第31話:きかん
《BGM:『毛糸』ふんすいのにわ》
「んー...」穏やかな陽射しで、カービィとサーバルは目を覚ました。
「...あ!よかったぁ...」
目の前で見慣れた顔の緊張が解け、安堵の表情に変わる。
「......あれ...?」そよ風の吹く、黄色い草原。その上にどこまでも広がる、快晴の青空。
「さばんなが...元に戻ってる!」
キカイ化の面影は、もうどこにも無くなっていた。大企業も、あの悪夢のようなマシンも、そして――桃色のマシンも、影も形もない。
そして桃色のヒロインは、いつの間にか真ん丸でぽよぽよなヒーローに戻っていた。
「ぜんぶ...夢......?」カービィが呟くと、
「まさか!カービィさんとサーバルちゃんが、パークを星の夢から救ってくれたんですよ!」
とかばんは笑った。
「じゃあ、キカイはみんなどこに...」
「星の夢が破壊されたから、全てキカイ化が解けたんでしょうなァァ...」
「...え?」
ケイン所長とスージー、そして一頭身の社員たち。皆フレンズ達に連れられ、とぼとぼとカービィたちの元へ歩いてきた。
「みんな!カンパニーのひとたち!」
「“ひとたち”って何よ...ってそう偉そうに言える立場じゃないわよね」
そう言うとスージーは辺りを見渡してから、
「じゃ...この島を救ったゲンジュウ民も目覚めたことだし、始めましょうか」
「始める?何を?」
「こいつらは星の夢に踊らされていただけなのです」「でもなぜよりによってパークを襲ったのか、洗いざらい説明してもらうのですよ。そのほうがわれわれも納得できるのです」
――つまり、星の夢は全宇宙をキカイにして手中に収めようとしてたわね。
だから、あのポンコツは「カンパニーの宇宙進出」と称して、色々な星系の惑星を侵略してきたワケ。
――星の夢を盲信していた社長はそれに気付かず、無理な開拓や資源の奪取を繰り返してェェ...今思えば、取り返しのつかないことをォォ...
――そうやって星々を荒しまわっていった時、大きな空間の揺れに見舞われたの。アクシスアークスの進路がずれたのだけど、その先にあったのがこの星だった...他の惑星より一段と輝いていて、資源も大量にあったから、社長はそこに目をつけたのよ。
「じゃあ、なんでパークを?」
――奇跡の物質...キミたちのいう“サンドスター”は、宇宙でここ以外どこにもない代物だァァ...それで社長は新たなビジネスを立ち上げ、ここをカンパニーの資金源としようとしたのだァァ...
――でもそれをいきなし突き付けられて、納得するゲンジュウ民がいると思う?そこでカンパニーは、いつも通りゲンジュウ民達をキカイ化して、カンパニーの言うことに逆らえなくして働かせていたのよ...。
「――という事だったの。皆、迷惑をかけたわネ...もうカンパニーとしての力はないわ、これからは皆好きに生きなさい...」カンパニーの二人は頭を下げる。
「なんだ、そんな大袈裟な。全部水に流そうじゃないか!」
「...へ!?」
口を開いたのは――ヘラジカだ。彼女こそ、カンパニーの最大の被害者であることは確かなはずだが...。
「私らは過ぎたことは引きずらないのさ。みな仲良しだからな!ははは!」
そこに憎しみも皮肉もない。その地にあるのは、紛れもないほんとの愛だ。
「そうね!全部元通りだもの!」
「さっすがヘラジカー、いいこと言うじゃん!」
「...われわれはまだ納得がいかないのです。せめてもの罪滅ぼしはしてもらうのですよ」
「ハカセもそんな固いこと言わないのだ!カンパニーも楽しかったのだ!」
フレンズ達の言葉に、スージーたちは返すことができなかった。
「あんた達...」
そのとき、信じられないことが起こった。
「秘書どの!社長が...!」
社員のひとりが、サバンナの先を指す。
「なんで...すって...!?」
初老の男が一人、木の枝を杖によろよろと歩いてくる。
「うぅ......オマエたちは...誰だ...?」
ボロボロでみすぼらしい容姿。(元)大企業の社長とは思えない。
おまけに...星の夢によって、記憶があいまいになってしまっているのだろうか。
「社長ォォ!!ご無事...ではなくとも、ワタクシケイン所長は、貴方さまのご生存をォォ!信じておりましたぞォォォ!!」
「けい...ん......?そんな者、ワシは知らん...」
「うそ...星の夢の影響かァァ...?」
「星の...夢......だめだ、悪いイメージが...」ハルトマンは顔をしかめる。
「ワシは...何者なのだ......?どうして...ここに...」
「...あの」かばんは思い切って声をかける。
「これに...見覚え、ありませんか?」
金色の懐中時計を差し出した。
「む?それ...は...」ハルトマンの表情が変わる。
「貸せ!」
「わっ!?」
老人は懐中時計を、懐かしそうに眺める。
「思い出...誰かとの......誰だ...ワシに最も......近かった...」
違和感は懐かしさに変わる。彼の中で、記憶の氷が融けていく。
「針が止まっても...部品を何一つ、交換...したくなかった......何故だ!?これは誰との...」
ハッとしたように、ハルトマンはスージーの顔を見た。
「ス...ザン.....ナ...ワシの可愛い...スザンナなのか!?」
「ワタクシは...貴方さまの忠実なる秘書、スージーです...ですが...」
スージーは込み上げてくる思いを噛みしめ、言った。
「...フルネームを“スザンナ・ファミリア・ハルトマン”と言います......『父さん』」
空気が、世界が一瞬凍りつく。
「え...うそ......秘書どの、社長、娘?懐中時計であるからして感動よって再会ィィィ!?」
「所長、またコトバメチャメチャです...」
「スザンナ...今までずっと、こんな近くにいたとは...すまなかったな、迷惑をかけたな......」
「よかった......父さん、アタシの事を思い出してくれたのね...!」
(異次元に飛ばされた娘さんって...秘書さんのことだったの?)そんな事を思いながらも、かばんはその様子を、大親友と笑顔で眺めていた。
「ほんとの愛の...勝利、だね!社長さんも秘書さんも、いいカオいただきっ!」
「成る程...ハルトマンはスージー、いやスザンナに会いたい一心で、星の夢を信じてきた...のか?」
フレンズたちとカンパニーの面々は、どんどん和解していった。これでハッピーエンド...ではない。“春風の旅人”は、まだ旅を終えていなかった。
「カービィ、お前に客が来てるぜ!」
イワビーの言葉に、カービィは振り向く。
「...え?」