失われた左翼 下
ここは空の上の図書館「スカイピアライブラリィ」
ここに一人の青年がいた。
ロイスである。
彼は普段、図書館に来ない。
しかし、今日の彼は違った。
「なかなか影と関係ある本ねぇなぁ…。」
そう、影のことについて調べていたのである。
「しっかし、この状況にも慣れてきたなぁ…。いけねぇ事だがな…。」
ロイスは片翼ことで笑われても気にしなくなっていた。
「しっかし、なかなか見当たらねぇなぁ…。」
そのとき彼の目にひとつの本が留まった。
「ん?『空の民の影』?」
ロイスは吸い込まれるように本を手に取り読んでみた。
そこにはこう書いていた。
「闇、それは光をさえぎる存在。
昔、影に羽を奪われた空の民は煙のように消えていったという。
影が光を消す理由、それは自由になるため
どちらか有利なほうが自由を手に入れる―」と。
それを見たロイスは驚きを隠せず急いで本を閉じた。
「自由…有利なほう…。」
周りの人に聞こえるか聞こえないかの声で言ったあと、ロイスは図書館から出た。
「今確実に不利だよなぁ…。」
ロイスは今の現状を見直し考えていた。
左翼がなく、飛行感覚もない。
影は右翼がないだけ…。
確実に不利だった。
「これからどうすれば…。ん?なんだあれ…。」
ロイスは空から何かが落ちてくるのを見ていた。
羽のようである。
だんだんとロイスに近づいてくるそれはロイスに刻一刻と恐怖感を与えた。
「これは…。」
それは青とオレンジ色の混じった羽だった。
それを見たとたん、ロイスは空を見上げた。
「まさか…こんなところで…。」
空からロイスと瓜二つの左翼をもった人物が降りてきた。
唯一の違いは赤い目と左翼だけで、それ以外はロイスそっくりだった。
ロイスは驚きのあまり言葉が出てこなかった。
「やっと見つけたよ…。僕の羽…。」
最初に口を開いたのは影のほうだった。
「さぁ、返してよ。僕の羽。」
「それはこっちの台詞だ!!」
ロイスはいつもの強気を取り戻したのかのように声をかけた。
しかしその声は何かに怯えているような感じだった。
「自由がほしいだかなんだか知らねぇが、俺の羽は俺のものだ!!お前のものじゃない!!」
「どこからそのプライドは出てくるのか知りたいねぇ。今君は空を飛べない。つまり、僕のほうが有利なんだよ。」
ロイスはその言葉に戸惑った。
「さぁ、今なら何もしない。おとなしく渡してよ。」
「それは俺の羽だ!!」
ロイスはそう言いながらグレイブを構えた。
「じゃあ、力ずくで取るしかないようだね…。」
影もグレイブを取り出した。
ロイスは影のところに行き、グレイブを思いっきり振った。
しかし、それは風を切った。
「どこを見てるんだい。」
影は既に空にいた。
ロイスはそれを見て舌打ちをすると槍を銃に変化させ、銃弾を撃った。
しかし影は軽やかに避ける。
と、次の瞬間、影はロイスのもとに飛んできた。
ロイスは攻撃を受け、後ろに下がった。
「(強い…。しかし、飛行能力があるとないでこれほどの差があるとは…。)」
「もう終わり?ま、そのほうが早く終わっていいけど。」
影はあきれたように言った。
ロイスは体制を立て直し、一気に影のもとへ跳んだ。
影は避けては攻撃し、避けては攻撃しの繰り返しだった。
ロイスはスタミナが切れてきた。
「はぁはぁはぁ…。」
「そろそろ終わりにしようか…。」
影はゆっくりロイスのもとへ歩いてくる。
ロイスは抵抗する気力がなかった。
影はロイスの目の前まで来た。
「僕の羽、返して貰うよ。」
そういうと影はロイスの右翼をつかみ引きちぎった。
地面には羽が散らばる。
しかし、ロイスは最後の力をつかって影の左翼をつかんだ。
しかし、ロイスの手には1/4くらいしか取れてなかった。
影の手元には右翼が大量にあった。
「これで、僕は自由になった!!」
影はうれしそうに叫んだ。
ロイスは後ろに下がりこみ大勢を崩した。
「……ハハハハ……。」
ロイスは急に笑い出した。
「なんで、もう君には羽はないのに。」
ロイスは笑いが止まらなかった。
「どうして、なんで!!」
影は意味が分からないというようにさっきロイスから取り上げた羽を見た。
影は表情を変えた。
「…そうだよ。お前が今持ってる羽は偽者だよ…。」
ロイスは笑いながら言い、隠していた本物の右翼を解放した。
「それは、店に売ってる偽翼を俺の右翼そっくりに色を塗った偽者だよ…。」
影は驚きと苛立ちが混ざったような顔をした。
「…お前!!」
影は怒りを露わにし、ロイスに飛び掛ってきた。
ロイスは影の目の前から姿を消した。
「どこに行ったの…あいつと、僕の羽…。」
驚きを隠せなくなっていた影は動揺していた。
「ここだよ。」
上から声をかけられた影は空を見上げた。
空にはロイスがいた。
「な、なんで…。」
「さっきお前の羽から飛行感覚の羽を奪ったんだよ。」
そう、ロイスはあの時1/4のなかに空を飛ぶための中核の羽を取っていたのだ。
「これでおあいこだ。」
「許さない…!!僕の羽、僕の理想が…台無しに…。」
影は羽を大きく羽ばたかせ、ロイス向かって飛び立った。
ロイスは影の攻撃をグレイブで抑え、振り払った。
影の目は強い怒りが込められている。
空は金属音と銃声が響いた。
避けては攻撃し守る。その繰り返しだった。
「うおぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
影は雄叫びを上げながら切りかかってくる。
ロイスも負けじと右翼で飛び立った。
今までで一番大きい刃物と刃物が当たる音がひびいた。
両者がにらみ合っている真ん中で槍と槍の火花が散っていた。
ロイスは影を押し足で体を蹴り飛ばした。
影は方向を崩して降下していく。
ロイスは全ての力をグレイブと翼にため、飛び立った。
降下していく影は体制を立て直そうとしていた。
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ロイスは雄叫びを上げ一気に降下していく影に向かいグレイブを力一杯振った。
羽が空に散らばった。
地面に着地するロイスと地面にたたきつけられる影。
「そんな、馬鹿な、僕が…僕の羽がぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」
影はそう叫ぶと、爆風と共に姿を消した。
ロイスは疲れを感じ、地面に俯けに倒れた。
「はぁ…はぁ…。」
息が荒くなっていた。
しかしその息には達成感が感じれた。
その時、ロイスの背中に飛び散った羽が集まってきた。
「これで…終わりなんだな…。」
そういったロイスはその場で寝込んでしまった。
それから数日後、ロイスは再び空の戦士団に復帰した。
また新人として。
そして数々のミッションをこなしていった。
ロイスは空を飛んでいる。
もう光も影もないそんなところへ。
この両翼と共に…。