EP.6-3 Ensemble 3
結局その日は、ほとんど眠れなかった。
緑さんに送るプレゼントのこともあったけれど、それ以上に、
今日で人間としての生活が終わってしまうのだと思うと……
こんな状況で、今までと同じように眠れる人の方が、珍しいだろう。
「縁くん、おはよう」
緑さんが僕の部屋に来て、挨拶をしてくれた。
いつもの緑さんとほとんど変わらない、優しい笑顔。
でも、心なしか、少し悲しそうにも見えた。
「……そっか。今日で最後なんだね」
×印で埋まった、部屋のカレンダー。
今日の日付……2月20日。大きく「お別れの日」と書いてある。
緑さんが書いてくれたものだ。
「……そうですね」
改めて言われてしまうと、今まで以上に悲しくなる。
「そうだ!縁くん、また料理作ってよ」
緑さんの嬉しそうな表情。
緑さんはいつも、僕の料理を誰よりも楽しみにしてくれているのだ。
「あ、はい。分かりました」
いつも通り、キッチンに立つ。
「もう緑くんの料理、食べられなくなっちゃうんだ。
味わって食べなきゃね!」
後ろ向きなので表情は見えないが、その語気から、きっといつもの
愛らしい笑顔を見せているのだろう。
そんな笑顔が見られなくなると思うと、否が応でも悲しくなってしまう。
「ねえ、今日は何を作ってくれるの?」
「今日は……ロールキャベツにします。寒いので」
「いいねー!ロールキャベツ大好き♪」
嗚呼、この笑顔をずっと見ていられたら、どんなにいいか―――――――