時の止まりし過去の町
「う・・・。」
目を覚ませば、そこは全てが白黒の世界だった。
木も、草も、花も。何もかもが、まるで昔のモノクロテレビのようだ。
更におかしいのが、風も吹かないし、葉から落ちる水滴が空中でとまり、
鳥ははばたくこともなく、羽を広げたまま空で静止していた。
「紫様・・・何ですかね、ここ・・・。どうやってきたんでしょうか?記憶が抜けたみたいです・・・」
人工知能のノスアは記憶がデータとして保存されていくので、忘れるなんてことはあるはずないのだが、
どうしてか、全く思い出せない。
「ノスアに分からないんだったら私も分からないわね。
進めば何かあるかもしれないし、歩きましょう。」
二人は沈黙の中、歩く。
すると現れたのは、二つの分かれ道。
「ノスア、貴方ならどっちだと思うかしら?」
「え、ええっ!?と・・・わ、私は左です・・・。」
ノスアは、左の道が「こっちに来い」と呼んでいるような気がした。
「そうね・・・じゃぁ、ノスアは左、私は右へ行くわ。間違ってたらまたここへ戻ってきましょう。」
どうやら、紫は右だと思ったらしい。
紫もまた、右の道に呼ばれているような気がしたのだ。
めずらしく意見がわかれ、
左の道へ行ったノスアは、しばらく歩くと見覚えのあるような町に着いた。
何故か、道が分かっていた。幾多の曲がり道があるのに、
ここは右だとか左だとか、全て分かっていた。
町をもうすぐ抜ける(ノスアはそう感じた)ところまで来て、いきなり
男の人の声が聞こえた。
時の止まった白黒の世界に、全てに色がつき、動き始めた。
誰かが追いかけてくる、それでやっと分かった。
これは、自分の過去の記憶だと。狭い研究所から逃げ出した、自分。
ふと、目の前に誰かが見えた。ノスアは、その人に助けを求めるー。
一方、右へ行った紫も、やはり同じように見覚えのある町に来ていた。
紫が町に入った瞬間、目に入ってきたのはたくさんの倒れている人。
何かと思ったら、やはり自分の過去だった。
長い間の恨みが重なって、とうとう犯してしまった罪が、
目の前にくっきりと写っている。
紫は現実から逃げ出すように走り出した。
やっと人を抜け、町も一緒に抜けた時。
「お願いっ、助けて!」誰かが呼んできた。
後ろを振り向くと…ノスアがいた。
「…ノスア、何もいないわよ?」
「え…?」
今まで動いてたものも、
色があった世界も、今ではもとのようになっていた。
「ほら、こんなとこさっさと抜けましょう。」
そういって無事に合流し、再び歩き始める。
目の前に青い光が見えたと思ったら、そこは絶えずゆれる水面、青い魚。
唯一、色のあり時も止まってない泉だった。
その泉に手を浸そうとかがむと、ノスアが滑って泉に落ちてしまった!そのあとを追いかけるように紫も飛び込む。
そのまま上がれずぐるぐる吸い込まれ、やっと上がったと思うと。
「わわわわわわわわ!?何何何何何何!?ちょ、え!?
ら、ラノ兄ちゃん!変な人達が水の中から出てきたー!!」
変な人、にはムっとしつつも、やっと人に会えて、二人は安心する。
「何ですか、ビバリ。変な人なんて失礼ですよ。
ところで…貴方たちは?この世界の住民ですか?」
「…いいえ、私達はいきなりこの町に迷いこんだだけなんだけど。
貴方達もそう…見たいね。」
自分達と同じように、迷いこんだ人達を見つけた二人は、この兄妹としばらく一緒にいることにした。
いつか、ここから出られることを願ってー…。