EP.5-8 Sorrowful 8
「お、お兄ちゃん……?」
緑さんのお兄さん、ということは、僕以外にお兄さんがいるという
ことなのだろうか。
「これだよ」
緑さんが僕の前に差し出したのは、あの時僕が見た、
伏せられた写真立てだった。
「この、私の右にいるのが、お兄ちゃん」
そうか……そういうことだったのか。
僕の心を包んでいたあの不思議な気持ちが、
ゆっくりと消えていくのを感じる。
「……そうですか」
「お兄ちゃん、1年前の今日、バイク事故で死んじゃったの」
「……え?」
唐突に、緑さんは語り始める。
流れる涙をこらえることもせず、ただ連々と。
「私、お父さんもお母さんも、小さい時に、死んじゃったから……
ずっと、お兄ちゃんが、私を、育ててくれたんだ……」
時折、涙で言葉を詰まらせながら、それでも語り続ける。
「お金を稼ぐために、自分は、大学行くの止めて、『緑にだけは、
いい大学に行ってほしい』って……」
緑さんのお兄さんは、至極優しい人なのだろう。
その優しさが、彼女にも受け継がれているのだなあと、
話を聞きながら思っていた。