ワドルディ戦記5
剣が打ち合う音しか聞こえなかった。
実際、あちこちからの爆音は徐々にひどくなっていたのだが、そんなことも忘れるくらいワドルディは目の前の光景にくぎ付けになっていた。
機体は揺れ足場も悪かったが、二人はそれをものともせず軽やかに舞っていた。
いったん離れて体勢を立て直したかと思うと次の瞬間にはまた斬撃を浴びせあう。
まるでひとつの絵でも見るようにワドルディはただその光景を見つめていた。
ぼんやりする頭の片隅でメタ・ナイツはどうなってしまったのだろうと考える。
当然カービィにはかなわなかったのだろう。どうか無事で脱出していればいいんだけど…。
その時、今までで一番強い揺れがこの場にいる全員を襲った。
「わわっ!?」
危うく転げそうになったワドルディだったが近くの柱につかまりやり過ごす。
さすがにこの揺れには戦っていた二人も動きを止めたのだが、揺れがおさまるとすぐさま戦いを再開した。
衝撃に驚いたものの少し冷静になったワドルディは今の状況を思い出す。
(しまった…のんきに観戦している場合じゃないんだった!)
戦艦が墜落するのも時間の問題だ。今のメタナイトの戦いを見ていると、ここで自分が参戦などしたらどう考えても足手まといなだけである。…となれば
(メタナイト様…メタ・ナイツの皆さん…すいません、ボク逃げます!)
ワドルディは甲板へと走り出した。
(…う…意外に高い…)
ハルバードは下降していたが海面まではまだかなりの高さがあった。
あたりを見渡すと前方に陸地が見える。陸地に向かって追い風が吹いており、パラソルを使えばうまく着地できるだろう。
幸いハルバードの方は陸地まではたどり着けず海に墜落しそうだ。プププランドに被害が及ぶことはないだろう。
(パラソル使ったことないんだけど…怖いなぁ。パラシュートとかあればいいのに)
しかしこのままぐずぐずしていては戦艦もろとも海にドボンである。そうなればまずい。しかもワドルディは泳げなかった。
(他の下っ端たちだって使いこなしてたんだし僕にも使えるはず…!よし!タイミングを見計らって飛ぼう!)
何とか覚悟を決めたとき背後からカラン、と乾いた音が響いた。
「?」
振り返るとさっきの部屋にメタナイトの姿はなくカービィだけが立っていた。
そのカービィの足元に落ちているのは――
(まさかメタナイト様が負けた!?)
真っ二つの仮面をしばらく見つめていたカービィだが、やがてソードのコピーを外すと甲板の方へと足を進める。
(げ!やばい!)
一度カービィの死角に移動し慌てて周りを見渡すが、姿を隠せそうなものはなくカービィはこちらに向かってくる。
(どうしよう…吸い込まれる…吸い込まれる…あれ?)
そろそろカービィに見つかってもおかしくない頃合いだが一向に来ない。すこし身を乗り出し様子をうかがおうとしたとき
ブロロロロロロロロロロロロロロッ!!
「うわっ!」
目の前すれすれを一台のウィリーバイクがものすごいスピードで走り去っていく。
「のがさんぞ!」
頭上から声がし、見上げるとメタナイトがウィリーバイクを追っていくところだった。二人の姿が小さくなってゆく。
「あれ?メタナイト様?あ、じゃあ、あれはカービィ?」
混乱する頭を落ち着かせながら、とにかく脱出しなければと下を覗く。
高度…風…よし!いける!
勇気を振り絞りワドルディは甲板から飛び降りた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
強い風はパラソルに流れ込みワドルディの体を軽々と持ち上げる。体を風に委ねるとワドルディは猛スピードで陸地へと飛ばされていった。
それがかれこれ数か月前のことだった。
その時の出来事が走馬灯のように頭の中を駆けてゆく。
最後に思い出したのは、無事に着地した後に目にした海に沈んでいく戦艦、そして同じく海に一直線に落ちてしまいあっさり自分を置いて去っていったウィリーに文句を言うカービィの姿だった。
クーデターが失敗した以上、加担した自分も罪に反逆者として牢屋に入れられるに違いない…。
そう思って今まで身を隠すように暮らしてきたが、どうやらもう終わりが来たようだ。
ワドルディは泣きそうな顔でデデデ大王を見上げる。
「そんな顔しても無駄無駄。おまえの処遇はもう決まっているのだ」
勝ち誇った笑みを浮かべ、デデデ大王は高らかに宣言した。
「ワドルディは今日からわしの直属の部下に任命するぞい!」