Episode3 〜スローイング〜
相手の背後に素早く回り込み、相手の足を自分の足で引っ掛ける。
相手の体重が一気に地面へ行く。
「せぇい!!!」
相手は背中を地面につけて倒れこんだ。
「コロア、さらに早くなったな。」
といい、お父さんはVS100の電源を消した。
VS100とは最近この道場に新しく入ったシステムであり、様々な人の動きを想定したバーチャルの人間を出すことが出来る。
その名の通り最高100人までの相手を次々に出すことが出来る。
「今回の記録は1:35:22だ。前回より2秒ほど早くなってる。」
壁際にいるお父さんの弟子たちは始まってからずっと固まっている。
「やったぁ!!記録更新!!!」
私の人生は全部この道場から始まったといっても過言ではないだろう。
ここで生まれて、ここで恋をして…
「すまねぇがこの馬鹿息子に武術を教えてくれないか?」
私が7歳の頃、お父さんの旧友が男の子をこの道場に連れてきた。
お父さんの友達はたまにうちに来るので結構知っていた。
ゼイドという目つきが鋭く言葉使いも悪いその子のことがそのときはとても怖くて、私はお父さんの背中に隠れていた。
「まさかお前にこんな子がいるなんてな…。」
お父さんは唖然としながら言うと、ゼイドのお父さんは笑ったあと
「こいつの根性を一から叩き直してやってくれ。」
と言った。
「だから俺は俺のやり方で強くなるんだって!!こんなでっかい猿みたいなおっさんに教えてもらう必要なんてねぇよ!!」
「でっかい猿みたいなおっさんか…。生意気な小僧だ。気に入った!みっちり叩き込んでやる!!」
「夕方には迎えに来る。それまでよろしくな。」
「あぁ、任せろ。」
「じゃあね。コロアちゃん。」
「…うん、またね。」
ゼイドのお父さんはそう言うと背を向けて帰っていった。
「まったく、俺はな、人に教えてもらわなくても強いんだよ!今更こんなとこ来る必要ねぇし。」
「ほぉ〜。自分が強いっていう自身はあるんだな。じゃあコロア、相手してやれ。」
「えっ、私?」
「随分と舐められたみたいだな俺も。相手が女なんて。俺にかかれば10秒で倒せるぜ。」
その言葉に、お父さんは笑っていた。
「2人とも、準備はいいな?」
「あぁ、そっちのタイミングで来いよ!!」
それから10秒後、ゼイドは華麗に宙に舞った。
「グッフェ!!」
目の前で倒れこんでいるゼイドを馬鹿にするような目でお父さんは見ている。
「さっきの自身はどこいったんだ?」
「ゆ、油断しただけだ!!!」
「油断か。ということはいつも戦いで油断をするような男なんだな?」
「うぜぇ…。うぜぇよこの猿親父!!!!」
「悪口言ってる暇あったら外走って来い。」
「ったくあのサル!!!!」
色々と叫びまくっているゼイドは今私の後ろで走っている。
「おめぇもおめぇだよ!!飛んだ恥かいちまったじゃねぇかよ!!」
「だって私のタイミングで来いって言ったから…。」
一瞬空気が通った。
「…ってかお前あの猿の娘ならそう言っとけよ!!」
「だってお父さんがいきなり相手してやれっていって、そのあとすぐに上から言ったんじゃん!」
「知るか!!つかお前、あんなのが父親なんて残念なもんだな。将来結婚できねぇかもなww」
何だろう、この気持ちは。
体の中が沸騰したような感じ…。そうか…
これが"腸が煮えくり返る"って言うことなんだ!!
