後編
西暦20××年の日本。科学は少しだけ進歩をしている世の中である。街中では数えきれないほどの電気で動くリニアモーターカー(磁力で浮いたり動いたりする自動車)が走っている。歩道でも人間以外に、落ちているゴミを拾うロボット、怪しい人物がいないか警備するロボットが行き来している。
ここは、北山学園。ここらへんの地区ではそこそこ名の知れた私立高校だ。
「あの子、一体何者なんだろう・・・。」
学校への通学路を歩きながら一人の男子高生が呟く。
彼の名は「伊能 正渡(いのう しょうと)」。北山学園の一年生。
彼はゴールデンウィークになる前は、普通の学校生活をのぼぼんと過ごしていた。
そう。ゴールデンウィークまでは。
正渡は、ゴールデンウィークの日。奇妙な女の子に出会ってしまったのだ。彼女の名前は「小島ライト」。
一見普通の女の子に見えるのだが、運動能力はずば抜けて高い。性格も明るく、くよくよした事が嫌いのようだ。
しかし、不思議な事に、ライトは他の女子と話をしようとしない。友達になりたいとも思っていないようだ。もしかしたらあまり興味がないのかもしれない。
それなのに
ライトは何故か正渡といることが多い。理由は不明だが、正直正渡は困っていた。何故ならほかのクラスメイトにカップル扱いされてしまうからだ。しかし、ライトを泣かせてしまったら自分も困るので正渡は仕方が無くライトに付き合っていた(勿論恋愛的な意味ではない。)
六月のある日の朝、正渡が自分のクラスに入る。ライトが新聞を読んでいた。しかも、かなり真剣な表情である。
「どうしたんだろう・・・?」
正渡はつぶやく。そんな時、ライトが正渡の存在に気づく。ライトが正渡に近づいてくる。
そしてライトは真剣な顔で、小声で正渡に言う。
「今日、六時に体育館の裏に来て。」
六時。体育館裏。とっくにライトが来ていた。しかも真剣な顔で。
ライトは語る。
「正渡くん、よく聞いてほしいの。」
「う・・・うん。」
「実はあたし、人間じゃないの。」
え・・・?
正渡は戸惑った。
突然「自分は人間じゃない」と告白されれば誰でも戸惑う。
「じゃあ・・・、君は・・・。」
「そう。あたしは人間型のロボットなの。」
また衝撃の言葉だった。
彼女は事実を話す。自分は実は「小島博士」によって作られた人間型のロボットであること。ライトは博士を裏切って日本征服を企む博士の部下を倒すために生まれてきたということ。
そして、この近くに博士の部下のアジトがあり、そのためにこの北山学園に入学したこと。
そして、ライトは三度目の衝撃の言葉を放つ。
「正渡くん、あたしと一緒にアジトへ侵入してほしいの」
そんなの僕には無理だよ・・・。
っと正渡は言おうとした。しかし、彼女は本気の目でこちらを見ている。
数分考えて
正渡はライトと共にアジトへ侵入することを決意した。
ここはとある商店街北山高校からは歩いて十分くらいで着く。
そして、正渡たちはその商店街の路地裏にいる。路地裏は狭くてジメジメしていて薄暗い。はたしてこんなところにアジトなんてあるのだろうか。
「! ここだわ」
ライトが何かに気づいたようだ。ライトはそばにあったごみ袋の山を軽々と投げ飛ばす。さすがロボット。すっげぇ力だ。っと正渡は感心しながらも、さっきまでゴミ袋のあった場所に地下へつながる階段を発見した。
「さぁ、行くわよ。」
ライトが階段を下りる。正渡も後につづく。
カッカッカッ
階段を下りる音が鳴り響く。しばらく階段を下りると、扉らしきものが現れる。扉は特殊な金属で出来ていてちょっとやそっとじゃ開かなさそうだ。しかし、ライトは
「ちょっと下がってて。」
という。まさかライトはこの絶対開かない扉をぶち壊すのだろうか。正渡は言われたとおり、扉から少し離れる。
ライトは扉から、離れ
「うおおおおおおおおおおおおおおおお!」
ライトは叫びながら扉へ全力で走る。そして、拳を思いっきり扉へ
どどーーーーん
