第25話:ぷれじでんと・はるとまん
《BGM:愛を忘れた訓示》
「しゃ...社長...!」
「これは、これは...我が秘書が、世話になったようだな」
その男は、紫の髪、立派な口ひげをたくわえ、恰幅の良い体型をしていた。座っているイスは、ジェットエンジンで浮かんでいる。
男は冷淡な目付きでスージーを見据え、告げた。
「スージー。君にはもうこの仕事、おりてもらうのである」
「社長...その、これは...」スージーは言い訳しようとしたが、男は険しい目付きのままだ。
「もう、下がってなさい」
「......はっ」
スージーが頭を下げ、席を外すと、男はカービィたちに向かい、
「あー...オッホン。ワシがこの、ハルトマンワークスカンパニーの社長にして、トップであり、最高責任者である...プレジデント・ハルトマンである」
かばんは思わず、頭を下げた。
「...はじめまして、僕はかばんといいます」
それを聞くと、ハルトマンはご満悦そうな顔をし、
「帽子のゲンジュウ民よ、キサマは礼儀がなっているな。しかし...」
かと思うと、嘲笑を浮かべる。
「かばん、という名前か?リュックサックを背負っているから、かばんか?ナンセンス!ナーンセンスであるっ!名付け親の顔が見てみたいな!」
「わたしが付けた名前なのに!かばんちゃんも気に入ってるのに、ひどいよ!」
「おやおや、長い耳のゲンジュウ民よ、キサマは口のききかたがなっていないようだな?...まあよい。ゲンジュウ民、そしてストレンジャーも、見るがよい」
ハルトマンが手を打ち鳴らすと、社長室の床が音を立てて2つに割れた。
「わっ...」
その下には不思議な模様の刻み込まれた、黒い床が広がっていた。たくさんある大きなガラスの容器に、虹色の粒子――サンドスターが詰まっている。中でも目を引くものは...白い、円筒のような物体だった。
「すばらしい...じぃ、つぅ、にぃ、素晴らしいっ!これぞ宇宙最高のコンピュータ...『星の夢』...」
「宇宙最高の...コンピュータ...?」
その表面にはハートのような複雑な模様が刻まれており、絶えず色を変えていく。かばんはいつの間にか、その美しさ、神々しさに心を奪われていた。
「ほぅ...やはりキサマには、星の夢の素晴らしさが解るようだな。ではその上で聞こう」
そう言うと、彼は急に猫なで声になった。
「キサマらは素晴らしい力を持っているようだな。無論、星の夢の方がワシには素晴らしく見えるがな...いずれにせよ、こちらとしてもこれ以上手荒な真似はしたくないのである。どうだ?ワシと共に...黄金色の未来を目指さないか?」
笑顔で手を差しのべるハルトマン。しかし...
「いやだね!」間髪入れず、カービィは拒否した。
「む...?」
「こんなにフレンズのみんなを悲しませてるやつになんか、ぜったいぜーったい協力しないよ!」
「カービィ...わたしも!あなたの仲間には、ならないよ!」
「僕も...こんな強引なやり方、間違っていると思います!」
3人の強い意思に、ハルトマンは残念そうに、
「そうか...ならば仕方がない...」
ふと、ハルトマンは再び手を打ち鳴らす。すると、輝く黄金のパワードアーマーが、何処からか運ばれてきた。
「あれは...『プレジデンバー』だァァァ!カンパニー最強のパワードアーマーの、お出ましだァァッ!!」
ハルトマンは険しい顔に戻り、
「なぁ、らぁ、ばぁ...この“星の夢”の示す経済戦略に従い...本日付で君らには...消えてもらうのであーるっっ!!」
《BGM:Crazy Rolling in Money》
早速、プレジデンバーは猛攻を仕掛けてきた。
「サーバル!ぼくはジェットのパワーをためるから、きみはあいつの気をひいて!」
「うん!」
しかしハルトマンは不敵な笑みをバイザーの下で浮かべる。
「フッフッフ...あの秘書が持ち帰ったデータから、キミらの特徴や戦い方は、お見通しなのだよ!」
プレジデンバーはサーバルの目の前に立ち、ジャンプを高速で繰り返して翻弄する。その素早さは、彼女でも追いつけないほどだった。
「うぅ...みゃぁっ!」なんとか応戦するために、高く飛び上がった、その時――
「愚かな小娘め...かかったな!」
プレジデンバーは、空中で無防備なサーバルの身体を強く掴んだ。
「みゃっ!?うみゃ〜っ、はなせ〜っ!」
「キサマはジャンプ力が並外れて高い...しかし愚直で何も考えず突っ走ってしまうことがあるな。だからその跳躍力を封じれば、こちらのものであーるっ!ダァーッハッハッハァ〜っ!」
