第四巻
何も知らなかった事実、2人の間に漂う不穏な空気、そしてこれからのこと…。
ロイスの頭はこんがらがっていた。
エータの表情は相変わらず俯いたまま黙り込んでいる。
よっぽど思い出したのが辛かったのだろう。
ロイスは声をかけることが出来なくなっていた。
一人で外に出ることは出来たのだが、今のエータを一人にさせるのはいけないと思い、ロイスはためらうことしか出来なかった。
「…ちょっと、付き合ってくれねぇか…。」
ロイスの提案に、今まで俯いていたエータが久しぶりに反応をした。
「え、えぇ・・・・・・。」
あたりはすっかり夕日が差していた。
2人は当てもなく外へ出ると歩き出した。
2人の間で漂っていた不穏な空気は消えることなく、定着していた。
「いやぁ、まさかお前が貴族だとはなぁ。ってことは箱入り!?だからあんなに本読んでたのか。」
「…。」
ロイスは空気を換えようと話し出したが、変わるような気配はなかった。
「…。」
ロイスは静かにエータの様子を伺うと、急に口を開いた。
「何でも一人で抱え込むなよ。」
「えっ…。」
その言葉は、2人の間にあった不穏な空気を一気に吹き飛ばした。
「お前一人で抱え込みすぎなんだよ。困ったときは頼ってくれよ。」
ロイスはそういうと記憶を思い返した。
「お前、影って知ってるか?」
「え、えぇ、一度神話を読んだことはありますけど…。」
エータの反応を聞き、ロイスは再び話し出した。
「実はな、俺自分の影に左翼奪われたことがあるんだ。」
「えっ。」
ロイスはあの頃の記憶を呼び起こした。
「あの時、羽の無い姿が醜くて情けなくて…。焦燥に駆られてた。
でもそんな俺にある人が声をかけてくれた。」
エータは静かにロイスの話を聞いている。
「俺、その人の言葉が無かったら影と戦おうとか思わなかったし、多分生きる気を無くしてたかも知れない。
あの人の一言があったからこそ、今の俺があるんだ。」
ロイスは息継ぎをすると、また話し始めた。
「だから次は俺だって誰かに手を差し伸べたい。誰かを助けたいって、そう思ったんだ。」
ロイスの顔は晴れ晴れしていた。
「お前はこれから何をしたいんだ?」
ロイスの急な問いかけに、エータは戸惑った。
「えっ…。私の、やりたい事…。」
エータはしばらく考え込んだ。
数分後、エータは口を開いた。
「私…。私、この町を救いたい…。でも…。」
ロイスは少し引っかかった。
「でも?」
「でも…私に出来るのかなって…。私にはそんな力は…。」
ロイスはため息を一つ吐いた。
「そんなこと、やってみねぇと分かんねぇじゃねぇかよ!!」
エータの心の靄が晴れた。
「今までお前と1年半一緒に行動してたが、お前は人を守りたいって言う強い意志がある。今日だって俺が行動不可なときに助けてくれた。お前にはその力があるんだよ!!
お前の『この町を救いたい』っていう夢は凄いことだと思うぜ。」
「人を守りたいっていう、強い意志…。」
エータはこれまでの1年半を思い返した。
すると、エータの目の前が突然ぼやけた。
エータは涙を見せないように、後ろを向いた。
「バレバレだっつぅの…。」
ロイスはそっと呟いた。
「さて、民宿に戻るか。今日、俺も泊まっていってもいいか?」
「えっ。」
「大丈夫だよ、俺床で寝っから!!」
2人は歩いて民宿へと帰っていった。
朝目覚めると、そこには一人しかいなかった。
「あれ?確か昨日…。」
昨日まで床で寝ていたロイスの姿が無い。
「まさか!!」
エータは急いで布団から降りると、外へ出、そのスピードのまま走っていった。
地面を自分の足が蹴る。一歩、二歩と。
「お願いっ…間に合って。」
3歩目で自分の体は空中へ浮いた。
「…。元気でな。エータ。」
ロイスは洞窟の前でそう呟くと、後ろを振り返り、歩き出そうとしていた。
「・・・ロイスさん!!!!!」
背中から聞き覚えのある声がして、ロイスは振り返った。
すると、空からエータが降りてきた。
少し着地がグラっとし、息が乱れていた。
「お前、その体で…。」
エータは乱れた呼吸を直すと、ゆっくりと前を向いた。
「何で…。何で何も言ってくれなかったんですか…?」
「…。」
ロイスは言葉が出なかった。
「別れの言葉くらい…言わせてくださいよ…。」
声は疲れ切っていて、体力が消耗していた。
「もう、最後かもしれないのに…そんなのって…。」
そのとき、2人を隔てていた壁が、一瞬にして壊れた。
「すまなかったな。俺、何も言わないほうがいいのかなって、そう思って…。」
ロイスは、エータを包んだままそう言った後、エータを離した。
「でもな、これで最後とは限らねぇ。またきっと会いに来る!!きっと、いやっ、絶対!!」
エータはその言葉を聞き、頷いた。
「じゃあ次に会うときまで、元気でな!!」
「…。」
ロイスは後ろを向き、行こうとしたときにエータが話し始めた。
「待ってます…。私、いつまでも、また会えるまで、待ってますから!!」
エータはそういうと、最初で最後の笑顔を見せた。
それを見て、ロイスは笑って答えた。
「おぅ!!!」
それから10年がたったある日のこと…。
ここは街の中心の城。
戦争の傷はすっかり直り、すっかり17年前の姿を取り戻していた。
そんな城の前に一人の戦士が訪れてきた。
「姫様、お客様です。どういたしますか?」
「分かりました。すぐに向かいます。」
この城の姫は、城から出て、客人の元へ行こうとした時に、足が止まった。
破壊と再生が行われているこの空で
俺たちはまた、巡り合った。
破壊と再生が行われたからこそ
俺たちは再会することが出来たんだ。
完