第24話:むーすぼーぐかい
「まさか、こんな場所にまで土足で入り込むなんて...最後まで、マナーのなっていない方々ですこと」
スージーは呆れたように言う。
「かばんちゃんを返して!」
「みんなを元にもどせ!」
「フフ...こちらの方はわが社の新たな社員。アナタ方の元に、そうやすやすとは返せませんわ。それに、ゲンジュウ民のミナ様も、充実した生活を送っているようでしてよ?」
そう言うと、スージーはモニターを操作した。そこには、ワーカーズに見張られ、黙々と働いているフレンズたちの姿が。大多数は、既にキカイ化されてしまったようだ。
「カバさん...ジャガーさん...ショウジョウトキさん...シロサイさん...アリツカゲラさんに...カピバラさんも...」
「ちっとも...みんな、嬉しそうじゃないよ!ずっと前のほうが、みんな幸せだったよ!」
「そうかしら?こうしてカンパニーの中で働く喜び...アナタ方には解らないでしょうね」
と、スージーはリモコンを取り出す。
「そんなミナ様に、わが社の新商品をご紹介します」
ボタンが押されると、天井のほうでガコン、と音がした。かと思うと、ワイヤーに吊るされた何かが、ゆっくりと降りてきた。
「嘘...」3人はその姿を見て、戦慄する。
「以前スクラップとなったムースボーグを、大型アップデート。眠ることなく24時間動き続け、敵を完膚なきまで叩きのめす...最凶のセキュリティマシンとなりました。名付けて...“ムースボーグ改”でございます」
ムースボーグ改は、以前より禍々しいカラーリングになっていた。それ以外には、武装などはあまり変化していないように見えるが――。
「是非、ご堪能下さいませ」
「ヘラジカ...待ってて、あなたも助けるから!」
《BGM:『TDX』リベンジ オブ エネミー》
ムースボーグ改は棍棒を構え、凄まじいパワーとスピードでカービィたちに迫ってくる。カービィも対抗して、ジェットエンジンを利用した攻撃を繰り出した。
パワーを抑え、加速しながら左足のキック!相手は力負けし、押し戻された。
「おおっ、あれぞ“ジェットキック”だァァっ!最小限のパワーで放ち、小回りもきく基本的なワザだぞォォ!」
「あんたまだいたの!?」
ヘラジカをなるべく傷つけず、カンパニーから解放しなければ――そう思ったカービィは、あまり“ジェットクラッカー”を使わずに戦いたかった。
「サーバル!あいつをかくらんして!」
「オッケー!」
サーバルは軽快なステップで、右に左にムースボーグの攻撃を誘ってはかわすを繰り返す。しかしAIはその作戦を察知し、カービィに向けてミサイルを6発発射した。
「どうだァ、最新鋭のAIはァァ!30秒先を見越す、驚きの性能だァァ〜っ!!」
「あんたは一体どっちの味方なのよ!?」
カービィはミサイルの軌道を読み、6つ全てを素手で掴んだ。
「何ィィィ!?素手でキャッチしただとォォ!?」
そして背中のジェットエンジンで、それらをムースボーグに向けて吹き飛ばした。
「“ふきとばし”だァァ〜っ!あのストレンジャー、ジェットを巧みに扱っているゥゥ!」
「うるさいわねっ!ワザ名もまんまじゃないの!」
自身のミサイルの爆風で大ダメージを受けたムースボーグは、棍棒を取り落として倒れこんだ。
「あのかぶりものを壊せば、ヘラジカは正気にもどるとおもう!」
「じゃあ、今のうちに!」
しかし、これで戦いが終わるはずもなかった。ムースボーグは再び起き上がり、駆除する対象を見据える。
直後――3人は恐ろしいものを見て、絶句してしまった。
「...!?」
ヘラジカの角にあたる部分が、2つの巨大なアームに変形したのだ。
