EP.5-9 Sorrowful 9
「でも……お兄ちゃん、1年前の今日に…………」
緑さんの話がまた、止まった。
ただ静かに、泣きじゃくっている。
「お兄ちゃん……うう…………」
こんな時、どうしていいかすぐに分かるほど、
僕は人間として成長しきれていなかった。
彼女の涙を、止めてあげる術は無いのだろうか?
「お兄ちゃん…………お兄ちゃん……」
しばらく泣き続けた後、また、緑さんが口を開いた。
「…………縁くん、お兄ちゃんに、そっくりだったから」
「え……?」
確かに、あの写真に写る「お兄さん」は、心なしか僕に似ていたが……
「初めて会ったときにね、なんか、お兄ちゃんが、そこに立ってる
ような、気がして……」
だから彼女は、見ず知らずの僕を、躊躇なく部屋に住まわせたのか。
僕が彼女の「お兄さん」という設定を、作ったのか。
彼女の謎が少しずつ、解けていく。
ひしひしと彼女の語る言葉を、聞いていた。
いや、「聞く」というより「感じる」という方が、今はぴったりだろう。
「お兄ちゃんも、縁、って名前なの」
「えっ!?」
「縁くんが、あまりにも、お兄ちゃんに似てたから……ごめんね」
緑さんの中で、お兄さんの存在は、きっと、とてつもなく大きいの
だろう。
その大きな存在に、僕なんかが、近いだなんて。