異臭の食材倉庫〜前編〜
神の住まう宮殿ヴァルハラの夜は暗い。
なかでも夜の食材倉庫は恐ろしいほど静かで暗い。
それに臭い。なぜならそれは…。
「うげげ…。また腐ってる。ヤツの仕業かな?」
ランプを揺らしながら愚痴をこぼすオーディン。
彼女は神様の中で一番のしっかり者。
そんな彼女が食材倉庫に来ているのは夜の見回りをしているからだ。
皆サボりがちのこの仕事をオーディンは忘れることも無くやっている辺り、責任感が強いのだろう。
しかし今回はかなり深刻だ。
時は先週に遡る。
風神のフウが仕事をさぼった翌日の事。
彼には7日間食材倉庫の見張りをする事になった。
食材倉庫は暗い、静かの他にものすごく広い。
そりゃあ神様五人分、しかもその内の三名は男性で大食い。
そのためかなりの量の食料一ヶ月分をしまう所なのだ。
広いのは当たり前だろう。
そんな所をサボり魔のフウ見張れるわけがない。
しかしフウの良いところはしょっぱなからサボるのでは無く三日坊主という事だ。(まあそれでもサボるのは悪いのだが…)
つまり、3日はサボらずにやってくれるのだ。3日はたつまでは…。
そして運命(?)の見張り3日目。事件は起こった。
食材倉庫の見張り3日目の朝。
いつものようにあくびをしながら食材倉庫に向かったフウは、倉庫の異変に気がついた。
そう、変な臭いがするのだ。
食材の入ってる箱の中を手当たり次第に見ていると、1つの食材が腐っているのが見つかった。
その食材の名前はハヤ。
ハヤは神が食すといわれているクソマズイ薬草である。
しかしクソマズイは人間側の意見。
しかし神からすればクソウメェ薬草なのだ。
毎日サラダに出るほどウメェのだ。
そんな重要な食材が腐っている事を知った彼は大急ぎで倉庫を出て皆に知らせた。
ヴァルハラ内にある会議室で開かれた緊急会議。
その緊急会議で明らかになったのはこれは偶然ではなく何者かの意図でこうなっているという事だ。
この日から見張りは一週間交代だったが一日交代になった。
そして日にちはすぎ、あれから一週間たった今。
未だに犯人は捕まっていない。
という訳で。
オーディン自らが、魔神族の神シヴァに頼んでシフトチェンジしてもらったのだ。
シヴァが素直にシフトチェンジに応じたのは、オーディンに実力があるからと、与えられた仕事をきちんとやる、つまり責任感があるからである。
そんなこんなでオーディンが倉庫に居るわけである。
「しっかし夜中の犯行なんて舐めた真似してくれるわね。ふわぁ…。」
草木も眠る丑三つ時。
この時間帯に犯行は行われるらしい。
昨日リベロが怪しい人物を見た時間帯がこの時間帯だった。
そのためシヴァは予想し、この時間にオーディンを見張りに行かせたのだろう。
その時だ。
ガタッという大きな音が倉庫の奥の方から聞こえたのだ。
間違い無い!ヤツだ!
オーディンの中の確信は当たっていた。
そこには侵入者の姿があった。
腐ってない違うハヤを腐らせに来たのだろうか?
「そこまでだ侵入者!貴様の目的は一体何だ?ハヤを腐らせて得のある人間など居ないと思うが。貴様等人間共にとってはガラクタ当然なんだろう?」
前にも述べた通りハヤはクソマズイという評判だ。
そんなハヤを腐らせて何になるという?
すると侵入者が口を開いたのだ。
「答えは簡単。」
侵入者は少し間を開けた後言った。
「俺の得になる。そんだけだ。」
その瞬間。侵入者の周りの空間が変色した、と思うと次の瞬間、侵入者がつかんでいた林檎が腐っていったではないか!
「成る程。貴様の魔法の属性は『腐』か。腐らせるのは得意なんだな。」
冷静に分析するオーディンに侵入者は腐った林檎をもてあそびながら言った。
「見事な分析力だな。しかしお前はもう逃げられない。」
「何が逃げられない?お前を倒せば逃げられるだろ?」
分析してる間空間はどんどん侵されて行っている事にオーディンは気がつかない。
気が付いているかも知れないが対象に触らなければ腐る事は無い…と思っていた。
「時間切れ。」
冷たい声が倉庫内に響く。
接近してこなきゃ意味が無いのにヤツは全く近づいて来ない何故だ?
「バッドフィールド!」
目の前の空間が腐食していく。
その時触れなきゃ大丈夫は誤算だと気がついた。
しかしもう遅い、諦めるのも大事かなっと思ったその時。
その時風が吹いた…気がした。
「気のせいなんかじゃねぇよ。ったく、心配して行ったらこのザマか。」
聞きなれたいつもの声。
思わず涙が出そうになった。
そこには頼もしい友の姿があった。
「いつまで寝てるんだ?起きろ!それでも雷神か?」
挑発的な口調がカチンと来るが援軍は有難い。
よいしょっと声を出して立つのがオーディンの可愛い所。
しかし、そんな彼女は雷神だ。
雷神を怒らせたらどうなるか分からない。
「おし!いくぜ!」
「フウ。足手まといにならないでよね!」
さりげなくいい雰囲気。
とりあえず一言だけ言わせてくれ。
リア充爆ぜろと。