第18話:めいんらぼ
「助手」「なんですか博士」
「我々はいつになったらここから出れるのですか」
「おそらく、我々がサンドスターについてあいつらに教えてやるまでなのです」
「しかし...我々を料理で釣ってこんなのに閉じ込めるとは『ふんがい』なのです」
「こんな鳥かご、普段の私が野生解放すればちょいちょいなのですが」
「!静かに...なにか聞こえませんか?」
《BGM:ネオン・ラボラトリー》
「カービィさん!何も正面から入ってかなくても〜っ!!」
何を隠そう、あの三人だ。
数分前、図書館を包囲するように建てられたビルを目撃したカービィ一行。「胸騒ぎがする」とカービィとサーバルは、かばんの作戦もろくに聞かず、正面エントランスから突っ込んでいってしまった。そして監視システムにあっさりと見つかり、今に至る。ロボボアーマーのパワーで、猛攻を仕掛けてくる研究員たちをなぎ倒すが、それでも敵の数は計り知れない。
「カービィ!『モードチェンジ』使わないの?」
「いまは“ミラー”能力のほうに集中しないと!」
カービィは青い二又の帽子を被り、鏡の魔法で雨あられと飛び交う光線を反射するのに必死だ。ロボボは、器用にも片手と両足で操縦している。
「あっ、コラ!あの先に...進ませるな..!」見慣れた小さな研究員たちが、大きな扉の前に立ちはだかる。
「とぅ!“ミラーぶんしん”!」カービィは急にコックピットから飛び立ち、四人に分身した。
「増えた、だと!?」
「からの〜っ...“ミラーぎり”!」
「ぐあぁっ!」虹色の刃が4つ。研究員たちはくずおれた。
《BGM:『wii』アンダーワールド》
中央管理室。予備の実験器具や資料が行儀よく並び、壁には大型モニターがいくつも掛かっている。かばんはそれらを見つめるうち、何かに気付いた。
「ねぇ...これ見て!」「え?」
サンドスターを噴出する、大きな火山。その火口と銀色の球体をつなぐ奇妙な機械が、途中まで建設されている。
「あいつら...このキカイを通して、サンドスターを独り占めする気だと思う」
「ええっ!これが完成するまでに、壊さないと...みんな...」
「うん。でも...今は、博士と助手の救出が先決だよ」そう言ったかばんは、「生体実験室」と書かれた部屋の見取り図を指した。
「健康具合、良好...いまなら、まだ間に合うかも」
「確かにここに入ってくのを見た!突入の用意をしろ!」研究員たちの声だ。
「はやくいこう!」
「やはりお前たちでしたか、かばん」
幸い、博士と助手――アフリカオオコノハズクと、ワシミミズク――は無事のようだった。しかし、丈夫な大きい鳥かごに閉じ込められている。
「我々はかしこいので、やつらに捕まってしまったのです」
「料理のワナにつられてしまったのですよ。早く、この鳥かごを何とかするのです」
「何とかする、って言っても...」2つの鳥かごは、頑丈な鎖で吊り下げられている。これを切って落とさない限り、かごを壊すのも難しそうだ。
「...ひらめいた!」
カービィはかばんのリュックから大きなハサミを取り出し、ロボボアーマーにスキャンさせた。
と、再び変化が。ボディは明るい黄色になり、両腕には...丸ノコギリのような鋭い刃が一対。“カッターモード”だ。
「なにそれなにそれーっ!」
「触ったら危ないよ、サーバルちゃん!」
カービィが操作パネルをいじると、チェーンが左腕の刃をうならせ始めた。
「“カッティング・ソー”!!」鋭い円盤がフリスビーの如く飛び、文字どおり空を切り裂く。2つの鎖をいとも簡単に切断し、ロボボの腕に戻ってきた。カービィは続いて、鳥かごの鉄格子を丁寧に切り落とす。
「ふぅ、礼を言うのです...むむ、お前、もしかして『かーびぃ』なのですか?」
「ええっ!?なんでぼく/カービィの名前をしってるの?」カービィとサーバルは面食らった。
「いいですか?『かーびぃ』と言うのは、人間が考えた、神様のような存在らしいのです」
「ぼくが...かみさま!?」
「『かーびぃ』は一番星にのって夜空を駆け、あらゆるものを吸い込み、剣に吹雪に光の鞭まで操って...」
ビーッ、ビーッと警報が鳴り響いた。捕虜のゲンジュウ民が解放されたためだ。
「博士!早くここから逃げないと...」
「いや、われわれにとってやられっぱなしは性に合わないのです」
「ひと暴れしてから脱出するのです」
《BGM:『wii』テクノ・ファクトリー》
「やつは音もなく飛び回るのが得意だ!精密射撃ですぐに仕留めろ!」研究員たちは光線銃を揃って再び構える。が、しかし。
「どいてどいて〜っ!触ったら危ないよ〜っ!!」
「の、ノコギリだ!逃げろ〜っ!」ロボボの刃を見た瞬間、蜘蛛の子を散らすように逃げてしまった。
