EP.5-7 Sorrowful 7
「あ、縁くん……」
緑さんは、僕が声をかけるまで僕に気づいていない様子だった。
「何か、あったんですか?」
「ううん、何でもないの」
何でもない、と言う彼女の目には、うっすらと涙が浮かんでいた。
何もない訳がない。
「何でもないって……」
僕の前ではいつも笑顔で、優しい緑さんが、泣いている。
…………いてもたってもいられなかった。
「緑さん!」
思わず、彼女の両肩を掴んでいた。
「え!?」
「……緑さんが泣いているところなんか、見たくないです」
嗚呼、こういう時に限って、上手く彼女を励ます言葉が出てこない。
「…………いつも明るくて、笑顔で、僕を照らす……太陽のような
あなたが、泣いているなんて……何もない訳ないでしょう」
もう、僕自身でも、何が言いたいのかよく分からなくなっていた。
「だから……何か、あったんでしょう?話してください。
僕でよければ、力になりますから」
推定距離、30cm。丸くて綺麗な目のふちで留まっていた涙が、
ゆっくりと流れていくのが見えた。
「……………………ありがとう」
静かにそう言うと、緑さんは大きくひとつ、深呼吸をした。
「……実はね、今日は、私のお兄ちゃんの1周忌なんだ」