第23話:あくしすあーくす(こうへん)
《BGM:ハルトマンワークスカンパニーHQ》
「来るぞ!」
アクシスアークスのゲートの先、発着場。ワーカーズは総出で、母艦内部の警備を行っていた。それも、猫耳のゲンジュウ民とピンクのストレンジャーを足止めし、駆除する為である。
しかし――無論、カービィは“足止め”しようとしても、意味はない。
「や〜っほ〜!!」
カービィはジェットエンジンで縦横無尽に飛び回り、攻撃させる隙も与えずにワーカーズを薙ぎ倒していく。
「何をしているんだ!しっかり狙っ...ぐあっ!?」
「わたしもいるよ!」
カービィとサーバルは、もはや誰にも止められなかった。二人は親友をさらわれた怒りに燃え、すごい勢いで敵の本拠地を突き進んでいく。
「秘書どの!敵は恐ろしく強いです!こちらの怪我人も多数!」
『...そう。なら電脳空間におびき寄せなさい』
「え?まさか...」
『そう。サイバークラッカーでケリをつけるわ。もしそれが失敗でも...こちらにはこちらの作戦があるもの』
「成る程、オーダー了解です!...全員聞け!作戦変更だ!」
ワーカーズは二人を取り囲む。そして、窓のような装置が出現した。
「カービィ、あそこに逃げ込む?」
「...うん!」
無謀にもカービィたちは、ワープウインドウに飛び込んでいく。その様子を見て、ワーカーズたちは歓喜した。
「作戦成功です!やつらはいずれサイバークラッカーでお陀仏に...」
『喜ぶのはまだ早いわよ。倒したわけではないのに』
《BGM:L86》
二人を待ち受けていたのは、奇妙な空間だった。
一面が粗いポリゴンで構成された宇宙空間のようで、空中には多面体の結晶らしきものが幾つも浮かんでいる。
「ここ...どこ?」
「もしかして、さっきの、あいつらのわなだったのかな!?」
「どうしよう!?ここから早く出ないと...あれ?」
突然、虚空に白い線で大きな正方形が描かれる。サーバルは首を傾げた。
次の瞬間。正方形の描かれた場所から、ブロックが勢いよく飛び出してきた。
「うみゃあっ!」
「びっくりしたぁ...あれなに!?」
一息つく間もなく、図形が空間に次々描かれ、ブロックが突き出てくる。
「潰されちゃう!早く出口を探さなきゃ!」
「あ!あれがでぐちかな?」
カービィが指す先には、光の筋が。しかしとても高い位置にあり、ジェットだけでは届かないかもしれない。
「うーん...こんな時かばんちゃんだったら...そうだ!カービィ、それ触っても痛くない?」
「うん。かどはチクチクするけどね」
「なら、飛び出てくるこれを足場にして行こうよ!」
二人はブロックの上に飛び乗った。次々と新たなブロックが突き出てくるのを足掛かりにして、不思議な空間を上へ上へと上っていく。
「あとどのくらい?」
「んー、...まだだいぶとおいよ」
ほんの束の間の油断を、サイバークラッカーは見逃していなかった。
「あぶなーいっ!!」
「うみゃ!?何するの...」カービィはサーバルを抱え、ジェットで高度を上げた。
見下ろすと、そこにはブロックが突き出て、壁に勢いよく打ち付けられていた。
「カービィが気付いてなかったら、わたし達...」
「ゆだんたいてき、だね。あとは...ぼくに任せて」カービィたちは空を飛び、空間のほころびのような場所へと加速していった。
《BGM:Now Loading》
そこには円形のエレベーターらしきものがあった。
「これにのれば...わるいやつの所までいけるかな?」
二人が乗ると、眼下に広がる異空間はどんどん小さくなっていく。
「うわぁ...」
鋼鉄の壁。パルス模様。無機質な光景が代わる代わる広がっていく。
「待ってて、かばんちゃん...わたしとカービィが、助けにいくよ!」
* * * *
《BGM:ハルトマンワークスカンパニーのテーマ》
鳴り響く荘厳な音楽で、かばんは目を覚ました。
(ここは...?確か僕は、ロボボが落ちていくとき、誰かに捕まって...)
一面、深紅のカーペット。目の前には、あの秘書が歌っている後ろ姿が見えた。
おお 偉大なハルトマン 永久に 果てなく 栄えよ
おお 我らが ハルトマン 銀河に 名だたる 王者よ
星々を 手おり 束ねて 全て 捧げてしまえば
皆を 約束の 地へと導く 銀河の父よ
「...すごい、歌ですね」
「あら、お目覚めになられましたの?先程の歌は我らが社歌、『銀河に名だたるハルトマン』ですわ」
「ここはどこですか...どうして、僕をここに?」
「あら、解りませんこと?ここはわが社の社長室、オフィスの中枢でございます。そして貴方は...このカンパニーの、新たな社員の一人となるのです」
「...!」かばんの全身が強張る。
「あら、そんなに怖がらなくてもよろしくってよ。カンパニーは貴方の、“考える”その能力に目をつけましたの。抵抗や反乱さえ無ければ、キカイ化は致しませんわ」
そしてスージーは、水色の目でかばんをじっと見つめた。
「それに、もしも貴方が快く承諾して下さるなら...あの愚かな貴方のお友だちも、命だけは助けてさしあげるかも知れませんわ」
(友だち...サーバルちゃん...カービィさん...)
「いかがでしょうか?決心は固まりましたの?」
「もしノーと答えようものなら、ワタシが逆らえないようにしてやりますぞォォ!」突然、ケイン所長が躍り出た。
「ひっ...!」
「ケイン所長!折角ワタクシの説得が上手くいくところだったのに!それにあんたはクビにした筈よ!」
「い、いやしかし、ワタシはずっと偉大なカンパニーに仕えて...」
「お黙り!あんたみたいな失敗ばっかりの社員は、うちには要らないの!い研究所も自分で立ち上げなさい!カンパニーの脛をかじるのはいい加減にしてよね!」
今の言葉が、ケイン所長の心に深く突き刺さった。精神的ダメージで、彼は立ち上がれなかった。
「え...あの...」
「これはこれは、見苦しいものをお見せしてしまいましたわ。しかし...貴方もまた、わが社の製品との戦いではお友だちの力になれていないように見えましたの」
「そ、それは、そうかも...知れません...」
「やはり、貴方は、わが社で働いた方が、その才能を十分に発揮できるのでは――」
『そんなことない!』
社長室の立派な扉が、音を立てて開いた。そこには、背の高い影と、小さな影が一つずつ。
「サーバルちゃん!カービィさん...!」