(有り得ない筈の)価値
冷たくなってしまった君を抱えて僕は歩いた。
山を越えて。
海を越えて。
ずっと歩いた。
それなのに。
それなのに、君はどうして笑ってくれないのだろう。
前は、こんな夕日を見て、綺麗だねって笑いあって。
前は、こんな海の中で、楽しいねって笑いあって。
それで。それで。
どうしたんだっけ。
忘れてしまうくらい忘れたくなかった。
ぐるぐると回る時計の針は、僕らのために止まってくれなんてしない。
声も届かない。
例え君がいなくても、僕は笑っていられるのかなと君は言ったけれど。
それに僕は、そんな未来のことなんてかみさましか分からないよとふざけてみたけれど。
君がいなかったら笑えなくなってしまうのは僕の方なんだよ。
ねぇ。
「僕はひとりぼっちなんだ」と泣いて蹲っていた君に手を差し伸べた日から。
僕は、おかしくなってしまったみたいなんだ。
ねぇ。
「本当に一緒にいてくれるの?」という質問に頷いた時に見せてくれた笑顔を。
どうしても忘れられないんだよ。
ねぇ。
お願いだから。
きみとの時間を。
僕のたいせつなひとを。
ぼくらのしあわせなせかいを。
かえしてよ、かみさま。
背後で、道化師が笑ったような気がした。