なんと、あの丈夫そうな扉はライトの拳によって壊された。扉は原形をとどめない形をしている。だが、おかげでアジトへ入れる。しかし、ライトにとってもかなり無茶な行為だったのか、ライトの体のあちこちから火花が飛び散る。
「大丈夫!?ライト!」
正渡がライトの元へ駆け寄る。
「あたしは大丈夫よ。そんなことより・・・」
ウゥーーーーーーーーーーーーーーーーーッ
サイレンが鳴り響く。どうやら正渡達がアジトへ侵入したことが扉を壊されたことによりバレたらしい。
「さぁ!走るわよ!急いで!」
ライトが叫びながら走る。ライトは相変わらずむちゃくちゃ速い。しかし、あまりにも早すぎて正渡は追いついていけなかった。
「もぉ・・・!仕方ないわね!」
ライトは呆れ顔で正渡に近づく。そして、
正渡を「お姫様抱っこ」する。
「わっわっわ!恥ずかしいよ!ライト!」
「だって、こうでもしないとあたしや正渡くんは殺されるわ!」
ライトはそう言って正渡を抱っこしながら全力で突っ走る。途中、赤外線やら障害物やらが行く手を阻むが、ライトは正渡を抱いているにも関わらず、軽々と越えていく。
正渡はそんなライトの顔を見つめる。その時、ライトと目が合い、お互い赤面する。ライトは真剣な顔で。
ライト、正渡がアジトに侵入した時間と同じ頃。
アジトの奥で一人の男がいかにも豪華そうな椅子に座っていた。
「ふっふっふ。あのジジイめ、手ごわいロボットを繰り出してきたのか。」
モニターに映るライトの姿を見ながら男はつぶやく。
彼の名は「神田 清貴(かんだ きよたか)」。見た目は三十代前半くらい。なかなかのイケメンで眼鏡を掛けている。
彼はかつては小島博士の助手だったのだが、なんらかの理由で博士を裏切り日本を征服する野望を持っている。
「だが、この俺だってあのジジイ博士の技術を持っている。たとえどんなに力を持つロボットでも、相手は所詮一人!こっちには一万馬力の力を持つ大量のロボットがいるのだよ?所詮数の暴力には勝てっこないのさ・・・!」
その時、スピーカーから人口音声の声が聞こえてくる。
「シンニュウシャガ、コノヘヤニムカッテキマス!」
「なに?飛んで火に入る夏の虫だ!この俺があのポンコツロボを本当のガラクタにしてみせる!」
その瞬間、
ドーーーーン
後ろから扉を突き破るすさまじい音が聞こえた。ライトがついに清貴の部屋へ入ったのだ。
ライトは正渡とおろす。
「この博士の裏切り者!このあたしが成敗してやるわ!」
「ふん!生意気なガラクタ君。どうやら君は一人じゃないようだね。ボーイフレンドかい?だが、そいつはただの無能人間にすぎないのさ!勿論貴様もな!」
ライトと清貴が怒鳴る。そして、清貴の後ろから三十体くらいの戦闘用ロボットがぞろぞろと現れる。戦闘用ロボットはマシンガンを持っている。
「真のガラクタはあんたのロボットよ!」
ライトは突っ走る。ロボット達はマシンガンを連発する。ライトはすかさず高くジャンプする。
「たぁー!」
ライトは一体のロボットを蹴り飛ばす。蹴り飛ばされたロボットはほかのロボットの一部を巻き添えにし、原形をとどめない形をし、動かなくなった。
すかさずほかのロボットがマシンガンをうつ。
ドドドドドドドドドドドッ
マシンガンの音が激しく鳴り響く。ライトは素早くよける。
そんなライトをただ呆然と見ている正渡。しかし、正渡はなんとかしたいと思っていた。今度は自分がライトを守ってやりたい。そこで、正渡はあるものに目をつけた。ダイナマイトだ。正渡は走り、ダイナマイトを手に取る。そして、そばのライターで導火線に火を付ける。
「こ・・・小僧!なにをする気だ!」
「ライト!そこから離れて!」
正渡が叫ぶのと同時にダイナマイトを投げる。ライトは言われたとおり、ロボットの群れから離れる。
ドガァァァァァァァァン
すさまじい爆発が起きた。ロボット達はほとんどは黒焦げになっていた。
「ふぅ・・・。」
ライトは一息をつく。しかし、それが災いした。