「余計な…お世話だぁぁあああ!!!!!」
私の足がゼイドの腹を的確に捉えた。
跳び回し蹴りを受け、ゼイドはぶっ飛んだ。
「グハァ!!!」
しかしこれじゃあまだ冷め切らなかった。
「あんたに言われる筋合い無いわよ!!!バカ!!」
「…バカってなんだよバカって…!」
「そんなのも分からないの!?バカはあんたのようなやつのことを言うのよ!!!」
「はぁ?つか人のこと蹴っといてバカはねぇんじゃねぇのか?あぁ!?」
「じゃあそっちも攻撃してみなさいよ!!!まぁ無理でしょうがね!!!」
「あぁ、腹立つ!!!!お前らの家族最低なやつばっかりじゃんかよ!!!」
「家族の悪口言うなぁ!!」
また蹴りがクリーンヒットした。
そのあと道場に帰り、ゼイドがもう二度と来ないと言って道場を去っていった。
「はぁ…せいぜいしたぁ…。」
「お嬢、ケンカっすか?」
弟子の一人である。お父さんの娘だからということで彼は私のことを"お嬢"と呼んでくる。どこのヤクザだ。
「うん、もう最低なんだよ!私が将来結婚できないとか私の家族最低とか。信じられないでしょ!!」
ため息が大量に出てくる。
「あのガキお嬢に向かって酷いこと言うっすね。次来たら俺がコテンパンにしてやりましょうか?」
「多分もう来ないよ。だって自分でもう来ないって言ってるんだし。」
「いや、あいつはまたすぐ来るぞ!」
後ろからお父さんの声がした。
「師匠!!なんで来るって確信もてるんっすか?」
「あいつの目は負けず嫌いの目をしていた。今日みたいなことでは諦めんだろう。」
「えぇ〜来て欲しくないよ〜!!あんな最低な男!!」
夜が明けて朝。
道場にはいつもの弟子がいた。
辺りを見回してもゼイドはいない。
「(ふぅ…。よかった。)」
弟子たちに挨拶をして時刻は10時になった。
「おっ、やっぱり来たぞ。」
お父さんが指差す方向にはゼイドがいた。
彼はドアにもたれかかり、腕を組んで頭に付けている。
「げっ!!」
弟子たちがざわざわしている。
「なんだ?今日も道場破りに来たのか?」
お父さんは楽しそうにゼイドに話しかけた。
「そんなんじゃねぇ。俺はいつかこの女を倒す。そしてお前も!!」
ゼイドは私の次にお父さんに指を指した。
弟子たちは震えている。
「ほぅ、そうか。で今日は何しに来たんだ?」
お父さんの問いかけにゼイドは口元が緩んだ。
「教えてくれよ、戦いを。」
「えっ?」
思わず私から声が出てしまった。
「俺はソルジャーになりてぇんだ。だからしばらくここで世話になってやる。何だ?悪いか?」
ゼイドには夢があったらしい。
「ふっ、良いだろう。でもまずはその生意気な口調からだな。」
「は?」
「何か言うことは無いのか?俺はお前に今から教えるんだからな。」
「…何を言ってんのかさっぱり…。」
「"お願いします"はどうした?言えねぇのか?」
「誰がそんなだせぇこと言わねぇといけねぇんだよ…。」
「そうか。あいつそんなんも教えてないのか。お前の弟と大違いだなww」
「俺の親父を悪く言うなよ!!!」
「まぁ怒るな。今からみっちり教えてやる。」
「あぁ、頼む。」
「"教えてくださいお願いします"は?」
「…教えてくださいお願いします!!!!」
「よろしい。」
私達はあっという間に11歳になった。
「くぅ〜、またこいつにやられたぁ!!!!!」
「もう78戦中78敗だよ?まだすんの?」
「うるせぇ!!!俺はお前を倒すんだよ!!!」
「もう諦めたら良いのに…。」
「今から走ってくる。ちょっと付き合え!!!」
「はいはい…。」
私とゼイドは外へ出た。
「ねぇ…ここ森じゃん。」
「なんだ?怖えぇのか?」
「そんなんじゃないよ。でもお父さんにここは野生の動物が出るから危険って、ほらそこの看板にも書いてあるじゃん!!」
「いいか?ソルジャーってもんは人間と戦うってわけじゃねぇんだ。嫌なら俺一人で行く。」
「じゃあ私も行くけど…。」
森に2人で入っていった。
この森はこの地域でも野生の危険動物が出るということで人間があまり寄り付かない場所である。
