第26話:かーびぃ
「...あれ?」
気が付くと、身体の痛みはいつの間にか無くなっていた。
しかし変な気分がする。自分の目線が、いつになく高い。おまけに体のあちこちが、急に伸びたようで...。
見回すと、周りはみな目を丸くし、彼...いや、“彼女”の方を見ていた。
「みんな...どうしたの?ぼくの顔に、何かついてる?」
「気づかないのかァァ!?か、鏡を見てみろォォ!」
ケイン所長はポケットから手鏡を取りだし、カービィに手渡した。
「いったい何...え!?何これ!?」
その鏡に映ったのは、見慣れたピンク玉のマスコットのような顔...ではなく、美少女の顔だった。
星空のような、深い藍色の瞳。淡い桃色のふわふわな髪の毛は、ちょっとボーイッシュなショートヘア。胸元に大きなリボンがあしらわれた、セーラー服を連想させる紅白の衣装は、あちらこちらに黄色い星のモチーフがちりばめてある。
「やった...カービィさんもフレンズに...!」
かばんの考え、それはサンドスターによってカービィをフレンズ化させ、二人を回復させるというものだった。案の定、当の本人は困惑したままだが。
「ばかなっ、あんなことが...」
「今のカービィ、すっごく可愛いよ!あ、さっきまでも可愛かったけどね!」
「でも...この身体だと、吸い込みが上手くできないかも...」
そう言ったカービィの手元で、“けものプラズム”が何かを形成した。それは、赤と白の縞模様の柄に、これまた大きな五芒星が先端で光るステッキだ。
「スターロッド...!?」
「なな何故だァァッ!スターロッドは夢の泉の原動力となる伝説のアイテムのはず...何処から取り出したんだァァ〜っ!!」
「フレンズになると、その子を象徴する武器が現れることがあるんだよ!すごいよカービィ!」
これで、あいつを――!
カービィはスターロッドを強く握りしめた。
「小賢しい...小賢しいわ...そんな下らぬ情...ワシが全て!消し炭にしてくれるのであーるっっ!!」
「上等だよ!」
「わたしたちの友情...」
『甘く見ないでよ!』
《BGM:『エアライド』夢の泉》
プレジデンバーは、背後からいくつもの黄金の像を取り出した。その一つ一つが、スージーの姿をかたどっている。
「このミス・オフィサーで跡形もなく消し飛ばしてくれるっ!」
黄金像は次々とカービィたちの元へ飛来してくる。
「やぁっ!」
カービィはスターロッドを振るい、無数の星形の弾を放つ。ミス・オフィサーを全て撃墜し、いくつかはプレジデンバーに命中した。
「ぬぅおぉ!?」
それから、カービィは大きな星形の髪飾りを無意識に外す。
「あれ...!?これって...」
カービィは髪飾りを、サーバルに向けて投げる。髪飾りは空中を滑るように飛びながら、みるみる膨らんで大きくなった。
「サーバル!それに乗って!」
「ええっ!?」
サーバルは星に戸惑いながら飛び乗った。星は優しく光り、彼女が2、3回バランスをとると、すぐに乗りこなすことができた。
「ワープスター!サーバルを助けてあげてね!」
サーバルはワープスターを上手に操り、プレジデンバーの隙を突いて斬撃を何度も加えた。
「なんという事だァァ...まるでさっきとは違う...あれも、あの奇跡の物質の効果なのかァァ〜っ!?」
「小癪な...“オープン・ジ・オフィス”!!」
社長室の中央に、巨大な立方体が現れる。
「この“リストラ・ショック”でキサマらはジ・エンドであるぅ!ダァーッハッハッハッハァー!!」
「...急がないと!」
カービィはスターロッドの一振りでオリを壊し、かばんを救出。ワープスターに3人で乗り、立方体の面からの大口径のレーザー砲から逃れた。
「これでキサマらも消し炭に...何ぃ!?」ハルトマンの笑みが引きつる。
「オオッ!!ゲンジュウ民たちが制空権を得たぞォォ!さぁ、どう出るかァァ〜!?」
カービィはワープスターからジャンプし、空中でスターロッドを高く掲げる。
ジャパリパークを、みんなを助けたい――カービィたちの思い、そしてキカイで抑えつけられたフレンズたちの思いが、夢と希望のパワーとなり、杖の先で増幅されていく。
その輝きが最高潮に達した瞬間、
「“ミルキーロード...ウェイブ”ぅっ!!」
無数の星屑が、天の川のごとく流れを創り出し、プレジデンバーへと向かう。ワープスターも星の流れに乗って、加速していった。
「うみゃぁぁ〜っ!!」
ワープスターの突撃。星屑の清い流れ。そして、サーバルの一撃。奇跡とも言うべき3重の攻撃を喰らい、プレジデンバーは爆発四散した。
「ぐぅァァ〜っ!!」
ハルトマンは、愛用の椅子ごと投げ出され、意識を失った。
――見ろ、スザンナ!父さんは最高の発明を、完成させたぞ!
いつか見た、父と娘の風景。
――これが、最高の発明?...何これ?
そこには、円筒のような、白く神々しいマシンが。
――これはな、願いを何でも叶える夢のマシンなんだぞ!銀河の果ての文明を紐解き、再現したのだ!
――なんかウソくさいわ。ほんとー?
――そうか、スザンナ、お前には『銀河の果ての大彗星』の話はしていなかったな...とにかく!これの起動実験を行おうじゃないか!
さあスザンナ...好きな願い事を、これに言ってみなさい!
――お願い事...もし本当に叶うのなら...もう一度、ママに会いたいな...
[OK>]
――え?
[次元テンイ プログラム...起動:]
――何、何これ...こわいよ...
――まさか...やめろ、止めてくれ!
[3...2...1...]
――嘘だ!嘘だっ!!
[GO!!]
『行かないでくれぇぇぇっ!!!』
「ぬぅ...」
過去の情景から覚めたハルトマンの前に...3人の少女が、油断なく立っていた。