「サーバル、あのバングルを壊してくれたのには感謝するのです」
「あれが野生解放をさせないようにしてたのですよ」
博士と助手は目にも留まらぬ速さで飛び回り、逃げ惑う研究員たちを次々逆に仕留めていった。
「さあ『かーびぃ』、お前もコピー能力でもっと戦うのですよ」
「うん、ミラーじゃたたかいにくいからね。えーっと...」
カービィは宙返りをし、二又帽子を外す。そして――近くのフラスコをひっつかみ、口に放り込んだ。
すると、カービィの目元に紫ぶちのメガネが現れた。続いて頭の反射鏡が、そして清潔な白衣が。
「あ!カービィかわいい〜っ!」
「じゃーんっ!ドクターカービィ、けんざん!」
「おお、『かーびぃ』、かしこそうな格好になったのです」
「ま、われわれのほうがかしこいのですがね」
カービィは白衣の内から薬の瓶を取りだし、管理室の扉をじっと見つめた。
やがて研究員たちが押し掛けてくるやいなや、
「“ドラッグストア”!」
瓶の口から、カラフルなカプセル剤が飛び出す。カプセルはあちこちに当たるとかんしゃく玉のように破裂し、敵をたじろがせた。
「すっごーい!」
「いだいなドクターカービィに、不可能などないのだ!次は...えーっと、それっ!」
白衣の下から、いくつものビーカーやフラスコ、試験管が顔を出す。
「カービィの〜っ、かがく研究室〜っ!えー、まずジャパリウム3%溶液とププビタミンβを5:2の割合でまぜて...」さっそく実験が始まった。
「何してるの、カービィ!早くして!」
「ゆっくり加熱しながらミンミ酸の粉末をいれてpHをととのえる...」カービィは聞く耳を持たない。
「ここでポイント!シンザキウム386をいれて、発熱はんのうを起こします!ほらっ、上出来!」
『カービィ(さん)〜っ!!』
「...よし、できた!行こう!」カービィは虹色の物質が入った丸底フラスコを抱え、ロボボに飛び乗った。
「よし、来たぞ!一斉射撃用意!」
ラボの出入口は、残りの研究員たちが総出で固めていた。
しかしカービィは臆せず、ボールのように丸まったロボボで、敵の懐に潜りこむ。そして...あのフラスコを、思い切り投げた。
「何っ!?」
研究員が光線で撃ち落とすと――虹色の物質は、凄まじい粉塵爆発を起こした。
「ぐわあぁぁっ!!」ワーカーズたちは吹っ飛んだ。
「カービィさん...それって...」
「実験の、せいかだよ!そうだ、これにデデリウム18%水溶液と二酸化ハルカリウムをいれたら、もっと強くなるんじゃないかな!?かばんちゃんも手伝って!」
「は、はい!」
だが、敵はまだいたようだ。
『あの』所長が、ドタドタと走りこんできた。
「待て待て待てェェェ!この回をこんな短さで終わらせられるかァァ!それにワタシの登場がこんな『申し訳程度』的なタイミングとは、何事だ作者ァァ!」
じゃあ僕からも言わせてもらうよ。ここまでの展開でどうケイン所長を絡めろと。
『もしもし、ケイン所長?アナタのメタ発言、一字一句聞いてたわ!給料2割カットよ!』
「う、うそォォォォ!...とにもかくにもォ!P-6186の秘密を知ってしまった以上ッ!キミたちには消えてもらわねばならないィィッ!」
「P-6186!?なにそれ、わたし達そんなのしらないよ!」
「えェェェい、うるさいうるさいッッ!これはさっきの腹いせの意味もこめてだァァ!」ケイン所長は大きな筒のようなものを取りだす。
「喰らえェェェッ、ワタシの必殺バズーカ...」
「“チャージング・ソー”」カービィはロボボアーマーの右腕から、真っ直ぐに刃を射出した。ノコギリのような刃は直進し、バズーカ砲を真っ二つにしてしまった。大きな鉄の筒は大爆発。
「あ...ぁぁァァ...」
「所長さん、ぼくたちは博士と助手をたすけにきただけだよ。だから...じゃあね!」カービィは膝からガックリとくずれ落ちたケイン所長の横を通りながら言った。
「さあ、久々に外に出るのです」
やがて一行がラボから出ていったあと、所長は研究員たちに告げた。
「みんな、朗報だぞォォ!P-6186は無事だったァァ!」
「...あの...捕虜のゲンジュウ民が解放されちゃ、意味ないのでは?」ワーカーズの一人が呟いた。
「...ア」
「さて...われわれはもうしばらく森のほうで身をひそめておくのです」
「そう言えば、PPPがレジスタンスとして敵の情報を集めているようですよ」
「ぺぱぷ?」カービィはない首を傾げた。
「アイドルって言って、歌ったり、踊ったりするんだよ!」
「じゃあ、行って、その情報をもらったほうがいいってことですよね?」
「あいつらを倒しにいくなら、今すぐ行くのですよ」
「なら、すぐいこう!」
博士らを助けたカービィたちは、水辺のほうへとロボボのエンジンをふかしていった。