「あとでお父さんに怒られても知らないよ?」
「大丈夫だ、行ってすぐ戻るだけだし。」
私が初めてこの森に来たのは5歳の頃で、お父さんが修行しているのを見たことがあった。
でもそれも5年前にやめている。
私が6歳の頃、私のお母さんが亡くなった。
その日からお父さんは危険なことをするのをやめたのだ。
私を心配させないために…
私を守るために…。
「何だ?怖がってんのか?」
「えっ?」
ゼイドの声で戻ると目から涙が流れた。
ずっと流れていたのだ。
「そんなんじゃない…!」
無理に強がって見せた。ゼイドに弱いところは見せたくない。
ガサガサッ…
「何かいるぜ…。」
ゼイドは何かを感じ取った。
木が風で揺れる音、獣の匂い、殺気
それは私にも分かった。
「そこか…?」
ゼイドが後ろを振り返ると黒い大きな影が動いていた。
「あれは…!!」
野生の大きな熊がいた。
体はお父さんよりも一回り大きく、黒い毛が体を覆っている。
食べ物が無くて結構怒っているらしい。
「逃げることは無理みてぇだな!!」
熊の威嚇で逃げれそうな余裕は無かった。
「おいっ、どうかしたのか?」
私は動くことが出来なかった。
野生の熊は初めて見たから。
「ちっ、とりあえずやるしかねぇか!!!」
ゼイドはビギナークローという爪を装備していた。
ソルジャーになる前の初心者が使う武器の一つで、魔獣と戦うには苦労するものだ。
野生の動物なら倒せるだろうと持ってきたらしい。4年間の間で結構使いこなしたところだ。
熊の突進をぎりぎりかわし爪を入れる。
熊とは言っても大きいのでなかなかダメージにはならない。
「くっ!!固てぇ!!!」
熊が爪で攻撃してきた。
ゼイドは結構かわしていたが熊は意外とすばしっこく、吹っ飛ばされてしまった。
「うわっ!!!!」
熊はゼイドを吹き飛ばすと、ゼイドではなく私の方を見た。
「おいっ、早く逃げろ!!!」
ゼイドの叫びは届いてはいなかった。
あの時、お母さんは熊に襲われた。
修行しているお父さんと私を迎えに行こうとして森に入り、私達の前で熊に襲われた。
そのときの傷が致命傷となり、亡くなってしまった。
私達のせいでお母さんは…
私のせいで…
「コロアぁ!!!!」
私を呼ぶ声で目が覚めると、目の前にはゼイドと熊がいた。
熊の爪はゼイドの頬に当たり、ゼイドは私を掴んだまま吹っ飛んだ。
「ぐわぁっ!!!!」
ゼイドは地面に背中を向け、私をかばって地面に叩きつけられた。
「ゼイドっ!?」
ゼイドの左頬から血が出ていた。
かすり傷なのが幸いだった。
「無事か…。」
「無事って…。」
後ろを見るとまだ熊は突っ立っていた。
「ひっ!!」
私は焦った。このままだと二人とも熊にやられる。
お母さんと同じようになってしまう…
そう考えると涙が止まらない。
「セェェェェイヤァァァァァ!!!!!!!」
もの凄い声が響いた直後、熊は急に白目を向けて仰向けに倒れこんだ。
「何が…あったんだ…。」
倒れた熊の後ろにはお父さんがいた。
「お父さん!!」
お父さんは無言で私達の前にやって来た。
「この馬鹿者がぁぁぁぁ!!!!!!!!!」
木に止まっていた鳥が一気に飛び立った。
お父さんの声は私の涙を吹き飛ばしてくれた。
「あれほど森には入るなと言っただろ!!!!!!」
「すまん…今回は俺が誘ったんだ…。」
「そうだと思っていた!!!!!!全く、お前は身に染みないと分からないのか!!!どんなにここが危険だと!!!」
「くぅ…叫び声が傷口に…。」
「お前もお前だコロア!!!!!危険だと分かっていてなぜ入った!!!!!なぜ止めなかった!!!!!」
「ごめんなさいお父さん…。」
「まったく…。まぁ生きてて良かった…。帰るぞ…。」
お父さんの怒り方には優しさがあった。
そのあとゼイドは3日間くらい左頬に絆創膏を貼っていた。一生傷になるらしい。
あの時私を初めて名前で呼んでくれた。
体を張って守ってくれた。
この気持ちは何だろう…
ぼっとする感じは…
まさか…
まさかこれが…"恋"!?
恋なの!?