そう言うと、ハルトマンはサーバルを思い切り投げ飛ばした。
彼女は壁にぶつかる寸前で受け身を取る。しかしそれでも受けたダメージは少なくない。
「いっ...たぁ...」
「サーバルちゃんっ...!!」
プレジデンバーは横から飛んできたジェットクラッカーを造作もなく飛んでかわし、高速回転でサーバルにとどめを刺そうとする。
「!!」
渾身の一撃をかわされ、カービィはろくにパワーも溜めないまま、プレジデンバーの前に飛び出した。
「おおっとォォ!?ストレンジャーがプレジデンバーと組み合ったァァ!この力比べ、どうなるかァァッ!!」
ジェットエンジンを全開にし、今持てる全ての力でプレジデンバーを押し戻そうとながら、カービィは悲痛な声で訊いた。
「どうして...どうしてどうして!!どうして...こんなにみんなが傷ついているのに、なにも感じないの!?キカイ化のせいでかなしむフレンズだっている...かばんちゃんは、けがしたサーバルをすっごく心配してる...なのに、どうしておじさんは...なにも感じないの!?」
「ぬぅ...ピンクのストレンジャーよ、キサマは強い!しかし...下らぬ情に振り回され過ぎであるな!まあよい、その愚問に答えてやろう...」
最初はカービィの方が優勢だった。しかしパワーがなかったため、少しずつプレジデンバーが押しはじめた。
「かつてワシは、野心的な発明家だった...しかし今はどうか?こんな大企業の社長であり、トップであり、最高責任者であり...ここまでワシを導いたのも、あの“星の夢”...」
ストレンジャーの必死さと絶望の入り混じった表情を認めてから、ハルトマンは続ける。
「そしてワシは気付いた...企業というものは、いわば生存競争...どんな手を使ってでも、他の企業、そして邪魔者を消し、勝ち上らねばならない...そして!」
ジェットのエネルギーが切れたカービィを、プレジデンバーは強く吹き飛ばした。
「そこに、下らぬ情も何も要らぬ、とな!!」
「ぅああああああっ!!」
カービィは壁に強く叩き付けられ、ジェットの帽子が外れてしまった。
「――!」かばんは声にならない悲鳴を上げた。
「あぁっ!ストレンジャーが力比べに負けたァァ!ジェットの力を失ってしまったぞォォ!?」
「帽子のゲンジュウ民よ、キサマにはもう少し考えを改める時間をやろう...それまで、キサマの友達をなぶってやるからな!」
「あ...ぅ...」かばんは力なく首を横に振ることしかできなかった。
「さて...長い耳のゲンジュウ民よ、キサマから始末してやろうか...ん?」
ぺちっ、ぺちっと音がする。
見ると、先ほど吹き飛ばしたはずのストレンジャーが、コピー能力も持たずにプレジデンバーにキックを何度も加えているではないか。
「...目障りである!」ハルトマンはカービィをはねのけた。しかしカービィはまた立ち上がり、プレジデンバーにキックをかます。
やがて幾度となくはねのけられ、傷だらけになっても、カービィはプレジデンバーに向かっていった。
「カービィ!お願い、もうやめて!これ以上戦ったら...カービィ死んじゃうよ!」
サーバルは悲痛な声で彼に訴える。しかし、
「ぼくは...だれかを...悲しませる..やつを.....ぐぅっ、......ゆるさない!困ってるひと、悲しんでるひとは...放って、ぐえっ...おきたくないっ!ぜぇぜぇ...だって、ぼくは...星の...カービィ..だから......っっ!!」
――この期に及んで、こやつは情に振り回されるのか!?
ハルトマンはその様子に、気味の悪ささえ覚えはじめた。
(カービィさん...)
かばんは必死で考えていた。
カービィの思いを無駄にしないよう、自分に出来ることはないか――。
ふと、リュックサックの中にある一つのものに気付いた。いつか敵から奪った、光線銃。
(エネルギーが...少しだけ残ってる...)
かばんは壁際のあるものに、目線を動かす。
(これで...奇跡を起こして、サーバルちゃんと...カービィさんを助ける!)
一つめの狙いを、ハルトマンの目の前に向ける。そして...トリガーを引いた。
「むぅ!?」
一瞬ハルトマンの手が止まる。目の前を掠めた光線は、奥の大きな計器に穴をあけていった。
「何事であるか!?ハッ、もしや...」
ここからが本番。ハルトマンの注意がそれた隙に、最後の一発をガラスの容器に向けて発射した。
「何をする!奇跡の物質が...」
「カービィさん!これに...触れてくださいっ!」
「う...」カービィは藁にもすがる思いで、サンドスターに触れた――。