第27.5話:しんじつ
カービィとロボボが、星の夢を追って飛び立っていったあと。
社長室には、再び静寂が訪れていた。
ケイン所長は、ロボボと星の夢の動きを慎重に観察するため、母艦のモニタールームへ。サーバルは、アライグマとフェネックにカービィのことを紹介し、自分たちがここにいる理由も説明している。
「そんな...かばんさんがカンパニーにさらわれて来たなんて、聞いてないのだ!」「んー、なーんとなく納得はいくね」
「二人こそ、どうしてカンパニーに従ってるの?」
「アライさんがねー、フェネックがキカイになるなんて見てられないーって喚くんだもん。かわいいよねー」
「なっ...!違うのだ、『郷にはいっては郷にしたがえ』とハカセが言ってたからなのだ〜っ!」
そんな中、かばんは自分自身の居場所を見つけられず、困っていた。
この戦いばかりは、自分はカービィさんの力になれないのかも――。そう思っていた彼女の目に、窓際に座る秘書の姿が映った。
「...あの」
「......何よ」俯いていたスージーは、帽子のゲンジュウ民の声で、おもむろに顔を上げた。
「どうして......あの社長さんはああなってしまったんでしょうか。何か...あったんですか...?」
「...アンタみたいな勘のいいゲンジュウ民って、ほんっと嫌い。...まァいいわ。アタシの知ってる範囲で、真実を教えてあげる」
かばんはスージーの隣に座る。
「...さっきの戦いで聞いてたかも知れないけど、アイツはもともと野心的な発明家だったの」
「発明家...」
「素晴らしい発明をして、銀河中に名を轟かせたい...そういう一心で、でもヒトの道からは外れず...成功と失敗を繰り返してきたの。でも...ある時、禁忌をおかしてしまった」
スージーは溜め息をつき、それから続けた。
「彼が創ったもの...それは、銀河の果てに浮かぶ、キカイ仕掛けの大彗星のレプリカ。願いを何でも叶える、超古代文明の遺産を、自らの手で創り上げてしまったわ」
「願いを叶える...流れ星ですか?」
「うーん...当たらずと言えども遠からず、ってとこね。...とにかく、その起動実験で、ハルトマンは...最も大切なものを、失ってしまったの」
「最も...大切なもの...?」
「彼には、目に入れても痛くない、一人の幼い娘がいた。その無垢な願いを聞くやいなや、キカイは彼女を...異次元に、飛ばしてしまった」
「嘘...そんなことが...」
「アタシが嘘を言ってるように見える?...ハルトマンはマシンに訊ねた、“娘が生きている確率はいかほどか?”って。それは答えた......“0.001%”と」
「そんな...娘さん、異次元で...」
「さぁね...永遠に異次元を漂ってるかもしれないし、彼の...すぐ近くにいるのかもしれない...。ハルトマンはマシンの頭脳に一握の願いを託し、それからずっとそればかり崇拝して生きるようになった...そこにつけ込んで、そのマシン...星の夢は、自身のためにハルトマンの人生そのものを、ねじ曲げ始めたのよ...」
ふと、かばんはあの懐中時計を思い出した。
――あれは社長さんと娘さんの、思い出の品なのかな...。娘さんのことを忘れたのかもしれない、それでも...あんなに大事に...。
[こちらケイン所長、ストレンジャーとロボボアーマーが、島の上空で星の夢に追い付きましたぞォォ!!]
艦内のアナウンスが鳴り響き、キンキン声にスージーは顔をしかめる。
と、その時だ。
「...秘書どの!アライさんたちは、少しだけ席を外すのだ!」
「...はぁ?何で...」
「理由は聞かないでほしいのだ...アライさんとフェネックを、クビにしても構わないのだ!」
「だそうですよー、秘書どの」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ...」アライグマとフェネックは社長室の扉を開け、飛び出していく。
「まったく、きょうは一体何なの?災厄の日ね...」
というのも、二人だけは星の夢云々で誰も気付かなかった、2つのことに気がついていたからだ。
一つは、光線で計器に穴があき、使い物にならなくなった大きな装置。そしてもう一つは――。
少しずつキカイによる武装が解け始めている、ヘラジカの姿だった。