その日からゼイドのことをまともに見れなかった。
戦いを申し込まれても戦うことが出来ないでいた。
そのまま2年が経った。
ゼイドは弟子達を倒しまくり今では道場の中で3位になった。
そしてあの嫌な日がやって来た。
それはお父さんと夜ご飯を食べていた時である。
「お前学校はどうなんだ?」
「えっ、うん。楽しいよ。」
今年入った中学校はゼイドもいた。
ゼイドはあまり友達を作らず休み時間は寝てばっかりなのでますます目が行くのだ。
友達と話していてもお弁当を食べていても。
「そうか。なら良かった。」
お父さんはご飯を食べながらそういえばといった。
「あいつ春から真剣にソルジャーなるみたいだな。」
「あいつって?」
「ゼイドだよ。知らなかったのか?」
「えっ!!」
初耳だった。
「なんでそう驚くんだ?」
「いや、聞いてなかったから…。」
ぼーっとしていて聞いていなかったのだ。
「そうか。あいつようやく夢叶えるからよかったことだ。」
「…うん…。」
その日から頭の中は春になったらゼイドがいなくなるというとこばっかりだった。
「ねぇ、コロア?」
「えっ?」
「また聞いてなかった。どうしたの?ぼーっとして〜。」
「ごめん…。ちょっと頭が一杯で…。」
友達との帰りにこうなることが多々ある。
「あっ…。」
帰り道の前にゼイドが歩いていた。
「ちょっとごめん。先に帰るね。」
「あっ、ちょっとコロア?」
友達に謝り私はゼイドの元へ走った。
「なんだ?」
「なんだじゃないわよ!!ソルジャーになる話、なんで言ってくれなかったの!?」
「言っても関係ねぇだろ?元からソルジャーになるのは言ってたし。お前と話す機会無かったし。」
「それでも…。春からなるなんて…。」
突然ゼイドが振り返った。
「俺はもう決めたんだよ!!春からソルジャーで頑張るって!!」
「っ!!…。」
私は何も言えなかった。
冬の夕日が私達を照らしていた。
3月
あと一ヶ月でゼイドはいなくなってしまうと想像すると会うのも辛い。
階段を下りて道場に行くことがなかなか出来なかった。
…この気持ち、どうしよう…
ベッドで考え込むことが多かった。
「コロア、起きてるか?」
お父さんが呼んでいる。
「何?」
「何でもいいから降りて来い!!」
「えぇ〜…。」
お父さんに連れられて一階に降りた。
道場にはゼイドがいた。
「よっ!!」
「…。」
目をそらしてしまう。
「コロア、俺と戦ってくれ!!!」
「えっ…。…。」
「つか戦え!!!お前と戦わねぇとソルジャーになれねぇからよ。」
「…戦いたくない…。」
「何でだよ!!78敗で止まってるんだぜ?1勝くらいさせろよ!!」
「…戦えない…。」
「コロア、熱でもあるのか?」
お父さんがデコに手を当てる。当然無い。
「戦えないの!!!それだったらゼイドもソルジャーになれないし、私もこんなに悩む意味もないの!!!」
つい叫んでしまった。
「ごめん…。」
焦って2階に戻ろうとする。
「待てよ!!」
後ろを向きながら止まった。
「お前最初俺のことバカって言ったよな。」
「…。」
「俺お前にバカって言われた時、『コイツ倒さないと俺強くなれないな』って思った。だから俺は強くなりてぇ。だから頼む!!」
「…。」
「コロア!!」
「分かった…。」
「制限時間は一分、2人とも、準備はいいな?」
「うん…。」「おぅ!!!」
「それじゃあ、始め!!!!」
ゼイドは一気に突っ込んできた。
それを避け一気に投げに出ようとした。
しかしゼイドは投げようとしたときにブレーキをした。
「えっ?」
「お前の手はもう分かった!!対策もばっちりだ!!」
ゼイドは私の手から離れて間合いを取る。
「ここだ!!」
ゼイドの足払いをかわした。
ゼイドの腕を引いても簡単に倒れそうに無い。それほど強くなっていた。
「時間切れだ!!両者引き分け!!」
結果は、初の引き分けだった。
「はぁ…簡単には倒せないか…。」
ゼイドは楽しそうだった。
「ちょっとのど渇いたぜ…。ちょっと買いに行って来る…。」
「あっ、私も…。」
私はゼイドに付いていくように外に出た。
「ほらよ!」
「あ、ありがと…。」