「おおッ!!あれぞムースボーグ改の新装備...巨大アームだァァ!本当の戦いはここからだぞォォ!」
まるでそれぞれのアームが意思をもつかのように、カービィとサーバルに向けてパンチを連発する。その様子は、もはやヘルムとヘラジカ、どちらが本体かわからないほどだった。
「あんなの...ヘラジカじゃないよ!早く助けないと...」焦ったサーバルが、一人でムースボーグの前に飛び出ていく。
「あっ、ダメ!」カービィが叫んだが、遅かった。
「うみゃぁ!?」2つのアームが、サーバルの身体をガシリと掴む。
「サーバルちゃん!!」
「“アームズホールド”...相手を鋼鉄の鋭い爪で絞め上げる、恐るべき大技だァァ!」
しかし――ダメで元々だが――サーバルの狙いはこれであった。
「うぅ...目を覚ましてよ、ヘラジカ!わたしだよ、サーバルキャットのサーバルだよ!あなたはカンパニーに操られて...いるだけだよ!ライオンも...心配してたのに...ねぇ、目を覚ましてったら!!」アームの鋭い爪が身体に食い込みながらも、彼女はムースボーグの虚ろな瞳を見つめ、訴え続けた。
「はぁっハァ!お涙頂戴ですなぁ!いくら訴えかけても、我らがマインドコントローラには通じないというのにィ!なぁ秘書どの...秘書どのォ?」
スージーは何も言わず、俯いて両手を震わせていた。
その時...絞め上げるアームの力が、ほんのつかの間緩んだ。
――__...__?懐かしい...響きだ...。
私は...ここで何をしているんだ?そもそも...私は...
うっ、思い出そうと...すると、またあれが...
目の前にいるのは...□ー□□か...あの...バイタリティに満ちた、真っ直ぐな瞳...
■■■もいる...彼女がいたから、私は____と仲を深め、互いにより切磋琢磨できた...
■■■をあの時助けられたのも、□ー□□の強い思いと、____との共闘が――
ぐっ...また[上位命令]ガ...私は...ハルトマンワークスカンパニーノ...最凶ノ...センシ...
至近距離での爆発音で、気を失いかけていたサーバルは目を覚ました。
「カービィ...」
「サーバル、確かにあいつはもはやヘラジカじゃない!だから...一生懸命たたかって、たすけよう!」
「...うん!」
アームから解放されたサーバルは、再びムースボーグと向き合う。
「ヘラジカ...いや、ムースボーグ!わたしが相手だよ!」
もうあちらの攻撃を受けるわけにはいかない。サーバルは“野性解放”による乱れ引っ掻きで、少しずつムースボーグを追い詰めていった。
一矢報いるために放たれる、高火力のレーザー。鎖を断ち切り、天井に吊るされたシャンデリアを落とす。
カービィはその下すれすれを飛んで懐に潜りこみ、敵の意表を突いた。
ムースボーグの身体を短い両手でしっかりと掴み、そして...
「“ダイビング......ロケェェット”!!!」
ムースボーグもろとも高く飛び上がり、そのまま垂直に床に叩きつける。アームはバラバラとなり、ヘルムは粉々になって、もとのヘラジカの顔があらわになった。
「ヘラジカ...!」
目を開かない。カービィは急いで、彼女の呼吸を確かめた。
「...!よかった...気絶してるだけだよ!」
カービィはヘラジカを、かばんの元へ運んだ。
「じゃあ...僕が、介抱しておきます」
「ええっ!?ウッソぉ〜っ...」スージーは驚きを隠せなかった。最新プロダクトが、こうあっさりと倒されてしまったことに。
「マザーコンピュータのマシンが2度も敗れるなんて...くっ、ならばこのワタクシが!」
スージーがリモコンを取りだし、愛機を呼び出そうとした、その時――
「もうよい、スージーよ」
低いしわがれ声が、部屋に響いた。