第三巻
「おいっ!!しっかりしろよ!!」
ロイスはエータの上半身を起こし肩を揺すったが、何も反応しなかった。
「脈は…。」
脈はかすかにあった。
「とにかく休ませねぇと…。どこかに民宿は…。」
ロイスは辺りを見回したが、初めての場所というのと焦りで見つけることが出来なかった。
「取り合えず探すか…。」
ロイスはエータを背負うと、当てもなく走っていった。
「(急に何かあったって言うんだよ…。さっきまで普通にいたのに…。それとさっきの"思い出した"って…)」
ロイスは走ったまま考えたが今は民宿を探すことでいっぱいだったので何も思いつかなかった。
「ぜんぜんわからねぇ…。ここは聞くしかねぇか…。」
目で人を探した。
そんな中、ロイスの目の前に歩く人を見つけた。
「あそこにいる人に聞くか…。」
ロイスは小さく跳び、エータの体制を立て直すとその人の下へ走っていった。
「すまねぇ!!ここら辺に民宿はないのか!?」
「えっ、急にどう…。」
「頼む、こいつを休ませねぇといけねぇんだ!!だから教えてくれ!!!」
「民宿ならこの先に…。」
「ありがとう!!助かった!!!」
ロイスはその人から話を聞くと、再び体制を直し走った。
そこからすぐに民宿を見つけることが出来た。
「ここか…。」
民宿はそれほど大きくない一階建ての家のようだった。
ロイスは扉を開け、中へ入った。
中は小奇麗な感じだった。
ロイスはカウンターへ行くとこのように叫んだ。
「仲間が急に気負うしなった!!少しの間とめさせてくれねぇか!?」
カウンターは心配そうな顔でエータを見ると、すぐに部屋に案内してくれた。
それから1時間ほどロイスはずっと見守っていた。
「こいつ、一体なにが…。」
ロイスはずっと考えていた。
そのとき、エータの目が開いた。
「あれ…?私、なぜここに…。」
「エータ!!良かった、無事だったんだな!!」
ロイスは嬉しそうに喜んだ。
「あ、はい…。急に頭が痛くなってそれから…。」
エータはしばらく黙り込んだ。
「ん?どうしたんだ?」
声をかけると、エータはこちらを振り向いた。
「ロイスさん、私、思い出したんです…。」
「ん?あぁ、たしか思い出したって言ったあと倒れたんだったよな。何を思い出したんだ?」
エータは言葉を選びながらというより何かを隠しながら話し始めた。
「私、ここの出身だったんです…。」
ロイスは少し唖然とした。
「そ、そうか、やっと故郷が見つかったんだな。良かったじゃねぇかよ。」
ロイスは前に故郷について聞いた事を思い出した。
「エータ、お前ってどこから来たんだ?」
そう聞くと、エータはしばらく考え込み
「よく覚えてないんですよね…。思い出せないというか…。」
と言っていた。
ロイスにとってそれは良かった事なのだが、エータの顔は曇っていた。
「なにか、あったのか?」
ロイスがそう言うと、エータはゆっくりと口を開いた。
「実は…。私実は、ファルアの生まれだったんです…。」
「ファルア…?」
ロイスは初耳だった。
「なんだその、ファルアって…。」
しばらく沈黙が続いたあと、エータは答えた。
「普通の場所で言う、貴族のようなものです…。」
「えっ。」
ロイスは驚きのあまり言葉が出なかった。
「今分かったんです、この名前の意味が…。いやっ、これまで忘れていて思い出せなかったのかもしれません…。」
聞いた話によると、ファルアの一族はギリシャ文字が名前に刻まれているらしく、エータもその一つ「η」に由来している。
「じゃっ、じゃあ何でBEFに…。」
その質問し対して、エータは辛そうな顔になった。
「ついにこのときが来ちまったか…。」
後ろから男の声がしたので2人はその方向へ振り返った。
「団長!?なんであんたが!!」
そこには天空基地の団長がいた。
「ロイス、お前の冠には発信機が付いてること忘れたのか?」
「あっ、そういえば…。」
団長はため息を一つ吐き、また話し出した。
「お前らの帰りが遅いからまさかと思って来てみたら、こういう事だったんだな。」
ロイスは顔が引きつった後に、団長のある言葉に引っかかった。
「なぁ団長、さっきの言葉、どういう事だ!?ついにって…。」
ロイスの問いかけに、団長は表情を変えた。
「実はエータの父親と俺は、昔から仲が良かったんだ。」
ロイスはそのことに驚き、エータは暗い表情になっていた。
「もちろんエータにも面識はあった。だよな。」
団長はエータに聞くと、「えぇ…。」と答えた。
「それまでは分かった。だが団長とエータの忘れた記憶には何の関係があるんだっていうんだよ。」
ロイスの質問に、少し躊躇ったようだが、団長は話し始めた。
「あれは7年前のこと。この街と俺たちが暮らす中央都市は敵国同士だった。」
ロイスはつばを飲み込んだ。
「長年冷戦状態だったが、俺らの国の王は我慢の限界だった。そしてついに…。」
団長は辛そうに話していた。この先を言うのが辛いのだろう。
だが、団長はその辛さを耐え、必死に話していた。
「宣戦布告としてこの街を襲った…。」
ロイスは開いた口が塞がらないほど驚いた。
「この街は一瞬にして戦火に包まれ、多くの人が死んでいった…。今ここにいる人々はその生き残りか、俺たちの国からの民族だろう…。」
ロイスはエータの顔を見た。顔を俯かせている。その顔を見るのはとても辛かった。
「俺はエータの父からその戦争が始まる前に安全な場所へ逃がすように、と言われていた。それからエータは俺の家に住み着くことになった。もちろん身分は伏せてな。」
ロイスはだたその話を聞くしかなかった。
「そんな時だ、エータがテレビのニュースで自分の街が襲われているのを見たらしく、それからエータはその記憶を消すことによりその悲しさを忘れていたんだ。」
ロイスの謎は全て解けた。
「そういうことだったのか…。」
「あぁ…。」
「…。」
「おっと、もうこんな時間か。じゃあ俺は帰るからな。2人とも怪我はないな。」
団長は時計を確認すると2人に背を向けた。
「あぁ…。」
「じゃあ俺は基地に戻る。お前らは当分仕事なしだ。」
「えっ…。」
「ゆっくり考えろ。これからのことをな。」
団長はドアを出ようとした時、ロイスが止めた。
「ちょっと待ってくれ!!…もしさっきのことが表に出た場合、どうなるんだ?」
団長はしばらく考えた後、声を発した。
「多分中央都市には行くことが出来ないかもな。」
と言ったその後に、こう付け加えた。
「この街は結果的に中央都市から言うと負けた街と言うことになる。多分エータは「負けた街の姫」と言うレッテルを貼られるかもな。身分を隠すことは出来るが、それもいつまで持つかは分からない…。」
ロイスは言葉が出なかった。
団長は何も言わずドアを出た。
部屋の中には2人だけ。
エータの表情は晴れることはない。
ロイスも色々と頭が混乱した。
2人の間に不穏な空気が流れていた。
続