとグーイは立ち尽くしていた。
「どうして...!?いつも通りつくったはずなのに...」
「まさか、オイラが手伝ったから...!?ほら、オイラってダークマターじゃん...」
「そんなことないよ!...たぶん...あれをはってたから、ぼくがちゃんとあじみしなかったからかも...」
カービィは材料の袋の中身を、もう一度確かめる。バターも薄力粉もリンゴも、殆ど残っていない。
「もう時間もないぞ...どうする、カービィ?」
「う〜ん...う〜〜ん......んっ!こうなったら、さいごの手段だよ!ちょっといってくる、グーイはおかたづけをお願い!」
「ちょ、おい...」カービィは猛スピードで、デデデ城を飛び出した。
(カービィったら...でもあいつ、いざという時はすげぇ頭働くよな...いまは、信じて待とうっと)
グーイはそんな事を考えながら、渋々黒い塊を片付け始めた。
「今日はやけに賑やかだな...何かあったっけ?」
建物にかかる色とりどりの垂れ幕や風船を眺めながら、ウィリーは呟いた。
「ウィ〜〜リー〜〜〜〜っ!!!!」
「誰か、オレを呼んだ...ってぇええええ!?カービィ!?」
ピンクの砲丸のようなものが、すっ飛んできた。
「ウィリー、力をかして!ウィスピーのもりまで、お願い!」
切羽詰まったようすで、カービィはウィリーにすがり付く。
「うう...いいぜ、オレも今ヒマだったからな。それに、お前がそんな思い詰めた様子なのも...何かあるんだろうし」
「ありがとう、ウィリーっ!」カービィはヘルメットを被り、ウィリーに飛び乗った。
「カービィ〜っ、集まったかー?」
「う〜〜ん、もう少し!」
ウィスピーの森で、プププランドならではの材料をありったけ集める。それでプププランドならではの料理を時間の許す限り作るというのが、カービィの考える“さいごの手段”だ。
「よかったぁ、ティンクルシュガーもレッドスパイスも、そろった!あとは...バターとかたまごは、お城でかりよっと」
その時だった。
「さぁ、とっととわれわれをデデデ城へと連れてゆくのですよ」「山盛りのごちそうをよこすのです」
ディメンションホールの向こうから来た、フレンズたちの声が聞こえた。
(うそ...みんなもうきてる!?)
ガサッ。カービィはよろけて、茂みを揺らしてしまった。
「!?誰だ...」
しかし、ちょうど黄と茶の縞模様のイモムシと思しき生き物が茂みから出てきた。
「お?こいつ、可愛いじゃん!ポピー、こいつの名前は?」
「あ、ニードラスですね!機嫌が悪いと体当たりしてくることもあるので、気をつけて下さい」
面々はそれに気を引かれ、カービィは気付かれなかった。
(ありがとう、ニードラス!)
カービィはそっとその場を抜け出し、ウィリーのもとへと戻った。
カービィは新たに材料を、一通り揃えた。しかし、これでまともに料理をするには、時間が殆ど残っていない。
では、どうするかというと...?
「あれ、カービィは?ちょうどオレも手が空いたから、何か手伝えるかなと思ったんだけど...」辺りを見回しながら、コックカワサキがグーイに尋ねる。
「さぁ、オイラは知らないよ。なんかさ、さっき突然お城を飛び出して...」
「あ、ちょうどよかった!コックカワサキ、ちからをかして!」そこに、材料をたくさん抱えたカービィの姿が。
「おっ、カービィ!なんでも言ってみなよ...ってええええッッ!?ちょ、ちょっとタンマ...あー〜〜〜っ!!」
カービィはコックカワサキを吸い込んでしまった。
「ちょっ、カービィ!」
カワサキを飲み込んだカービィの頭に、可愛らしいコック帽が。“コック”の能力を得たのだ。
「じかんないからね、ちゃっちゃといくよ〜っ!“クッキンポット”!」
カービィがさっと手を振ると、大きな黄色い鍋が現れた。
「グーイ、すいこまれないでね!はい、せーのっ!」
お玉とフライパンを打ち鳴らす。材料が一つ残らず、大鍋に吸い込まれてゆく。
「おい、そんなのアリかよ!?」
それからカービィは鼻歌まじりに、鍋の中身をかき混ぜる。時々、カラフルな調味料を足しながら。
「か〜んせ〜い!!」
カービィが叫ぶと、鍋からはポンポンとたくさんの料理が飛び出してきた。しかもその一つ一つが、まるで輝いているかのように見栄えがいい。
「ええええ〜っ!?!?どういう原理!?」
「ほら、おいしそうでしょ!グーイもひとつ、あじみどう?」カービィはカップケーキをとってみせた。
「うーん...ん!うまい!どうしてアレでこんなにうまいのが作れるんだ!?」
「コピー能力のちからだよ♪」
そこに、ふんぞり返ったデデデ大王がやってきた。
「カービィ、調子どうだ?もうすぐあいつらの来る時間だが...」
「こっちはオッケーだよ、ほら!」
「おおっ!お前らにしちゃ上出来じゃねぇか!...あれ、でもお前、アップルパイつくるとか言ってなかったか?」
「あ、それはね、えーと...ほら、プププランドらしいおりょうりのほうが、フレンズのみんなもよろこぶんじゃないかな、って!」
「うーむ、成る程な...さっ、歓迎セレモニーはもうすぐだ。カービィも支度しろよ!あとはワドルディたちに任せとけ!」
「うん!」
カービィたちは厨房を後にし、城の大広間に向かった。
「わっ!?何あれ!?」
ポピーに連れられ、草原を歩いていたフレンズたちは、空飛ぶ巨大なものを見た。
「戦艦ハルバードだ!」
「あ、キタキツネさんよくご存知ですね!あれは飛行戦艦ハルバード、メタナイト様の船です」
「ほう、そのメタナイトというのはさぞや強いやつなのだろうな!」
「勿論ですとも!メタナイト様は剣の名手でして、あのカービィさんとも互角、あるいはそれ以上の実力をもっておられる方です」
「へ〜っ!そのメタなんとかって、ロック好きなんだろ?」
「どうしてそう言えるの、イワビー?」
「だってよ、あのかっけぇコウモリの羽!絶対そいつ、ロック好きだぜ!」
「う〜ん...どちらかと言えば、メタナイト様はクラシックのほうが好きなイメージがありますね...」
「メタナイト様、紅茶をお淹れしました」
剣士の部屋のドアを、その部下・アックスナイトがノックする。
「ああ、気遣い感謝する」
ドアを開けると、そこからは軽快で、ノリノリな音楽が流れ出てきた。
「いわゆるロックンロール、ですか......珍しいですね、メタナイト様がこのような音楽を...」
「一時期、レコードを集めていた時代があってな。君も時間があるのなら、ここで聴いていって構わんぞ」
ハルバードは進路をデデデ城の滑走路へと向け、着陸の準備を整えていった。