強がり属性
ダミアンというその人は、仮にも美少年とは言いがたい。身長は平均より低く、髪はボサボサの天然パーマ、無精ひげをいつもいじっている。だがこんな容姿でも好かれるらしく、彼を慕う後輩も多い。わたしもそのなかに混じって、面白半分で慕っていたところなぜかこっちが好かれてしまった。なぜわたしに気をとめるのかと聞いても「それはアドのことが好きだからさ」と意味の分からない答えが返ってくる。彼には彼なりの考えがあるのだろうが、世の中には知らなくていいこともある。
○
自分好みのキャラを演じることがいかに大変であるか。午前中に先輩に言われた言葉が胸につっかえる。無理に自分を演じるな。素の自分を出せ。そうだわたしは劣等生だ、と言い聞かせてみるが、その前に立ちはだかるのはやはり自尊心であった。
悩めるわたしに誰かが肩を叩いた。そこにいたのは顔は覚えているが、名前までは覚えていない女。わたしにとっては皆その程度の認識だ。
「ちょっとあたしと勝負しない?」
「いいけど何の勝負かな」
お昼時になり西日が傾いている。その陽が照らすのは真っ赤に熟した食べ頃のリンゴだ。
わたしは聞く。「まさかスケッチでもするの?」
「ノンノンノン。そんな単純なことじゃないよ」
そう言うと彼女は調理室から持ってきたらしい包丁を取り出して、リンゴを器用に削り始めた。そしてリンゴは瞬く間にバラの形に変貌した。
「今、巷で流行ってるんだって、こういうアートが。ねえ、これはアートだから絵描きとは違って公平に勝負ができると思うんだけど......どうかな?」
これはわたしへの挑発行為か、はたまた挑戦状か。とにかくわたしの闘志に火がついた。
「受けてたつよ。まあ、わたしが負けるわけないけどね」
出た。これがわたしの強がり。またの名を自尊心。相手の方もムスっとした態度をとることもなく笑顔だ。これはこれで怖かった。