道場裏の自販機。
ゼイドが投げてくれたジュースを私は受け取った。
「あ〜ぁ、結局勝てなかったぜ。」
清々しい横顔をしていた。
「まぁ負けじゃないだけましか。」
「ねぇ…。」
自分の感情をコントロール出来なかった。
「本当に春からソルジャーになるの…?」
「あぁ、俺は本気だぜ!」
本当はちょっと考えて欲しかった。
…私の気持ちも。
「そう…。」
ゼイドは昔からあまり複雑に考えない性格だった。
その性格も好きだったけど…今は好きじゃない…。
「安心しろ、俺はいつでもお前のライバルだからな!」
「ライバル…。」
ゼイドは馬鹿だよ…。いつも自分のことしか考えていない。
私のことなんて見てなかった…。
私…バカみたい…。
「もういい…。」
「あ?」
「もういい!!!ソルジャーでもなんでも勝手になったら良いじゃん!!!」
「っ…。」
叫んでも怒ってもゼイドが行くことは変わらないのに…
やっぱり私、バカだ…。
そんな自分が許せなくてこの場所から消えたかった。
ゼイドの前から消えたかった。
消えたかった…のに…。
「えっ?」
体が動かない。というか左手が動かない。
まるで石のように。
「待てよ!」
ゼイドの右手が私の左手を握っていた。
「俺、上手く人に自分の思いとか伝えるの嫌いで…。お前にどう言っていいか分からなかった…。」
体の中にある"何か"が込み上げて来る。
「実は俺のこの夢は…お前を守るためなんだよ…。あの熊のとき、普段強がってるお前も実は怖いものがあるって思うと…何ていうか…守ってやりたくなった。」
邪魔をしないで…今ゼイドの言葉をはっきり聞きたいのに…。
「だから俺は強くなりたかった。お前を守るため…"好きな人を守るため"…。」
「!!」
絶対に泣かないって決めたのに…。ゼイドを心配させないように泣かないって決めたのに…。
「あの日から…あの日から俺はお前のことが…好きだった!!守りたいと思った!!2年前のあの日から俺はずっと…」
ゼイドは…本当にバカだよ…。
バカだけど…優しい…。そんなゼイドが私は好きだった。
「私も…。」
「えっ?」
「バカで他人の気持ち考えなくて短気で…。負けず嫌いでたまに優しいゼイドのことが私…好き…。大好き!」
急にリミッターが外れた。
ゼイドが私の手を引き、キスをした。
初めてゼイドに負けたね…。
桜が咲いた4月。
今日はゼイドの出発日である。
ゼイドは道場を訪れお父さんと私に挨拶をした。
「今まで、ありがとうございました!」
「なんだ、急に気持ち悪りぃなぁ!!」
「最後くらい敬語で挨拶しようかとな。」
お父さんもゼイドも笑っていた。
「またいつでも来いよ。みっちり仕込んでやるからよ!!」
「おぅ!!その間にヨボヨボになってたら承知しねぇからな!!」
そういうとゼイドは道場を後にした。
「…相変わらず生意気だなぁ。あいつ。」
お父さんはとても楽しそうだ。
「行ってやれよ!」
「えっ?」
「好きなやつに何も言わずに見送んのか?」
「…。ってお父さん知ってたの!?」
「あぁ、バレバレだった。」
「いつから!!!」
「もう2年くらい前だったな。ほら、早くしないと行っちまうぞ。」
思わず笑いがこぼれた。
「ゼイド!!」
走ると普通に間に合った。
「なんだ?コロア。」
「はぁ…はぁ…。」
走ったから息がばてている。
「…メール、するね。」
「あぁ、俺も。」
急にムズ痒くなった。
「ねぇ…私たちってさぁ…。」
「?」
「その…恋人なんだよね…!!」
「まぁそうなんじゃねぇか?」
「そこははっきり言ってよ!!!!」
「そ、そうだな。恋人だ!!遠距離恋愛でも恋人だ!!」
「安心した。」
急に抱きしめたくなったので抱きしめると少し後でゼイドも抱きしめてくれた。
私の首には、ゼイドからもらった指輪をぶら下げている。
結婚指輪は左手の薬指に入れるのが普通だけど、私は格闘家だからということで首にかけるタイプにしてくれた。
「コロア、何やってんだ!」
お父さんが怒っている。
「うん、今行く〜!!!」
私は携帯を置いて階段を下りた。
『明日午後1時集合ね。』というメールを送信した後に。