ドドドドドドドドドドドドド
「きゃあああああああああああああ!」
ライトの右腕にマシンガンの弾が当たる。一体の生き残ったロボットが撃ったのだ。ライトの右腕は穴だらけになり、あたりから火花がちび散る。
「たあああああああ!」
しかし、ライトは自分を撃ったロボットに強い蹴りを入れる。ロボットは吹っ飛ばされ、壁にめり込んだ。
ライトの右腕は外装フレームが外れ、中のコードや金属の骨組が露出する。
「おのれ・・・・!ポンコツロボめ・・・!おのれ小僧め・・・!」
清貴の体が怒りで震える。
「お前ら二人ともぉぉぉぉぉ死ねぇぇぇぇぇ!」
清貴は怒鳴りながら勢いよくそばのレバーを下げる。
ドォォォォォォォォォォン
すさまじい音とともに二人の前に人口の雷が落ちようとしていたーーー
バァァァァァァァァァァァン
正渡は、 無事だった。
しかし、
ライトは完全に黒こげになっていた。二発の雷を直撃したからだ。
正渡に当たるはずの雷をライトが庇って直撃したのだ。
ライトは、 倒れた。
「ライト!」
正渡は叫ぶ。
「んふふふふふふ・・・。」
清隆が笑う。
「フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
清貴が高らかに笑う。
「・・・・・・・・。」
その時、
黒焦げのライトが立った。そして
清貴に左腕の拳で勢いよく殴った。
そして、ライトは清貴を強く蹴る。
どおおおおおん
清貴は壁にめり込んだ。
めり込んだ後、清貴はふらふらと歩く。
「きっ君ぃ・・。ひどいじゃないかぁ・・・。はっはっは。」
清貴はそう言って、
倒れた。そして二度と起き上がることはなかった。
同時に、ライトも
倒れた。そして二度と起き上がることはなかった。
「ライトォ!」
正渡は倒れた黒焦げのライトのもとへ駆け寄った。
「ごめん・・・。僕、ライトのために、なにもしてあげられなかった・・・。」
正渡はいまにも泣きそうな声で言う。
「いいの・・・。でも、あなたは勇敢だった・・・。あの時、正渡くんがダイナマイトを投げてくれなかったら・・・。」
ライトも弱弱しく言う。
「でも、これだけは言わせて・・・、あたし、正渡くんの事が好きなの・・・。」
そして、ライトは二度と動かなくなった。
ライトの黒焦げの体に正渡の涙が落ちる。
「ライトォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」
正渡の叫びがどこまでも響いていった。
後日。学校では「ライトは海外へ転校した」ということになった。
ライトがいなくなった学校生活。恋人扱いされることはなくなったが、正渡は寂しさを感じた。
あれから一ヵ月半。夏休み初日。
正渡の家。
正渡は午前9時にも関わらず、寝ていた。今日は休みだから早く起きる必要はない。正渡がそう思いながら寝ていた時、
「正渡―!お客さんよー!」
母の声が聞こえた。
正渡はしぶしぶ起きることにした。
「だれだよ・・・お客さんって・・・。」
正渡は呟く。この日に、しかも朝の9時に友達や知り合いを呼んだ覚えはない。
正渡はパジャマから普段着に着替え、玄関にむかい、玄関のドアを開ける。
ガチャッ
「・・・え?」
玄関のドアを開けた正渡は驚く。
その人が、一ヶ月半前、日本征服の野望を食い止めた少女だったからだ。
「久しぶり。正渡くん。」
少女は言った。とても優しい声だった。
「実はあたし、正気を取り戻した博士の部下に直してもらったの。もちろん清貴とかいう奴ではないけどね。」
これもまたやさしい声。あの時、頑丈な扉やロボットの大群をぶち壊した少女とは思えない。実際、体系も細いし。
しかし、正渡は
「き・・・君は・・・。」
と、弱弱しく言う。
すると少女はニッコリして、
「あたしの名前は『小島ライト』。正渡くん大好き愛してるー!」
「うわっ!」
ライトは正渡に強く抱きついた。正直苦しい。
「きーめた!あたし、正渡くんの花嫁になる!」
おしまい