EP.8-1 The End 1
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まだ、なんとなく意識が朦朧としている。
気がつくと、そこはまたもや見慣れない空間だった。
緑さんと出会ったあの街でも、生まれ育った畑でもない。
無機質な冷たい金属の上に、取り残されていた。
ぼんやりと辺りを見回すと、僕と同じように無造作に置かれた、
卵・小麦粉・かつお節・青のり・ソースがあった。
「…………?」
もう、僕は、口を使って声を発することも、耳を使って声を聞くこともできないけれど……
……何と無く、彼らは僕と同じ“過去”を背負っているような感じがした。
『……如何でしょう』
「!?」
遠くで、知らない人の声がした。
『なかなか可愛らしい連中だったでしょう』
帽子を被り、黒いスーツに黒い靴。正装をした紳士のような男性。
……あの人は一体、誰に向かって喋っているのだろう?
『悪魔の狙いはこうです』
“狙い”だと?
そして、紳士はゆっくりと語り始める。
『1年間人間を経験した食材たちが、元の姿に戻るとき、必ず“別れ”を経験する。
そこで“世界で一番悲しいお好み焼き”をこしらえるつもりなんです』
“お好み焼き”という言葉を聞いた瞬間に、頭の中にあった数少ない記憶が蘇った。
緑さんのために料理を覚えていた頃、料理本でそんな料理を見たことがあるような気がする。
一度も作ったことは無いけれど、確かキャベツも入っていたような……。
全てを、察した。
どうして、緑さんにもう一度会えると思っていたのだろうか?
こうなることが予測できなかったのだろうか?
僕はもう、ここで――――――――――
『さて、私もそろそろ鉄板に戻ります。彼らを……焼かなきゃいけないんでね』
紳士の言葉はもう、聞こえていなかった。
頭の中が真っ白になっていく。