プロローグ side:B(7/27大規模修正)
無数の宝石を、漆黒の空間にちりばめたような宇宙。
その中に、惑星に混ざって漂う銀色の方舟があった。
「社長、只今規模86の空間の揺れを確認しました」と秘書が伝えた。
「より大きな揺れが、そのうちに来るかもしれん。それに備えてワープの用意をするのである」社長は冷淡に応え、命令を下す。
「かしこまりました」
秘書は頭を下げ、メインコントロールのもとへ向かった。
「秘書どの秘書どのォ!」無機質な廊下を歩く途中、秘書は耳障りな声に出くわした。
「所長...一体何の用?」
その言葉を待っていたかのように、研究所長は誇らしげに語った。秘書のしかめっ面に気付く素振りもなく。
「人工の“ワーカーズ”の生産の調子が良好ですぞォォ。それに何より、あの戦闘力支援マシンがついに完成してですなァァ...」
「ワタクシは社長のご命令で忙しいの。後にして下さらない?」
「はァァ...」彼女の冷たい言葉に、所長は不服そうに引き下がる。
やがて、規模247の空間の揺れが来た。
このような大きな規模の揺れは想定されていなかったので、ワープの軌道が若干ずれてしまった。
『...スージーよ、直ちにオフィスまで来るのである』
「了解しました」(これはきっとお叱りがくるわね...)
彼女はオフィスへ戻るやいなや、深々と頭を下げた。
「申し訳ございません、社長...メンテナンスが甘かったかと...」
「む?何を言っておるのだね、君は。見たまえ」
そう言って社長は、手元のコンピュータを操作し、透明なモニターに青い惑星の姿を映した。
「チキュウ...ワープが狂った先に、この豊かな星があったのである」
「水資源...きれいな大気...鉱産資源...なるほど、キカイ化による侵略にはうってつけですわね」
「うむ。しぃ、かぁ、しぃ、だ」彼はさらにモニターの計器を弄り、『チキュウ』の画像を拡大する。大きな島のひとつが、光りだした。
「この島にだな、全宇宙他のどこを当たっても手に入らない...奇跡の物質があるのだ」
そして自信に満ちた声で続けた。
「まずはこの島を、見せしめとして侵略するのである。あの物質を根こそぎ奪い、ゲンジュウ民どもを畏怖させ...惑星のすべてをカンパニーのものとするのだ!」
「...はい、社長。直ちにプロジェクトの開始を、全社員に命令致します」
その島こそ――かつての巨大総合動物園であり、『春風の旅人』が今いる島であった。